finding of a nation 115話
「ふふっ、今頃外にいるあなた方の仲間のプレイヤー方は私のリスポーン・オーバーフローのモンスター達によって苦しめられているでしょう。見ての通り新たに出現したモンスター達はこれまでよりより凶暴で凶悪なものばかり、あなた方ももう私のことなど放っておいて皆の救援に向かった方がよろしいのではないですか。今ならばまだ私の提案を受け入れることも間に合いますよ」
“グオォォォォッ!”
リスポーン・オーバーフローを発動させた拷問紳士はナギ達の意識を仲間の目に向けさせようとここぞとばかりに心配を煽るような発言を繰り返した。更には新たに出現したモンスター達までもがそんな拷問紳士の発言を助長するかのように“今頃仲間達は無事では済まないぞ”と脅しを掛けるように吠え散らかしていた。ナギ達の集中力を削ぎ、これから始まる戦いを少しでも有利に運ぶのが拷問紳士達の狙いだ。
「ふんっ!、レミィ達はそんなあんたのモンスター達にやられる程やわじゃないわっ!。それに私達が皆の為にできる一番のことは助けに帰ることじゃなくてとっととあんたをぶっ倒してこのダンジョンを完全に攻略することっ!。そうすれば皆を襲っているモンスター達も消えるはずよっ!」
「その通りだっ!。では私が先陣を切って奴に仕掛けるから君も後に続いてくれ。但し奴と直接正面から戦う役目はやはり私に任せてもらいたい。……それで構わないね、ナミ」
「ええ、私はなるべくサニールさんが奴と戦ってる隙を突いて攻撃を仕掛けるようにするわ。悔しいけどこれまでの戦いであいつとの実力差を散々思い知られちゃってるしね」
「ナギとリリスは後方から我々の援護を。それからエドワナ、性に合わないだろうがお前には皆の回復役を任せる」
「了解っ!」
レミィや天だく達のことを心配していないわけではないだろうが、ナギ達は事態を収めるにはどちらせよ逸早く拷問紳士を倒すしかないと割り切り再び目の前の戦いに集中した。やはりサニールが先陣を切って拷問紳士と正面から戦う役を引き受け、ナミはそのフォローに回るようだが、サニールとナミの二人掛かりでも拷問紳士を押し止めることが難しいことは戦いに向かう前の二人の険しい表情が物語っていた。前衛の二人が拷問紳士を押し切ることができるのであればこちらの勝利は決まったようなものなのだが……。更にはリスポーン・オーバーフローによって出現したモンスター達への対応も考えると、戦力が増えたとはいえまだまだ戦局はナギ達にとって不利であると言わざるを得ない。サニールはどうにかそんな状況を覆すべく真剣な面持ちで攻撃を仕掛けるタイミングを窺っていたのだが……。
「にゃ、にゃあ……。なんか知らない間にまたナギ達の戦いの様子が一変しちゃってるにゃ。拷問紳士は敵に戻ってるみたいだけど、リリスだけじゃなくあの悪霊達、それにゲイルドリヴルと戦ってた男の霊までこっちの味方になっちゃってるにゃ。でもこっちの戦力が増えてるってことはやっぱりさっきは様子を見ておいて正解だったってことなのかにゃ……」
“グオォ……”
「まぁ、いいにゃっ!。とにかくこれで拷問紳士の奴をぶっ倒せばいいことに戻ったことだし僕達もナギ達の援護を再開するにゃっ!。まずは急にまた数の増えた地上の雑魚モンスター共を片付けるにゃよ、シャインっ!」
“グオォォ〜〜ンっ♪”
サニールが味方になったことなど一変したナギ達の戦況を見て戸惑うデビにゃんとシャインだったが、その後すぐ拷問紳士が敵に戻ったことを確認し、自分達の攻撃を仕掛ける相手が明確になったと判断して再びナギ達の援護をすべく地上付近へと舞い下りて行った。そしてナギ達の後方上空から一気に拷問紳士へと向けて急降下していきながらデビにゃんは猫フレイム、シャインは得意のブレス攻撃を今度は火球へと変えて無数に撃ち放っていった。それによりナギ達の周りに出現したリスポーン・オーバーフローのモンスター達を一掃し、それに巻き込まれた拷問紳士も一瞬動きを止めてナギ達から注意を逸らしてしまい、その上爆風により視界も遮られてしまっていた。これはサニールにとって攻撃を仕掛ける絶好のタイミングとなったわけだが……。
“バアァァァンッ!、……バァンバァンバァンバアァァーーンッ!”
「くっ……相変わらずあの上空からの支援は厄介でーす。私のリスポーン・オーバーフローのモンスター達もそのほとんどが飛行能力を備えておりませんし……、スクウェラ達と違ってランダムに出現するので上手くこの場に彼等に対抗する為のモンスターを呼び出すこともできませーんっ!」
「……っ!、デビにゃんっ!、シャインっ!」
「にゃあぁーーっ!、今の内にそんな奴とっと倒しちゃうのにゃぁ〜〜、ナギぃ〜っ!。周りの雑魚モンスター達は続けて僕達が蹴散らしておいてやるからにゃぁ〜〜っ!」
「ナイスよっ!、デビにゃんっ!、シャインっ!」
「よし……っ!、ではこの隙に奴に仕掛けるぞ、ナミっ!」
「ええっ!」
“バッ!”
「……っ!」
「シバルリーッ!、キャリバァァーーッ!」
デビにゃんとシャインの放った火球が地上を襲うのと同時にサニールとナミは拷問紳士に攻撃を仕掛けるべく地面を蹴って勢いよくその場を飛び出して行った。そして爆風の中を一気に駆け抜けたサニールはそのままシバルリー・キャリバーを放ち全力の力を振り絞って拷問紳士に向けて振り下ろした。どうやら上手くデビにゃん達がナギ達の周りを避けて火球を放ってくれたおかげでサニールとナミは爆風の中でも拷問紳士の正確な位置を見失わずに済んだようだ。そして衝撃により体をよろつかせている状態で爆風の中から突如として現れたサニールに驚きながらも咄嗟に手斧を構え攻撃を防ごうとした拷問紳士だったが、流石に受け止め切れず手のを弾き落とされ更にはその衝撃により大きく後ろへと追いやられてしまった。そしてその追いやられた先にはすでにナミが回り込んで来ており……。
「ぐっ……ぐおぉ……っ!、やはりサニールの攻撃は凄まじいでーす。万が一これをまとも食らってしまえばいくら私といえど只ではすみませんね……」
「ふんっ!、そんなにサニールさんの攻撃を食らうのが嫌ならこの私の攻撃をまともに食らわせてあげるわよっ!。いくらあんたでも背後からこの一撃を食らえば……はあぁぁぁぁぁっ!」
完全に拷問紳士の背後を取ったナギは渾身の力を込めてその背中に真空・正拳突きを放とうとした。拷問紳士を相手にこのような好機を得られることはそうそうない……攻撃を放とうとする最中にそう頭の中によぎったナミはなるべく多くのダメージを与えておきたいと考え思わず必要以上の力をその拳に溜めようとしてしまったのだったが……。
「くらえぇぇぇぇーーーっ!」
「ふっ……遅いでーす。折角背後を取ったというのに拳を放つまでにそれだけの間をおいては……」
「えっ……!」
“スッ……”
「は、はずれた……っ!」
「ふふっ、それだけではありませんよ。……てやぁーっ!」
「……っ!、きゃあぁぁーーーっ!」
“バアァァーーンッ!”
自身の限界を越えた力を込めて拷問紳士の背後から真空・正拳突きを撃ち放ったナミであったが、拷問紳士は攻撃が届く寸前サッと身を屈めて体勢を低くしあっさりとナミの拳を躱してしまった。そしてそれだけではなく自身の頭上で拳が空振りに終わり伸びきったままのナミの腕を両手で掴むと、そのままナミの体を自身の背中へと持ち上げ背負い投げの要領で勢いよく前方へと放り投げてしまった。完全に相手の隙を突いて攻撃を仕掛けたはずが、逆にこちらの不意を突かれて全く受け身の取れないまま背中から地面に叩き付けられたナミは相当なダメージと激痛を受け壮絶な悲鳴を上げてしまっていた。そんなナミの悲鳴を聞きナギ達はすぐさまナミを救出すべく拷問紳士へと攻撃を仕掛けていった。
「痛っ……!」
「ふふっ、どうやらなるべく大きなダメージを与えようと欲張って力を溜めようとし過ぎたようですね。……では更なるお返しに今度は私の拳をその可愛いお顔に受けてもらいましょうか……。これであなたもジ・エンドですっ!」
「……っ!」
「ナ、ナミ……っ!、う、うおぉぉぉぉぉーーーっ!、ストーンブラストォォーーッ!」
「フレイム・ブラスターァァーーッ!」
「え〜いっ!、スピリット・ボールっ!」
「……うおっ!」
“バァンッ!、……バァンバァンバァンッ!”
拷問紳士は地面に叩き付けられた激痛に苦しみ、起き上がることのできないナミに対し追撃の拳を振り下ろそうとしていた。そうはさせまいとナギ達は慌てて拷問紳士に向けてそれぞれ魔法を放ってナミへの追撃を阻止した。魔法の攻撃自体は全て躱されてしまったのだが、拷問紳士が後ろに下がった隙に再びサニールが詰め寄り攻撃を仕掛けていった。それを見た拷問紳士は先程落としてしまった手斧を慌てて拾いサニールの斬撃に対応したのだが、そのままサニールとの剣戟を強要されその場に釘付けにされてしまった。そしてサニールが上手く前衛の役目をこなしている隙にエドワナは地面に倒れたナミを抱きあげると、霊体の移動のしやすさを活かしてふわりと体を浮かせて飛び、ナミを周りに敵のいない後方へと運んだ。そしてそのままダメージの大きいナミの背中へと直接を手を当て、キュア・マッサージの魔法で直ちに回復を行った。
“カァンッ!、……キイィーーーンッ!”
「くっ……折角ナミさんに止めを刺すチャンスだったのにやはりそう簡単にはやらせては貰えませんか。……ですがサニール、ナミさんが倒れエドワナが回復に回っている今、あなたは一人でこの私を相手にしているようなものでーす。そして私にとってそれは今度はナミさんではなくあなたを始末する絶好のチャンスとなりまーす。今の内に一番厄介な相手であるあなたを始末し、唯一私を食い止めておける者を排除すれば残り者達も容易く全滅させることができるでしょう。ですからあなたももう私への恨みなど忘れてとっとと成仏してあの世でゆっくりなさって下さーい。あなた程の善人ならきっと飛び切り居心地のいい天国へと誘って貰えるはずですから」
「たわけっ!。貴様のような悪党を残して成仏等できるものかっ!。それに鷹狩殿の仲間モンスターとなった以上ゲームが終了するまでもう私がこの世界から存在を消すことはないっ!」
「おおぉーーっ!、そうでしたっ!。ではこの場であなたを退けても鷹狩さんの国がゲームから退場なさるその時までこの私を追い続けて来るというわけですね。ですがそれならば私を倒すのはまたの機会に改めて貰ってもよろしいではありませんか。折角なので私との決着はこのゲームの勝者となる国が決まるその時まで先延ばしにさせて頂きましょう。……てやぁぁーーーっ!」
“カァンッ!、……キイィーーーンッ!”
「……っ!。ぐっ……おのれぇ……っ!」
一人自身に立ち向かってくるサニール対し、拷問紳士は一気に返り討ちにしてしまおうと自身も手斧によってより鋭い斬撃を放ち、互角の剣戟の状態から少しずつサニールを押し始めていた。しかしナミとエドワナが一時的に戦線を外れているとはいえまだナギとリリスが残っている。それでも二人の援護など物ともせずサニールを打倒してしまう程の自身が拷問紳士にあったからこそナギ達の存在を無視して“一人”という言葉を使っていたのだろう。確かに中途半端にしか習得していないナギとリリスの魔法では拷問紳士に対して有効な攻撃にはなりえそうにはなかったのだが……。拷問紳士と対等に戦うにはやはりもう一人共に前衛として戦う者が必要であった。
“パアァァ〜〜ン……”
「くっ……あのままではサニール様が……。しかしこのままナミさんを放っておくわけにもいきませんし……」
「痛っ……!、私のことはいいからサニールさんの援護に向かってあげて、エドワナ。私だってちゃんと自分用に回復アイテムの一つや二つは持ってるから」
「しかし……それではナミさんの体を完全に回復することは……」
「それなら僕がサニールさんのフォローに入るよっ!。エドワナさんはそのままナミの回復に集中してあげてっ!」
“ダダダダダダッ!”
「えっ……ちょ、ちょっと……お待ちなさいっ!、ナギさんっ!」
「……っ!、ナ、ナギ……っ!」
拷問紳士に押され始めたサニールを見てナギは再び武器をアース・カルティベイションへと持ち替え、身動きの取れないナミに代わってサニールのフォローに回ろうと勢いよくその場を飛び出して行った。ナギの前衛としての実力では拷問紳士と直接対峙するのは危険だと感じたナミとエドワナは慌ててナギを呼び止めようとしたのだったが……。
“カァンッ!、……キイィーーーンッ!”
「く、くそ……っ!。実力に差があることが分かっていたとはいえこのような外道に真っ向からの刃を交えての勝負で後れを取るとは何たる屈辱……。これでは代々続いたホーリースピリット家の名が廃るというもの……。どうにかして突破口を開かねばこのままではいつか奴の斬撃の餌食になってしまうっ!」
「上に飛んでぇぇーーーっ!、サニールさぁぁーーんっ!」
「……っ!」
“カアァァーーンッ!、……バッ!”
「……っ!、うおっ!」
サニールが懸命に拷問紳士との剣戟を繰り広げている最中、後方からナギの“飛んで”という不可解な叫び声が唐突に響き渡っていた。普通ならば剣での戦闘の最中に一度でも体を宙に浮かしてしまうようなことがあれば、その着地のタイミングを突かれ瞬く間に身を叩き斬られてしまうはずだが、先程少しの会話を交わしただけでもうそれ程までにナギ達に信頼を寄せていたのかサニールはすぐさまナギの呼び掛けに反応し、拷問紳士の刃を弾いて距離を取ると一気に上空に向けて高く飛び上がった。サニールの不可解な行動に戸惑いつつも着地のタイミングを計って追撃の構えを取る拷問紳士だったが、すぐに前方から凄まじい勢いでナギがこちらに向かって来ていることに気が付いた。そんな拷問紳士に対しナギは驚く暇も与えずその場でアース・カルティベイションを地面に向けて振り下ろし……。
「うおぉぉぉぉぉーーーっ!、アースフロー・ビローイングッ!」
“ドバァァァーーーァンッ!”
「ぬっ……ぬおぉぉーーーっ!」
勢いよくアース・カルティベイションを振り下ろしたナギはその先端の振れた地面からアースフロー・ビローイングによる土流の波を拷問紳士に向けて巻き起こした。アイアンメイル・バッファローの時とまではいかないが、それでも渾身の力を込めて撃ち放たれた土流の波は人間程度の大きさのものなら軽く飲み込んでしまう程巨大で空中へと舞い上がったサニールの下を押し進んで拷問紳士へと覆いかぶさっていった。突如として目の前に現れた巨大な土流の津波の壁にどうすることもです、拷問紳士は只唖然として立ち尽くし飲み込まれるしかなかった。
“スタッ……”
「来てくれたのかっ!、ナギっ!」
「うんっ!、ナミが動けるようになるまで僕がサニールさんのフォローをするよっ!」
「そうか……だが油断はするなよ。先程のナミのようにならないようにあいつの相手は私に任せてなるべく距離取って戦うのだ。直接攻撃を仕掛けずとも奴の背後に回って重圧を掛けていてくれるだけでも十分牽制にはなるからな」
「わ、分かったよ……」
強敵である拷問紳士を前に緊迫感の漂う最中ナギは少しの重圧のようなものを感じながらサニールの言葉を肝に銘じていた。今自分が功を焦って拷問紳士に攻撃を仕掛け、先程のナミのように帰り討ちにあってはすぐまたサニールに一人で拷問紳士の相手をさせてしまうことになり、わざわざナミ達の制止を振り切り危険を冒してまでこの場に駆け付けた意味がまるでなくなってしまう。サニールも次そのような事態になれば自身が拷問紳士を食い止めきれなくであろうことを悟ってナギに念を押すようなことを言っていたのだろうが、どうやらナギもそのことは十分に承知のようで、土流に埋まったはずの拷問紳士の方から視線を外すことなく真剣な面持ちでいつでも次の動きが取れるよう身構えていた。そして当然拷問紳士はあの程度の攻撃で倒せる程やわな相手ではなく、ナギ達に対し更なるプレッシャーを飛ばしながらゆっくりと土流の中から姿を現そうとしていた。
「うぉらぁぁぁーーーっ!、ホーン・コンデンサー・ディスチャージッ!」
“バリバリバリバリバリィィーーーッ!”
“グッ……グオォォォォッ……”
「くっ……!、味方を巻き込んでまで我々に攻撃して来るとはなんとも豪快な奴だな……。これ程広範囲に強力な雷撃を放つとはかなり厄介な技ではあるが……周りの雑魚モンスター達を自ら蹴散らしてくれたのはこちらにとって幸いなことだ。今の内に連携を取って一気に奴に仕掛けるぞっ!」
一方デーモンゴートと戦っていたリア達だが、ゲイルドリヴル達が援護に来たことで一気に戦況が有利な状態となり、リスポーン・オーバーフローに現れたモンスター達にも着実に対処しデーモンゴートを追い詰めていっていた。そして周囲を取り囲まれ段々と不利になっていく状況への苛立ちを抑えきれず、デーモンゴートは自身の頭と肩から生えている角から再び放電を巻き起こし始めたと思うと、ナギ達が最初にレイコの依頼を受けヴァルハラ城から集落へと向かう途中で出会ったライノレックスも使用していたホーン・コンデンサー・ディスチャージを発動し、仲間のモンスター諸共巻き込んで凄まじい雷撃へと変え周囲に向けて撃ち放った。本人は自身の最大の威力と範囲を誇る大技で一気にゲイルドリヴル達を一掃したかったのだろうが、やはり味方のモンスター達を巻き込んだのがまずかったのかゲイルドリヴル達にそれらのモンスター達の影に上手く隠れられ誰一人として打倒すことができず、いたずらに味方のモンスター達を減らしてしまい一気に孤立した状態へと陥ってしまったのだった。自身が押している状況の時には冷静な判断ができていたデーモンゴートだったが、知性が高い反面メンタルは弱く、逆境に立たされていることに耐え切れず一刻も早く自身が優位な状況を取り戻そうと焦りで急に短絡的な行動を取るようになってしまったようだ。 更には強力な技を放った反動で体を思うように動かせない様子で、ゲイルドリヴル達はこの気に止めを刺すべく皆で一斉に攻撃を仕掛けていった。
「はぁ……はぁ……く、くそ……っ!」
「ふっ、大分息が上がってるみたいね。さっきの技を放つのにちょっと張り切り過ぎたんじゃないかしら」
「……っ!」
「はあっ!」
ホーン・コンデンサー・ディスチャージで相当なEP、そして体力を消費し、息の上がった様子でぐったりと肩を下ろしているデーモンゴートだったが、その懐の前にまずはバジニールが自身に攻撃を仕掛けるべく姿を現して来た。そして咄嗟に反応しようとするもやはり先程の反動で体を思うように動かすことのできないデーモンゴートに対しバジニールは容赦なく強烈な攻撃を叩き込んでいった。その攻撃はまずはボクシングのワン・ツーの要領で左ジャブから力の込もった右ストレートを叩き込み、それを受けて相手が怯んでいる隙に更に相手との距離が密着してしまう程その懐へと入り込み左足の横蹴りを放つと共にその蹴りの反動を利用して大きく後ろに飛んで後退、その後右手の拳に力を溜めながら両手はつかずとも短距離走のクラウチング・スタートの時のように体勢低く保ちながらグッと地面に踏ん張った足に力を込めて待ち、最後にこれまでの攻撃の痛みで懐を抑え前屈みなっている敵が体を起き上がらせた瞬間に一気に地面を蹴って勢いよく敵に突進していくともに再び懐に渾身の力を込めた右手の拳を叩き込むという凄まじいラッシュを仕掛ける、格闘士の“ダイブ・スマッシュ・コンボ”という術技であった。不意にそのような強烈な一撃を受けデーモンゴートは意識を朦朧とさせながら体をよろめかせ後ずさりしてしまっていたのだが……。
「ぐはぁっ!。……ぐほっ……ぐほぐほっ。はぁ……はぁ……よ、よくもやりやがったなぁ、このオカマの禿げ野郎がぁっ!。……だがどうやら俺様のゴートスキン・シールドの効果のことを忘れてしまっていたようだな。確かに強烈な攻撃だったがその程度で強化された俺の皮膚の装甲を打ち破ることはできないぜっ!」
バジニールのダイブ・スマッシュ・コンボは確かに相当な威力の攻撃をデーモンゴートへと叩き込んだはずだが、その強烈な印象とは裏腹にデーモンゴートへのダメージは左程通っていなかった。やはりゴートスキン・シールドによってデーモンゴートの物理防御力は相当に強化されてしまっているようだ。
「ふっ、確かにそのようね。だけど前衛の私の役目はあくまであんたへの牽制……、止めはちょうど今強力な攻撃魔法を放つ為の準備が整った後ろの二人が刺してくれるわ」
「な、なに……っ!」
バジニールの言葉にデーモンゴートが咄嗟に後ろを振り向くとそこにはすでに凄まじいまでの魔力を溜め終り、その魔力を魔法に変えデーモンゴートへと撃ち放とうとするゲイルドリヴルとリアの姿があった。ゲイルドリヴルは右手に持った槍を真っ直ぐ上空へと振り上げデーモンゴートの頭上に雷雲のようなものを、リアはデーモンゴートの周りに火球……そしてデーモンゴートの体の表面にその火球がちょうど収まるような大きさの黒い斑点のようなものを無数に作り出していた。そして二人はデーモンゴートが驚く間もなくそれらの魔法を一斉に放ち……。
「サンダー・ボルトっ!」
“バリバリバリバリバリィィーーーッ!”
「ボーライド・コームっ!」
“バババババババババァァーーンッ!”
「ぐっ……ぐあぁぁーーーーっ!」
二人が魔法を放つと同時にデーモンゴートの頭上の雷雲から雷……まるで実際の落雷とでも思えるような強烈な雷撃がデーモンゴートの体を貫き落ちてきた。更には周りに出現していた無数の火球がデーモンゴートの体の斑点目掛けて襲い掛かり、デーモンゴートは凄まじい雷撃と火球の高熱によって瞬く間に体を焼き焦がされ、断末魔を上げると共にその場から消滅してしまった。ゴートスキン・シールドによって物理攻撃に対しては圧倒的な体勢を持っていても魔法による攻撃までは防ぎ切れなかったようだ。ゲイルドリヴルの放ったサンダー・ボルトの魔法はライトニングより強力なその名の意味する通りまらに落雷のような雷撃を相手の脳天に叩き込む魔法、またリアの放ったボーライド・コーム、“ボーライド”はファイヤーボールと同じく火球、“ハニー・コーム”とは蜂の巣を意味する言葉なのだが、ボーライド・コームとはその二つを掛け合わせた言葉で言うなれば“火球の巣”という意味で無数の火球を相手の体を巣に見立ててそれに返す、または“蜂の巣にする”ように叩き込むどちらも雷属性と火属性の強力な魔法である。そしてデーモンゴートを打倒したゲイルドリヴル達の次に取るべき行動は当然……。
「よしっ!、これでサニールの魂を解放したのに続きデーモンゴートを打倒すこともできたっ!。まだあちらにリリスの連れてきた悪霊達が相手にしている二体の人型の敵の姿があるが、あの二人の相手はそのまま悪霊達に任せて我々はナギ達の援護に向かうぞっ!。拷問紳士さえ倒せばこの場に出現している残りのモンスター達も姿を消すはずだっ!」
「了解っ!」
ゲイルドリヴルの指示を受け鷹狩とヴェニル、そしてこの場で合流したリア、不仲、バジニールの3人は急いでこのダンジョンのボスである拷問紳士と対峙するナギ達の元へと向かって行った。これでリリスの連れて来た悪霊達の覗いてナギ達の全ての戦力を持って拷問紳士に挑むことができる。サニール、エドワナ、リリスの3人を加えてもまだ拷問紳士にまるで及ぶ気配のないナギ達であったが、果たしてゲイルドリヴル達と合流し最後の敵である拷問紳士を討ち果たすことができるのだろうか。




