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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
123/144

finding of a nation 120話

 「……っ!、ふっ……どうやら無事この世界から退出させられる前に蘇生してもらえたみたいね。おかげで皆と共にこのダンジョンを攻略した喜びを分かち合えそうだわ」

 「えっ……っていうことはちゃんと……」

 「ええ、戦闘不能の状態になっても暫くはこの場に意識を留まらせておいて貰えるみたいだからね。あなたがあの拷問紳士の奴をブッ飛ばした瞬間もしっかりと見させて貰ったわ。……最終的にあいつに逃げられたのは残念だったけどね」


 止めを刺すまでには至らなかったものの、どうにか拷問紳士達を撃退することができたナギ達は手分けしてこれまでの戦いでダメージを負った者や戦闘不能にまでなってしまった者達の手当に回っていた。もうこの場に脅威となる者がいないということでなるべくアイテムではなく魔法を使って蘇生や回復を行っていたようだが、そんな中不思議な力で一度ログアウトしながらもこの場へと帰還したバジニールも無事味方の蘇生を受けて復活することができていた。どうやらナギ達通常の状態のプレイヤー達とは完全に隔離された……言うなれば幽霊のような存在となりながらもこの場に意識は残り、拷問紳士を撃退するまでに追い込む決め手となったあのナギとナミの凄まじい連携攻撃もしっかりと目の当たりにしていたようだ。そして同じく戦闘不能となっていた鷹狩や不仲も続々と復活し、この場に到着した仲間達と互いの健闘を讃え合っていたのだが、あと少しで全ての仲間達の回復が完了しようとする中戦闘専門の職しか持たず暇を持て余したレイチェルは同じく境遇のアクスマンと共に拷問紳士達が去った後のこの拷問部屋を散策していたのだが……。


 「へぇ〜……これがナギが捕えられてたっていう電気椅子かぁ〜……。電気椅子なんて見た目は只の椅子と変わらねぇじゃんとか思ってたけどこうやって実物を間近にすると随分と物々しさを感じるもんだな」

 「ああ……この手錠や足枷を見るだけでも捕えた者達が悍ましい電撃の拷問に掛けられる姿を嫌でも想像させられてしまう……。VRの世界のものとはいえこの拷問に掛けられてもナギは俺達ヴァルハラ国の情報を一つも漏らさなかったというんだから大したものだ。俺だったら自分が拷問に掛けられると知った時点で全て洗いざらい吐いちまいそうだぜ……」

 「それは私も同じだよ……クスクス笑うマン……。しかしまさかプレイヤーに拷問を掛けるゲームなんてものがあろうとは夢にも思ってなかったぜ。現実の世界であの身体能力の劇的な変化を経験して何となくは覚悟していたがマジで一筋縄ではいかないゲームみたいだな、この“finding of a nation”は……。ってかもう怖くてログインすらしてない連中も相当いるんじゃねぇか」

 「そうかもしらんな……。だが真面目な話をする時くらい俺のことをその変な名前で呼ぶのを止めろ……」

 「いいじゃねぇかよ、別に。なんかナミやデビにゃん達からも他の変わった呼び名を付けられてるみたいだし……そもそも呼び名なんて誰のことかさえ分かりゃそれでいいんだからよ。……それよりさっきから気になってたんだがこの椅子の上に置いてある本は一体なんなんだ?。ここに捕えられた時にナギの奴が落としたものかな?」

 「さぁ……だが拘束されてる状態で本なんか落としたりするか。抜け出した後だとしてももうちょっと戦いに役立ちそうな物を取り出すだろ」

 「そうだよな……まぁいいや。折角だしちょっとどんな内容の本か中身を見てみようぜ。……よっと」


 “パラッ……”


 「……っ!。おい、本の下から何か落ちたぞ、レイチェル」

 「えっ……あっ、本当だ。これは……どうやら手紙みたいだな。なら先にこっちの方から読んでみるか」


 ナギの捕えられていた電気椅子を観察していたレイチェルとアクスマンはその座部の上に置かれていた謎の本とその下から滑り落ちて来た手紙と思われる物を手に取った。本はナギ達が魔法を習得する為の魔術書等と同じく西洋風の分厚い厚紙の表紙にページを挟まれた物々しさを感じるもの、手紙も同じく西洋風で真っ新な白い封筒に封蝋ふうろうで封印の施された清楚な作りのものであった。何故そのようなものが置かれているか見当も付かないレイチェル達は一先ず手軽な手紙の方に目を通そうとしたのだが……。


 「……って封の下に宛名が書いてあるぞ。えー……“to my dear NAGI”……“親愛なるナギ君へ”だとぉぉーーーっ!」


 封の下に書かれた宛名によるとどうやらその手紙はナギへと送られてきたものらしい。送り主の名前は書かれていなかったようだが、この場で起きた起きたこれまでの経緯とその宛名の書き方の感じから何となく何者かは推察できる。手紙がナギへと送られたものだと知ったレイチェルは慌てて声を上げてナギをこの場へと呼び出した。


 「……ってことはやっぱりこの本も手紙と一緒にナギに送られて来たものってことかぁっ!。こりゃ中身を見る前に先にナギの奴を呼んだ方が良さそうだな。お〜い、ナギィィ〜〜っ!」

 「……っ!、何ぃ〜〜、レイチェル〜〜」


 レイチェルに呼び出されて同じく回復魔法を使えず辺りをウロウロしたナギはすぐさま隣にいたナミと一緒に自身の捕えられていた電気椅子のある場所へと向かって行った。それ以外にもレイチェルの部屋中に大きく響き渡る声を聞いて暇を持て余していた者や回復の完了した者、そしてその役目を終えた者達も続々と集まって来たようだ。レイチェルから話を聞かされナギも困惑しているようだが一体手紙と本の中身の内容はどういったものなのだろうか。


 「えっ……それじゃあこの本と手紙が電気椅子の上に置いてあったの」

 「ああ、最初は私等だけで中身を見てやろうと思ったんだけど封筒の宛名にお前の名前が書いてあったんだよ。お前宛ての手紙を勝手に見るわけにもいかねぇし……多分この本も手紙と一緒にお前に送られて来たものだろうからな」

 「う〜ん……全然身に覚えがないんだけど一体誰がこんなものを……」

 「そりゃあやっぱりさっきまで私達が戦ってたあいつなんじゃないの。逃げられはしたけど一応この場での戦いは私達の勝利に終わったわけだし……、あいつ自身も去り際に私達にご褒美が用意してあるみたいなこと言ってたしね。それよりいいから早く中身を見ちゃいなさいよ。手紙の内容を見れば送り主が誰なのかもハッキリするはずでしょ」

 「う、うん……でも僕こんな風に蝋で固めれた封筒なんて開けたことないんだけど……」

 「そんなの横の方からビリビリって破いちゃえばいいのよ。何の為にそんな厳重な封をしてあるのか知らないけど中身さえちゃんと取り出せれば……」

 「あっ……ちょっと待って。なんか封の部分に手を当てたら勝手に蝋が溶けていっちゃった。これなら何の問題もなく中身が取り出せそう」

 「何よ……それ」


 ナミに促されたナギは取り敢えず手紙の内容を確認してみることにした。普段見られぬ封蝋で固められた封筒の開け方に戸惑っていたようだが、何故かナギの手が触れるとその蝋は勝手に溶けて封筒へと染み込んでいくようにして消えていってしまった。恐らくはこれ以外の方法で封筒を開くことはできず、他の者が蝋に触れてもこのような現象は起こらずに送り相手であるナギに最初に封を切って貰う為の処置だろう。現実の世界でも手紙の封に封蝋を使うのは先に他の者に開けられていないか確認する為の意味も込められてる。中の手紙を取り出すことができたナギは周りの者達にも聞こえるようゆっくりとその内容を朗読し始めた。


 「えーっと……何々……」


 “おおぉーーっ!、親愛なるナギ君、そしてヴァルハラ国の皆さーんっ!。先程はこの私ととてもエキサイティングな戦いをして頂き大変ありがとうございまーす。敗れはしたもの久々に心沸き立つ戦いができて私も大満足でーすっ!”


 「くっ……あいつったら手紙の文面でもあのふざけた調子なのね……」

 

 “さて……そのお礼も兼ねてですが先程去り際にも申していたあなた方へのご褒美について少々説明させて頂きまーす。まずこの館はこのダンジョン化した状態でそのまま残していきますので好きなだけ探索してアイテム、財宝、情報……その他諸々あなた方の国に役立ちそうなものを持ち帰ってくださーい。但し一つアドバイスさせて頂きますとご自身達で探索なさるより一度国に帰ってあなた方の国を治める方に探索隊を編成して貰った良いと思いまーす。どのみち専門の探索隊でないと入手できないアイテム等もございますし何よりあなた方のような国の主力メンバーが一々そのような雑務をしている暇はないでしょう”


 「探索隊か……つまりは自分達の国のNPC達に任せた方がいいってことね。確かに私達だけでこのダンジョンの中を隈なく探索しようと思ったら相当な時間が掛かるだろうし……、人手も沢山いることを考えるとその方が効率も良さそうね。っていうか元々そういった作業って一般のNPCの人達に任せるものなんじゃないかしら」


 “そしてナギ君……私の拷問に最後まで耐え抜いた君には私から特別なプレゼントを差し上げたいと思いまーす。そのプレゼントとは“拷問の極意書”……。この手紙と一緒に置いてある本のことですがこれを使えばあなたは“拷問”のスキルを習得することができ、NPCを相手に限り先程私があなたに行ったのと同じ拷問を行うことができるようになるのでーすっ!。因みにこの本はあくまでナギ君にプレゼントしたものなのでその他の方々には決して使用できませんので注意してくださーい”


 「ええっ……!、な、なんだってぇぇぇーーーっ!」

 

 恐らく拷問紳士からのものと思われる手紙を読み進めるナギであったが、その途中でなんと自分達プレイヤーがNPCに対し拷問を行えるようになるとの文言が飛び出してきた。衝撃の内容に驚きを隠せないナギ達であったが、一体どのようにしてNPCへの拷問を行うというのだろうか……。


 「え、NPCに対して拷問が行えるようになるだって……。そんな物騒な本僕はいらないよ……。それに例えゲームで許可されたことだとしても誰かを拷問に掛けるだなんてしたくない……」

 「わ、私もナギが他人を拷問に掛けてる姿なんて想像もできないわ……。でもどうしてナギにしか使えないようにしたのかしら……」

 「そりゃナギへのプレゼントだからじゃねぇのか。いいから続きを読んでみろよ」

 「う、うん……」


 更にレイチェルに促されてナギは手紙の続きを読み始めた。ナギとナミの言っていた通りこの場にいる誰もが例え相手がNPCであっても他人を拷問に掛けるなど考えたくもないことであったのだが……。


 “本来ならこの“finding of a niaton”のゲームの世界においてあなた方プレイヤーに拷問の権限を与えるなど決してあってはならないことなのですが……、ナギ君ならそのような非人道的な行為であっても正しく使いこなすことができると私は判断しました。あの私の拷問に耐え抜く程の精神力……そしてそれを受けた後私に対して全く憎悪や嫌悪の感情を抱くことなく冷静に私の存在の本質を見抜いたあなたなら拷問相手に対し必要以上に苦痛や恐怖を与えることもないでしょう。心配せずとも我々NPCを愛する心を常に持ち続けてくれているあなたなら例えどのような行為を行ったとしてもあなたを恨んだりは致しませんよ。そのことはあなたの固有NPC兵士としての仲間であるリアさん達も同意してくれるはずでーす”


 「……って言ってるけど……」

 「くっ……そんなおどおどした態度で目を向けなくても別に私は怒ってないわよ。例えあなたが私達に対して拷問できるようになったとしてもそれがゲームの運営である“ARIA”の許可したことなら私達は受け入れるしかないし……、本気で私達の尊厳を傷つけるようなことまでは許されていないでしょうからね。……それと一応答えといてあげるけど私もそいつの言う通りあなたなら拷問を行っていいだけのプレイヤーとしての責任感や倫理観をしっかりと持ち合わせてると思うわ」

 「リア……」

 

 この時ナギにリア達NPCを拷問を掛けるつもりなど毛頭なかっただろうが、それでも自身が自分達を拷問できるようになったこことをどう思っているのか気になったナギは不安そうな表情でリアへと視線を向けた。するとリアからは喜んでいいことなのかどうかは分からないが、拷問紳士の手紙の文面と同じくナギには拷問を行うだけの資格を有するプレイヤーだという答えが返って来た。その返答やリアの表情等から特に自身の印象が悪くなったわけではないと感じたのか、ナギは安心した表情を浮かべて再び手紙の続きを読み始めた。


 “それに拷問を行うといっても常にゲームの運営である“ARIA”によって監視されていますし、我々の尊厳を損ねるような逸脱した行為はしっかりと制限されている為あなた方からしてみれば“尋問”に少し毛が生えた程度のことだと思って貰って構いませーん。ですので是非ともこの拷問のスキルで我々NPCから有益な情報を得て自分達の国の発展に役立ててくださーい。因みにもしこの私を捕えることに成功し拷問に掛けることができればゲームの戦局を一気に有利にできるような貴重な情報が入手できるかもしれませんよ。このゲームには他にもそのようなNPCの方がいらっしゃると思うのでどんどん拷問に掛けてそのスキルを磨いていってくださいね”


 「へぇー、なんだよ。それなら別に私等が気兼ねする必要もねぇじゃん。そんな貴重な情報が手に入るっていうなら捕えたNPC共を片っ端から拷問に掛けていっちまおうぜ。そうやっていくナギの拷問の腕が磨かれていくうちによりランクの高い情報なんかが手に入りやすくなるってことだろ。勿論拷問に掛けるのは私等に反抗的な態度を取るNPCだけだけどよ」

 「ちょっと何ふざけたこと言ってるのよ、レイチェルっ!。いくら貴重な情報が手に入るからって私達と一緒にゲームを遊んでくれてるNPCの皆を拷問に掛けていいわけないじゃないっ!。そんな自分の私利私欲の為に他人をおとしめるような真似私は絶対に許さないからっ!」

 「そうは言うがナミ……。折角手に入れた貴重な手段を全く用いないというのも考え物だぞ。確かに我々の世界の価値観からしてみれば拷問など決して許されない行為だがここは“finding of a nation”のゲームの世界だ。こうして拷問のスキルというものがある以上必ずこのゲームにおいて何かしらの意味が用意されているはずだ」

 「……っ!、じゃあ鷹狩さんもレイチェルと同じで情報の為ならNPC達を酷い目に合わせてもいいと思ってるってわけっ!」

 「そういうわけではないが……私はゲームの中で用意されている行為がただ単に残虐な行為であるとは思いたくないだけだ。それでも勿論我々の倫理観に反する行為はできる限り行うべきではないと思うが……、その行為がゲームの攻略する為に全く不必要であると断言することはできないはずだ。感情的になる気持ちも分かるがお前の方こそゲーム内で許可された行為をそこまで否定するのはどうかと私は思うぞ」

 「そ、それはそうかもしれないけど……でもだからって現実で違法となっていることを行っていいはずが……。ねぇ、レミィだって例えゲームの中であっても拷問なんてしちゃいけないって思ってるでしょっ!」


 どうやらナミは例えゲームで許可されたことであっても他者を拷問に掛けることに納得できなかったようだ。だがそれはあくまで自身の価値観のみを周りに押し付けているだけで、鷹狩の正論を前に反論する言葉が浮かばず堪らず自身と同じ考えを持っていそうなレミィへと同意を求めていた。拷問が良くない行為であることはこの場にいる……恐らくヴァルハラ国に属してるプレイヤー全員が同じ考えであるだろうが、その思いの強さにはバラツキがありナミのように完全にその行為を否定するまでは至らず、どちらかといえば鷹狩の考えに近い者達の方が多いのではないだろうか。


 「うーん……どうやら皆凄く難しいことで結論に悩んでいるみたいだから私もいちプレイヤー、そして現実の世界に生きる一人の人間として真剣に答えるね」

 

 “………”


 「まず現実の世界で他人を拷問するなんてことは勿論違法だし、ナミちゃんの言う通り絶対許されることではないと思うわ。法に携わる職に就いてる者としてそのことは初めに断言させておいて貰う」

 「………」

 「だけどじゃあ今皆が色々と意見を交わしていたようにゲームの世界でそれを行うことについてなんだけど……、この“finding of a nation”のようなプレイヤーの意識を直接ゲームの中に取り込む……所謂いわゆるVRゲームに関しては私達の現実の世界においてプレイヤーが拷問を実際に行うようなものの製造、流通は禁止されているわ。つまり私達の世界の法律に照らし合わせて考えればナミちゃんの言う通り例えゲームの中の行為であっても違法……っというよりそんなゲームが製造され実際に私達を含めた多くのプレイヤーがプレイしているこの状況事態が問題ということになる。昔のTVゲームみたいに第三者の視点で画面越しに遊ぶだけなら特に規制があるわけではないんだけどね。VRゲームでもプレイヤーが実際に拷問を行わずそんなシーンに遭遇するだけならVR耐久テストのランクに応じて遊べるものがあるとは思うわ」

 「まぁ、映画や漫画なんかでも登場キャラが拷問されるシーンになんてよくあるもんな。だけどやっぱりVRゲームだとお決まりのプレイヤーへの影響がどうとかってので規制されちまってるってことか」

 「ほら見なさいよっ!。やっぱりゲームの中でも現実の世界で違法とされてることはしちゃいけないに決まってるわ。そんな当たり前のことにいつまでも頭を悩ませていないでナギももうそんな本さっさと捨てちゃいなさいよっ!。どうせあんたも拷問のスキルなんて習得するつもりはないんでしょっ!」

 「ま、まぁ……一応今はそのつもりだけど……」

 「だけどナミちゃん。確かに今私はプレイヤーが実際に拷問を行えるVRゲームに関しては製造が禁止されてるって言ったけど、現実の世界では違法でもゲームの中で許されてる行為は沢山あるよ」

 「えっ……レ、レミィ……」


 レミィが自身と同じ意見だと思い意気を取り戻したナミであったが、その直後再びレミィから今度は自身の考えをたしなめられるような言葉を駆けられまた困惑し始めてしまっていた。確かに表面的にはナミの意見に同意しているように見えるが、拷問に対するその冷静な物言いはどちらかといえば鷹狩の方に近いように感じられた。現実の世界では刑事の職に就いているレミィではあるがやはりナミのように感情的な考えをそのままストレートぶつけたりはしないのだろうか。


 「一番代表的なのは窃盗……他には詐欺とか脅迫とか……。最近じゃあ暴力団やマフィアの一員になって進めるVRゲームも沢山出て来てるからね。それもVR耐久ランクの設定もなしで……」

 「で、でもそれはちゃんと倫理機構なんかの査定を通ってるからで……拷問のできるゲームは査定を通過したこともないんでしょ……」

 「まぁね……。だけどそれはあくまで今はの話でいずはそんなことができるゲームも世の中に出回ってくるかもしれないし、それだと査定を通れば別に拷問をしてもいいって話になっちゃうでしょ。ナミちゃんが言いたいのは法による規制がどうこうって話じゃなかったと私は思ってたけど……」

 「そ、それはそうだけどとにかく私はゲームの中でも拷問なんてしない方が……ってもうぉっ!、一々人の揚げ足取ってないで一体レミィは何が言いたいのよっ!」

 「はははっ、ごめんごめん。ちょっと意地悪なこと言っちゃったけどナミちゃんが拷問……それ以外でも例えNPCが相手であっても他人の尊厳を傷つけるような真似は許せないって気持ちはちゃんと分かってるから。ただ私は法律や倫理観と個人の感情から来る意見はしっかりと分けて考えていけないってことを皆に分かって欲しかったから今みたいな話をしたの」

 「こ、個人的な感情……それってやっぱり私のこと……?」

 「そうだよ。さっきから絶対に拷問なんて許せないって大そうに声を張って言ってるけど、それってあくまでナミちゃん個人の気持ちや考えの部分が凄く強くでしょ。だけど法律や倫理観っていうのは他の皆の考えも合わせて生み出されるものなのにそれをナミちゃん個人の感情に味方に付けて周りに押し付けるのはズルいことだって私は思うよ」

 「で、でも法律や倫理観が皆の意見も合わせたものなら私の拷問を許せないって感情が正しいってことじゃ……」

 「だからそこがナミちゃんの勘違いしちゃってるところっ!。確かに法律や倫理観では拷問なんて絶対駄目ってことになってるかもしれないけど……皆ナミちゃんみたいにそこまで強く反対する程の意見なんて持ってないよ。大体私達の時代に生まれた人達は皆拷問なんて遥か昔に行われてた出来事なのに実際にそれがどれだけ苦痛でいけないことかなんてちゃんと分かりっこないじゃない。だから大抵の人達は皆は法律や倫理観で駄目ってなってるから漠然と“いけないことだなぁ”なんて思ってるって程度で、その思いの強さには人それぞれ差があるってことをナミちゃんには分かって欲しいな。勿論個人の感情って面では法律や倫理観に反してまで拷問を肯定する人達までもいるってこともね」

 「ううぅ……なんとなくレミィの言ってることには納得できたけどそれじゃあ結局結論はどういうことになるのよ……。個人の感情に差があるならやっぱり法律や倫理観に合わせるしかないってこと……?」

 「それについてなんだけどここから更に込み入った話をしようと思うから皆もちょっと真剣に耳を傾けて聞いてね」

 「う、うん……」


 刑事として冷静かつ客観的、それでいて個人の気持ちにまで配慮の行き届いたレミィの話に関心が沸いたのか、これまで断固として拷問に反対していたナミもその強気な態度を崩し皆と共に真剣な表情になってそのレミィの言葉へと耳を傾け始めた。上手くいけばこのまま皆の意見を纏め上げることもできそうな雰囲気だが果たしてレミィは続いてどのような話をするつもりなのだろうか。


 「まずさっきまで散々色んな御託を並べといて悪いんだけど……実は私はこの議題については今言った法律、倫理観、個人の感情のどれにも当てはめて考えていいものではないと思ってるの」

 「えっ……でもそれじゃあ結局何に従って私達は結論を出せばいいの……」

 「何にも従えるものなんてない……しいて言えばその“従えるものがない”ってことに従うって感じかな。ほら、この館のダンジョンに入る前に皆も今と同じように真剣な態度で話してたでしょう。このゲームは自分達の存在を大きく超えるわば神様のような存在に運営されてるって」

 「えっ……そ、そういえばセイナが難しい顔してそんなこと言ってたような気がするけど……」

 「そんな凄い存在に支配されてる世界を前に今言ったような私達の世界のちっぽけな価値観なんかに垂らし合わせて頭を悩ませても全くの無駄だって思わない。皆ももう知っての通りこのゲームは現実世界の私達の肉体にまで絶大な影響を及ぼしている……。もし本当に私達の価値観で判断するならそもそもこんな得体の知れないゲームプレイすること自体が間違ってるってことになっちゃうよ」

 「まぁ、確かそれはその通りだぜ。私もさっきアクスマンと話てたんだが普通の感覚のプレイヤーならもうこのゲームの影響力にビビってとっくに投げ出しちまってるよ。かと言って運営や製作者に文句の言えるゲームでもねぇし……そいつらと違って本気でこれからもこのゲームを続けるつもりならそれなりの覚悟が必要だってもう私等も話てたんだっけな」

 「そういうこと。だから私達も一々御託を並べたり、感情に任せて訴えたりしないでその覚悟に従って行動しないと。そしてその覚悟を貫いて最後までこのゲームをやり遂げる為にも拷問の是非……それから他の行為に関してもこれからこのゲームを続けていく上で私達皆でこの世界においての新しい価値観を作り出していくしかない……って私は思ってるわ。つまりは今の私には何にも答えが出せないってことだけど……あれだけ長ったらしく話しておいて最終的に出した結論がこんな中途半端なものでごめんね、皆」

 「いや……確かによく考えてみれば私もこの問題に関してはお前と同じくとても断言できる答え等持ち合わせていないのに偉そうな御託をほざいてしまった。お前の言う通りこの問題はゲームの攻略に必要だというだけで結論を出していいようなものではない。……それなのにお前のリアやマイ、このゲームのNPC達を思い遣る気持ちを踏みにじる様なことを言ってしまい済まなかったな、ナミ」

 「あ、謝るのは私の方よ……。レミィに言われたように皆の考えを無視して自分の感情を押し付けようとしたのは私の方なんだから……。だけどそれでもやっぱり例えゲームのキャラクターであっても拷問に掛けるなんてしたくないって私は思うの……」


 レミィの出した結論とは“今の段階では答えを出すことのできない”というもので、皆を納得させるには少し説得力に欠けるのではないかと思われたが、その結論に至るまでレミィの丁寧に順を追っての自身の意見の説明の経緯が皆に他の意見に耳を傾ける冷静さを取り戻させたようだ。ナミと鷹狩も互いの意見を尊重し合いこれまでの意見の対立を互いに謝罪していた。


 「その気持ちは僕も変わってないよ……ナミ。だけどレミィさんや鷹狩さんの言う通り例え僕達からしてみれば残虐に思えるようなことでもこのゲームの一部とも言える行為を否定したくないって気持ちもあるんだ。それに僕にこの本を贈ってくれた拷問紳士さんのことも最終的にはいい人だなって思えるようになってたし……」

 「えっ……あいつにあんな酷いことされたっていうのに嫌いになるどころか好きになっちゃったっていうのっ!。あんたもしかしてそういう変な性癖とか持ち合わせてるわけじゃないわよね……」

 「ち、違うよ……っ!。ただリリスさんがああなった時も単に自分の戦況を有利にしようとしただけじゃなくてちゃんと僕達のことを心配して手を貸してくれてたようだから別に悪い人じゃないんじゃないかって思っただけっ!。拷問やあの性格だってゲームのキャラクターとしての役をしっかりこなしてるって考えたらむしろ尊敬できることだって思わない?」

 「う〜ん……まぁ、私もリリスの時のあいつの行動は意外だったけどその後すぐあんたに襲い掛かって来てたし……あいつに好意を抱くなんて私には考えられないわ。やっぱりちょっとあんたの方が変わってるんじゃない?」

 「そ、そうかな……僕は別に自分を変だとは思わないけど……」

 「私も君を変だとはこれっぽちも思わないぞ、ナギ」

 「……っ!、サ、サニールさんっ!」


 意見の対立こそ収まりはしたがナギ達は未だに拷問の是非についての結論を出すことはできていなかった。だがピリピリとした雰囲気からは解放されナギ達はいつも通りの和んだ会話へと戻ろうとしていたのだが、そんな時ナギの後ろから突如として先程の戦いで鷹狩の仲間モンスターとなったサニールが声を掛けて来た。これまで鷹狩からの回復を受けた後自身もダメージを受けた皆の回復へと回っていたようだが、それが完了し隣にいるエドワナと共にここへと向かって来たようだった。そしてどうやらここへはもう少し前にすでに到着していたようで、これまでのナギ達の拷問に関する会話も聞いていたようだったが……。


 「私もこの館の者達と共に命を奪われた身としてトーチャーのことを憎く思ってはいるが、同じこのゲームに登場するキャラクターとして奴のことを軽蔑したり、存在やその行いを否定するようなことはない。そしてそれは先程から君達が熱心に議論を交わしている拷問についても同じことだ。それぞれのキャラクターの性質等にとって君達への印象が変動することはあるだろうが……、例えどのような行為を行おうと君達が我々NPCへこのゲームへの敬意や愛情を失わない限り我々がそれを咎めることはない。勿論君達の世界では固く禁じられてる行為ではある為それを理由に行わないというのも選択の自由だ。だが我々に気を遣って折角与えられた自分達の戦略の幅を狭めるのだけは間違いだと行っておこう」

 「サニールさん……」

 「サニール様の言う通りよ。ゲーム内で許可されたことである以上我々NPCはあなた達プレイヤーのどのような行為も受け入れる覚悟はできているわ。だからさっきみたいにあまりナイーブにならないでその戦略を活用するにしろしないしろ、これまで通り真剣に楽しくこのゲームを楽しんでちょうだい」

 「そうにゃっ!、僕もナギが拷問をできるようになったからって別に嫌いになったりなんてしないにゃよ。ただ仲間モンスターとしてそれを行う際にはしっかりと意見を述べさせて貰うけどにゃ。ご主人様が無謀な無謀な振る舞いをしないよう制止するのも仲間モンスターの務めだからにゃっ!」


 “グオグオっ♪”


 「デビにゃん……シャイン……」

 「もう言うまでもないと思うけどそれは私もマイ、それにナイトも一緒よ。さっきサニールさんも言った通りNPCとしての性質としては私達もあまりそういった行為を受け入れられない方だけども……、自分達の主義やプライドの為に有効な手段を捨てていまうのもあなた達同じ国の一員としては容認し難いものはあるわ。やっぱり私達のヴァルハラ国を勝利に導いて貰う為にも例え汚い手段であっても有効に使いこなして貰わないとね」

 「うぅ……リアにまでそう言われたら私ももう何も言い返すことができないじゃない……」

 「まぁ、レミィさんも言ってたが今ここで結論を急ぐことはない。それにナギ個人が習得したものとはいえどのみちそれだけの行為を君達の国のトップの承諾なくして行えるはずもないだろう。まずは一度国に帰ってそのことを報告してから拷問についての方針を決めて貰った方が良いのではないか。先程からゲイルドリヴル殿もそう言いたげにジッと君達のことを見守っていることだしな」

 「………」

 「ゲ、ゲイルドリヴルさんもさっきまでの話を聞いてたのっ!」


 サニールやリア達NPCの暖かい言葉にナミの拷問に対するわだかまりもほとんどなくなってしまったようだ。このゲーム内で自身が最も信頼を寄せるNPCであるリアにまであのようなことを言われてはナミももう先程までのように拷問という行為を強く咎めることもできないだろう。そしてそんなナギ達の様子を見守っていたゲイルドリヴルもサニールの呼び掛けと共に姿を現して来た。


 「拷問紳士からナギに贈られたという拷問のスキルに関する話は私も先程から後ろでしっかりと聞かせて貰った。司令官として情けなく思うかもしれないが私もこの件に関して適切な意見を述べられる自信がなく皆の議論の様子を見守らせて貰っていたのだが……やはり今サニールの言った通りまずは我々の女王であるブリュンヒルデ様に報告してから結論を出すべきだろう。恐らく今もこの館の外で我々の帰還と任務完了の報告を心待ちにしているだろうかな」

 「……っ!、そうだったわっ!。それに外の警備に当たっている天丼頭達もあいつのリスポーン・オーバーなんちゃらのモンスター達にやられてないか心配だし……、向こうもまだダンジョンから帰ってこない私達のことを心配してるはずだものね。あいつ等がそう簡単にやられたりはしないと思うけど早く戻って安心させてあげないと……」

 「ああ……もうこの場にいる者達の回復も済んだし早く“芥蜘蛛の糸”を使ってここから脱出するぞ。……だがその前にナギ、拷問紳士からの手紙の内容はあれで全部だったのか?」

 「えっ……ちょ、ちょっと待って。まだ最後になんか書いてある……」


 “尚この拷問のスキルによる拷問を行うには専用の拷問部屋とナギ君の国のトップの者の許可が必要となりまーす。そして拷問を行う際にはその拷問部屋内でナギ君と拷問の対象者の二人きりにならなければならないので注意してくださーい。更にその拷問部屋は周囲からの視覚を完全に遮断された密閉空間である為、拷問のスキルの習得者以外の方は決してその拷問の様子を見ることはできませんの悪しからず……。“ARIA”によって拷問の内容に制限が設けられているとはいえその光景を見ただけでもナギ君以外の者達の精神にはそれなりの悪影響を及ぼしてしまうかもしれませんからね。……それではまたどこかでお会いしましょう、ヴァルハラ国のプレイヤーの皆さんっ!”


 「……だって。やっぱりサニールさんやゲイルドリヴルさんの言った通りまずはブリュンヒルデさんに報告した方がいいみたいだね」

 「それに専用の拷問部屋なんてものあるのか……。拷問紳士って奴に認められてない私等にはナギが拷問をしてる様子を見せてくれさえしらないしなんだな……。女のNPCと二人っきりになったからって変なことすんじゃねぇぞ、ナギ」

 「し、しないよ……っ!。それにレイチェル達には見られなくても“ARIA”にはちゃんと監視されてるんだからそんなことできるわけないじゃないかっ!」

 「……いいからさっさとここを脱出するぞ。全員早く芥蜘蛛の糸を使う準備をしろ。セイナのパーティから順に脱出していくから向こうに着いたらメンバーの点呼を怠るなよ。向こうに着いたら恐らくすぐ天だく達が出迎えてくれるだろうがな」

 「了解だ」


 こうしてナギ達はゲイルドリヴルの指示に従って拷問紳士との死闘が終わったこの場から脱出していった。芥蜘蛛の使用すると川底の遺跡の時と同じように館の外ではなくこのダンジョンの中へと転移する為の魔法陣の置かれていた入り口の扉を入った先のフロアへと戻って来ていた。すでに最後のゲイルドリヴル達のパーティの脱出も完了し全員の点呼も取り終っていたのだが、意外なことにナギ達が戻ってきた先のそのフロアには誰も待ち受けている者はいなかった。てっきりナギ達はこの場で天だく達が出迎えてくれるものと思っていたようだが……。


 

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