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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
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finding of a nation 119話

 “ミシミシッ……”


 宿敵である拷問紳士を相手にとうとうバーン・レイ・ナックルの拳をその土手っ腹に直接叩き込むことに成功したナミ。未だにナギのタルタロス・チェーンによって捕らわれた状態のままの拷問紳士は吹き飛ばされることすら許されず、ナミの拳はタルタロス・チェーンの鎖のきしみゆく音の共にどんどんとその腹部へとめり込んでいっていた。そしてとうとうそのナミの拳の威力を抑えきれずタルタロス・チェーンの鎖に亀裂までも生じてしまっていた頃、この地下の拷問部屋へと新たに向かってこようとしている者達がいた。


 “ダダダダダダッ!”


 「おらぁぁぁーーーっ!、邪魔なんだよてめぇ等っ!。今の私等はてめぇ等の相手なんざしてる場合じゃなくナギ達のとこに急がなきゃいけねぇんだぁぁーーっ!」


 “ズバァーーーーンッ!”

 “グオォォォ……”

 

 ナギのタルタロス・チェーン、そしてナミのヘブンズ・サン・ピアーとバーン・レイ・ナックルの連携攻撃が拷問紳士を直撃していた頃、音楽堂でルートヴィアナ達を拷問部屋へと繋がる通路を進むレミィとセイナ達は相変わらずナギ達の援護に向かうべく全力でその道を急いでいた。今のレイチェルのように眼前に立ち塞がる敵のみを一撃で粉砕し残りは完全に無視してこのまで進んで来たようだが、もう相当な距離を一直線に走って来ており皆もうそろそろナギ達の元へと辿り着いてもいいのではないかと考え始めていた。もしくは道を進むことに夢中で途中の別れ道や扉に気付かなかったのではないかと不安に思う者もいたようだが、そんな時進む先の通路が正面と右の二手に別れているのが見えてきた。どちらがナギ達の元へと続く道か分からないレミィ達は一先ず立ち止まってどちらに進むべきか考えるしかなかった。


 「ちっ……一体どっちに進みゃいいんだよっ!。こうして立ち止まっている間にもナギ達がやられちまうかもしれないってのに……。それにこっちだっていつまでもモタモタしてたらまたモンスター共に周りを囲まれちまうぜ。……レミィっ!」

 「待って、レイチェルっ!。今どうするか考えてるから……」

 「くっ……仕方ない。ならそれまで俺は背後からモンスターの警戒に専念するとするか……。セイナ、レイチェル、お前達は前の方を頼むぜ」

 「分かった。では私は正面の通路の方を見張るからレイチェル、お前は右の方を頼み」

 「はいはい……っと。まぁ、私の勘で言わせて貰うとこっちの右に曲がった方が正解のルートだと思うんだけどねぇ」


 皆からどちらに進むべきかの判断を任されたレミィが考えをまとめている間、セイナ、レイチェル、アクスマンの3人はそれぞれ正面、右、そして自分達が今通って来た後ろ側の通路へと当たった。今はどうにか周囲にモンスターの姿は見当たらなかったようだが、これまでの出現の頻度を考えるとこの場もすぐに大量のモンスター達によって周りを囲まれてしまうだろう。どちらが正解のルートが少しでも早く判断できるようにセイナとレイチェルも必死に目を凝らしてそれぞれの通路の先をのぞいていたが、どちらの通路もこれまでとどこも変わった点はなく、奥の方は暗闇に包まれてしまっていてほとんど見渡すことができなかった。このままではレミィも2分の1の確率の当てずっぽうの判断しかできない状況だったのだが……。


 「……よしっ!。こうなったら二手に別れて両方の通路を進むことにしましょう。幸い今の私達のメンバーは多いくらだし二手に別れたとしても十分な戦力を維持できるはずよ」

 「そうだね……僕もそれが一番確実だと思うよ、レミィさん。それでメンバーの別け方だけど……レミィさん達4人に2人ずつに別れてもらってセイナさん達と僕達のパーティに加わって貰うのがちょうどいいんじゃないかな」

 「OK、カイル君。それじゃあ私とアクスマン君はセイナさん達のパーティに、シスちゃんとプリプリさん、それと精霊のクーちゃんはカイル君のパーティに加わってついて行ってあげて」

 「了解、レミィさん。それじゃあセイナさん達にも早く声を掛けてあげて……お〜い、セイナさ〜ん、レイチェルさ〜ん、アクスマンく〜ん、どっちの通路に進むか決まったよ〜。取り敢えず3人とも一度こっちに集まって……」

 「……っ!、待て、シッスっ!。こっちの正面の通路の奥から何者か達がこちらへと向かって来ているようだ。かすかではあるが複数の者達の通路を走る音が聞こえる……」

 「えっ……」


 “ダダダダダダッ……”


 「あ、あれは……確か己武士田拳子こぶしだけんしさんっ!、それにナイトや塵童君達までっ!」


 セイナ、カイル達のパーティと合流していたことで十分な戦力が確保できていると判断したレミィはメンバーを二手に別け正面と右の両方の通路を進むという決断した。しかしシッスがそのことをセイナ達に伝えようと声を掛けた時、突如として正面の通路を見張っていたセイナがその通路の奥から複数の何者かが近づいて来ると逆に知らせて来た。それを聞いたレミィも耳を研ぎ澄ませてその近づいて来る者達の足音を聞き、通路の奥の方へと目を向けたのだが、なんとその視線の先の暗闇を抜けて先程までチャッティルとワンダラ達と戦っていた己武士田やナイト達が姿を現したのだった。レミィ達、そして後から現れた己武士田達は互いにその姿に驚きを隠せなかったようだが、間もなく通路の分岐点で合流し無事を讃え合いながらこれまでの経緯を説明し合った。


 「そっか……それじゃあ己武士田君達はそのチャッティルとワンダラって奴を倒してそっちの通路からここへ向かって来たんだね。そしてそっちからナギ君達と同じようにゲイルドリヴルさんと鷹狩さん、それに不仲さんの3人が敵のボスのところに……」

 「ああ……だから俺達も逸早くゲイルドリヴルさん達の援護に向かう為にチャッティル達から入手した鍵で進むことのできたこの通路を一直線に突っ走って来たんだが……」

 「でもよ、己武士田達がそっちから来たってことはもうこっちの道で正解だってことじゃねぇのか、レミィ。向こうもここに来るまで脇道みたいなのは一つもなかったって言ってるし……」

 「そうだね、レイチェル。……よしっ!、なら合流したばっかりだっていうのに悪いけどナギ君とゲイルドリヴルさん達のところに向かう為皆でこっちの道を急ぐわよっ!」

 「了解っ!」


 こうして己武士田やナイト達と合流したレミィ達は再びナギ達のところを目指して正解と思われる通路を全力で駆け抜けて行った。合流したメンバー達の数は相当な大所帯となってしまっておりこのずっと一直線の道が続く通路は大分狭苦しく感じられていたが、通路が狭いというよりこれだけの者達が無事ダンジョン内で合流できるということの方が珍しいのかもしれない。もう間もなくナギ達と拷問紳士との決着もついてしまいそうというところだったが果たしてレミィ達はこのまま無事ナギ達の元へ辿り着くことができるのだろうか。


 “ミシミシッ……”


 「うおぉぉぉぉーーーっ!」

 「ぐっ……ぐはぁぁぁ……っ!」


 “……ピキッ!、……バキバキバキッ!”


 そして拷問紳士へと叩き込まれたナミの拳は未だにその腹部から離されることなくメキメキと拷問紳士の骨を砕くような音を立て更に深くめり込んでいっていた。このままでは本当に拷問紳士の腹部を突き破ってしまうのではないかと思われる程であったが、その前に拷問紳士の体を拘束していたナギのタルタロス・チェーンの鎖の方がその強度に限界を迎えてしまいそうであった。先程生じた亀裂はナミが拳に更なる力を込めると同時に一気に広がっていきあっという間に鎖の輪の部分を一周して向こう側で繋がってしまった。そしてそれはもう亀裂と呼べるものではなくなりナギのタルタロス・チェーンの鎖は……。


 “ダダダダダダッ!”


 「……っ!、おいっ!、レミィっ!。正面になんかひらけた場所が見えてきたぞっ!。やっとこの狭い一本道の通路から抜け出せそうだぜっ!」

 「了解、レイチェルっ!。じゃあもしかするとそこにナギ君達もいるのかな」

 「いや……どうやらそういうわけではなさそうだ。それにそれ程大きい空間ではなく恐らくその先は行き止まりだぞ」

 「ええっ!、そんな……ここまで行き止まりだなんて言われても今更引き返す時間はないよ……。また左右のどっちかに脇道みたいなのがあるんじゃないのっ!」


 その頃ナギ達の元へと急ぐレミィ達はとうとう一本道の通路を抜け少しひらけた小部屋のような空間へと出ようとしていた。しかしセイナが言うには正面には先へと続く通路は見当たらずナギ達がその場にいる様子もないということだった。それを聞いて戸惑うレミィだが本当にその小部屋からどこかに通じる道がないのならここまでの通路が一本道であった以上完全な行き詰まりとなってしまうが……。


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……”


 「……っ!、待てっ!。何やら正面の部屋の突き当りの壁の方が左右に開き始めたっ!。どうやらそこから更に奥へと進めるようだっ!」

 「本当っ!、ならきっとナギ君達はその奥にいるはずだねっ!。このまま一気にその壁の扉を突っ切るよ、皆っ!」

 「了解っ!」


 行き止まりと思われたその正面の小部屋だったが、セイナ達がその付近まで近づくと突如としてその突き当りの壁が左右に開き始め、更に奥への道が開かれた。レミィ達はその先にナギ達がいると信じて壁の向こうから差し込んで来る光の中へと飛び込んで行ったのだが……。


 “バッ!”


 「ナギ君っ!、ナミちゃんっ!、皆っ!」


 “バッキィィィーーンッ!”


 その光を潜り抜けたレミィ達が辿り着いたのは正しくナギ達と拷問紳士達の激しい戦いを繰り広げているあの地下の拷問部屋だった。そしてそのレミィ達の目に真っ先に飛び込んできたのは部屋の中央で拷問紳士に拳をぶつけるナミと、その凄まじい拳の威力によってついに砕け散ってしまったナギのタルタロス・チェーンの鎖の光景だった。それと同時にその鎖に押し止められる形となっていたナミの拳もとうとう最後まで振り切られ、同じくその鎖にある意味で体を支えられてた拷問紳士も空中へと放り出されしまった。鎖の強度と相殺される形になったのだろうか、宙へと舞う拷問紳士の体はナミの拳の凄まじさの割に思いの他吹き飛ばされることはなく、ゆっくりと宙を漂うような形で地面へと落下していった。ようやくナギ達の元へと辿り着いたと思ったらいきなり衝撃的な場面を見せつけられレミィ達も驚きのあまり動揺を隠せない様子だったのだが……。


 「ぐはぁぁぁーーーっ!」

 

 “スタッ”


 鎖から解放されるも拷問紳士はその空中に放り出されたのちも先程の攻撃の衝撃と痛みで身動き一つ取ることができず、ただ重力に流されるままに地上へと落下し背中から地面へと叩き付けられてしまった。それとは対照的に拷問紳士へと拳を叩き込んだ張本人であるナミはゆっくりと足の裏から衝撃を和らげるように着地し、まるで体操の競技のように攻撃の最後を締めくくった。しかし流石に力を使い果たしたのか、その後すぐ片膝をつき息を荒げてしまっていた。

 

 「はぁ……はぁ……」

 「ナ、ナミちゃぁぁーーんっ!」


 “ダダダダダダッ!”


 「……っ!、向こうにはナギや他の奴等もいるぞっ!。皆相当なダメージを受けているみたいで早く行って手当してやらねぇと……」

 「うむ……だが周りにはまだ他のモンスター達もうようよしているようだ。何故か今は動きが止まっているようだが注意を怠るなよ、レイチェル」

 「分かってるって……お〜い、ナギィィィーーーっ!」


 そんなナミ……、それからナギや部屋中で倒れている他の仲間達を見てレミィ達はすぐさまその元へと駆け寄って行った。セイナの言う通りフロアにはリスポーン・オーバーフローによってモンスター達もまだ何体か残っており、拷問紳士の精鋭として呼び出されたスクウェラとサディも健在だった。だが何故か皆その場で立ち止まったまま動く気配がなく……、スクウェラとサディに至っては正面に拷問紳士を捕えたあの凄まじいタルタロス・チェーンの鎖を放ったナギがいたというのにまるで攻撃を仕掛ける素振りすら見せていなかった。そんな敵と思われる者達の様子を見てレミィ達も取り敢えずは手を出さずダメージを負っているナギ達の手当に向かうのを優先したようだが……。


 「大丈夫、ナミちゃんっ!」

 「……っ!、レ、レミィ……それに他の皆も来てくれたのね……。私なら大丈夫……それより拷問紳士の奴はどうなったの」

 「拷問紳士……それって今さっきナミちゃんがブッ飛ばしてた奴のこと……。そいつならナミちゃんにやられて私達の目の前で倒れてるけど……」

 「そう……でも油断しないで……。そいつはここの最終ボスで今まで私達も相当な苦戦をさせられてたんだから……」

 「こ、こいつがこのダンジョンの最終ボスぅぅーーっ!」


 ナミから目の前で倒れている拷問紳士がこの館のダンジョンの最終ボスであると聞かされレミィ達は驚きの声を上げていた。見た目のこともそうだがまさか来ていきなり敵の最終ボスがブッ飛ばされる光景を見ることになるとは思ってもみていなかったのだろう。その拷問紳士は息をしているのかどうかさえ疑ってしまう程にピクリとも体が動くことなく地面へと横たわったままだったが、それでもこれまでの戦いで散々その脅威を味わされていたナミは最後まで警戒する態勢を解かなかった。そんなナミの態度に促されるようにレミィ達もナミの手当を行いながら決して拷問紳士から視線を放すことなくその様子を窺っていた。


 「無事かっ!、ナギっ!」

 「レ、レイチェル……っ!。それにカイルに塵童さん達まで……」

 「レミィさんや馬子さん達から聞いたよっ!。何でも敵の罠に掛かって僅かなメンバーだけで敵のボスのいるエリアに飛ばされたって……。そんな奴をナギ達だけで相手にして大丈夫だったのっ!」

 「うん……大丈夫だったってわけじゃないけど取り敢えずそいつは今ナミが思いっ切りブッ飛ばしくれたら相当なダメージを負わせることができたと思う……。ただこれまでの戦いでのあいつの実力を考えるとそれでも倒し切ることができたかどうか……」

 「それって今ナミ達の目の前でぶっ倒れてる奴のことだろ。それならもう心配することはねぇよ。来た瞬間に吹っ飛ばされてたからよく分かんねぇけどあのナミの拳を腹にモロに受けてたし……、おまけに変な鎖に繋がれて完全に無防備な状態だったんだからいくらここのボスだっていってもひとたまりもねぇはずだぜ。仮にまだHPが残ってたとしてもほとんど虫の息の状態だろうし私等で袋叩きにして止めをさしゃあいいだけだしよ」

 「そ、そうかもしれないけど……」

 「ふっ……まさかあの程度で拷問様を倒せた気でいるなんて……。本当あなた達の国のプレイヤー共はどいつもこいつも能天気な馬鹿ばっかりね」

 「……っ!、なんだぁっ!、てめぇ等はっ!」


 ナギ達がこのフロアで敵の最終ボスと戦っていると知っていたレイチェルとカイルは駆け寄ってまずナギの身を心配をした。その後ナギから先程中央でナミの拳により吹っ飛ばされていたのがこのダンジョンの最終ボスだと聞かされ、レイチェルは自分達の勝利を確信していたのだが、そんなレイチェル達をあざ笑うような言葉をナギ達の前にいたスクウェラとサディが言い放って来た。いきなり嘲笑的な態度で言葉を投げ放たれレイチェルは何様だと言わんばかりに二人のことを激しく睨め付けたのだが……。


 「こいつらもここのボスのリスポーン・ホストのモンスターとして出現した手下達だよ。この二人はその中でもかなりの精鋭みたいで能力も他の奴等とは段違いに高いみたいだから気を付けてっ!」

 「なんだって……けっ!、高々ボスのリスポーン・ホストの分際であんな偉そうな口聞いてきたってのかよ……。精鋭だかなんだか知らねぇが所詮は雑魚モンスター共の一員に変わりはねぇじゃねぇかっ!」

 「でもレイチェル……。リスポーン・ホストのモンスターであるこいつ等がまだこの場にいるってことはまだあのボスの体力は残されているってことなんじゃ……」

 「あっ……!」

 

 スクウェラとサディが拷問紳士のリスポーン・ホストのモンスターであると聞いて侮った態度を取るレイチェルだったが、カイルの指摘にハッと驚いた表情を見せると慌ててナミ達の前で倒れている拷問紳士へとその視線を向けた。どうやら未だに拷問紳士は倒れた状態のまま身動きの一つも見せていないようだが、ここからでは本当に力尽きているのどうか確かめようがなかった。


 「ちっ……どうやらまだ倒れたままみたいだけど確かに体が残ってるってことはまだ生きてるってことかもしれねぇな。……もしそうならお前等はまだ私等と戦おうってつもりなのかっ!」

 「いえ……確かにサディの言う通り拷問様があなた方に倒されたというわけではありません。……ですが今日のところの決着は一先ず着いたようです」

 「えっ……それって一体どういうこと……」

 「勝負の続きはまた次回にお預けってことよ。まぁ、またあなた達と直接対峙する機会がある可能性の方が少ないでしょうけどね。それまで全ての国家を揺るがす拷問様の壮大な策略の前にあなた達の国も精々苦しめられてちょうだい。……それじゃあね」


 “パアァァ〜〜ン……”


 「……っ!、き、消えちゃった……」

 「なんだぁ〜、それじゃあ結局あのここのボスの奴もちゃんと倒せてたってことかよっ!。……その割には今の二人はなんだか意味深な言葉ばかり言い残して行きやがったけどよ」

 「ならそれを確かめる為に一先ずナミ達のところへ行ってみよう。ナギもそれ程深刻なダメージを負っているわけじゃなさそうだし……回復を後回しにしても大丈夫だよね」

 「うん、大丈夫だよ、カイル。それより僕もちゃんとあいつを倒せたかどうかの方が気になるし早くナミ達のところへ行こうっ!」


 先程拷問紳士はまだ倒されてはいないとナギ達に強気に言い放っておきながらスクウェラとサディはあっさりとその場から消え去っていってしまった。更には周りにいた他のモンスター達も順にその姿を消していき、ナギ達からしてみれば主人である拷問紳士が力尽きた為そのリスポーン・ホストの配下であったスクウェラとサディ達がこの場に留まることができなくなったように見えるのだが、その去り際に二人が言い残した言葉が気になったナギ達は直接拷問紳士の生死を確かめる為回復よりも優先してナミ達の元へと合流して行った。どうやらナミ達の方も拷問紳士のことばかりを気にしていたようだったが……。


 「そっか……それは私達の別れてからの間皆ここで凄い苦労をしてたんだね。そうとは知らずにいつまでもモタモタした挙句に今更になって援軍に来るなんて……本当に情けないリーダーでごめんね、ナミちゃん……」 

 「ああ……俺達がもっと早くにあのルートヴィアナ達を倒せていればその拷問紳士とかいう奴との戦いに加勢できたかもしれないのに……」

 「そ、そんな……エックスワイゼットはともかくレミィや他の皆が謝る必要なんてないわよ……。そもそも敵の罠に掛かっちゃった私達の方が悪いんだし……それに私達を見捨てることなくこうしてここまで来てくれただけでも凄っごく嬉しいわ。レミィ達の方こそまともなルートを通ってここに辿り着くのは凄く大変だったんじゃない?」

 「ナミちゃん……」

 「まぁな……流石の俺もこのダンジョンの強敵共には散々手を焼かされ……って俺はともかくっての一体どういうことだぁー、ナミぃーっ!。それに性懲りもなく俺をその名で呼びやがって……」

 「しかし相手を拷問に掛けて情報を引き出すとは随分とたちの悪い敵だな……。しかもその情報を他国へと売り渡す可能性すらあるとは……確かに今お前の説明した通り確実にこの場で始末しておいた方が良い敵であることに間違いない」

 「その通りだ……」

 「……っ!」

 

 ナミから拷問紳士とこれまでの経緯について聞かされたレミィ達はナミ達の壮絶な戦いを想像しその戦いに参加できなかったことを申し訳なく感じていた。しかしナミがそのようなことでレミィ達を責めるわけはなく、反対にここまで駆け付けて来てくれたことへの感謝の言葉を述べていた。セイナはそのことよりもナミから聞かされたこの“finding of a naiton”の世界においての拷問紳士の行動の性質の方が気になっていたようで、自らの利益の為のみ他国へ情報の売買を行うという存在の危険さを悟り、拷問紳士との戦闘の前のゲイルドリヴルと同じく決してヴァルハラ国にとって有益な存在とはならないとの判断を下していた。そしてそのセイナに同意する形でそのゲイルドリヴル本人もナミ達の前へと姿を現したのだが、どうやらまだ先程のダメージを回復し切っていない様子で、杖代わりに地面へと突き立てた槍に寄り掛かりながら少し苦しそうな表情を浮かべていた。


 「ゲ、ゲイルドリヴルさん……っ!、そんな状態で立ち上がって大丈夫なのぉっ!」

 「大丈夫だ……それより早くそ……」

 「大丈夫じゃないけぇっ!、まだ私の祈祷による回復が終わってないのに無理して立ち上がって……。もういいから早くそこに座ってジッとしとってっ!。ナミちゃん達に話があるなら回復をしながらでもできるじゃろっ!」

 「あ、ああ……」


 後を追って来た馬子に促されゲイルドリヴルは槍に掛けている手と体をゆっくりと下ろしていきながら地面へと膝をつき、改めて馬子の祈祷による回復を受け始めた。そしてナミ達に先程の言いかけた話の続きをするのであったが……。


 「ふぅ……済まないな、馬子。それで今の話の続きだが……セイナも言った通りその拷問紳士は我々の国にとって決して生かしておいていい敵ではない。肉体がこの場から消滅していないところをみるとまだHPが残っている可能性もある。誰でもいいから早くそいつに確実な止めを刺すんだっ!」

 「えっ……でもこんな無抵抗な相手を攻撃するなんて流石に抵抗があるわよ……。それに周りのリスポーン・ホストのモンスター達も消えてってるみたいだし……もしかしたら体が残ってるだけでちゃんとHPは0になってるかもしれないじゃないっ!。せめてアナライズの魔法とかでこいつの状態を確かめてからでも……」

 「だったら早く魔法を使って確認しろっ!。お前達の気が引けるというのならこの私がこの槍で串刺しにして最後の止めを刺してやる……っ!」

 「ほほっ、それは困りまーすっ!、ゲイルドリヴルさーんっ!。私にはまだまだ拷問による情報収集であなた方全ての国の情勢をかき乱す役目が残っているのですから……っ!」

 「な、何……っ!」


 “バッ!”


 非情なまでに拷問紳士への止めを優先しようとするゲイルドリヴルの態度と言葉にナミ達は若干引き気味になってしまっていた。確かにゲームとはいえ意識ない状態で地面へと横向けになっている相手を攻撃するのはナミ達のプレイヤーとしての倫理観に欠ける行動だろうが、これまでの戦いでの拷問紳士の実力を考えるとゲイルドリヴルがそこまで非情にならざるを得ないことも頷ける。ナミ達もアナライズの魔法を使用しもし本当に拷問紳士のHPが残されていれば例え相手が無抵抗であったとしても止めを刺す決断をしただろう。しかしその次の瞬間そんなナミ達の覚悟をあざ笑うかの如く拷問紳士のあの軽薄で皮肉めいた物言いが突如としてフロア中に響き渡っていた。その声はまるでこのフロアに漂う不穏な闇の中から聞こえてくるような不気味な雰囲気を感じさせるもので、思わずナミ達も目の前に倒れている拷問紳士ではなく天井を覆う闇の方を見上げてしまうのであった。その声と共に操り糸に引かれる人形のようにまるで生気を感じさせず目の前で倒れていた拷問紳士が起き上がっているとも知らずに……。


 「い、今の声は正しく拷問紳士の奴のものに間違いないわ……。でもあいつはまだ私達の前で倒れているはずなのに一体どこから……っ!、ま、まさか……っ!」

 「ほほっ、先程は見事な拳の一撃を食らわせてくれてありがとうございまーす、ナミさーん。それだけでなく他の皆さんもこの私を相手に素晴らしい戦いぶりを見せて頂いたおかげでこれからこのゲームを更にエキサイティングする為の良いウォーミングアップをすることができました」

 「ウォ……ウォーミングですって……。それじゃああんたは私達にあれだけの力を見せつけておきながらまだ実力を隠し持っていたっていうの……っ!」

 「そうでーすっ!、元より私は拷問によってあなた方から情報を仕入れるのが目的でこのようなまともな戦闘を行うつもりは毛頭なかったのでーす。それをあなた方が僅かな情報を守る為に必死になり過ぎるから互いに無駄な時間と体力を消耗する羽目に……」

 「くっ……ふざけたことを言い続けるのももう大概にしろっ!。これ以上貴様の戯言に振り回されるのももう沢山だっ!。貴様の目的がなんであれ今ここでこのゲームから退場させて二度と我々の前に現れることのできないようにしてやるっ!。……はあぁぁぁーーーっ!」

 「ゲ、ゲイルドリヴルさん……っ!」


 “スッ……”


 「な、何……っ!」

 「き、消えた……っ!」


 声の聞こえて来た方向が分からずに辺りをキョロキョロと見渡してナミ達であったが、ふと元の位置へと視線を戻すとそこにはいつの間にか地面に倒れた状態から起き上がった拷問紳士の姿があった。当然驚きを隠せないナミ達であったのだが、その拷問紳士の言葉に激昂したゲイルドリヴルはすぐさま槍撃そうげきを放ちもうなりふり構わず相手の息の根を止めようとした。しかしそのゲイルドリヴルの槍が拷問紳士の体を貫こうとした瞬間、突如としてその場から消え去り攻撃が空振りに終わってしまった。慌ててまた周囲を見渡してナミ達は消えた拷問紳士の行方を捜そうとしていたのだが……。


 「くっ……一体あいつはどこへ行ったの……っ!」

 「お〜い、ナミィィ〜〜っ!」

 「……っ!、ナギ……それにレイチェル、皆……」

 「ね、ねぇっ!、さっき一瞬拷問紳士の奴が立ち上がってるのが見えたんだけど一体どうなってるのっ!。もしかしてナミのあの一撃でも倒し切れてなかったの……」

 「うん……どうやらそうみたい……。それに起き上がったと思ったらいきなりどこかに消えちゃって……。またどこから攻撃を仕掛けてくるか分からないからナギ達も気を付けてっ!」

 「う、うん……」

 「でもよ……その拷問紳士とかいうここのボスがまだ生きてたって言うならどうして他のリスポーン・ホストのモンスター達はこの場から姿を消しちまったんだ。確か能力のホストとなる奴さえ残ってればあいつらは何度でも復活してこれるはずだろ」

 「さぁ……私も良く分からないけどもしかしたらさっきまでの戦いのダメージでリスポーン・ホストの能力を維持することができなくなったのかも……」

 「ノーっ!、それは違いまーすっ!。スクウェラやサディ達を引き上げさせたのはこの私にこれ以上あなた方と戦闘を続ける意志がないからですよ、ヴァルハラ国のプレイヤーの皆さん」

 「……っ!、またあいつの声だわ……。今度は一体どこから……」

 「……っ!、あそこだ、ナミっ!」


 必死に拷問紳士を探すナミ達の元に目の前でスクウェラやサディ達が消え去るのを見て拷問紳士の生死の確認をしようとナギ達が合流してきた。しかし着くや否やナミからその生存を知らされてしまいナギ達も動揺を隠すことができなったようだ。更にレイチェルは拷問紳士が生きていたなら何故他のリスポーン・ホストのモンスター達が姿を消してしまったことを気にしていたのだが、そんな時突如としてそのレイチェルの疑問に返答する拷問紳士の声が再びどこから響き渡って来た。慌てて拷問紳士の姿を探すナミ達だったが、そんな中ゲイルドリヴルがちょうどナギの拘束されていた電気椅子の置かれている上空の辺り……、翼も持たず足元に足場となるようなものもないというのにまるで超能力者のように宙に浮いた状態でこちらを見下ろす拷問紳士の姿を発見したのだった。


 「あいつったら今度はあんなところに……。しかも今度はさっきみたいにナギの放った鎖に捕らわれてるわけでもないっていうのにどうやってあんな高い場所に浮いて……」 

 「ほほほっ!、私にとっては体を宙に浮かす程度のことも造作のないことなのですよ、ナミさーん。なんせ私はこのゲームにおいてこの館のボス以上に重大な役割を任されている存在なのですからねっ!」

 「くっ……その重大役割とはやはり拷問に得た情報により我々や他の国の情勢を掻き乱すことか……。だが我々の国の情勢に関わるような情報は何一つとして貴様に引き出されていないはずだっ!。にも関わらずこれ以上我々と戦闘を続けるつもりがないとは一体どういうつもりだっ!」

 「もうあなた方から情報を引き出すのは諦めてまずは他の国のプレイヤーの方を拷問のターゲットにする……つまりこの場の戦闘であなた方に敗北したことを認めるということでーす。それにこれ以上あなた方と戦闘を続けても拷問にかけるどころかどちらが倒れるまでの勝負になりそうですし……何よりあなた方にこの私を撤退させる為の条件を満たされてしまいましたからね」

 「て、撤退させる為の条件って……一体どういうものだったの……」

 「それはですね、ナギ君……この私のHPを90%以下にまで減らすというものだったのでーすっ!」

 「な、なんだってぇぇーーーっ!」

 

 再びナギ達の前に姿を現した拷問紳士だったが、どういうわけかこれ以上ナギ達とこの場での戦闘を続ける意志はないようだった。どうやらナギ達が戦闘にある条件を満たしたのが理由となったようだが、その条件の内容を聞かされたナギ達は一斉に驚きの声を上げてしまっていた。少し大げさのように思えるがこれまで拷問紳士を相手に凄まじい激闘を繰り広げて来たナギ達にとっては仕方のないことで、あれ程苦戦を強いられた挙句やっとの思いで叩き込むことのできたあのナミの拳の一撃でようやく相手のHPを1割削ることのできた程度であったのことに衝撃を隠せなかったのだろう。


 「そ、それじゃあさっきの私の攻撃でもあんたのHPをほんの一割程度しか削ることができていなかったってことぉっ!。それだけじゃなくナギのタルタロス・チェーン……、それに私の魔術札のヘブンズ・サン・ピアーの魔法も受けたはずなのに……」

 「そ、そんなわけないよ……ナミ。HPが90%以下になるのが条件なんだから別にそれ以上にもっと多くのダメージを受けてたっていいわけでしょ。あの最後のナミの一撃でその条件をクリアしたのならきっと……少なくともHPの半分以上はあいつにダメージを負わせることができているはずだよっ!」

 「そ、そうだといいんだけど……」

 「ほほほっ……まぁ、それはあなた方のご想像にお任せしましょう。それと後もう少し説明しておくと撤退の条件にはもう一つあなた方からその所属する国の情報を一定量入手するというのもあったのですよ。つまりは本来ならあなた方とこのようなエキサイティングな戦闘など繰り広げることなどなく、最初に捕えたナギ君を拷問して情報を引き出して終わりとなる予定だったのですよ。勿論あなた方の国を襲っている大量のモンスターの発生も止め、この館のダンジョンも全て取り払ってしまってね」

 「な、なに……っ!。それじゃあ私等はそのもしかしたら別に漏れても構わないようなどうでもいい情報の為に散々このダンジョンの敵共との戦いに付き合わされてたってことかよ……」

 「ちょっとレイチェルっ!、ナギが必死にあいつの拷問に耐えて守った情報をどうでもいいってどういうことよっ!。もしかしたらその反対に私達の国が圧倒的に不利になるような情報があいつによって他の国に売り渡されてたかもしれないのよっ!」

 「あ、ああ……わ、悪かったよ。別に私もあいつに情報を渡さなかったっていうお前やナギ達には感謝してるし……さっきのはそんなつもりで言ったんじゃなくてなんとなくここまで来るのに費やした労力に見合わねぇなって思っただけ。だって情報は守れたかもしれねぇけど肝心のあいつは倒せねぇし……お前もあんなに大事にしてたヘブンズ・サン・ピアーの魔術札まで使っちまったんだろ」

 「ま、まぁ……そりゃ確かにそうだけど……。でも情報を奪われるよりは絶対あいつを撤退させる方が良かったはずよっ!」

 「確かにそれはその通りだ……。だがあいつをこの場で逃してしまう以上いつまたどこで情報を奪われる危険に曝させるか分からない……。それに他の国があいつを利用して一気にその勢力を伸ばしてくるとも限らん……」

 「もうっ!、ゲイルドリヴルさんもそんな悲観的なことばかり言ってないで少しは自分も含めた私達の健闘を讃えてよっ!。そんななんでも自分達の思い通りに事が運ぶわけないでしょうっ!。皆一生懸命にやったんだから司令官ならちゃんとその結果を受け入れて次の策を考えてよねっ!」

 「ナミ……」

 「ほほほっ、そのような仲間割れをせずともこの私から情報を死守しながら撤退へと追い込んだことへのご褒美はちゃ〜んとご用意してますよ。この館も取り払うことなくこの場に残しますから後で存分に探索なさってアイテム等を回収なさってください。それだけでなくあなた方ヴァルハラ国に素晴らしい仲間達が加……おっとこれは直接本人達から伝えて貰った方がのちの喜びも大きいでしょう。……とにかくこの私と全力で戦って良かった思えるような見返りは皆さん十分に得られるでしょうから安心してナミさんの仰るよう今は互いの健闘を讃え合ってあげてください。……では敗北も宣言したことですし私もそろそろこの場から退散させて頂きましょう。またどこかでお会いできる日まであなた方の国が健在であることを心から願っていますよ。この場での戦いのリベンジができるであろう意味も込めてね……ではさらばですっ!」


 “ヴィィーーン……バッ!”


 「い、行っちゃった……」


 こうして拷問紳士はナギ達の前からその姿を消してしまった。あれだけの死闘を繰り広げたというに拷問紳士との決着がつかないという中途半端な結果に依然として納得のいかない者も多かったようだが、いつまでもそのようなことにグダグダと文句を言っているわけにもいかずゲイルドリヴルの指示を受けて皆一先ず周りに倒れている者達の回復へと向かって行った。しかしこの後ナギ達には拷問紳士を取り逃がしてしまったことを差し引いても十分すぎるという程の見返りが待ち受けており、すでにその一つが拷問紳士の消え去った真下……、ナギの捕らわれた電気椅子にひっそりと置かれていることにまだ誰一人として気付いていなかったのだった……。

 





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