finding of a nation 114話
「トーチャァァァーーーッ!。よくもこの私を騙し館の者達までその手に掛けてくれたなぁーーーっ!。皆の無念を晴らす為にも貴様のような極悪非道の輩は今この私がここで成敗してくれるっ!」
「……っ!、あれは……間違いないっ!、さっきまでゲイルドリヴルさんと戦っていたはずのサニールだわっ!。っていうことは無事鷹狩さんの仲間モンスターにすることができたのねっ!」
「うんっ!、きっとリリスさんやエドワナさんが協力してくれたおかげだよっ!。お〜い、サニールさ〜んっ!」
「てやぁぁぁーーーっ!」
鷹狩の仲間モンスターとなり本来の自分の意識を取り戻したサニールは生前に受けた屈辱、そして館の者達を全員を惨劇へと巻き込んでしまった自責の念を晴らす為凄まじい程の形相で拷問紳士を討つべくナギ達の元へと向かって来た。そんなサニールの姿を見たナギ達はすぐに鷹狩達の作戦が成功したことを察し、更にその後ろからはベンから身体を返して貰ったリリスとエドワナも駆け付け強力な援軍達が到着したことに喜びを露わにしていた。ゲイルドリヴルと鷹狩、それにヴェニルはまだデーモンゴートとの戦い続けていたリア達の方の援護へと向かったようだ。
まずは新たに仲間になったサニールに対し改めて挨拶をしようとするナギ達であったが、拷問紳士への怒りを抑えきれないサニールはそんなナギ達にも目もくれず一気にその間を横切り拷問紳士へと斬り掛かって行ってしまった。折角合流したのだからなるべく皆と連携を取って戦った方が良いと思われるのだが……。
「サッ、サニールさんっ!」
「ちょ、ちょっとぉ……っ!、いくらなんでもいきなり一人で突っ込んで行っちゃあ……」
「とぉうりゃぁぁぁぁーーーっ!」
「おおぉーーっ!、まさか再び自分の意識を取り戻そうとは思いもしませんでしたよ、サニールっ!。あなたの私への怒りは当然のことでしょうがこちらもビジネスとして致し方なくやっているもの……。自身の生活の糧を得る為の行為の一体何がいけないというのですかぁーっ!」
「たわけっ!。日々の生活の糧を得る為に他人を拷問……ましてや殺害する必要などあるかっ!。貴様の行いは全て己を私腹を肥やす為のものではないかっ!。これ以上私の前でつまらぬ御託をほざくでないっ!。……てりゃぁぁぁっ!」
「おおぉーーっ!、しかしだからといってそう簡単にやられてやるわけにはいきませーん。悪党にもこの世界を生き抜く為の意地があるということをこれからあなたに教えて差し上げまーす。……てやっ!」
“カアァァーーンッ!”
「……っ!」
怒りに任せて拷問紳士へと斬り掛かったサニールであったが、拷問紳士にいとも簡単に手斧の刃を合わせられ斬撃を弾かれてしまった。ゲイルドリヴルと戦っていた時以上の力を込めた一撃だったはずなのだが、流石に直線的過ぎたのか斬撃の軌道を完全に見切られてしまっていたようだ。また自我が戻ったことで感情が表れるようになったことで攻撃を読まれやすくもなってしまっていた。ゲイルドリヴルがサニールに苦戦させられていたのも斬撃の鋭さだけなくその無機質な攻撃パターンによるところが大きい。一度ナギ達に元へと下がったサニールはまだ怒りを震わせ再びすぐさま拷問紳士へと斬り掛かろうとしていたのだが……。
「くっ……おのれぇ……っ!。人様を拷問に掛けるような悪党の分際でこの私の斬撃を弾くとは……。だがそのようなまぐれが二度も続くと思うなよっ!。てやぁ……」
「お待ちなさいっ!。怒りに身を任せて闇雲に突っ込んでもまた敵の罠に掛かって返り討ちに合うだけです。奴の汚い策に嵌り我々の命を奪われてしまったのをもうお忘れになってしまったのですか、サニール様っ!」
「うっ……エ、エドワナ……」
「どうやら拷問士と言ってもトーチャーの奴はかなりの戦闘能力を秘めている様子……。ここは我々の魂を救ってくださったヴァルハラ国のプレイヤーの皆さんとしっかり連携を取って戦いに臨んだ方がよろしいでしょう」
「う、うむ……お主の言う通りであるな……。私としたことがトーチャーへの怒りで思わず我を忘れてしまっていた。折角皆様のおかげで自分の意識を取り戻せたというのに自分勝手な行動を取ってしまい誠に申し訳ない……」
「い、いいわよ、別に……。それにしてもエドワナさんってかなりのしっかり者の上に度胸もあるのね。確かに無茶だったとはいえ自分の主に対してあれだけ強い物言いができるなんて……。おかげでサニールさんもすっかり反省しちゃったみたいだし」
「う、うん……。でもさっきは自分も怒りに身を任せて敵に突っ込んで行こうとしたような……」
「……ううんっ!、今何か言ったかしら、そこっ!」
「……っ!、い、いえ……別に何も言ってませんっ!」
エドワナのおかげでどうにかサニールは冷静さを取り戻し、まずは合流したナギ達と連携を取って戦う為の態勢を整えることを優先したようだ。ゲイルドリヴルと互角以上に渡り合った剣術の腕前を考えるとどちらにせよ拷問紳士と直接対峙するはナミに代わってサニールが引き受けることになりそうだが……、ナギ達は自分達の職業や戦闘における役職等について端的に紹介し合った。
「ふむぅ……ここは一度頭を冷やす意味も込めて短く君達に私の自己紹介をしておこうか。どのみち連携を取って戦うならばある程度互いについて知り合っておかねばならぬからな」
「そ、そうね……」
「もうご存知だとは思うが私は生前この館の当主であったサニールという者だ。現在はファントム・バロンというゴースト系のモンスターと化してしまってはいるが、一応人間の種族としても扱われており君達プレイヤーと同じように職業に就くこともできている。その私の職業やステータスの詳細については端末パネルを開いて確認してみてくれ」
「分かったわ。なんだか館の当主って聞くだけで滅茶苦茶強そうに思えて見るのが楽しみ」
「僕も。サニールさんなんてこの状況でしか仲間にできない超レアな存在だろうし、きっとステータスも凄い高い上に色んな技や魔法も使えるはずだよ。もしかしたらサニールさんしか持ってない特殊能力とかもありそうっ!」
「はははははっ、そんなに期待されるとなんだか見られるのが恥ずかしくなってしまうではないが。なんとか君達の満足のいくものが見せられば良いのだが……」
「よ〜しっ!、それじゃあ見てるわよ……」
“ピッ!、……ヴィーンッ!”
ナギ達はまずは端末パネルを開いてサニールのステータスを確認した。敵のボスである拷問紳士を前に悠長であるかもしれないが初めて共に戦う仲間の情報はしっかり把握しておきたい。それにこれだけこちらの戦力が固まっていればそう易々と拷問紳士も攻撃を仕掛けてくることはできないだろう。
・モンスター名 ファントム・バロン 総合戦闘レベル・575(騎士・78 剣士・123 槍術士・96 聖職者・32 聖術士・109 信仰者・81 魔術師・56)
・種族 ゴースト(人間霊) ・所持属性 光 ・タイプ 陸 ・魂質 天
・戦闘ステータス
HP 712 MP 516 EP 632
物理攻撃力 1877 魔法攻撃力 874
物理防御力 1544 魔法防御力 1385
・属性耐性率
火 +10% 水 −7% 雷 ±0% 土 −3% 氷 −5% 風 +4% 闇 +22% 光 ±0%
・地形適正率
陸 100% 海 10% 空 0% 森 80% 山 70% 川 20% 明 70% 暗 30%
・特性
霊体……ランク・ファントムの霊体。物理攻撃を完全に無効化し、魔法攻撃によるダメージを若干軽減する
ホーリースピリットの加護……聖なる魂の加護により精神系の異常状態を受けにくくなる
・主な使用技
シバルリー・キャリバー……騎士道の闘気を纏った剣を敵に向けて振り下ろす高い威力を誇る剣技
ファントム・レイ……ランク・ファントムの霊体から放たれる霊力の光線
「……っ!、凄っご〜いっ!。総合戦闘レベル575だってぇ〜っ!。上級職ももう騎士と聖職者の2つに就くことができているわ。ステータスも私達の倍くらいあるしこりゃ私やゲイルドリヴルさんも苦戦するわけだわ」
「それにステータスが高いだけじゃなくてシャインと同じ光の所持属性も持ってるみたいだよ。デビにゃんも闇の所持属性を持ってるけど、ステータス面以外で特殊な能力を保持できるのはプレイヤーでない者の特権だよね。それにしてもいきなりこんなに強い仲間モンスターができて鷹狩さんが羨ましいな〜」
「はははっ、どうやら無事満足して貰えたみたいで安心したよ。もし私のステータス画面を見て落胆した表情等見せられたらどうしようかとビクビクしていたところだ。だが君達だってプレイヤーとしてかなりステータス……、それに実力を兼ね備えているようではないか。漠然とだが先程まで君達と戦っていた時の記憶が私の中に残っている。この私を含めあのトーチャーや周りの部下達を相手によくぞこの人数でここまで戦い抜いたものだ。並のプレイヤーなら5分と持たずに奴等に全滅させられてしまっているところだぞ」
「そりゃあ私達だってブリュンヒルデさんにヴァルハラ国の精鋭としてこのダンジョンの攻略を任されたんだから並のプレイヤーと一緒にされちゃ困るわ。……でも正直言ってあんまりあの拷問野郎に勝てる自信がないの。あいつさっき私達と一緒にサニールさんを相手にすることになってもまだ余裕があるみたいなこと言ってたし……。これは只の私の勘なんだけど多分あいつの言ってることは本当で私達の知らない自分の勝利を確信する何かを隠し持ってると思うの。折角援軍に来てくれたのにこんな弱気なこと聞いちゃって悪いとは思ってるんだけど……、私達あいつに勝てると思う?」
「ナミ……」
いつになく弱気な態度でサニールに問い質すナミの様子にナギは違和感を感じながらも、それだけ拷問紳士が未知の実力を秘めているであろうことを自分なりに察知し、ナミと共に真剣な面持ちでサニールの返答を待っていた。いくら相手の実力を脅威に感じているとはいえ普段ならこのようならしくない質問も態度も取らないナミのはずだが、サニールの当主としての器の広さについ本音を漏らしたくなってしまったのだろう。正直に答えるべきかどうかもそうだが、どうこれからの戦いに影響を及ぼさないようナギ達の気持ちに配慮すべきかサニールは返答に困っていた様子だった。
「ふっ……そうだな。私も先程一人で息巻いて奴に突っ込んで行こうとした身だが、正直君と同じように奴の隠された実力に脅威を感じている。一度剣撃を防がれただけだがそれだけで奴の底知れぬ強さがヒシヒシとこの身に伝わって来た。だがだからといってこれ以上奴の非道な行いを許すわけにはいくまい。それは君達も同じ気持ちだろう」
「勿論よっ!。私達の国にとっては勿論このゲームの全てのプレイヤーとキャラクターにとってもあんな奴を生かしておく理由はないわっ!。できれば今ここで逃がさずにやっつけてしまいたいんだけど……」
「大丈夫だ。奴の実力に関係なくその強く正しい思いがあれば必ず君達は奴を打倒すことができるだろう。無論私がこの場に君達の味方としていなかったとしてもだ。ゲームは力の優劣を決める為のものではなく全ての生命にとって大切であるものは何であるかを学ぶ場所……そしてゲームの神は力のある者ではなくその大切な何かを学び取った者にこそ微笑むっ!」
「サニールさん……」
「(まさに敵の脅威を前にプレイヤーとしての本質を見失いつつある二人にピッタリのお言葉……。お見事です、サニール様っ!)」
「ゲームの神は大切な何かを学び取った者にこそ微笑む……か。私がゲームから学んだことの中で一番大切だと思うことは絶対に最後まで諦めたりしないことっ!」
「僕は自分を取り巻く全ての存在に感謝して生きていかないといけないってことだ。僕がゲームを楽しめるのはそこで出会った良い人も悪い人も含めた色んなキャラクター達、広大な世界とそこに住む全ての存在達のおかげなんだからっ!」
「私は霊さんが本当に実在するということですわ〜。きっと私達の世界でも死んだお父さんやお母さん、それに弟達が私のことを見守ってくれていますのね〜」
「(……っ!、い、今サラッと凄いことを口にしたよね、リリスさんっ!。のほほんとした性格の裏でまだ若いはずなのにそんな壮絶な人生を歩んでいただなんて思いもよらなかった……)」
「ふっ、皆それぞれ違うようだがしっかりと答えを得ることができているようだな。ならば後はゲームの神を信じて己の力を全力でぶつけるのみっ!」
「おおぉーーっ!」
少しの間会話を交わしただけだったが、サニールの当主としての器の広さから出る皆を勇気づける言葉のおかげでナギ達は一気にその団結を深めることができた。これならばこの場で初めて共闘するサニールとエドワナとも上手く連携をとって戦うことができそうだ。そしてその一致団結したナギ達を対し未だに余裕のある表情を浮かべている拷問紳士の対応は……。
「ふふっ、どうやら楽しい会話の時間は終わったようですね。それでは私も一致団結したあなた方と戦う為の準備をさせて頂きますよ。……はあぁぁぁぁ」
「……っ!、やっぱりまだ何か奥の手を隠し持っていたのねっ!。だけどもうあんたの思わせぶりな態度にビビったりしないわ。どんな凄い技を使って来ようと立ち向かって粉砕してやるわっ!」
「……リスポーン・オーバーフローッ!」
「リ、リスポーン・オーバーフローですって……。そのネーミングの技ということはつまり……」
「その通ーりっ!。この技によって今からこのフロアだけでなくこの館のダンジョン内全て……、更には館の周辺の外にまで私のリスポーン・ホストのモンスター達が溢れかえることになるのでーすっ!。しかもそれらのモンスター達は皆これまでよりより高いステータスを誇っておりリスポーンの頻度も格段に上がっていまーすっ!」
「……っ!、こ、ここだけじゃなくて他のダンジョンのエリアや館の外にまでだってっ!。そんな……、それじゃあ他のエリアから侵入したパーティの皆や、僕達と別れたっきりのレミィさん達、それいに外にいる天だくさん達まで危険な目に……」
「ふふふっ、流石にこれ以上この場に余計な者達が援護に来られても困りますのでね。先程の霊神化したリリスさんの力を見る限り恐らくはエリアの管轄を任せている私の部下達も打ち破って来ているでしょうし、これで他のパーティメンバー達が向かっているとしてもそうすぐにはこの場へ辿り着けないでしょう。折角ですので外で待機している者共も一緒にあなた達ヴァルハラ国のプレイヤー達を一網打尽にしてあげまーすっ!。そして私の提案を断ったことを散々後悔すればいいのでーすっ!」
「くっ……」
なんと拷問紳士はリスポーン・オーバーフローによって館の内部中、更には館の外にまで大量のモンスター達を出現させた。そこにはナギ達と同じくこのダンジョンの攻略を目指しているパーティの者達や、外には周囲の警戒に当たりながらナギ達の帰りを待つ天だく達がいる。折角サニールの言葉で戦意を向上させていたというに、拷問紳士の妥協を許さない策略にナギ達は戦いに臨む前にこの場にいない仲間達の身の心配をせざるを得なくなってしまった。心配したところでどうにもならないのは百も承知の上だろうが、果たしてナギ達は仲間達を心配する気持ちを振り切って拷問紳士との戦いに集中することができるのだろうか。
“ババババババッ!”
「……っ!、な、何……っ!。急に目の前にモンスター共が沸き始めたよ、レミィさんっ!」
「前だけじゃなくて後ろからもよ、シスちゃんっ!。数もかなり多いしこのままじゃあ完全に囲まれちゃうわっ!」
「まずい……っ!、前衛の者達はすぐに前後に別れて対応に当たれっ!。他の者達は前衛が守り易いようになるべく中央に集まるのだっ!」
「ちっ!、早くナギ達のところに向かわなきゃいけねぇって時に余計な邪魔しやがって……。こんな奴等とっとと片付けて先を急ごうぜっ!。……てりゃぁぁぁっ!」
「待てっ!、レイチェルっ!。ナギ達のことが心配なのが分かるが俺達前衛の一番の仕事は仲間を危険から守ることだ。まずは皆の安全を確保し態勢を整え……んんっ?」
「あわわわわっ……ちょっと腰が痛くて立ち止まっとったら突然魔物の軍団に囲まれてしもうた……。皆も近くにおらんしこりゃえらいことじゃわい……」
“グオォォォォッ!”
「ひえぇぇ〜〜っ!」
「爺さんっ!。くっ……うおぉぉぉぉぉーーーっ!」
“ズバァーーーーンッ!”
“グオォォォォッ……”
一方その頃ナギ達の元へと続く通路を急いでいたレミィ、セイナ、それからカイル達のパーティであったが、先程拷問紳士が発動せたリスポーン・オーバーフローにより出現したモンスター達に通路の前と後ろを囲まれてしまった。しかも現れたモンスター達はこれまでのようにグラッジ・シャドウやマッド・ゾンビのようなホラー映画の怪物ようなものばかりでなく、獰猛な肉食獣のような姿をしたものまで入り乱れており、その中の一頭であるすで序盤にナギ達が遭遇したドラゴンラプターが皆から少し遅れて通路を進んでいたボンじぃを食い殺そうと襲い掛かって来た。その光景を見たアクスマンは慌ててアックス・ダイブ・クラッシュを放ちながらボンじぃの元へと駆け付け、一撃でドラゴンラプターの首を落とし倒してしまったのだが、辺りにはドラゴンラプター以外のモンスター達もわんさかと沸き出しておりとてもアクスマン一人で対処できる量の相手ではなかった。これはまずいと判断したアクスマンは慌ててボンじぃを担いで皆の元へと引き返して行ったのだが……。
「こ、こりゃヤバい……。爺さんっ!、とにかく早く皆と合流するぞっ!。俺が担いで行ってやるからそしたら皆と固まって俺達前衛の後ろに隠れてろっ!」
「お、おおぉ……こりゃ川底の遺跡の時といいお主には助けて貰ってばかりで済まんのぅ。全くゲームの中でも腰痛になってしまうとは情けないわい……」
「そりゃナギ達のところに急ぐ為に皆結構飛ばしてたからな。戦闘系の職に就いてない爺さんじゃ例えゲームの中のキャラクターでも身体にガタが来て当然だぜ。そんなことより早く皆のところに行くぞ」
“バッ……ダダダダダダッ!”
「無事かっ!、アクスマンっ!、ボンじぃっ!」
「ああ……だがこれだけの敵の数に囲まれちゃあとても先へ進むことなんてできないぜ。かと言ってこの場で留まって戦ってもジリ貧になるだけだし……どうする、セイナ」
「どうするも何もなんとかして先へ進むしかあるまい。前方の進路を切り開く者と後方から追ってくる敵を迎撃する者に別れて戦いながら移動するぞ。私が先陣を切って皆を先導するからその速度に合わせて付いて来てくれっ!」
「了解っ!」
大量の敵に囲まれてしまったセイナ達だったが、ここまでずっと一本道を進んで来た通路の背後をモンスター達によって塞がれてはここまま先へと進んでナギ達の元に向かうしか取るべく選択肢がなく、前方と後方それぞれから押し寄せる敵に対処しつつ進軍を開始した。しかし当然進軍の速度はこれまでより圧倒的に低下しており、あとどれ程の距離が残されているかは分からないがとてもすぐにはナギ達の元に辿り着くことはできそうになかった。それならばどちらにせよセイナ達が着く頃にはナギ達と拷問紳士の戦いに決着が付いてしまっているかもしれないが、それでも自分達が着くまでナギ達が無事でいることを信じてセイナの先導の元懸命にモンスター達と戦いながら先へと進んで行った。恐らくこのモンスター達の出現がなければあと少しでナギ達の元へと辿り着けていたかもしれないことを考えると、拷問紳士の先を見据えた戦略が常に大きく戦局に影響していることを実感せざるを得なかったのだが……。
「どうですか……天だく。もう辺りもすっかり暗くなってしまっているようですがゲイル達のダンジョンの攻略は上手く進んでいますか……」
「いえ……すでにダンジョンに侵入した20のパーティの内15組が撤退……、もしくは全滅しており残っているのは司令官のゲイルドリヴル、セイナ、レミィ、カイル、己武士田達をリーダーとする5組のパーティだけです。しかも己武士田達のパーティの内4人は戦闘不能となってしまっているようです。撤退して来た者達の報告によればそれぞれの転移先にはそのエリアを管轄する魔族達にが配備されており、多くのパーティがその魔族達によって撤退を余儀なくされてしまったようです。全滅してしまったパーティの者達からは報告を聞くことができませんが……、恐らくダンジョンの最深部にすら辿り着いた者達はいないでしょう」
「そうですか……では残された者達その数は全部で36名……。他の者達が撤退を余儀なくされたことを考えると恐らくその全員が最深部へ辿り着くことは困難……、例え辿り着けたとしてもそこには想像を絶する程の強敵が待ち受けているはず……。ですがゲイル……、そしてあの伊邪那岐命と伊邪那美命達が残されているというのであればまだ希望はあります。他の者達を卑下しているわけではありませんが、彼らにはどれ程困難で絶望的な状況であっても必ずそれらを打ち破ってくれる……。何か眩い光のような者を私は感じるのです……」
そして館の外ので周囲の警戒を任せた天だくは本部として設置されたテントの中で通信の繋いだブリュンヒルデへの報告と会話を行いながらナギやダンジョンに侵入した者達の帰りを待っていた。その会話の内容によるとなんとすでに15のパーティが全滅し、今ダンジョン内に残っているのは拷問紳士と戦っているナギ達、そしてそこへ向かおうとしているセイナ達とナイト達のみであるということだった。他のパーティの者達も決して実力においてナギ達に劣っているメンバーではないのだが、そのナギ達がルートヴィアナやチャッティル達にあれ程の苦戦を強いられていたことを考えると他のエリアを管轄する魔族達に全滅させられてしまうのは致し方ないことである。ナギ達がダンジョンの最奥へと辿り着いたのも偶然によるものが大きく、まともに敵を撃破したと言っていいのはルートヴィアナ達と戦ったレミィやセイナ達だけと言っていいだろう。そのレミィ達もセイナ達の奇襲が成功しなければ今頃どうなっていたか……。天だくからの報告に険しい表情を浮かべるしかないブリュンヒルデだったが、それでも残されたナギ達が無事ダンジョンを攻略し帰還してくれることを信じて常に通信画面から姿を消すことはなかった。
「そうっすね……。ゲイルの奴はどうか分かりませんがナギとナミには俺も同じ国のプレイヤーとして一目置いています。ゲームの実力なら他にもっと腕の良い奴等がいますが、あいつ等は腕前や実績なんかでは測ることのできない……何かは分かりませんがプレイヤーとして俺達では到底及ばない大事なものを持ってる気がするんです。事実ナギの奴はこの前のアイアンメイル・バッファローを討伐した時に凄い技を……」
“ダダダダダダッ……バッ!”
「て、天だくさん……っ!」
「……っ!、何だっ!。そんなに慌てて一体何があったっ!」
「そ、それが……突然この館の周りに大量のモンスターが出現し始めましたっ!。しかも野獣や昆虫、変異植物等森林に出現するようなものだけなく、館から撤退した者達の報告にあったゴーストやアンデット、それにスライムやドラゴン、人型の盗賊のような輩まで様々な系統の敵が入り混じっていますっ!」
「なんだとっ!。それは明らかに何者かの干渉によって出現したものとしか考えられない……。やはりこの館のダンジョンの奥に潜む何者かが……」
「……天だくっ!」
「分かっていますっ!。事前に準備していた通り皆それぞれの持ち場について敵の迎撃に当たらせろっ!。ダンジョンから撤退して奴等はすぐに館の内部に避難させて回復に専念させるんだっ!。HPの全快した者達から順に戦闘に参加してもらうっ!。それまではなんとしても館内にモンスターの侵入を許すなっ!」
「……ゲイル」
やはり館の周囲の警戒に当たっていた天だく達の元にもリスポーン・オーバーフローの効果により大量のモンスター達が出現した。天だくの指示ですぐに配置に就いていたプレイヤー達が迎撃に当たったが、果たして撤退して来た者達の回復が済むまで館内部への侵入を防ぐことができるのだろうか。ダンジョン内に残っている者達は極僅かである為仮に転移の魔法陣から侵入を許してもその影響は少ないだろうが、それでもナギ達のダンジョン攻略の成功の可能性を少しでも上げる為、そして帰還するナギ達を迎える為なんとしてもこの拠点を守り抜きたい。自身もモンスターの迎撃に向かう為本部のテントを去っていた天だくを画面越しに見送り、皆の元に起きた想像を絶する事態にブリュンヒルデは思わずこの作戦の総司令官で自身が最も信頼をよせるゲイルドリヴルの名を口ずさんでしまっていた。




