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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
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finding of a nation 121話

 「やっぱり誰もこの場にいないってのはおかしいわよね……。私達が拷問紳士を倒したことでリスポーンなんちゃらのモンスター達ももういなくなってるはずだし……。もしかしてその前に皆やられちゃったなんてことは……」

 「分からん……。とにかく早く館の外の様子も確認するぞ。万が一にも外に新たな敵が待ち受けている可能性もあるやもしれんから決して警戒を怠るな」

 「わ、分かったわ……」


 この場に天だく達からの出迎えが誰もいないことを不信に思ったゲイルドリヴルは急いで外の様子を確認しに行こうとしながらもナギ達に新たな脅威への警戒を怠らないよう念を押して注意を促した。回復を行う合間があったとはいえあの拷問紳士との激闘の戦闘はナギ達からしてみればできれば避けたいものではあったのだが……。そして一度皆の方を振り返って確認の相槌を打ったゲイルドリヴルはゆっくりと入り口の扉を開けると……。


 “パアァァァァ〜〜〜ンッ!”


 「な、なんだぁ〜……っ!」

 「お帰りぃぃーーーっ!、ゲイルドリヴルさん、皆ぁぁーーーっ!。そしてダンジョン攻略おめでとぉぉぉーーーっ!。皆ならきっとそれを為し遂げて帰って来てくれると信じてたよぉぉーーーっ!」

 「せ、聖ちゃん……それにシホさんに皆……。これは一体どういう……」

 

 ナギ達が館の入り口の扉を開けたその次の瞬間、突如としてクラッカーを鳴らす音……そしてナギ達を迎える皆の歓声が周囲に響き渡った。どうやらリスポーン・オーバフローのモンスター達がいなくなったことでナギ達がダンジョンの攻略に成功したのだと確信し、皆を祝う為わざわざ扉の外で待ち受けていたようだ。扉を出るその瞬間まで気を抜くことのできなかったナギ達からしてみればたまったものではなかったかもしれないが、それでも皆の自分達の帰還を心の底から喜んでくれている様子を見て顔をほころばせていた。そしてようやくこれまでの戦いの緊張からも解放され安堵することもできたようだ。まだブリュンヒルデへの報告は済んでいないが一先ずナギ達は扉を出て出迎えてくれた皆との再会を分かち合った。もう夜も遅かった為外は完全に日が落ちてしまっていたようだが、辺りに松明やら光源こうげんとなる魔法を設置してしっかりと明かりは確保されていた。


 「もうぉ〜……皆の気持ちは嬉しいけどビックリしたっちゃじゃない。そうでなくても戻って来た先に皆がいなかったから敵にやられちゃったのかと思って不安に駆られながら出てきたっていうのに……」

 「驚かせてごめんなさいね、ナミちゃん。でもここに現れたモンスター達が急にいなくなって……。それで皆“ナミちゃんやゲイルドリヴルさん達がダンジョンをクリアした証拠だぁー”って言って帰って来た皆を驚かせてお祝いしようって聞かなかったの。私は普通に魔法陣の前でで出迎えてあげた方がいいとは言ったんだけどね……」

 「天だく……」

 「そ、そんな目で俺のことを睨み付けながら近づいてくるな……っ!、ゲイルドリヴル。言いたいことは分かってるがこいつ等我儘ばかりいって俺の言うことなんかまるで聞きゃしねぇんだ。戦いの時はそうでもないんだが全くしょうがない奴ばっかりだぜ」

 「ふっ……まぁいい。私も心地よく出迎えてくれた皆を咎める気になどなれないからな。お前も私達が戻って来るまで皆を統率しよくこの場を守ってくれた。我々がダンジョンの攻略に集中出来たのもお前のような頼りになる者達がこの場に残ってくれたおかげだ。改めて礼を言わせて貰う」

 「よ、よせよ……。そんな風に礼なんて言われたら余計にお前のことを司令官として認めなきゃならなくなるじゃねぇか。今回は裏方に回ってやったが次気に食わない指示を俺に出しやがったら遠慮なく反抗してやろうと思ってたのによ」

 「ふっ……礼の一つをそこまで律儀に感じるとは大した心掛けだな。なら私はこれで今後の作戦の際の憂い事を一つ無くすことができたというわけだ。お前がすんなり私の指示に従ってくれるというのなら次の作戦も滞りなく完遂することができよう」

 「だぁーーもうっ!、別に今のは冗談で言っただけで元々もうお前に反抗するつもりなんてねぇよっ!。そんなことより早く任務完了の報告をブリュンヒルデさんにしなくていいのか。あのテントの中で通信を繋いだままずっとお前が来るのを待ってるぞ」

 「分かっている……だがその前に……ナギっ!、ナミっ!。これから私はブリュンヒルデ様に任務完了の報告と館で遭遇した出来事についての説明をしてくる。悪いがお前達二人も一緒に来てくれないか」

 「えっ……拷問の件があるからナギが一緒に行くのは分かるけどどうして私まで……。まさかまた私とナギをカップルとして扱ってとかじゃないんじゃ……」

 「ゲイルドリヴルさんは用もないのにそんな理由で僕達を呼び出したりしないよ。いいから早く行こう、ナミ」

 

 ゲイルドリヴルの呼出しを受けナギとナミも共にブリュンヒルデの待つテントの中へと向かっていった。勿論ブリュンヒルデ本人がこの場に来ているというわけではないが、3人がテントの中に入ると正面に置かれたナギ達の使用している端末パネルより少し大きめのモニターに鮮明にその姿が映し出されていた。画面越しとはいえ自分達の国の情報を目の前にナギとナミは緊張のあまり少し態度が委縮してしまっていたようだが、司令官としてこれまで何度もブリュンヒルデと直接対面しているゲイルドリヴルはすんなりと挨拶を済ませると淡々と今回の作戦についての報告を行い始めた。


 「失礼します……司令官ゲイルドリヴル、ただいまダンジョンの攻略の任務より帰還致しました、ブリュンヒルデ様。私と共にダンジョン内に残っていたメンバーも無事帰還し外で待機しています」

 「ご苦労様、ゲイル。それにあら……あなた達は伊邪那岐命に伊邪那美命ではありませんか。あなた達もゲイルと一緒に作戦の報告にいらしてくれたのですね」

 「え、ええ……まぁ、そうなんですけどナギはともかく私はなんで呼ばれたかもまだ分かってなくて……。別に特別私が報告することなんてないはずなのに……」

 「取り逃がしてしまう結果になったとはいえあのダンジョンのボスである拷問紳士を撃退する一撃を放ったとはお前だからな。私と鷹狩が到着する前にあの場にいた者達の中で直接戦闘を行った時間も一番多かったはずだ。それに拷問の件に関してもあれだけ強い考えや感情を抱いていたお前なら直接ブリュンヒルデ様にその考えを問い質しておきたいのではと思ってな」

 「そ、そんな……リアにもああ言われちゃったし今更私がブリュンヒルデさんに意見できることなんて……」

 「拷問……何やらいきなり不穏な言葉が飛び出してきましたが一先ずあなた方の報告を聞いてから判断した方が良さそうですね。時間の方は大丈夫ですのであのダンジョン内で起きたことをゆっくりで構いませんから詳細に話して下さい、ゲイル」

 「はい……ですがその前に当初の目的であったこの森林地帯から我が国に大量に押し寄せて来ていたモンスターの発生を食い止めることができたことを報告しておきます。これでこの森林地帯まで我が国の領土の拡張も安全に行うことができるでしょう」

 「まぁ!、それは嬉しい報告をありがとう、ゲイル。早速木材を確保をする為の施設の建設と人員の派遣を検討させて頂きます」

 「はっ……それでは我々があのダンジョン内で遭遇した出来事についてですが……」


 どうやらナギだけなくナミが呼ばれたのは自身が拷問紳士と遭遇する前の出来事の報告を行って貰う為のようだ。直接拷問紳士による拷問を受けたナギと、その光景を見ていた者の中でナミが一番適当であると判断したのだろう。それにナミが拷問に対して強く反対していたことにも気を遣ったようだったが……。ゲイルドリヴルは拷問紳士を撃退することで当初の目的であったモンスターの大量発生を阻止したことの報告を終えると続いてダンジョン内で自分達の遭遇した出来事……、拷問紳士との戦いやその相手の目的、そしてナギへと贈られた拷問のスキルのことや霊神化したリリスのこと等必要と思われること全てをなるべく詳細に噛み砕いて説明を行った。そのおかげで少し時間を割いてしまったかもしれないがブリュンヒルデはナギ達がダンジョン内で遭遇した出来事をまるで自身が体験したかのようにイメージを掴んで理解することができたようだ。


 「なんと……まさかそれ程の事態にまで遭遇していようとは皆に相当な苦労を掛けしてしまったようですね。ですがそれでもその事態を見事に打破しモンスターの発生を止めてくれたあなた方に改めてお礼を言わせて頂きたいと思います。皆さん本当に今回の任務ご苦労様でした。多大な困難に遭遇したにも関わらず無事任務を完了させて帰って来て頂き本当にありがとうございます」

 「そ、そんな……私達は自分達の国の為にプレイヤーとして当然のことをしただけです。ねぇ……ナギ」

 「う、うん……。それにブリュンヒルデさんは僕達の女王なんだからそんなに僕達に気を遣って礼を言わなくても……」

 「ふぅー……それにしても拷問紳士という存在にその者から与えられた拷問のスキル……、それにリリスの身に起きた異常な事態といい当初の目的を果たせたとはいえ考えることが山積みですね。どれも今すぐには対策の講じられるものではないですし一先ずは今まで通り国の発展と領土の拡張に尽力するしかなさそうですが……。唯一対応ができそうなのはここにそのままの状態で残されたという館のダンジョンの捜索隊を編成することぐらいですしね」

 「あ、あの……」

 「……?、なんです、ナミ」

 「さ、さっきは意見なんてできないって言っちゃいましたけどやっぱりブリュンヒルデさんがこれからナギの拷問のスキルを活用する気なのかどうか気になってその……。今すぐに結論がどうちゃらって言えないことは勿論承知してるんですけどナギがNPCを拷問できるようになったことについてどういう風に思ってるのかだけでも聞かせて貰えないかな……とか思っちゃって……」

 「ナミ……」


 ゲイルドリヴルから報告を聞き終えたブリュンヒルデに対しナミは勇気を振り絞って拷問に対する考えを問い質した。先程は意見など言えるはずもないと言っていたが、やはりブリュンヒルデの拷問に対する考えだけでも聞いておきたかったようだ。そんなナミの様子を拷問のスキルを授かった張本人であるナギも心配そうな表情で見つめていたのだが、果たしてブリュンヒルデはナミにどのような答えを返すのだろうか。


 「なる程……やはり先程ゲイルの話ていた通りあなたはNPCを拷問に掛けることにかなりの抵抗を持っているようですね。勿論その気持ちは私も分かりますし……、如何にゲーム内の出来事といえど我々の世界の倫理観に大きく反するような行為をしたくないというのも同じです。我々の国に参加しているプレイヤー達もほとんどが同じ気持ちでしょうが、しかしそれがゲームにおける戦略の一つとして与えられている以上できるなら有効に活用して欲しいとも考えているでしょう。ですから残念に思うかもしれませんが私としてはその拷問という行為によって得られる成果と我が国に与える影響をしっかりと見定め場合によっては活用することもある……っと今の内にあなたには正直に申しておきます」

 「そうですか……」

 「ですがだからといって決してあなたのNPCを思い遣る気持ちを否定するつもりはないということもできれば理解して下さい……。このような返答をしておいて何を言うとあなたは思うかもしれませんが、あなたやナギが常にNPCを思い遣る行動を心掛けてくれているおかげで我々のヴァルハラ国への住民からの信頼も高まり、リアやマイといった優れた人材達が我々の国の固有NPCとなってくれたことには本当に感謝しているのです。ですから勝手な言い分かもしれませんがこれからも今までのあなたと変わらない思いと態度でこのゲームの世界のNPC達と接してあげて下さい」

 「ブリュンヒルデさん……分かりましたっ!。このゲームでナギが誰かを拷問に掛けるだなんて聞いて正直ガッカリしてたんですけど……なんだか今のブリュンヒルデさんの言葉を聞いたらこんなことで落ち込むなんて全然私らしくないってことに気が付きました。リアにも私の勝手な考えでこの国の戦略の幅を狭めるなって注意されちゃったし……もう拷問に関しては私はとやかく言わずにブリュンヒルデや皆の決めた方針に従おうと思います。それに皆それぞれ意見や考えを持っているはずなのに私一人にこんな丁寧に言葉を返して貰ってごめんなさい……」


 ブリュンヒルデのNPCに対し拷問を行う可能性を示唆する内容の返答に落ち込むナミだったが、その後の自身のNPCに対する思いやこれまでの行動を評価する言葉にすぐに意気を取り戻し、本来の自身の調子へと完全に立ち直ることができたようだ。この様子ならば実際に拷問が行われるような事態になったとしても地下室で皆と話し合っていた時のように感情的になり過ぎて取り乱すこともないだろう。むしろ自身のその強い信念を他のプレイヤー達のゲームのキャラクターに対するモラルの低下に対する抑止力として上手く貫いていくことができるはずだ。


 「ふふっ、いえいえ。あなたの活躍には感謝していると先程も言いましたし、今回もあなたの放った一撃で敵のボスを撃退したみたいではないですか。そんなに気にせずともその活躍のお礼だと思って頂ければ結構ですよ。……それにしても今の言い方だとなんだか拷問自体もそうかもしれませんがそれをナギが行うということで余計に落ち込んでいるように思えましたが」

 「えっ……」

 「ち、違っ……!。別に誰が行うかなんて気にして……」

 「冗談ですよ、冗談。皆があなた方をカップルとしてもてはやしているようで私も少し意地悪をしてみたくなっただけです」

 「もうぉ〜……まさかブリュンヒルデさんまでそんなことするなんてぇ〜……」

 「済まん……ゲイル、いるか?」

 「……っ!、この声は鷹狩か。ちょうど私の報告も終わったところで私の方から呼びに行こうと思っていたところだ。サニールも連れて来ているだろうから一緒に入って来てくれ」

 「そうか……実はサニールの方からブリュンヒルデ様に話したいことがあると言ってこちらから訪ねて来たんだ。……それでは失礼します、ブリュンヒルデ様」


 これまで緊張のあまりずっと態度を強張らせてしまっていたナギとナミだったが、先程の会話で少しはブリュンヒルデと打ち解けることができたのか段々と表情や口調が緩やかなのものへとなっていった。だがそんな最中何か用があるのかテントの外から声を掛けて来た鷹狩がゲイルドリヴルに促されサニールと共に中へと入って来た。どうやらゲイルドリヴルも元から今回攻略した館のダンジョンの当主であったサニールをブリュンヒルデに引き合わせるつもりだったようだが向こうの方から訪ねて来てくれたようだ。ナギ達と共に最初から呼ばなかったのは先にサニールを仲間にするまでの経緯と人物について詳細をブリュンヒルデに伝えておきたかったからだろう。


 「あなたは確か鷹狩宗滴たかがりそうてきですね。あなたもゲイルやナギ達と共に今回のダンジョンのボスであった拷問紳士と最後まで戦い抜いたと聞いておりますが大変な任務をご苦労様でした。どうやらゲイルは聡明なあなたのことを随分と気に入っているようですが、もしよろしければこれからもゲイルの元で力を貸してあげてください」

 「は、はい……。それは勿論現在ゲイルは我々の国の総司令でありますから命令を受ければ何事でも……。私も個人的にゲイルには信頼を寄せていますし……」

 「それで……そちらが今回あなた方が攻略したダンジョンとなる前の館の当主であったサニール殿ですね。私はここにるゲイル達が所属するヴァルハラ国の女王を務めさせていただいてるブリュンヒルデと申します。今回の我々のダンジョン攻略の任務に当たりサニール殿も力をお貸しいただいたようで女王である私からも礼を言わせて戴きます」

 「いえ……魂を支配された私をトーチャーの手から救って貰った私の方こそあなた方に礼を言わねばなりません。それに見ての通り今の私はこの世で肉体とその命を失った只の霊体……おまけに今はあなたの国のプレイヤーである鷹狩殿の仲間モンスターとなった身ですのでどうかそのような身分を気遣った呼び方等せずにサニールとお呼び下さい」

 「ではお言葉に甘えてサニール……、先程鷹狩があなたが私に話したいことがあると申しておりましたが、その用件とは一体どのようなものなのでしょう」


 サニールは一国の女王であるブリュンヒルデに一度死んで霊体となってしまった自分のかつての身分に対する配慮をやめるよう進言をした。単にブリュンヒルデに気を遣わせたくないというだけなく、これからは館の当主としてではなく鷹狩の仲間モンスターとしてこのゲームの世界で生きていく覚悟の表れでもあったのだろう。ブリュンヒルデもサニールのそんな思いを察したのかすんなりと進言を受け入れ会話を続けていった。


 「はい……実は今回鷹狩殿の仲間モンスターとなったことでヴァルハラ国の女王であるあなたにお願い申し上げたいことがあるのです。すでにゲイルドリヴル殿から報告を受けていると思いますが、この私を含めあの館に住んでいた者達は全てトーチャーによって殺害された怨念に支配されあなた方の敵としてダンジョンに巣食う悪霊と化してしまっておりました。本来ならトーチャーを館から追い払ったことでその怨念から解放され成仏することでこの世界から去るはずだったのですが……、それが皆私が鷹狩殿の仲間モンスターとしてこの世界に留まるなら自分達も共に私について行きたいと言い出してしまったのです。ですが鷹狩殿の仲間モンスターとなった私と違って彼等がこの世界に留まる為には何かしろとなる条件を満たさなければなりません。それでもしよろしければ彼等をヴァルハラ国の住民として迎え入れて戴きたいのです」

 「ええっ!、サニールさんだけじゃなくてエドワナさんや他の住民の霊達も僕達ヴァルハラ国の一員になってくれるのっ!。それなら勿論大歓迎だよっ!。こんなに頼もしい仲間達が一気に増えるなんて断る理由がないじゃないかっ!」

 「そうよっ!。私も拷問紳士との戦いでエドワナさんにはすっごくお世話になったしこのままサニールさんと一緒にヴァルハラ国に来てくれればいいのにって思ってたのっ!。もしかしてリアやマイ達のように固有NPC兵士にまでなってくれる人もいるんじゃないかしら。エドワナさんも実力的には全然そうなってもおかしくないし……」

 「こらこら……君達の我々を喜んで迎えてくれる気持ちは嬉しいがまだそうなると決まったわけではないだろう。そんなにはしゃいでいてはブリュンヒルデ殿も返事を出しづらいではないか。それにこの件は君達が思っているように簡単に結論が出せる話ではないのだぞ」

 「えっ……でもナギの言った通り一気にこんなに沢山の仲間がヴァルハラ国に来てくれるんだから断る理由なんてないはずじゃ……」

 「なる程……お話は分かりました。あなたの館の住民であった者達を我々の国に受け入れて欲しいとのことですが……それはやはり肉体を持たない霊体としてのままということですか」

 「(……?、なんですぐに結論を出さないでそんなこと気にしてるんだろう、ブリュンヒルデさんは……。僕だったら迷わず即決してエドワナさん達を仲間に迎え入れるんだけどなぁ……)」

 「(ほぅ……流石鷹狩殿やナギ達の女王というだけあって聡明なお方だ。瞬時に我々の願いを受け入れる上での一番のデメリットとなる可能性を見抜くとは……)」


 サニールのブリュンヒルデへの願いとはかつて自身が当主を務めていた館の住民達の霊をヴァルハラ国の住民として受け入れて貰えないかというものだった。その話を聞いてナギとナミはすぐに喜びを露わにしていたが、ブリュンヒルデ、それにゲイルドリヴルと鷹狩は特に反応を示すとはなく神妙な面持ちでサニールの話を聞いていた。どうやらサニールの話に対して何か疑問に思うところがあったようだ。ブリュンヒルデはそれとなくその疑問点をサニールに問い質していたが、何故かサニールの内心でブリュンヒルデに対する評価が上がっていた。


 「はい。鷹狩殿の仲間モンスターとなった私と同じく他の者達も例えヴァルハラ国の住民になったとしても再びこの世界に肉体を得ることはありません。恐らく他にも疑問に思う点があるでしょうから……我々を迎え入れた際のあなた方の国に与える影響を纏めたデータを送りますのでまずはそれをご覧になってから考えをお纏めになってください」


 自身の願い……っというより提案に対して疑問を持つブリュンヒルデに対し、サニールはその詳細を記載したデータをブリュンヒルデ達の端末パネルへと送った。ブリュンヒルデ本人はこことは少し離れた場所にいるがすでに通信を繋いだ状態であった為そのデータもすぐに手元へと届いたようだ。ブリュンヒルデ、そしてナギ達は早速サニールから送られてきたそのデータを確認した。


 ※サニールの館の住民の霊達を受け入れる影響

  ・自国に霊達の住処となる幽霊屋敷を建設しなければならない。この幽霊屋敷の建設を期限までに完了させなければ例え提案を受け入れたとしても霊達はこの世界から去ってしまい二度と戻って来ることはない。

  ・住民となった霊達は寿命もなく歳を取ることもない。霊の姿のまま延々と存在し続けるが、他の肉体を持つ住民達のように出産による人口の増加に貢献することはない。その他は普通の住民達と変わりがなく、仕事等にも同じように就くことができる。

  ・自国内で心霊現象が発生するようになり、一部の住民達がそれに悩まされることになる。

  ・自国の霊術士系統の職の内政値が上昇する。

  ・自国に霊能系アイテムが多く流通するようになる。

  

 「う〜ん……これがサニールさんの館の住民の霊達を受け入れることの影響かぁ……。これを見てなんとなくブリュンヒルデさんが悩んでいることの理由が分かった気がするけど……それでも僕は受けれた方がいいと思うなぁ」

 「そ、そーお……。私もサニールさん達なら別にそんな悪さしないだろうしヴァルハラ国の人達も快く受け入れてくれると思うけど……。(正直夜私が寝ている時にラップ音を鳴らされたり扉や窓が勝手に開いたりしたらたまったもんじゃないわ……。サニールさんには住民の霊達にそんなことしないようにしっかりと念を押しといて貰わないと……)」

 「さて……今のが我々を迎え入れた際にあなた方の国に与える影響なのですが……先程簡単に結論を出せる話ではないと自分で言ってしまいましたが実はこの提案を受け入れるかどうかも期限内に決断して戴かねばならないのです。それも今から一時間という短い期限の間に……。それを過ぎた場合もエドワナや他の霊となった者達は自動的に成仏してしまいこの世界から完全に去ることになるでしょう」

 「い、今から一時間以内だって……っ!。そ、そんな……さっきは僕なら即決だって思っちゃったけどよく考えたら霊の姿の人達を受け入れた影響なんて僕には全然予測がつかないよ……。できればエドワナさん達には僕達の国の住民になって欲しいけどブリュンヒルデさんもそんな短い時間の間に決断なんて……」

 「分かりました……それでは喜んであなたの提案を受け入れましょう、サニール。これからヴァルハラ国の住民としてよろしくお願いしますとあなたの館の住民であった者達にもお伝え下さい」

 「え、ええぇぇーーーっ!、結局そんなにあっさり決断を下しちゃうのぉぉーーーっ!」

 

 サニールから期限が一時間しかないと聞かされ焦るナギであったのだが、そんなナギを余所にブリュンヒルデはあっさりと提案を受け入れる決断をしてしまった。送られて来たデータにもあった通り霊体の住民達が自国の他の住民達に与える影響を危惧していたはずなのだが……。


 「ほほっ、これは意外に早く決断されましたな。我々が霊体のままであるということを聞いてもう少し悩まれるものと思っておりましたが……」

 「いえ……元々私もナギ達と同様に初めからこの提案を受け入れるべきだと考えていたのですが念の為に確認させて戴いたのです。既に我々の国には猫魔族の皆さんも移住して来ており、多種多様な種族の方を受け入れることのリスクも重々承知していますが今はまだそのようなことを気にする状況ではありません。まだ我々の自国内には開拓のできていない区画も多くありますしあなた方の居住区となる場所も十分に確保できるでしょうから安心して我々の国にいらしてください」

 「ありがとうございます。潔く提案を受け入れて頂いてエドワナ達もさぞ喜んでいることでしょう。それで提案を受け入れて頂いたことで彼等もこちらへと姿を現すはずなのですが……」

 「な、なんだぁーーーっ!、こいつ等はっ!。一体どこから現れやがったっ!」

 「……っ!。こ、この人達はさっきのダンジョンで私達を襲ってきた悪霊達よっ!。私のパーティだった仲間をやったあの女の霊が中にいるし間違いないわっ!」

 「何ぃっ!、じゃあまさか自分達のボスの仇を討つ為に出て来たってことかっ!。だったらお望み通りこの俺が返り討ちにしてやるぜ。ちょうど今回のダンジョン攻略のメンバーから外されて鬱憤うっぷんが溜まっていたところだっ!」

 「お、落ち着いてください……皆さんっ!。我々はもう皆さん方の敵ではありませんっ!」

 「……っ!、な、なんか急に外の様子が騒がしくなったけど……」

 「……いかんっ!、どうやらブリュンヒルデ殿が提案を受け入れてくれた為霊となった館の住民達が再びこの世界に呼び戻され外にいるプレイヤー達の前に姿を現してしまったようだっ!。トーチャーの支配からは解放されたとはいえダンジョン内で悪霊となった彼等と敵対していたプレイヤーにとってはまだ敵と思われているのかもれないっ!」」

 「ええっ!、だったら早く皆を止めに行かないと大変じゃないっ!。折角仲間になってくれた皆をこんな勘違いなんかで失ったら最悪よっ!。早く皆にエドワナさん達が仲間になってくれたことを伝えにいくわよ、ナギっ!」

 「う、うんっ!」


 サニールから住民の霊達が外に姿を現したと聞きナギとナミは慌ててテントを飛び出して行った。どうやらサニールの予想通り霊達がヴァルハラ国に一員になったことを知らないプレイヤー達からはまだダンジョン内で敵対していた悪霊であると思われ、今にも一触即発の事態にまで陥ってしまっていたようだ。だがそこにナギとナミが血相を変えて割って入り先程のサニールの提案のことを説明してどうにか取り返しのつかない事態になる前に皆の誤解を解くことができた。しかし誤解が解けたとはいえ皆敵だった者達と共にいることに未だ困惑している様子だったのだが、そんな中何人かのプレイヤー達、主にナギ達と共に最後までダンジョンの攻略に残っていた者達であるが少しでも霊達と打ち解けようと自ら話掛けようとしていたのだが……。


 「じゃあもう私達と戦うつもりはないのね。それどころかヴァルハラ国の一員にまでなってくれるなんて……。何人かダンジョンの中であったこともあるけど私はレナ。精霊術士と治癒術師の職に就いてるヴァルハラ国のプレイヤーよ」

 「ああ……確かあの砂を纏った精霊を従えていた者だな。あの時は君達の見事な連携にしてやられた。私の名はグラナ。生前はサニール様の元で館を守る傭兵として雇われていた魔剣士だ。無事ヴァルハラ国に移住できた際には私を倒したあの猫の姿をした剣士のように是非とも固有NPC兵士となり君達とパーティを組んで共に戦ってみたいと思っている」

 「本当っ!、あなたのような凄腕の剣士と共に戦えるなんて私も嬉しいわっ!。きっとリアやナイト達のように私達の頼もしい仲間になってくれるわね」

 

 “キョロキョロ……”


 「あの館のダンジョンにいた霊さん達がこの場にいらしたということはもしかして……」

 「リリスさん……」

 「……っ!、こ、この声はベンさん……ベンさんですねっ!」


 皆少しずつ霊達と打ち解けようとする中、霊達の中に誰か気になる者でもいたのか必死になって辺りを見回しているリリスの元に一人の男性の霊が声を掛けて来た。その男性はまさにリリスがスピリット・メッセージによって通信を繋ぎ、ゲイルドリヴルのパーティのダンジョン攻略に大きな手助けをしたあのベンであった。ダンジョン攻略時にはあくまで音声のみによる通信であったにも関わらず、一度その声を聞いただけでリリスにはすぐその声を掛けて来た人物がベンだと分かったようだ。そして霊体ではあるが生前の肉体の姿を取り戻したベンだが、口元を一周するように生やした茶色い髭がとても穏やかさを感じさせる少々肥満気味ではあったがふくよかとも言える顔立ちと背恰好男性であった。更にダンジョン内での言葉通り白く長いコック帽を頭に被り、同じく真っ白のコードに身を包み誰がどう見ても料理人としか言いようがない格好をしていた。リリスの探していた相手はこのベンだったのだろうか。


 「ほほっ、一声掛けただけで私と分かってくださるとは流石はリリスさんですね。霊術士としての天性の感覚で私の隠されたメッセージを見事受け取っただけのことはあります」

 「ふふっ、別に声でなくとも霊さん達ならその気配で誰の者か分かってしまいますのよ、ベンさん」

 「え、ええぇっ!、ではこのお方が我々にメッセージを送りダンジョン攻略の手助けをして戴いたあのベンさんでいらしゃるのですかっ!。これは想像の通りの凛々しくも優しく寛大な心を持っていそうな素敵な殿方とのがたですこと」

 「はははっ、そのようにおだてても今は何も出ませんよ、不仲さん。ですが折角ですのでヴァルハラ国への移住が完了した暁には是非皆さん方に私の手料理をご馳走したいですな」

 「まぁっ!、それは今から皆さんと共にヴァルハラ国へと帰るのが楽しみで仕方ありませんわっ!。ベンさんの料理人としての腕前を大いに振るって頂く為にも立派な厨房のついた高級感漂うレストランを建設して戴くよう私がブリュンヒルデ様に進言して差し上げます」

 「い、いや……そこまでして頂かずとも暫くはこれまでと同じようヴァルハラ国に建設される新しいサニール様のお屋敷で料理長の任を務めさせて頂こうと思っています。ですので皆様に私の料理をご馳走する際もお手数かと思いますがどうかそのお屋敷まで足を運んできて下さい。皆さん方と一緒に会食ができるとなれば館にいる他の者達も喜びになるでしょうから」

 「そうですか……。ベンさんがそう仰るならば私もそちらへと御呼ばれに頂くことに致しましょう。ですが機会があれば是非ともヴァルハラ国でベンさん個人のお店をお開きになってくださいね」

 「まぁ、頭の片隅には止めておくことにします。私としてもできるならばより多くの方々に私の料理を振るってヴァルハラ国の発展に貢献したいという願望もありますから。……それよりもリリスさん。先程は何やら我々の中から誰かを探してらっしゃる様子でしたが……もしかしてそれはあのサニール様の目を覚まさせる為のローストビーフの入手に協力して頂いた……」

 「ええ……ベンさんや外の方々がこの場に現れたのでもしやと思って辺りを見回していたのですが見つからず……。やはりあの方々達まではヴァルハラ国へは移住させて貰えないのでしょうか……」

 「うーん……我々に手を貸して頂いたとはいえ彼等は館の住民であった者達ではありませんからね。如何にサニール様といえど彼等まで我々と同じように扱うことは……」

 「そう……ですわよね。それに彼は私を庇ってあの時すでにその命を散らしてしまったのですから……。ですが最後にせめてもう一度だけ彼の元気な姿を見せて貰いたかった……。罪悪感から逃れたいわけではなく純粋にあの時のお礼を言わせて欲しかったのですがどうやらその願いは叶わず……」

 「う、うわぁっ!、な、なんだこいつ等はっ!。こいつ等もお前達と同じヴァルハラ国に来る霊だっていうのかっ!」

 「いいえっ!、違うわっ!。こいつ等は怨念の込もった場所に巣食う低級の悪霊モンスター達よっ!。もうトーチャーの奴が去ったことでこの館を覆っていた怨念と共にこいつ等も消え去ったはずなのにどうしてまだここに……。とにかくこいつ等は私等の仲間なんかじゃないわっ!」

 

 “グ……グオォ……”


 「……っ!、い、今の声……それにこの気配はもしかして……」

 「はいっ!、ですが何やら皆に周りを囲まれあまりかんばしくない事態に巻き込まれている様子……。早く皆を止めに行かなければまた取り返しのつかないことに……」

 「くっ……事務室のグラッジ・シャドウさんっ!」


 ベンとの再会を喜んでいたリリス達だったが、そんな時少し離れた場所でまた皆が何かに騒ぎ始めたようだった。リリス達も自然とその騒ぎへと注意を向けたのだが、すると何やら聞き覚えのある声がすると共に先程探していた者の気配がするといってリリスは慌ててその場を飛び出して行ってしまった。その時のリリス口からはゲイルドリヴル達がダンジョン攻略をする際に非常に手助けになってくれたあの者の名が叫ばれていたが……。


 「ならやっぱりこいつ等は俺達の敵ってことだなっ!。見た目もモンスターにしか見えないし今度こそこの俺がささっと片付けてやるぜ」

 

 “グッ……グオグオッ!”


 「待って下さいっ!、その方達は我々の敵ではありませんっ!」

 「えっ……」


 “グオッ♪”


 どうやら騒ぎの原因はまたしても新たな霊体の存在がこの場に現れたことによるものだったようだが、その新たに現れた霊体というのがどう見てもエドワナ達と同じく館の住民であった者とは思えず周りにいたプレイヤー達が再び攻撃を仕掛けようとしてしまっていたところのようだった。しかしリリスにはその者が敵でないと確信できていたようで事態を確認するまでもなくその行為を止めようと皆の前に飛びだして行ってしまった。突如姿を現したリリスに驚き慌ててプレイヤー達は皆慌てて攻撃の手を止めたのだったが……。


 “グオグオッ♪”


 「ああっ!、やっぱりあなたは事務室のグラッジ・シャドウさんですわっ!。何故かは分かりませんけれども生きていらしてくれたのですね。それにその後ろにはグラッジ・ファントムさん達も……」


 “グオグオッ♪”


 「な、なんだ……。急にリリスの奴が割って入って来たと思ったらこいつ等と抱き合っちまって……。もしかしてこいつ等も俺達の敵ってわけじゃなかったのか……」


 “ダダダダダダッ!”


 「それに関しては私達の方から説明致しますわ。ですが彼等が敵でないことは間違いありませんので取り合えずは皆さん武器を収めてくださいっ!」

 

 なんと騒ぎの元に姿を現していたのはあのリリス達の手助けをしてくれた事務室のグラッジ・シャドウ、それに共にチャッティル達との戦いの時に援軍に来てくれたグラッジ・ファントムや他のグラッジ・シャドウ達であった。いきなり自分達の前に現れ更には駆け付け来たリリスと急に抱き合うその声に周りにいたプレイヤー達は皆驚きと困惑を隠せない様子だったが、その後リリスの後に続いて駆け付け来た不仲とベンが事態の説明を行いどうにか事務室のグラッジ・シャドウ達の誤解も解くことができたようだ。これで安心してリリスと事務室のグラッジ・シャドウ達も再会を喜び合うことができるだろう。


 「はぁ〜、本当に事務室のグラッジ・シャドウが生きていてくれて良かったですわ〜。これでやっとあの時のお礼を言うことができます。私を守る為に命まで投げ出してくれて本当にありがとう。そしてあなたにそんな真似をさせてしまうような不甲斐ないプレイヤーでごめんなさい……。今後は絶対にあなたにそのような真似をさせないよう私もナギさんやゲイルドリヴルさん達に負けないようこのゲームのプレイ技術を磨いていきたいと思います」


 “グオグオッ♪”


 「ふぅ〜、私もリリスさんと事務室のグラッジ・シャドウさん達のこんなに感動的な再会の場面を見ることができて本当に良かったですわ。しかしそれにしてもどうして事務室のグラッジ・シャドウさん達までこの場所へといらっしゃることができたのでしょうか……。先程ベンさんはサニールさんでも館の住民でなかった者をヴァルハラ国へと移住させることはできないだろうと仰っておりましたのに……」

 「それは私が彼等をヴァルハラ国に建設して頂く新たな我々の住居となる館に迎え入れたからですよ、不仲さん」

 「……っ!、サ、サニールさん……っ!。今新たに館に迎え入れると仰いましたがそのようなことが可能だったのですかっ!」

 「ほほっ、まぁ、普通は不可能なのですがダンジョン内で築かれたリリスさんとグラッジ・シャドウ達の親密な関係を考慮してゲームの運営である“ARIA”が特別に許可してくれたのです。意志をほとんど持たないはずのグラッジ・シャドウ達とあれ程心を通わせることができるとは新たに仲間を得るだけの評価に十分に値する評価だと言って。ですから彼等が再びこの場に姿を現すことができたのはひとえにリリスさんのグラッジ・シャドウ達を思う気持ちのおかげというわけです。ブリュンヒルデ殿にもそのことを報告しておきましたがあなたの行い感謝しきちんと評価を上げて下さっていましたよ」


 何故グラッジ・シャドウ達までこの場に姿を現すことができたのか疑問に思う不仲達と元に住民の霊達がヴァルハラ国の一員なる提案を行った張本人であるサニールが姿が現した。そしてそのサニールの話によるとどうやら“ARIA”によって特別に事務室のグラッジ・シャドウ達もヴァルハラ国へと移住させて貰えることになったらしい。リリス、そしてヴァルハラ国にとっても仲間になる者の数が増えるのは喜ばしいことだろうが、住民の霊達はともかくグラッジ・シャドウ達のような悪霊と言えるモンスター達まで滞在するようになったヴァルハラ国の住民達へと与える影響も気になりはするのだが……。


 「おおっ!、それは更に良いことが聞けましたね、リリスさんっ!。ブリュンヒルデ様の評価が上がったということはそれだけ功績ポイントも多く貰えるということですよ」

 「う〜ん……そう仰られても私にはあまりピンときませんわ、ベンさん。功績ポイントを頂けると言われてもその使い道もよく分かっておりませんし……。しかしゲイルドリヴルさんのように立派なプレイヤーとなる為にはそのようなものもしっかりと使いこなしていかないと駄目なのでしょうか……」

 「それならばこの私がしっかりとレクチャーして差し上げますのでご安心なさって下さい、リリスさん。……それよりもベンさん。私にはどうしてもあなたに聞いておきたいことがあるのですが……」

 「んん?、聞いておきたいこととはなんです、不仲さん」

 「それは……確か最初にベンさんのメッセージを受け取る際にこちらかも私とリリスさんのコンビの相性をお聞きしたと思うですがその時の返答をまだベンさんから聞かされていないと思いまして……。一体私とリリスさんのコンビのこの後の行方はどのようなものになるのでしょう……」

 「えっ……そう仰られても私は占い師というわけではないのでそのことについては何とも……」

 「そうですか……。やはり実際に占いを専門にしている方に聞いた方がよろしいみたいですね。確かこのゲームの副業にそのようなものがございましたし、何処かに占い師の職に就いていらっしゃる方は……」

 「はいはーいっ♪、占いならこの私に任せてくださーいっ♪」

 「……っ!、あ、あなたはシスター×シスターさん……っ!」


 自分とリリスのコンビの仲を占って貰う為、占い師の副業の職に就いている者を探して辺りを見回す不仲の前にあのシッスが高く手を上げて声を掛けて来た。どうやらシッスの副業は占い師のようだがゲームの中とはいえ実際に二人の仲を占うことなどできるのだろうか。二人の目の前に現れたシッスは早速アイテム袋から占い用の水晶を取り出し占いを始める準備をしたのだが、両手の中にかざした水晶が完全に宙に浮いており一応はそれらしく見えるような格好はしていた。


 「はいっ!、じゃあ二人共目を瞑って意識を集中してっ!。そうしている間にこの水晶に二人の運命が映し出されるはずだから」

 「わ、分かりましたわ……」

 「是非二人の素敵な未来を占ってくださいね、シスター×シスターさん」

 

 “………”


 “パアァァ〜〜ンッ!”


 シッスに言われ不仲とリリスは並んで目を瞑り意識を集中した。するとその目の前に掲げられたシッスの水晶が輝き出しその中に何かの映像が映し出されていた。その映像からインスピレーションを受けてシッスは二人の占いの結果を導き出すようだったが……。


 「よ〜しっ!、これで占いは終わったよ、二人共。ちゃ〜んと私の頭の中に二人の運命が思い浮かんだからもう目を開けて大丈夫だよ」

 「はい……」


 “パッ……”


 「ふぅ〜……何か目を瞑ってる間に目の前に不思議な力が漂っているの感じましたわ。自分達の未来が占われていることもなんとなくですが実感することもできました。……なんだか本物の占い師になったみたいですね、シスター×シスターさんっ♪」

 「だからこのゲームの中では本物の占い師なんだってばぁ〜」

 「それでその占いの結果は如何に……勿体ぶらずに早く教えてくださいませ、シスター×シスターさんっ!」

 「OK。それじゃあ今から結果を言うから心して聞いてね、二人共」

 「は、はい……っ!」


 “……ゴクリッ!”


 どうやらシッスの占いは無事完了したようで、不仲とリリスは固唾を呑んで結果が言い渡されるのを待っていた。不仲の唐突な提案で館のダンジョンの攻略中に急遽きゅうきょコンビを組むこととなった二人だが果たしてその結果は……。


 「よし……それじゃあ言うよ〜……」

 「………」

 「駄目ね……ハッキリ言って二人の相性は最悪っ!。あなた達が一緒にいることで自分達はおろか周りにまで凄まじい災厄が降り掛かることになるわ。今すぐコンビを解消して今後はなるべく距離置いて行動するよう心掛けてくださいっ!。間違ってもまた一緒にパーティなんて組むことのないようにっ!」

 「そ、そんな……」

 「あらあら……残念ですがシスター×シスターさんにそう言われてはコンビは解消するしかなさそうですわね。今回は縁がなかったですがお互い頑張って素敵なパートナーとなる方を見つけましょう」

 「うっ……私はリリスさんこそ最高のパートナーであると確信していたというのに……」


 シッスの占いの結果を楽しみしていた不仲とリリスだったがその内容はこれからもコンビとして活動を続けていくことが不可能になってしまう程の散々なものであった。まだ納得いっていない様子であったもののゲーム内で実際の占い師の職に就いているシッスに言われては不仲も反論のしようがなく、渋々と結果を受け入れてガグっと肩を落としながらその場を離れていってしまった。一方リリスの方は残念がってはいたものの不仲程ショックは受けていないようで、この占いの結果に対する受け止め方の違いから見ても元々二人のコンビの相性はそれ程良くなかったことが窺えるだろう。そもそも不仲がゲイルドリヴルと鷹狩へ対抗心だけで言い出したことであるというのにそのようなことで簡単に自身のコンビとなる程の相手が見つかるわけもない。まぁ、だからといって二人共ダンジョン内での行動においては普通に連携も取れており、パーティまでも組むなというシッスの占いの結果も少々きつ過ぎるようにも思えるが……。


 「ああぁ……随分と落ち込んだ様子で行ってしまわれましたな……不仲さんは。しかしシスター×シスターさんの占いの結果もかなりハッキリとした内容でありましたが……失礼ですが現在の占い師のとしてのレベルはいつくなのです?」

 「えっ……そんなの分かんないよ。だって今のがこのゲームで初めてやった占いだもん。だから多分レベルもまだ1のままなんじゃないかなぁ……」

 「そ、そうですか……。(レベル1の占いの結果など当てにするものではありませんが……、少々言い過ぎであってもあの二人のコンビを組むべきでないのは間違いないでしょうし別にこのまま放っておいても構わないでしょう。もし本当に二人が互いのパートナーなるべく運命ならまた別のタイミングでその機会が訪れるはずですから。それに占いによって自分達の行動が左右されるのもこのゲームの一環ですしね)」


 不仲が去った後占いの内容を疑問に思ったベンが問い質すとなんとシッスがこのゲーム内で占いを行ったのは今の不仲とリリスに対してが初めてということらしい。その内容があまりに極端過ぎるものであったのもまだシッスの占いのレベルがまるで上がっていなかったからだろう。それでは占いの結果もまるで当てにすることもできないだろうが、自身も不仲とリリスがコンビとして上手くいくとは思えずそれ以上は何も言及しなかったようだ。


 「ふぅ〜……なんとか皆の誤解を解くことができたみないだね。それにもうエドワナさんや外の住民の霊達とも打ち解け始めてるみたいだよ、ナミ」

 「まぁ、なんだかんだ言って私達の国の連中は皆そこまでNPCのことを嫌ってるわけじゃないみたいだからね。バジニール達も最初は今回の作戦の参加へこと反対してたもののそれ以外では普通に接してたみたいだし……相手がNPCだからって特別下に見たり自分達がプレイヤーであることをいいことに横暴な態度を取る連中もあんまりいないんじゃないかしら。ただ私のこれまでのMMOプレイヤーとしての経験上NPCのことを単なるプログラム……、それどころか自分達の欲望を満たす為やストレス発散の為の道具としか見ていない連中も沢山いたし……そういった奴等が集まってる国は一体どんな風になっちゃってるのかしら。もしくはそんな程度の低い連中は元々このゲームに選別されていないとか……」


 “パアァァ〜〜ンッ!”


 「今回の作戦に参加してくださったヴァルハラ国のプレイヤーの皆さん、こちらブリュンヒルデです。ダンジョンから帰還したばかりでお疲れの方も多いと思いますが少々こちらに注目して頂いてもよろしいでしょうか」

 「……っ!、あ、あれは……ブリュンヒルデさんっ!」

 「ほ、本当だわ……。私達がさっきいたテントの上にあんな巨大な姿で現れて……。まぁ、立体映像だとは思うんだけどあんな風に通信を繋ぐこともできるのね」


 グラッジ・シャドウ達と再会を喜ぶリリスや他のプレイヤー達が住民の霊達と打ち解けた様子を見て安心していたナギとナミだったが、そんな時突如後ろからブリュンヒルデの声が響き渡り慌ててナギ達が振り向くと、そこには先程までナギ達がいたテントに上に巨大な立体映像として映し出されるブリュンヒルデの姿のあった。どうやら皆に伝えることがあるようでわざわざ注目の集めやすいその姿で現れたようだったが……。


 「先程は館のダンジョンの攻略お疲れ様でした。それによりすでにゲイルから当初の目的であったモンスター発生の阻止の任務も完了したとの報告を受けております。これ程までに早くヴァルハラ国の脅威を取り除いて頂いたことに対し、この国の女王として心より感謝を申し上げたいと思います。……さて、それでこの後皆さんがヴァルハラ国へと帰還する際に関してなのですが、すでにこの場に皆さんを一斉にヴァルハラ国へと帰還させる為の“ホーム・カミング”のネイションズ・マジックを発動させる準備が整っています。それが発動されれば皆さんは一瞬にしてこの場からヴァルハラ城の広場へと転移してしまいますので、そちらの方でも帰還する為の支度を整えておいてください。ホーム・カミングの魔法の発動はゲイルからの連絡があったタイミングで行いたちと思います」

 「ええぇっ!、それじゃあこれからすぐヴァルハラ国に帰ることができるのぉっ!。やったぁーーーっ!」

 「はぁ〜……私もそれを聞いて安心したわ。正直あんなハードな戦いをした後でヴァルハラ国までの長い道中を歩いて帰るだけの気力なんてなかったものね。でもそういうところまで気を遣ってくれるなんて流石ブリュンヒルデさんだわ。中学の時の部活の鬼先公おにせんこうみたいに“任務が終わったのなら走って帰ってこーいっ!”なんて言われたらたまったもんじゃないからね」

 「ナ、ナミの中学の部活の先生ってそんなに厳しかったの……っ!」

 「そうよ。私中高とバレー部に入ってたんだけど、他の学校との遠征試合に負けちゃった時に“負けたのなら走って帰ってこーいっ!”って言って迎えのバスを寄越さずに自分だけ車で帰っちゃったんだから。まぁ、どう考えても足で歩いて帰れる距離じゃなかったしその遠征先の生徒の子に電車やバスの時間やらその最寄りの駅やらを聞いて皆勝手に帰ったったんだけどね。後でそのことが発覚してその先生も速攻で首になっちゃったんだけど……」

 「ふ、ふーん……」

 「尚こちらに帰還して頂いて後の話ですが、任務にお疲れの皆さんの為にヴァルハラ・リゾート・ホテルの大浴場を貸し切り晩餐と宿泊の予約も済ませております。今回の任務中に戦闘不能に陥ってしまいこのゲームからの退出を余儀なくされてしまった方には残念かもしれませんが……、後日そのホテルの無料宿泊券をお渡ししたいと思いますのでどうか皆さんは余計な気を遣わずにゆっくりとくつろぎになってください。それではゲイルからの連絡が来るまで私は待機しています」


 “パッ……”


 「ヴァ、ヴァルハラ・リゾート・ホテルだってぇぇぇーーーっ!。それってヴァルハラ城のすぐ近くに建ってる超高級&超高層の今ヴァルハラ国内にある中で一番の宿泊施設じゃないかぁぁーーーっ!。そんな場所に無料に宿泊させて貰っておまけに晩餐と浴場の貸し切りが付いてくるなんてまさにいたれりくせりじゃないかぁぁーーーっ!」

 「そ、それにそのホテルって確か普通に一泊するだけでも何百万って価格がしたはずよ……。一度でいいから任務で貯めたお金で行ってみようとか思ってたけどまさかこんなところで願いが叶うなんて……」

 「よーしっ!、それならさっさとヴァルハラ国に帰ってそのホテルで今回の任務の疲れを一気に取っちまおうぜっ!。だから早く皆帰宅の準備をしろぉぉーーーっ!」


 なんとその立体映像のブリュンヒルデの言葉によるとナギ達はこの場から何もせずとも一瞬の内にヴァルハラ国へと帰れるだけでなく、その帰還した先で現在のヴァルハラ国でほぼ最高と言っていい程の持て成しが用意されているようだった。皆その言葉を聞いて一気にテンションが上がり、ナギやゲイルドリヴル達がダンジョンを攻略し帰還した時以上の喜びようで大慌てヴァルハラ国へと帰る準備を行っていた。……っといっても準備等ほとんどなく、拠点として設置したテントや周りの罠を回収する程度ですぐにそれぞれの身支度も済ませてゲイルドリヴルへと声を掛けに行った。そしてホーム・カミングの魔法によりヴァルハラ国へと帰還した先でゆっくりとこれまでの任務の疲れを癒し、また明日からのゲームのプレイに向けてヴァルハラ・リゾート・ホテルのふかふかのベットの上で眠りに就くのだった。


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