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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
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finding of a nation 118話

 「……っ!、ど、どこだ……ここはっ!。さっきまで僕はデビにゃんの声に言われてタルタロス・チェーンの魔術書を必死になって読んでたはずなのに急に暗闇の中に飲み込まれて……」


 タルタロス・チェーンの魔導書を解読している最中、ナギは突如として漆黒へと染まりゆく本のページへとその意識を取り込まれ、気が付くと周囲を完全な闇に覆われた冷たい空間の中にいた。そこは闇以外の何も存在しない……、自身が今立っているはずの地面の感覚すらなくまるで全てが無になっているとも思えるような空間であった。ナギはその冷たい闇の中を漂いながら何故このような場所に来てしまったのかを考えていた。


 「もしかして魔法の習得に失敗したからこんな場所に連れて来られちゃったのかなぁ……。ねぇ、デビにゃん、これはやっぱり今の僕の実力じゃあの魔法の習得は無理だったってことなんじゃないの」


 “………”


 「デビにゃん……?」


 考えてもこの場所に来た原因の分からないナギは先程まで自身の頭の中に鳴り響いていたデビにゃんの声に問い質したのだが、暫く待っても返答が返ってくることはなかった。そのことにより改めて自分が先程までとはまるで違う空間に移動して来てしまったことを実感したナギは急に不安が襲い掛かり、何度もデビにゃん、そしてナミ達の名を呼んでいた。


 「デ、デビにゃん……っ!。ねぇ、どうしちゃったのっ!。早く返事をしてよ、デビにゃんっ!」


 “………”


 「そ、そんな……まさかここに来たことでデビにゃんの声まで聞こえなくなっちゃんたんじゃ……」


 “………”


 「うっ……おぉ〜いっ!、デビにゃぁ〜〜んっ!、ナミィ〜〜っ!。皆どこ行っちゃったのぉーーっ!。僕一人でこんな真っ暗で何もないところに居たら頭がおかしくなっちゃうよぉーーっ!。誰でもいいから返事してぇーーーっ!」


 “………”


 「うぅっ……」


 しかしどれだけナギが皆の名を叫ぼうともデビにゃんの声同様返事が返ってくることはなかった。そもそもここへ来ているのはナギの意識のみであり、ナミやサニール達もナギ自身のキャラクターの肉体自体もまだ拷問紳士と戦っていたあの拷問部屋にある。なのでナギがこの空間でいくら叫ぼうとも誰にもその声が届くことがなく、意識の世界でどれだけ自身の体を移動しようともこの空間がから抜け出せることはない。


 「そ、そうだ……っ!。声が届かないなら端末パネルで皆にメッセージを送ってみようっ!。それかもうゲームの運営の“ARIA”にこの事態を通報してどうにかしてもらえば……って……ええっ!。た、端末パネルが開けない……」


 どうにかこの空間脱出する為に端末パネルを開こうとしたナギだったが、やはり自身の意識のみの世界ではそれすらも開くことはできなかった。これではナミ達に通信を繋ぐこともできず、この緊急事態をゲームの運営である“ARIA”に知らせることもできない。最も先程のリリスの霊神化の現象の時と同様に“ARIA”はナギの身に起きている事態を全て把握した上で放置しているのかもしれないが……。


 「どっ……どどどどうしようっ!。これじゃあ誰にも連絡も取れないしどうやってここから脱出すればいいんだっ!。それに早く僕がタルタロス・チェーンの魔法を使わないないと拷問紳士に皆やられちゃうかもしれないっていうのに……本当にもうっ!」

 

 声も通信も届かない……つまりは外部との連絡を取る手段が完全に閉ざされてしまったことを悟ったナギは更なる不安と焦りを感じ段々と取り乱していってしまっていた。そしてこのままこの空間に留まり続けることになれば精神が崩壊してしまい兼ねない事態にもなり兼ねない。ここから脱出する為はナギは直接ここから抜け出そうとするのではく取り込まれた意識を肉体へと戻す方法を考えねばならなかったのだが、どうやら自身の意識だけではなく肉体そのものがこの場に転移してきたものと錯覚してしまっているようだ。


 「く……くそっ!、こうしている間にもナミやサニールさん達が……」

 「“小僧……自らの意志でここへ来ておいて一体どういうつもりだ……。先程から訳の分からないことをグダグダとわめきおって……”」

 「……っ!、な、なんだぁっ!、今の声はっ!。さっきまでのデビにゃんとは違う声がまたどこからか響き渡って来たぞぉっ!」


 自身がこの空間に閉じ込まれている間にも拷問紳士達との死闘を繰り広げているであろうナミやサニール達のことを心配するナギだったが、そんな時突如として先程までのデビにゃんの声とは違うまた別の……悍ましささえ感じさせるような酷く重低音の何者かの声がナギのいる空間に響き渡って来た。意識の世界とはいえあくまでナギには外部から聞こえてくるように感じられ、デビにゃんの声の時のように頭の中に直接鳴り響くような感覚とはまた違うようだったが……。


 「で、でもデビにゃんの声じゃないなら今度は一体……」

 「“私はこのタルタロスとも呼ばれる奈落ならくの世界を管轄するものだ。そしてこの奈落はこの世界において不要となった生命体を廃棄する場所……。役割を失った生命体はこの奈落の闇と一体となり完全な無へと還るだ。まさか自らの意志でここへ訪れる者がいようとは思ってもみなかったが……ここへ来た以上はお前もこの奈落と一体となり無へと還ってもらう”」

 「な、なんだってぇぇぇーーーっ!」


 なんとその響き渡って来た声はこの漆黒に包まれた空間……、ナギが習得しようとしていたタルタロス・チェーンの魔法の名にもその呼び名の含まれていた“タルタロス”、または奈落と呼ばれる場所を管轄するもののようで、ナギにその奈落の世界と一体となり無へと還るよう要求してきた。確かに神話や伝承においてタルタロスや奈落は罪人の魂のいきつく地獄等と同じ場所のことを言い、その神話や伝承の内容によっては生前の罪に対する責苦を味わった挙句最終的に魂自体を消滅させられてしまうというものもある。もしナギが本当にその奈落や地獄などと呼ばれる場所に来ているのならばその声の主が今のような要求をするのも頷けるが、そもそもナギからしてみればそんな死後の世界のようなものが実在するかどうか自体確証がなく、とても自身がそのような場所に来ている等と信じられるはずもなかった。そして当然その声の主の要求になど従うわけにもいかず、ナギはここに来た理由などを説明し必死に反論を行おうとした。


 「ちょ……ちょっと待ってっ!。まだ本当にそんな地獄みたいな場所に来たのどうかさえ信じられないんだけど……、とにかくこの場所に来ちゃったのにはちゃんと理由があって別に無に還りたかったからじゃないんだっ!。実はタルタロス・チェーンっていう魔法を習得しようとその魔術書を必死になって見てたんだけどそしたら急に本のページが真っ暗になって気付いたらこの場所に……。もう魔法の習得はいいからとにかく今は逸早く元いた場所に戻りたいんだけどどうにかならないかなっ!」

 「“タルタロス・チェーンだと……なる程、そういうことか”」


 ナギはこの奈落に来る原因になったと思われるタルタロス・チェーンの魔術書のことを話し、懸命な思いで無に還るのではなく元の場所に帰れるようその声の主に懇願した。それを声の主であるが、どうやらタルタロス・チェーンについて知っているような反応を見せ、ナギの説明にも合点がいったようだったが、果たしてナギの願いを聞き入れここから元の場所へと帰してくれるのだろうか。


 「“どうやらお前はあの“無”と“全”の世界の連中が作り上げた下らんゲームとかいうものの世界からやって来たようだな。……っということはお前はあいつらがそのゲームで存在価値を試そうとしている人間という存在か”」

 「えっ……た、確かに僕は人間だけど“無”と“全”の世界の連中ってどういう意味……?。ここも“finding of a nation”の世界の中なんじゃないのっ!」

 「“確かにこの奈落のある“冥”の世界もお前のいたゲームの世界の一部ではある。しかし私や“冥”の世界の連中は手を貸してやってるだけで直接奴等のその“finding of a nation”とやらの創造には関わってはいない。そもそも“無”と“全”の世界のほとんどの連中はこの“冥”の世界の存在すら知らないだろうし、そのゲームに限らず基本的に我らは他の世界の連中があれこれとしていることに関知することはない。ただこの世界で不要物となったもの共を淡々と処理し続けているだけだ”」

 「(な、なんかさっきからおっかないことばかり言ってるなぁ……。でも“冥”の世界っていえば前にリアがそれと一体になった三千世界がどうちゃらって言ってたような……。それに“無”と“全”と“冥”って“finding of a nation”の魂質、タイプ、属性のそれぞれの最上位に位置するものとまるっきり同じじゃないか。やっぱりこのゲームを作った人……っていうか生命体達の住んでる世界の名前が元になったってことなのかな)」

 

 関知はしていないと言ってはいるが、どうやらこの声の主も今ナギのいるこの“冥”の世界とやらも一応は“finding of a nation”のゲームの世界と繋がってはいるらしい。姿さえ見えず声のみの存在だが自身や“finding of a nation”のことを知る者と出会えてナギは少しは落ち着きを取り戻してきたようだ。声の主の言っていた“無”と“全”と“冥”の世界のことが気になっていたようだが、それよりも今はここから脱出しナミ達のいる元の世界に戻ることを優先せねばならなかった。


 「……って今はそんなこと気にしてる場合じゃなかったや。とにかくここを管轄してるっていうあなたなら僕を元の場所に戻すことも可能なはずだよね。勝手に来ちゃっといて悪いんだけどできるなら早く僕を元いた場所に戻してくれないかな。今その“finding of a nation”のゲームの世界で僕の仲間が大変な目に合ってて助けに行かないといけなんだっ!」

 「“……駄目だ”」

 「……っ!、ど、どうして……っ!」

 「“先程お前はタルタロス・チェーンの魔法を習得しようとしたと話ていたが……、ここに来たということはそれは失敗に終わったということだな。あの程度の魔法も習得できないような弱者を生かしておく価値はない。残念だがやはりお前にはここで奈落と一体となり無へと還って貰おう”」

 「そ、そんな……っ!」


 必死に元の場所に戻してもらえるように声の主に対して懇願するナギだったが、その返って来た答えはこの場に残されることよりも残酷なものであった。やはりこの奈落を管轄するものとしての役目を優先してナギの存在自体を無へと還してしまうつもりのようだが、ナギ達にとって無に還るとは“死ぬ”ことと同義と考えてよいのだろうか。


 「な、なんで魔法の一つを習得出来なかっただけでそんな目に合されなきゃいけないんだっ!。よく分かんないけど無に還るって僕に死ねって言ってるのと同じことだよねっ!。それともさっきから話に出てる“無”の世界っていうのと何か関係あるのっ!。……ってそんなことどうでもいいからそんな物騒なこと言ってないで早く僕を元の世界に帰してよっ!」

 「“別に関係はない。そして無に還るとはお前の生命体自身としての存在がこの世界から消滅することを意味する。まぁ、今お前が言った通りお前達の世界で言う“死ぬ”ことと同じ考えて貰って構わない”」

 「くっ……!」

 「“それにタルタロス・チェーンの魔法が習得できなかった以上元の場所に戻ってもお前達はあの拷問紳士とかいう奴に倒されてしまうだけだろう”」

 「……っ!」

 「“そうなればお前の所属するヴァルハラ国がそのゲームに勝利する可能性はない。どの道お前達の国の敗北によって全ての人類が淘汰されるというならば逸早くここでお前だけでも葬っておいてやるのが“冥”の世界を統べるものとしてのせめてもの慈悲というものだろう”」

 「さ、さっきはゲームには何も関知してないって言ってのにどうして僕達が今戦ってる相手のことを……。それにその口振りだと僕とナミがデビにゃんから聞かされたことも知っているみたいだし……」

 

 当然ナギにとって“死”と同義である存在自体を無へと還すという要求になどに従うわけにはいかず、ナギは声を荒げて反論し必死に声の主に対して食い下がっていった。しかしその話の最中突如として声の主の口からナギ達が先程で戦っていた拷問紳士の名、そしてナギとナミのみがデビにゃんから聞かされたはずの人類への試練の内容を匂わせる言葉が飛び出してきた。先程“finding of a nation”のゲームにはまるで関知していないと言っていたはずなのにどういうことなのだろうか。ナギは慌ててそのことを声の主に問い質していたのだが……。


 「“仮にも私はこの“冥”の世界を統べる王なのだぞ。貴様等のような有象無象の生命体が力を試されているというゲームのことなど知ろうと思えば何もせずとも全て読み取ることができる」

 「そ、そうなの……っ!」

 「“関知していないというより興味がないという言った方が正しかったかもしれんがな。それによるとどうやらお前の仲間等はあの拷問紳士とかいう奴に今にも全滅させられてしまいそうではないか。これではいくら貴様が援軍に戻ったところで戦局を覆せるとはとても思えぬ。大人しく諦めてここで無へと還れ。心配せずともお前がやられ試練が失敗に終わったとなればすぐに他の人間の仲間共もここに来てその生命の終焉を迎えることとなるだろう”」

 「そ、そんなのやってみたいと分かんないじゃないかっ!。別にここであいつに負けたからってヴァルハラ国の敗北が決まるわけじゃないし……。興味がなかったんなら今更になって余計な口出ししないで最後までゲームをやらせてよっ!」

 「“ふふっ、やってみずとも結果が分かるからこそこの世界の統治を任されているのだがな。……まぁいい、確かにあのゲームの進行に対して私は何も関与しないとの約束だ。特にこの世界に害があるような生命体ではなさそうだしお前の要求通り元の場所に帰してやろう”」

 「ほ、本当……っ!」

 「“ああ、但し元の世界へと帰す条件としてお前にはこの場でタルタロス・チェーンの魔法を習得して行って貰う。もしお前の仲間が全滅する前に習得できなければやはりお前には生命体としての終焉を迎えてもらおう”」

 「な、なんだって……。ど、どうしてそんな条件を……」

 「“折角ここから帰してやってもその先で無様な敗北をされてはこの“冥”の世界を統べる王としての私の面目がなくなってしまう。そうなれば事前の約束など関係なしに私は他の世界の連中から何故貴様を生かして帰したのかと非難を浴びてしまうからな。……っというわけでこちらとしてこれ以上譲歩する気はないが……どうする、小僧”」

 「くっ……」


 どうにか元の世界に戻ろうと粘り強く交渉を続けるナギに対し声の主はその条件としてタルタロス・チェーンの魔法を習得を提示してきた。魔法の習得自体はナギの当初の目的であり、ナミ達の元に戻った後拷問紳士を打倒す為にも必要なことではあるのだが、もし習得に失敗すればやはりナギにはこの場で無へと還ることになる。そしてこれ以上声の主も譲歩する気配はなく、ナギにはこの条件を受け入れる他選択の余地がなさそうだったが……。


 「で、でも僕は元々タルタロス・チェーンの魔法の習得に失敗してここへ来ちゃったんだよ……。もう手元にはあの魔術書もなくなってるしどうやって習得したらいいか……」

 「“その程度の物なら私がこの場に用意してやる。それに魔法を習得する為の助言もしてやろう。それよりも早く決断しないとお前が魔法を習得する前に仲間達が全滅してしまうことになるぞ”」

 「……っ!。わ、分かったっ!、やるよっ!、やるから早くタルタロス・チェーンの魔術書を出してっ!」

 「“ふっ、どうやら腹は決まったようだな。今その手に魔術書を出してやるから少し待て……”


 “パアァァ〜〜ン”


 やはりナギは声の主の出した条件を受け入れるしかなく、何か魔法ようなもので再び出現したタルタロス・チェーンの魔術書をその手に受け取った。急いでその魔術書のページを開き魔法を習得しようとするナギであったが、そのページに書かれているはずの内容はまた白紙へと戻ってしまっていた。慌てたナギは先程声の主の言ってた助言とやらを今すぐにでも求めようとするのだった。


 「だ、駄目だ……やっぱりまたページが白紙に戻っちゃってるよ……。このままじゃあとても魔法の習得なんて……早くさっき言った助言っていうのを教えてっ!」

 「“ふっ……どうやら大分焦っているようだな。……いいだろう、ならばまずはお前が最初に魔法を習得しようとした時のことを話してみろ”」

 「わ、分かったよ……。えーっと……確かデビにゃんに皆を思い遣る心を思い出すように言われて……」

 「“ふっ……ふはははははっ!”」

 「……っ!。な、なんだよ……助言するとか言っときながら急に大笑いして……」

 「“お前があまりにも下らんことを言い出すから呆れてしまっただけだ。だがなる程……皆を思い遣る心とは如何にも“無”や“全”の世界の連中が言い出しそうなことではある。しかしそのようなものでは決してこの“冥”の世界の魔法を使いこなすことなどできぬ”」

 「そ、それが分かってるから助言を求めたんじゃないかっ!。それに一緒にゲームをプレイする皆のことを思い遣る心のどこか下らないって言うんだっ!。自慢じゃないけどその心のおかげでこの前は自分でも信じられないくらい凄い力が発揮できたんだからねっ!」


 ナギがタルタロス・チェーンの魔法を習得しようとした時の経緯を聞いて声の主はナギのことを馬鹿にするように突然高笑いを上げ始めた。現実でもゲームの世界においても周りを思い遣った行動を取ることを信条に生きて来たナギだが、それを馬鹿にされたことが相当悔しかったのか柄にもなく声を荒げ、自慢気にアイアンメイル・バッファローを倒した時の話を持ち出し声の主に対して必死に反論を試みようとしていた。


 「“それはその時貴様の力を発揮するのに必要だったのが“無”や“全”の連中のものだっただけだ。……ではお前に一つ聞くが小僧、その時お前が念じた皆を思い遣る心とは一体どのような内容のものだ”」

 「えっ……そ、それは勿論“いつも一緒にゲームをプレイしてくれてありがとう”……とか、“勝敗の結果に関わらず正々堂々戦おう”……とか、それから味方だけじゃなくて敵に対しても“おかげで楽しくゲームを遊ばせてくれてありがとう”……とか、とにかく感謝やお礼、励ましの言葉、あとゲームを遊ばせて貰ってる身としての至らぬ点の謝罪とか色んなことだよ」

 「“ふっ……なる程。お前達人間程度の存在の観点ではまぁ、その程度だろうな。だがこの“冥”の世界の王であるこの私……他の住民からしてみればまるで自分達のことを思い遣られているようには感じぬ。むしろ侮辱や軽蔑を受けているようだ”」」

 「えっ……ど、どうして……っ!。皆に感謝やお礼の言うことのどこが侮辱や軽蔑に聞こえるっていうの……」

 「“ではお前は先程私が我々がこの“冥”の世界で行ってると言ったことに対して一体どのような感情を抱いている。不要となった生命体を処分するという行為に対しても感謝やお礼の言葉を思い浮かべていたのか”」

 「うっ……!、そ、それは……」

 「“どうせ“残酷だ”とか“処分される生命体が可哀想だ”とか我々の行為に対して良くない感情しか思い浮かべてなかっただろう”」

 「そ、それは確かにその通りだけど……」


 声の主に図星を指されたのかナギは急に口を噤み始めてしまった。他人を思い遣ると散々口にしておきながら目の前の存在に対してまるでその心を持てていなかったことに気付いたのが余程ショックだったようだ。


 「“所詮貴様等人間程度の存在の感性では我等“冥”の世界の住民に敬意を払うことなど不可能なのだ。お前のように他者を乏しめる行為に対して酷い嫌悪感を抱くのは自身の存在を善であると肯定したいが為に過ぎない。しかしあまりにも自身を強く肯定し過ぎることは他の存在を否定することなる。処分されるべき生命体に同情するような感情を抱くことはその生命体がこれまでに営んできた生命の活動を最も冒涜する行いであることに他ならないのだ”」

 「い、言ってることが難しすぎてよく分かんないよ……。それじゃあ結局のところ僕にはタルタロス・チェーンの習得は不可能ってこと……」

 「“いや……そうは言ったがお前の“無”……特に“全”の世界への忠誠心は見事なものだ。だからこそお前が先程言っていたように以前にそのような凄まじい力を発揮することができたのだろう。……お前ならばもう少し私が助言してやればその魔法を習得することも可能かもしれないぞ”」

 「ほ、本当……っ!、なら早くその助言の続きを教えてよっ!」

 「“そう急くな……。今話してやるからゆっくりと心を落ち着かせてから聞け”」

 「う、うん……」


 自身の至らなさにタルタロス・チェーンの習得を諦めてしまおうとするナギであったが、意外なことに声の主はそんなナギを否定し、魔法を習得を激励するような内容の声を掛けて来た。再びタルタロス・チェーンの習得への希望を取り戻したナギは真剣な態度で声の主の言葉へと耳を傾けるのだったが……。


 「“いいか……まずさっきも言ったがお前達人間の観点でいくら思い遣りの心を持ったところで到底我々の心に響くことはない。我々に対して感謝やお礼を伝えようと思うならまずはお前達の観点で“善”であると思えることを肯定し、“悪”あると思うことを否定する心を捨て去ることだ。……そして我等“冥”の世界に対しその服従心を示すのに最も必要なのは……“畏怖いふ”だ”」

 「い、畏怖……つまりはこの世界の人々に恐怖を感じろってこと……」

 「“ただ恐怖を感じるのではない……おそうやまうのだ。自分達の存在が決して絶対的なものではなく、いつでも我々の手によって無へと還されるものであると自覚し、いつかその時が訪れるであろうことを常に覚悟して生きていくのだ”」

 「な……なんか脅迫されてるように感じるな……。でもそれをただ恐れてるだけじゃ駄目ってこと……?。恐怖で支配することによって僕達が傲慢になって悪さをしたりしないよう日々戒めてくれてるように感じればいいってことなのかな」

 「“まぁ、そんな感じだ……。中々察しがいいではないか、小僧”」

 「そりゃよく考えれば奈落とか地獄って僕達にとって元々そういう場所だもん。漠然と“恐い”とか“行きたくない”とか……、“死んだら地獄より天国に行きたい”とかそういう風に感じてる人の方が多いかもしれないけど……、僕はむしろ天国より地獄の存在の方が有難いと感じることがあるんだ」

 「“ほぅ……それはどうしてだ……?”」


 意外にも地獄を肯定するな発言をするナギを疑問に思い声の主はその真意を問い質した。確かに地獄も神話や宗教において重大な役目を果たしている場所だがそれを有難いと発言する者も珍しい。


 「だって生前に罪を犯した人達の為に地獄があるわけでしょ。だったらどう考えたって死んだ後地獄に行かないといけない可能性の方が断然高いじゃないか。勿論僕は現実の世界で一度も法に触れるようなことをしたこともないし、皆から非難を浴びるような道徳やモラルに反する行いもしたことはないけど……だからって本当に何も罰せられるようなことをしてないかっていうと多分そうじゃないだろうからね……。無意識に他人を傷つけてることだってあるだろうし……、何よりさっきも言われたけど自分は善人だって思ってるのは全部僕達人間の価値観においてじゃないか。死んだ後僕達を裁くのは人間じゃなくて閻魔様なんだから、そんな凄い神様の価値観からしてみればきっと僕達人間なんて罪人つみびとだらけだよ。“人口の増えすぎ”とか“環境破壊”とか……僕も現実の世界で牧場で働いてるんだけどやっぱり“家畜飼育”に関する様々な問題だって耳にするし……、“善人”か“悪人”かなんて関係なく人間という存在自体が間違ったことを一杯しちゃってるし……一応僕は人間の中では“善人”な方だとは我ながら自負してはいるんだけど……」

 「“………”」

 「それにもし天国に行けたとしてもその後また罪を犯さないとは限らないからね。そもそも天国と地獄に行く人間の割合が1・9とかかもしれないしやっぱり天国よりも地獄の方が大事だよ」


 どうやらナギは自分は天国に行けるとはあまり信じておらず、地獄に行く可能性の方が高いと思っているようだ。ナミや他の人間達からしてみればナギは十分に天国へと行ける資格があるように見えるはずだが……。しかし自身が生きているの間に少しでも罪を犯していると考えるならば確かに地獄があった方がいいと考えるのも頷けるかもしれない。この“finding of a nation”の世界でもナギは“地”の魂質に設定されているが、その慎重な性格故の考え方なのだろう。逆にナミやセイナの性格ならば自身が地獄へと行くなどとは1ミリも考えないはずだ。


 「“ふっ……ふはははははっ!、天国より地獄の方が大事とは中々面白いことを言うではないか、小僧っ!。……いいだろう、今のお前の言葉でこの“冥”の世界への服従心はしっかりと見て取れた。すでに私の力でタルタロス・チェーンの魔法とやらも貴様に習得させてやったからとっとと元の世界へと戻ってあの拷問紳士とかいう奴を打倒してこい”」

 「ほ、本当……っ!」

 「“ああ……久々にお前のような奴と話せて楽しかった。その礼として一応は私もお前達があのゲームの試練とやらを乗り来られるようこの“冥”の世界から影ながら見守っておいてやる。……ではさらばだ」

 「えっ……さ、さらばって……」


 “パアァァ〜〜ン……”


 そんなナギの返答に満足が行ったのが、声の主は嬉しそうに高笑いを上げ始めたと思うと突如としてナギにタルタロス・チェーンの魔法を授けたと言い放ち、別れの言葉と共にナギをこの世界から見送ろうとした。突然の出来事に戸惑うナギだったが、声の主に問い質す前に段々とこの世界から意識が薄れていき、その存在していた体と共に完全にその場から消え去ってしまった。声の主の発言の仕方から考えるにまさかこの世界と一体となり無へと還ってしまったということはないと思うのだが……。


 「“ふふっ、やはりこの私と同様に“全”の世界を束ねる奴が注目しているだけあって中々面白い素質を持った小僧であった。……だがな、小僧。あの程度の魔法ならば容易く習得することはできてもやはりお前では“冥”の力を完全に引き出すことはできん。そしてお前達人間がそのゲームの試練に打ち勝つには必ずその“冥”の力が必要となってくる。その時まで自身の与えられた使命である“全”の力を使いこなし……この“冥”、そして残りの“無”の力を使いこなす者を見つけ出すことができるか……”」


 最後に意味深な言葉を言い残すと共に声の主もナギと同様この場から完全にその気配を消した。そしてこの奈落と呼ばれる空間にはナギも声も主でさえも……まさに全てが無へと還ってしまったかのような静寂包まれた漆黒の光景がどこまでも広がっていた。実際には二人が無へと還ったようなことはなく、ナギは無事ナミ達……そして最早宿敵であるという拷問紳士がいるあの地下の拷問部屋と戻れているものと信じたいが……。




 「今度こそ終わりでーす、サニール。もうあなたの援護に駆け付ける者達は誰もいませーん」

 「くっ……」

 

 一方ナギの意識が奈落へと取り込まれている頃、実際のゲームの世界では皆の援護を失ったサニールに対し止めを刺そうと拷問紳士……そしてスクウェラとサディが逃げ場を塞ぐように三方から迫ろうとしている最中だった。完全に追い詰められたこの状況でもサニールはその弱った体で必死に剣を構え最後まで抵抗を試みようとしていたが、内心ではもうこの3人を相手に勝ち目がないということを悟っていた。それでも最後まで諦めない姿勢を貫き通すのはホーリースピリット家の当主としての誇りと尊厳の為だろうか。そしてそんなサニールと倒されていったデビにゃん達の様子を後ろで見ていたナミとエドワナはというと……。


 「くっ……やっぱりもう私達が行くしかないわよ、エドワナさんっ!」

 「分かりました……ですがさっき言った通りナミさんはなるべく後ろに下がってヘブンズ・サン・ピアーの魔法を当てることに集中して下さいね」

 「了解……それじゃあ行くわ……」


 “ビュオォォォーーーンっ!”


 「……っ!、な、何……っ!」


 迫り来る拷問紳士達からサニールを守るべく援護に向かおうとするナミとエドワナであったが、そんな時その突如としてその向こう側……、拷問紳士達の背後の更に奥の方が凄まじい突風がこちらに向けて吹き荒れて来た。その風に吹かれ髪を靡かされるナミ達が同じくそれに反応し後ろを振り向こうとする拷問紳士達との風の吹き抜いて来た方を見渡すと……、そこにはなんと先程拷問紳士の蹴りによって本棚に激突するまで吹き飛ばされたはずナギが勇ましく立ち上がった姿があったのだった。

 

 「な、何ですかこの風は……っ!、ナ、ナギ君……っ!」

 「あ、あれは間違いなくナギだわ……もうさっきのダメージから立ち上がることができたの……っ!。けどナギから吹き荒れてくるこの風は一体……」


 蹴り飛ばされた先の壁の際に立つナギだが、どういうわけか風のように渦巻く黒いオーラのようなものをその身に纏っており、ナミ達の元に吹き荒れて来る風もその渦巻くオーラから湧き出ているようだった。突然のナギの身に起こった変化とその周りの現象にナミ達も敵である拷問紳士達も驚きを隠せず、一気にその注意をナギへと釘付けにされてしまった。絶体絶命の危機にまで追い詰められていたナミやサニール達にとっては幸いなことだろうが、そんなことを気にしている余裕もないくらいナギから溢れ出るオーラは凄まじいものであった。


 「す、凄い……これはまたあのアイアンメイル・バッファローと戦った時のようにナギから物凄い力が溢れ出ているのを感じるわ……。だけどなんだか今までのナギじゃなくなっちゃたみたい……。前の時もその凄い力を目の前にして圧倒されこそしたこんな重苦しい雰囲気や……ましてや恐怖なんて感じるようなことはなかったのに……」

 

 “ゴゴゴゴゴゴォッ……”


 「……っ!、まさかさっきのリリスさんのようにナギもその力を制御できずに暴走しちゃってるんじゃ……。だったらまた早く元に戻さないと現実世界のナギの命にまで危機が……」

 「いえ……恐らくは大丈夫よ、ナミさん。確かに私もナギ君からは禍々しい程の力を感じるけど決してその力をコントロールしきれていないわけじゃない。むしろ完璧に使いこなしているようよ。……ナミさんが今言ったように感じたのは恐らく今ナギ君の体から溢れ出している力の元々の性質のせいだと思うわ」

 「も、元々の性質って……それじゃあやっぱり今ナギから溢れ出している力はこの前の黄金のオーラを纏った時のものとはまるで違うってことじゃない……っ!。制御できてるって言っても私達が恐怖を感じるような力を使って本当にナギは大丈夫なの……っ!」

 「……そう強く言われると私も断言はできないわ。だけど、例え恐怖を感じるような力を身に纏っていようとこのゲームに懸けるナギ君の闘志はこれまでとまるで変わってないのは確かよ。急にこれまでの違うナギ君の姿を見て心配する気持ちは分かるけど……ナギ君がその力を使ってトーチャーの奴を打倒そうとしていることはナミさんにも分かっているはずじゃなぁい」

 「そ、それは勿論分かってはいるけど……」

 「だったらそのナギ君の思いに応える為にも今はナミさんもトーチャーの奴を倒すことに集中してっ!。どんな攻撃を仕掛けてくるつもりか分からないけどあのナギ君の力ならきっとあなたがヘブンズ・サン・ピアーの魔法を使うチャンスも作り出してくれるはずよっ!」

 「エドワナさん……分かったわっ!」


 ナギの身に起きた変化……そしてその身から溢れ出る恐怖さえ感じてしまうような禍々しい力を前にしてナギの身の心配をせざるを得ないナミであったが、エドワナの言葉を聞いて例えどのような力を纏おうとナギの本質は何一つ変わっていないことに気付いたナミはそのナギと共に何としても拷問紳士を打倒すことを決心した。そしていつでもナギの攻撃に連携して自身もヘブンズ・サン・ピアーの魔法を撃ち放つべくその手に魔術札を構えるのだった。


 「(くっ……何かは分かりませんがあのナギ君から感じられる力はとてつもなく危険でーす……。これは最早目の前のサニールのことなど気にしてる場合ではありませーん)」

 「い、一体何なの……あの少年から溢れ出しているこの禍々しい力は……。プラズマショックの審問官になる為の試練で様々な責苦に耐え抜いて来た私達をこれほどまでに恐怖させるなんて……お姉様っ!」

 「私にも分からないわ……サディ。ただその凄まじい力が我らに向かって撃ち放たれようとしていることだけは確かよ……」

 「そ、そんな……」

 「何をグズグズしているのです、二人共っ!。そんなことを言ってる暇があったら早くナギ君のあの力を止めにいくのですっ!。もうサニールのことなど放っておいて構いませーんっ!」

 「は、はい……っ!」


 拷問紳士に命じられてスクウェラとサディはその凄まじい力を前に戸惑いながらもナギに攻撃を仕掛けるべく向かって行った。最早サニールに止めを刺すことなど忘れてしまうくらい拷問紳士はナギから溢れ出る力を警戒しているようだったが、果たして今から向かって行ったところでこれからその力により撃ち放たれて来るであろう攻撃を止めることなのできるのだろうか。


 「(い、一体これはどうなってるのにゃ……。突然ナギが僕の声に何も反応しなくなってどうしたと思った矢先……。今度はいきなりそこから起き上がってこの凄まじい力を放ち始めちゃったのにゃ……。これなら拷問紳士を倒すことも可能かもしれないけどナギは大丈夫なのかにゃ)」

 「火に我が肉体を差し出し……水へとけがれを吐き出す……雷により我が魂の意識は目覚めさせられ……土に埋もれ純潔を還し……氷となりて時が過ぎるのを待つ……いつしか風に運ばれ故郷へと帰り……光に(すが)縋り……闇を恐れる……そして我が魂は冥へと平伏する……っ!。我が服従の意志を受け入れ……冥界よっ!、我に力を貸し反逆の意志を持つ者を打ち捕えよっ!。……タルタロス・チェーンっ!」

 

 “ババババババッ!”


 「な、何……っ!」


 謎のデビにゃんの声もこのナギに身に起きた予想外の事態に困惑していたようだが、そんな時突如としてナギが何かの呪文のようなものを唱え始めた。その呪文はどうやら“finding of a nation”に設定されている9つの属性に関しているもののようだったが、その呪文が唱え終わると同時になんとナギは先程まで習得不可能であったタルタロス・チェーンの魔法を発動させた。するとナギの周りに左右に二つずつ……合計四つの円形の穴のようなエフェクトが出現した。それはまるで空間の裂け目のようでその穴の先は完全な闇……まさに先程までナギの意識がいた奈落へと繋がっているようだったが、その次の瞬間その4つの穴のエフェクトそれぞれから巨大な鎖が出現し一直線に拷問紳士へと向かって行った。ナギの元へと向かう途中でその鎖が真横を通り過ぎって行ったスクウェラとサディは慌ててその鎖の向かう先を追って拷問紳士のいる方を振り返ったのだが……。


 「ご、拷問様ぁぁ……っ!」

 「お、おおぉーーっ!、これはまさにタルタロス・チェーンの魔法でーすっ!。どうしてナギ君がこのような凄い魔……っ!」


 “ババババババッ!”


 「お、おおぉぉぉーーーっ!」


 いきなり自分の元へと向かって来たタルタロス・チェーンの魔法の鎖に驚く拷問紳士だったが、そんな暇も許さないとばかりにタルタロス・チェーンの鎖はあっという間に拷問紳士の元へと辿り着き、4つの鎖がそれぞれ拷問紳士の四肢ししに纏わりつきその体を捕えられてしまった。そしてその鎖を収納していくようにその鎖の出現した4つの穴もそれぞれ拷問紳士の元へと近づいていき、更には拷問紳士の左右に収まった鎖の先が来るように移動し、拷問紳士の体をまるで空中にはりつけにでもするように大の字を描かせ完全に動きを封じてしまった。そして拷問紳士はその捕えられた4つの鎖によって今にも四肢が裂けてしまいそうになる程の強い力で引っ張られ、その激痛に耐え切れずこの戦いで初めて本気の悲鳴を上げてしまっていた。


 「ぐっ……ぐおぉぉぉーーーーっ!。こ、これはこれまで自身に対しても数々の拷問の痛みを与え続けて来たこの私でも耐え切れない程の激痛でーすっ!。拷問のプロである私が逆にこのような無様な姿で磔にされた挙句痛みで悲鳴を上げてしまうとは……、しかしどうしていきなりナギ君がこのような“冥”の属性を持つ強力な魔法を……っ!」

 「………」

 「あ、あれはまさか何かの魔法の記された魔術書……っ!。確かにあのナギ君の側に倒れている本棚にはタルタロス・チェーンの魔術書をしまっておいた記憶もありますが……まさか現在のレベルとステータスでこの短時間の内にあの魔術書の内容を紐解いたというのですかっ!」

 「……はあっ!」


 “ゴゴゴゴゴゴォッ……”


 「……っ!、な、何ですか……今度は……っ!」


 ナギがそのタルタロス・チェーンの鎖に何かを命ずるような仕草を取ると、今度は今の拷問紳士を空中に磔にした状態を維持したまま拷問紳士の体を反対側へと向けるよう回転させ始めた。その鎖が移動する最中、宙に浮いた状態であるにも関わらず巨大な石柱が地面を擦る地響きのような重苦しい音が鳴り響いてたが、まるでこの拷問部屋全体が地獄へと送られた罪人を幽閉する為の監獄のように感じられた。そして体の向きを変えられた拷問紳士は今度はナギに対して背中を、先程まで自分達があと少しで止めを刺せるというところまで追い込んでいたサニール、そしてその奥にいるナミ達へとその正面を向かされてしまった。その移動させられる速度は大変ゆっくりとしたものであったのだが、身動きの取れないの状態ままの拷問紳士にはジェットコースター等より余程恐い地獄のアトラクションにでも乗せられているかのように感じられていた。


 「今だ……っ!、ナミィィーーっ!」

 「えっ……」

 「……っ!、ナミさんっ!、今の内にヘブンズ・サン・ピアーの魔法をっ!」

 「そ、そうだったわ……っ!、でもまさかナギの奴私がその魔法を使おうとしていたことを知って……って今はそんなこと気にしている場合じゃないわ。……いくわよっ!、私の豪運で手に入れた最高ランクの魔法っ!。……てやぁぁぁぁっ!、ヘブンズっ!、サン・ピアァァーーッ!、いっけぇぇぇーーーっ!」


 拷問紳士の体の向きを反転させると共にナギは大声で叫んでナミへと合図を送った。ナギのあまりに凄まじい力の光景に一瞬何の合図か分からずに戸惑ってしまうナミであったが、エドワナが諭してくれたおかげですぐさまヘブンズ・サン・ピアーの魔法を使うチャンスであることに気付き、アイテムによる効果により発動する魔法の為特にナミの能力がその威力に影響することはないはずなのだが、ナミはずっと手に握っていたその魔術札を再度強く握りしめると共にありったけの思いを込め、ナギの放ったタルタロス・チェーンの鎖にに捕らわれている拷問紳士に向けて思いっ切りの力で投げ放った。もしかしたらそんなナミの思いに反応し少しでも

ヘブンズ・サン・ピアーの魔法の効果が高まってくれるかもしれないと信じて……。そしてそんなナミの思いの込められたヘブンズ・サン・ピアーの魔術札は拷問紳士の元へと辿り着くとまるで自身の魔法の見せつけるかのようにその絵柄の面を前に相手の顔の目の前へと移動していき……。


 “バッ!”


 「……っ!、ナ、ナミさんの放って来たこれは何かの魔術札ですか……っ!。わざわざ何の魔法かを教えてくれるとは中々優し……っ!、こ、この魔法はまさかっ!」


 “パアァァァァーーンッ!”


 「うっ……うおぉぉぉぉーーーーっ!」

 「ご、拷問様ぁぁぁーーーっ!」


 わざわざ身動きの取れない拷問紳士に向けてその絵柄の面を晒すナミのヘブンズ・サン・ピアーの魔術札……。その直後突如として眩いばかりの光をその絵柄から放ち始め、目の前の拷問紳士を照らすと共にあっという間に周囲をその光の中へと包み込んでいった。そしてそれと同時にいよいよもってヘブンズ・サン・ピアーの魔法の効果も発動し、その周囲を包み込んだ光は一瞬にしてまるで全てを貫き通すような勢いで天へ登って行った。その後地上には暫くの間その光の名残であるかのような巨大な美しい光の柱が煌めく粒子をその身に纏い圧巻の光景を作り出し凛々しく立ちずさんでいた。その場にいた者達はこれがナミの放った攻撃魔法であることも忘れただジッとその光の柱の光景に魅入ってしまっていたのだが、その名残の光にもダメージの判定はあるようで拷問紳士は皆がその美しさが堪能しているなか一人孤独にその魔法のダメージに耐え続けていた。……だがその美しさに魅了されずまだこの戦いへの集中力を切らしていない者がもう一人いたようで、その名残の光の柱が最後に消え去ると共にその者が拷問紳士の目の前に姿を現した。


 「はぁ……はぁ……ぐはぁっ!。い、今のはまさにヘブンズ・サン・ピアーの魔法……まさかそのような超が付くほどと言っていいくらい貴重な魔法の封じられた魔術札を持っていようとは……。し、しかし……これでもまだ私を倒せたわけでは……」

 「まだよ……」

 「……っ!」


 なんとかヘブンズ・サン・ピアーの魔法を耐えながらも満身創痍の状態でその光の中から姿を現した拷問紳士……。だがホッとしたのも束の間、まだナギのタルタロス・チェーンに捕らわれた自身の目の前にここまで飛び上がって来たナミが姿を現した。そしてすでにその時のナミの右手の拳には凄まじいまでの力と火の魔力が込められており、身動きの取れない拷問紳士の腹部目掛けて最大限の力を振り絞ってバーン・レイ・ナックルの拳を叩き込むのだった。


 「さっきまでは散々そのひん曲がった顔をぶん殴ってやるって言ったけど……やっぱりこの状況だと土手っ腹の方に拳を叩き込んだ方が気持ちがスッキリしそうね。これでようやくこれまで散々私達のことを甚振ってくれた借りを返せそうだわ……」

 「くっ……」

 「てえぇぇーりゃあぁぁぁぁーーーーっ!」


 “ドゴォォォォーーーーンッ!”

挿絵(By みてみん)


 「ぐっ……ぐはあぁぁぁぁぁーーーーっ!」


 ヘブンズ・サン・ピアーの光の柱に続いて姿を現したナミ……拷問部屋の中心で繰り広げられる凄まじい光景の連続に皆が息を呑む中そのバーン・レイ・ナックルの拳が拷問紳士の腹部へと叩き込まれた。それと同時に拷問紳士の体はナギのタルタロス・チェーンの鎖をミシミシと言わせながら後ろへと大きく捻じ込まれ、その激痛で拷問紳士はこれまでにない程の激しい悲鳴を上げてしまっていた。そんな中ナミは更に自身の拳に力を込めバーン・レイ・ナックルの火の魔力も解放し、凄まじい炎熱の光線が拷問紳士の体……更にはその先にあるこの部屋の壁まで貫きどこまでも放たれていった。そのナミの凄まじい拳の衝撃は拷問紳士を捕えてるタルタロス・チェーンの鎖でさえも抑えきれない程のもので今にも砕けてしまうかのように亀裂を生じさせてしまっていたが……、果たしてこの一撃でその強大な力でナギ達を散々苦しめてきた拷問紳士さえも打ち砕くことができるのだろうか……。そしてナミは自身に残されたありったけの力を使い切るように最後の最後までその拳に力を込め続けていき……。



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