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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
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finding of a nation 117話

 「タ、タルタロス・チェーンだって……。一体この本がどうしたっていうの、デビにゃん。……その前にまだ君が本当にデビにゃんなのかどうかも分かってないんだけど……」

 「(僕が何者かなんてどうでもいいってこの前も言ったはずにゃ。それより早くその本の中身に目を通してみるんだにゃ。それは“タルタロス・チェーン”っていう冥界へと送られた罪人を拘束しておく為のとても強固に作られた鎖をこの世に呼び寄せ敵を捕らえる魔法の詳細が記された魔術書なのにゃ。そのタルタロス・チェーンに捕えてしまえばきっとあの拷問紳士も身動き一つ取れない状態にできるはずなのにゃ)」

 「ええっ!、でもそんな凄い魔法いくら魔術書があるとはいえ僕なんかに使いこなすことができるのっ!。確か必要なINTの値がないと本の内容すら視認することができないはずだよね」


 頭の中に響く謎のデビにゃんの声に促されナギが手に取った本はどうやらタルタロス・チェーンという強力な拘束の効果を秘めた魔法の記された魔導書のようだった。確かに魔術書を使用すれば自身の就いている職やレベルに関係なくその魔法を習得することができる。しかしナギの言う通り魔術書の魔法の習得にはその魔法のランクに応じたINTの値と本の内容を解読する為の高い集中力が必要となってくる。実際に本の内容を理解する必要はなく、必要なINTの値を自身のステータスが大きく上回っていればただ本を手に取ってアイテムとして使用するだけで修得することができるのだが、リアルキネステジーシステムを採用しているこのゲームにおいてはその魔法のランクと自身のINTの値を総合的に加味した習得難度によっては高い集中力を保持した状態である程度まで本の内容を読み取ることが必要となってくる。逆に言えばINTの値が低くとも魔術書を使用することによって一気に高ランクの魔法を修得できる可能性もあるということだが、必要なINTの値を大きく下回っている場合魔術書の中身の文章を視認することすらできず全てのページが白紙の状態で見えてしまうことになる。通常どれだけリアルキネステジーを駆使して集中力を高めたとしても、ページが白紙に見えている状態からその魔法を習得することはほぼ不可能であると言えるのだが……。


 「(今はそんなこと気にしてる場合じゃないのにゃっ!。グズグズしてるとナミやサニール達も拷問紳士にやられてその魔法で奴の動きを封じたとしても倒すことができなくなってしまうにゃっ!。修得できるかどうかは後にしてとにかく早く本を開いてみるんだにゃ、ナギっ!」

 「う、うん……」


 謎のデビにゃんの声に更に強く促されナギは恐る恐るそのタルタロス・チェーンの魔術書のページを開いていった。恐らくちゃんと自身の目にその本のページの文章が表示されているかどうか不安に感じていたのだろう。元々悲観的に考えていたとはいえいざ本を開いた先に白紙のページが延々と続いていればゲームの中の本でなくともショックを受けるものだ。そしてそんなナギの不安をあざ笑うようにタルタロス・チェーンの魔術書を開いたページには……。


 “………”


 「……っ!、駄目だ……思った通り中のページは全部白紙で何の文章も書かれていないよ……。やっぱり僕にこの魔法の習得は不可能ってことなんじゃないかな……」

 「(弱気になっちゃ駄目にゃ、ナギっ!。僕はこの前このゲームに不可能なことはないともいったはずにゃよっ!。その時のことをよ〜く思い出してもう一度意識を集中して本のページを見てみるのにゃ。あの時にナギが見せたこのゲームの世界の皆を思い遣る心を今もずっと抱き続けることができていたならきっとその魔法も使いこなすことができるはずにゃっ!)」

 「み、皆を思い遣る心……そうだね。ちゃんとその思いを失わずにこれまでゲームをプレイしてこれたかどうかは分からないけど……とにかくやってみるよ。例えどんな結果になろうとも最後まで諦めずにゲームをプレイすることが皆を思い遣る為の第一歩だからね」

 「(その意気にゃっ!、ナギっ!)」


 やはり今のナギのレベルでは必要なタルタロス・チェーンを修得する為に必要なINTの値をまるで満たしておらず、その魔術書のページは全て白紙でナギにはその内容を視認することすらできなかった。これでは到底タルタロス・チェーンを習得し、更にはそれを使いこなすまでに至るのはとても不可能なように思えたが、謎のデビにゃんの声に激励されたナギはそれでも諦めずにこのゲームに参加している皆への感謝の気持ちを思い浮かべながら必死に白紙のままのページをジッと目を凝らして見つめていた。しかし先程デビにゃんの言っていた通りすでに拷問紳士の手によってナミやサニール達は相当な窮地に立たされてしまっており、ナギに残された時間も極僅かなしかなかった。タルタロス・チェーンとヘブンズ・サン・ピアー、この窮地の中拷問紳士を倒す為の鍵をそれぞれ見つけ出したナギとナミだったが、それを知らずともサニールは最後まで希望を捨てることなくナギ達が逆転の手を見出してくれることを信じて懸命に剣を振るっていた。


 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「ぐおっ!。……やはりこのままではそう長くは持ち堪えきれんか」

 「安心しろっ!、サニールっ!。私の今私がお前のHPを回復させてやる」

 「……っ!、鷹狩殿っ!」

 「私もいますわよ。……はあっ!」


 拷問紳士を相手に劣勢の剣戟を繰り広げるしかないサニールであったが、その場に残された鷹狩と不仲がサポートに回ってくれた。鷹狩はサニールのHPを回復させる為の回復魔法の準備を、その隙に不仲は麻痺毒矢やで牽制の射撃を拷問紳士に向けて撃ち放った。不仲の射撃に対応する為拷問紳士は強い斬撃を放つとその衝撃でサニールが少し怯んだ隙に後ろへ下がり矢の射線上から外れた。不仲の矢は二人の間を割るのように通り過ぎ、少しではあるがサニールから拷問紳士を遠ざけることができたのだが……。


 「今だっ!、フレンドリー・ヒーリングッ!」


 “パアァァ〜〜ン”


 「お、おおぉ……っ!、これが獣癒術士である鷹狩殿の私への回復魔法か。仲間モンスターへの専用の魔法だけあって非常に心地よくHPも見る見る回復しているようだが……しかし……」

 

 鷹狩のサニールに対して放った回復魔法はフレンドリー・ヒーリング、自身の仲間モンスターに対して高い回復効果を持つ魔法だが、その一方で仲間モンスター以外の味方に対しては効果の範囲内にいようとそのHPは回復することはない。しかしサニールはそのフレンドリー・ヒーリングの効果で一気にHPを満タンの状態まで回復することはできたのだが、体に伝わる攻撃の衝撃までは取り除くことはできなかった上にそもそもHP自体にはそれ程のダメージは負ってはいなかった。実際には拷問紳士の凄まじい斬撃の猛攻を受け続けたサニールの両腕の痺れによるダメージの方が酷く、これではいくらHPを回復したところでもう拷問紳士を相手にまともに剣を交えることも不可能と思える状態だった。それを承知の上でのことか拷問紳士はサニールにHPを回復されたことになどまるで構う様子もなく、容赦なく再び手斧で斬撃を放ちながらサニールへと襲い掛かって来た。


 「はあぁーーっ!」


 “ガッ……キィーーーンッ!”


 「ぐっ……ぐおぉぉーーーーっ!」

 「ほほほっ!、いくらHPを回復したところでそのガタガタの体の状態では私の猛攻を防ぎ切ることはできませんよ。HP等一度攻撃を直撃させることができれば一気に削り切ることができるのですからね。さあっ!、もう諦めて観念なさって下さーい、サニールっ!」

 

 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「ぐぅっ!」

 「しまったっ!、優先すべきはHPではなくサニールの体自体に蓄積しているダメージを取り除くことだったかっ!。ならば……リカバリーッ!」


 “パアァァ〜〜ン”


 拷問紳士の斬撃を受けた手の痺れに苦しむサニールの様子を見た鷹狩は瞬時に判断を変え、HPではなく対象の肉体自体に蓄積しているダメージや疲労を取り除く“リカバリー”の魔法をサニールに対して発動させた。治癒術士の初期の魔法である為効果の程自体は薄いようだが、それでも多少はサニールの手の痺れや疲労を取り除くことができたようでその剣を握る手にまたグッと力が戻ってきた様子だった。そしてサニールはその取り戻した最後の力の全てを込めて再び拷問紳士を相手にその剣を交え……。


 「うおぉぉぉぉぉーーーっ!」


 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「……っ!。おおぉ……これはこれまでにないくらい凄まじい斬撃の猛襲でーす。まさかあの状況からまた押し返してこようとは思いもよりませんでした。ですがだからとってこの私を打倒せるとは思わないことでーすっ!。……はあっ!」

 

 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「ぐおっ!。……別に私のみの力で貴様を打倒そうとは思っておらんっ!。だがナギやナミ達が再び立ち上がるまでの時間は必ず持ち堪えて見せるっ!。彼はこのまま力尽きてしまう程やわなプレイヤーでは決してないのだからなっ!」

 「ほほっ、無論それはこの私も承知も上でーすっ!。あなたの言う通りナギ君達に秘められている潜在能力はこの私ですら推し測れるものではありませんからね。だからこそ早々にあなたを片付けて他の者達に止めを刺しこの私の勝利を確実なものにさせて貰いまーすっ!。……はあぁぁぁーーーっ!」


 “ガッ……キィーーーンッ!”


 「ぐっ……ぬうぉぉぉぉーーーっ!」


 鷹狩のリカバリーの魔法で力を取り戻したサニールはどうにか互角の戦いまで拷問紳士を押し返すことができた。だがそれでもまだ拷問紳士を圧倒するには遠く及ばず、ナギ達が倒れている内に早々にサニールに止めを刺そうと拷問紳士も手斧の握る手に更に力を込めて斬撃の猛攻を撃ち放って来た。サニールは再び押し切られそうになりながらもその猛攻もグッと耐え、更にもう一度押し返そうと懸命に剣を振るいどうにかナギ達が立ち上がるまでの時間を稼ごうとしたのだったが……。


 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「くっ……やはり如何にサニールさんといえどゲイルドリヴルさん方をああも簡単にあしらってしまった敵が相手では苦戦をいられざるを得ないようですわね。ここはもう一度私の弓矢による援護を……」

 「ふっ、そのような好き勝手なことをそう何度も我々がさせると思って……はあっ!」

 「……っ!、な、なんですって……っ!」


 “バチィーーーンッ!”


 「な、なんですの……あなた方は……」


 拷問紳士を相手に懸命に剣を振るうも中々優勢に立つことのできないサニールを様子を見て不仲は再び弓矢による射撃の援護を行うとしたのだが、その時何者かの響き渡る声と共に鞭をしならせ不仲に向かって強く撃ち放って来た。不仲は咄嗟に反応して足元を打ち叩いたその鞭を躱すことができたのだが、その声の主の方を振り向くとそこには少し前に拷問紳士がサモン・オブ・モーメントによってこの場に呼びせたプラズマショック教の審問官の姉妹、スクウェラとサディの姿があった。二人は霊神化したリリスによって連れて来られ、それが元に戻ると共に自我を取り戻したこの館の住民の霊達と戦っていたはずだが、この場に姿を現したということはやはり……。そして不仲へと鞭を振るったサディに続きスクウェラもサンダー・ボールという球体の形をした雷撃の魔法をサニールのサポートに付いている鷹狩に向かって撃ち放ってくるのだった。


 「……っ!。危ないっ!、鷹狩さんっ!」

 「……っ!」

 

 “ヴェニッ!”

 “バアァァァンッ!”

 “ヴェニィィーーッ!”


 スクウェラのサンダー・ボールが迫っているのを声を上げて鷹狩へと知らせた不仲だったが、サニールのサポートに意識のいっていた鷹狩はその声を聞きながらも反応が遅れてしまいこのままでは直撃を免れそうになかった。だがそのサンダー・ボールが鷹狩へと直撃する直前、鷹狩を庇って勢いよくヴェニルがその前に飛びだし、鷹狩に変わってサンダー・ボールの直撃を受けてしまった。全身を雷撃に焼き焦がされたヴェニルはそのまま空中で力尽き鷹狩の足元の地面へと落下していった。


 「ヴェニルっ!。……馬鹿なっ!、奴等は先程までリリスの連れて来た悪霊達と戦っていたはずだっ!。まさかこんなに早くこの場に来れるはずが……」

 「ふふっ、スピリット・ルーラーの支配から外れ、おまけに悪霊ですらなくなってしまった只の哀れな亡霊共などにいつまでもこの私達が手を煩わせていると思って。多少数を揃えたところであの程度の連中を片付けることなど私達にとっては造作もないこと……。今頃皆拷問様に歯向かったことを本当のあの世に行って後悔してるでしょう。生前の記憶など取り戻さずに悪霊のまま我等の手駒として働いていれもう少し長くこの世に留まることができたものを……」

 「くっ……」

 「余計な皮肉を言うのはそれくらいにしておきなさい、サディ。今私達の目の前にいるのは先程の霊達などとは比べ物にならない程の……それも拷問様のいるこの館の最深部まで辿り着く程の実力を持ったプレイヤー達なのよ。いつまでも油断した態度を取っていないで少しは気を引き締めなさい」

 「ふふっ、分かりましたわ、お姉様。では気を引き締め直して拷問様の邪魔するプレイヤー共をじっくりと痛めつけながらなぶり殺しにしてやりましょう」

 「はぁ……あなたという人は全く……まぁ、いいわ。なら私はあっちの魔物使いの女をやるからあなたはそっちの弓術士の相手をお願いね」

 「了解よ」

 「くっ……やはりこのままサニールの援護を続けさせてはくれないようだな……」


 “カァンッ!、……キイィーーーンッ!”


 「ぐっ……鷹狩殿……」

 「ほほっ、これは完全に万事休すというやつですね。前衛でない鷹狩さんと不仲さんではとてもあの二人には太刀打ちできませーん。そして援護を失ったあなたにも最早成す術がなく……」

 「くっ……」

 「ふふっ、このまま一気に終わりにして差し上げまーすっ!。……はあぁっ!」


 やはり住民の霊達はすでに倒されてしまったようで、鷹狩と不仲はスクウェラ達との戦いを余儀なくされ、サニールの援護を中断させざるを得なくなってしまった。不仲に対しては続いてサディの鞭が襲い掛かり、鷹狩に対してはスクウェラによって先程ヴェニルが撃ち落とされたような雷撃の魔法が次々と撃ち放たれ、前衛の職の経験がない鷹狩達ではまともに対抗することができずひたすらに敵の攻撃を躱し続けるしかなった。そして二人の援護を失ったサニールに対してもこれを機に一気に押し切ろうとする拷問紳士の激しい斬撃の猛襲が再び襲い掛かってくるのだった。


 「(あわわわわっ……このままじゃまずいにゃ……。早く本の魔法を習得しないと取り返しのつかない事態になってしまうにゃよ、ナギっ!)」

 「わ、分かってるよ……。なんとなく本のページに文章が見えてきたするんだけど……、まだ文字が薄く浮かび上がってるだけでまともに読み取ることができないんだ。大分集中力は上がってきたと思うんだけどとてもこのままじゃあ皆がやられちゃうまでに間に合いそうにないよっ!」

 「(くっ……でももうその本の魔法を修得する以外に方法はないにゃっ!。もう一度ナギが援護に行ったところでまた返り討ちに合うだけだろうし……ってそうだにゃっ!。確かこの館に入るまでの森でナギもさっきバジニールが食べてたのと同じステータスを上昇させる効果を持った木の実を手に入れたはずだにゃ。それもバジニールのとは違ってINTの値を上昇させるやつっ!)」

 「えっ……あ、ああ……確か知恵の実っていうあの青色の木の実のことだよね。確かに実物のデビにゃんの方もその実には一時的にINTの値を上昇させる効果があるって言ったけど……、ちゃんとしたアイテムに加工もせずそのまま実を食べても大した効果は得られないんじゃないかな……」

 「(だから今はそんなこと気にしてる場合はないってさっきから言ってるにゃっ!。とにかく少しでも魔法を習得出来る可能性を高める為にさっさとその実を食べてもう一度の本のページを意識を集中して見てみるんだにゃっ!。拷問紳士に加えてあの二人の女審問官まで相手しなければならなくなったらいくらサニールや鷹狩達でももう持ち堪えることはできないのにゃっ!」

 「わ、分かったよ……。“モグモグッ……ゴックンッ!”」


 謎のデビにゃんの声の助言に従ってナギは館の外の森でバジニールに渡した方の実だけはなく、そのまま自身が所持していたもう片方の知恵の実を急いでアイテム袋から取り出し口へと運んだ。そして慌てながらもしっかり実を噛み砕いてから胃へと飲み込み、一呼吸おいて落ち着きを取り戻すと再び意識を集中して本のページへと目を通し始めた。これで僅かではあるがINTの値が上昇した状態となったわけだが、果たして本のページに表示されている内容に先程から変化はあるのだろうか……。


 「………」

 「(どうだにゃ……ナギ。少しはさっきの本のページから文章が見えるようになったのかにゃ)」

 「う、うん……なんだか少し文字が濃く見えるようになったとは思うけど……んんっ!。な、なんだ……、やっと読めそうになったと思ったら今度は急にその文字がにじみ始めてなんて書いてるあるか分からなくなっちゃった。しかもその滲みはどんどんと広がってこのままじゃあページ全体が真っ黒に……うわぁぁぁぁーーーっ!」

 「(ど、どうしたんだにゃっ!、ナギィィーーっ!)」


 知恵の実を食べたことでINTの値が上昇し、よりタルタロス・チェーンの魔術書の文字をハッキリと目視できるようになったナギであったが、今度はその文字が滲み始めたと思うとどんどんと形を失っていき再び読み取ることが不可能な状態へとなってしまった。それどころか滲んでいく文字の黒インクはページの全てを埋めつくように広がっていき、あっという間に白紙であったページを全て漆黒へと染め上げてしまった。そしてどういうわけかナギの意識はその漆黒へと変わるページへと取り込まれていくようで、本のページまでをも染み出て自身の周囲をも暗黒に包み込んでいくその光景にナギは思わず取り乱したように叫び声を上げてしまっていた。しかしそれはあくまでナギ自身にのみ見えている光景のようで、何事もない状況の中突然悲鳴を上げるナギに謎のデビにゃんの声も困惑している様子だった。どうやらこれは謎のデビにゃんの声の主にとっても予想外の事態だったようだが……。暗黒へと飲み込まれたナギの意識は一体どこへ行ってしまったのだろうか。


 “バチィーーーンッ!”


 「ぐはぁぁぁぁーーーっ!」

 「ふふふっ、中々良い格好よ。そうやって地面に這い蹲って悲鳴を上げる様を見るのは本当愉快でたまらないわ。特にあなたのようなプライドの高いプレイヤーのはねぇっ!」


 “バチィーーーンッ!”


 「ぐはぁぁぁぁーーーっ!」


 タルタロス・チェーンの魔法を習得するどころか、ナギは謎のデビにゃんの声の主ですら予想外の事態によりその意識を何処へと飛ばされてしまった。そしてその間にも予想していた通り鷹狩と不仲はあっという間にサディとスクウェラを相手に窮地へと追い込まれており、不仲に至っては地面へとうつ伏せに倒れ込んだところをサディに幾度となく鞭で背中を打たれその度に悲鳴を上げさせられてしまっていた。鷹狩もどうにかスクウェラの放つ魔法を避け続けていたのだがとうとうその動きを捉えられてしまい……。


 「そこよっ!。……はあぁっ!」

 「……っ!」


 “バリバリバリィィーーッ!”


 「ぐあぁぁぁーーーっ!」


 次々と撃ち放たれて来るスクウェラの雷属性の魔法を必死に躱し続ける鷹狩であったが、ヴェニルを撃ち落としたサンダー・ボールの魔法を避けたと思ったその時、自身の四方からジリジリと地面を焼き焦がす音を立てながら4つの雷の柱が襲い掛かって来た。それはまさに先程敵であったサニールもゲイルドリヴルに対して放っていた“クロール・ライトニング”の魔法で、スクウェラはその追尾性能を活かす為に上手く鷹狩をその中央へと他の魔法で攻撃を仕掛けながら誘導していたようだ。既に躱したつもりでいた魔法に不意を突かれ完全に逃げ場を失ってしまった鷹狩は止む無くしてそのクロール・ライトニングの4つの雷にその身を焼き焦がされてしまい、戦闘不能になると同時にその場に倒れ込んでしまった。


 「こっちは終わったわよ、サディ。あなたもいつまでも遊んでないで早くその女に止めを刺してしまいなさい」

 「はいはい……全くお姉様は拷問様と違って戦いの遊び心ってものをちっとも分かってくれないんだから……。まぁいいわ、もう十分甚振いたぶらせて貰ったしそろそろ止めを刺してあげるとしますか。その感謝の思いを込めて最後の一撃は思い切りの力の込めてあなたのその華奢きゃしゃな背中を叩く音をこのフロア中に鳴り響かせてあげるわ。あなたの断末魔の悲鳴と共にねぇっ!。はあぁ……」

 「ぐっ……うぅ……」

 「……っ!。なんだ……折角最後の一撃をプレゼントしてあげようと思ったのにもう力尽きちゃったの。はぁ……死体に鞭を打つのは審問官としての掟に反するし楽しみはこれで終わりにするしかないわね」


 鷹狩に続いて地面に這い蹲りにされていた不仲も最後の止めの鞭が打たれる前にこれまでの攻撃で受けていた“裂傷”による異常状態の“スリップ・ダメージ”によって戦闘不能となってしまった。スリップ・ダメージとは異常状態等の影響で何もせずとも自動的にHPが削られていくダメージのことだが、すでに不仲のHPは一桁未満になっていたのかその僅かなスリップダメージにより0となってしまったようだ。


 「……っ!、そんな……鷹狩殿……不仲殿……っ!」

 「ほほほっ!、これでまたまた一人孤独な戦いをすることになってしまいましたね、サニールっ!。そして主人である鷹狩さんを失った今仲間モンスターであるあなたもこの場に滞在していられる時間は残り僅か……。このままあなたが消え去るのを待っても構わないのですが折角ですので私自らの手であなたに止めを刺してあげましょうっ!。……はあっ!」


 “ガッ……キィーーーンッ!”


 「ぐおぉぉぉーーーっ!」


 主人である鷹狩を失ってしまったサニールであったが、まだ鷹狩の蘇生の受付時間が残されている間はこの場に留まることができるようだ。しかしだからといって拷問紳士達との戦力差がひっくり返るわけでもなく、スクウェラとサディの相手もしなければならなくなった上に自身の優勢に勢いを増した拷問紳士が再び放って来たスマッシュ・アックスによってサニールはまた大きく後ろに追いやられその衝撃によって見動きが取れなくなってしまった。そして拷問紳士、スクウェラ、サディの3人はその動くことができないサニールを囲むようにゆっくりと歩きながら迫っていき……。

 

 「くっ……あのままではサニール様が……」

 「あわわわわ……折角ゲイルドリヴルさん達が援護に駆け付けてくれたと思ったらあっという間に倒されてまたサニールさんがピンチに陥ってしまいましたわ……。状況が目まぐるしく変化し過ぎてもう私にはとてもついていけません……」

 「こうなったら私が行くわ、エドワナ。私の回復はもういいからあなたは後ろから援護してっ!」

 「……っ!、駄目ですっ!。あなたはこの状況を唯一覆せる可能性のあるヘブンズ・サン・ピアーの魔術札を持っているのでしょうっ!。サニールさんの代わりはこの私が務めますからあなたはあいつにその魔法を打ち当てることに集中してくださいっ!」

 「で、でも魔術師の職がメインのエドワナさんじゃとてもあいつの相手は……」

 「にゃあぁぁぁぁーーーーっ!、まだ僕達もいるにゃぁぁぁーーーっ!、ナミィィィィーーーッ!」

 

 “グオォォ〜〜ンッ!”


 「……っ!、デビにゃんっ!、シャインっ!」


 絶体絶命の窮地に立たされたサニールを目の前に慌てて援護に駆け付けようとするナミ達だったが、その前に上空からデビにゃんを乗せたシャインが勢いよく拷問紳士達に向けて舞い下りて来た。どうやら地上のナギ達の窮地を見て上空からの援護を止めて自身達も直接拷問紳士達に向けて攻撃を仕掛けるつもりのようだ。シャインと共に火球を放ちながら降下し、自身は隙を見て真空突きを放ちながら拷問紳士へ向けて飛び降りるのがデビにゃんの策であったのだが……。


 「ふっ、そう言えばまだ彼等が残っていましたか。彼等の上空からの攻撃には散々苦しめられましたがこちらへと向かって来ている今ならば……はあぁっ!」

 

 “ヒュイィィィィィィンッ!”


 「……っ!、な、何にゃ……この鎖は……」

 

 “グッ……グオォ……”


 勢いよく自身へと降下してくるデビにゃん達に対し、拷問紳士は右手のてのひらを向けて魔力を集中させるとそこから暗黒のオーラに包まれた禍々しい鎖を出現させた。その鎖は拷問紳士の掌からぐんぐんと伸びていき、デビにゃん達の元へと辿り着いた時点で掌から切り離されたと思うと瞬時にシャインの体に巻き付いていきその動きを止めてしまった。どうやら“ダークネス・チェーン”という光属性の相手に対して強い拘束効果を持つ魔法のようだが、翼を羽ばたくことすらも封じられたシャインはそのまま飛行することができず地面へと落下していってしまった。シャインの背中に乗っていたデビにゃんは止む無く咄嗟にそこから飛び降り、破れかぶれで真空突きを放ちながら拷問紳士へと向かって行ったのだが……。


 “グッ……グオォォ〜〜ンッ!”


 「シャ、シャイン……ええいっ!、こうなったらもう破れかぶれで突っ込んで行くしかないにゃっ!。……てやぁぁーーっ!」

 「ふっ、あんな子猫一匹拷問紳士が直接手を下すまでもないわ。……はあぁっ!」


 “バチィーーーンッ!”


 「にゅわぁぁぁーーーっ!」

 「デビにゃんっ!、シャインッ!」


 不意の状態からとはいえ渾身の力を込めて攻撃を放っていったデビにゃんであったが、その思いも虚しく拷問紳士へと届く前にサディの振るう鞭によって地面へと叩き落とされてしまった。これでもうこの場に残されたのは身動きの取れないサニール、そしてナミとエドワナ、戦闘の激しさにまるでついて来れない様子のリリス達だけとなってしまったが、果たしてタルタロス・チェーンの魔術書の闇へと飲まれたナギは無事意識を取り戻しナミ達を救うことができるのだろうか。まだナギのタルタロス・チェーンとナミのヘブンズ・サン・ピアーの拷問紳士達を打倒す為の最後の希望が残されてはいるのだが……。



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