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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
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finding of a nation 112話

 「そんな……っ!。じゃあこのまま放っておいたらゲームの世界だけじゃなくて現実世界のリリスの命まで危ないってことぉっ!」

 「ああ……にわかには信じられない話かもしれないが、今のリリスが通常のゲームのプレイでは考えられないような異常な状態にあるのは確かなことだ。あの拷問紳士を相手に互角に戦える程の戦力を失うのは惜しいがとにかく今はリリスを止めることに専念するしかないだろう」

 「当然よっ!。仲間の命を危険にさらしてまでゲームに勝とうなんて私達が思うわけないわっ!。そうと分かれば急いでリリスにその“ディナイアル・ミスト”とやらを使ってあげましょうっ!」

 「ちょっと待ってっ!。心配なのは分かるけど今のリリスさんを相手にそう簡単にアイテムを使用させて貰えるとは思えないよ、ナミ。僕達のことを敵だとは認識してないみたいだけどもし無理にアイテムを使おうとすれば抵抗してくるかもしれないし……、そうでなくとも今の僕達じゃああの戦闘に入っていて攻撃に巻き込まれでもしたら一瞬で力尽きちゃうだろうし……。ここは3人でしっかり連携を取って臨んだ方がいいよっ!」

 「ナギの言う通りだ。例え抵抗せずともあれだけの速さで動くリリスにアイテムを使用するのは至難の業だ。私のディナイアル・ミストは一つしかないし、万が一外して使用してしまえば他のアイテムでは効果が低過ぎてリリスの“霊神化”を解くことができないかもしれない。どうにかして確実にリリスにアイテムを使用できるタイミングを作り出せればいいのだが……」

 「分かった……それなら私がなんとかリリスを体ごと掴んで動きを止めるからその隙にアイテムを使ってあげてちょうだい。ナギは他の奴等が私の邪魔をしないよう魔法で援護してっ!」

 「えっ!、でも……」

 「いや、連携を取るとは言ったがグズグズと作戦を考えている時間がないのも確かだ。ここはナミの提案に従おう、ナギ」

 「わ、分かったよ……」

 「よしっ……それじゃあ頼んだわよ、二人共。……てやっ!」


 “バッ!”


 ナギ達と無事合流した鷹狩はベンから聞いたリリスのことを説明し共にリリスの霊神化の効果を解くべく行動を開始した。まずはナミがリリスの動きを止めるべくあのリリスと拷問紳士の激しい戦闘の中へと向かい鷹狩もそれも続いて行った。魔法による援護を任されたナギは少し心配な様子で二人のことを見守っていたのだが……。


 “ダダダダダダッ……” 


 「さっきは無視されたけどまずはリリスに近づいて本当にこっちの話が通じないか確かめないと……。下手に刺激したら余計面倒なことになりそうだわ。そのまますんなりアイテムを使わせて貰えればそれで済むはずだし……」

 「……っ!、あれはナミさんにゲイルドリヴルさんと共にサニールの相手をしていたはずの鷹狩さん……。まさかこの私とリリスさんの戦いの中に向かって来るとは一体どういうつもりで……うん?」

 「………」

 「鷹狩さんの右手に握られている小瓶……。あの青くきらめく粒子の詰まったような中身は正しくディナイアル・ミストっ!。あのアイテムは対象となった者に付与されているあらゆる効果を打ち消すができるはずですが……なる程そう言うことですか。まさに仲間思いのナギ君達らしいと言えますが……、それは今の私にとっても大変有難いと思える行動でーすっ!」


 リリスと悪霊達との戦い続けながら拷問紳士はこちらに向かって来ようとナミ達の姿を確認した。ナミ達からしてみれば悪霊達を従えたことで数の上でも圧倒的にリリスが有利な状況でわざわざ危険を冒してまで援護に向かう必要はないはずなのだが、事情を知らない拷問紳士にはそんなナミ達の行動が不可解に思えた。しかしよくナミ達の様子を観察すると拷問紳士はナミの後ろから向かって来る鷹狩の右手にあるアイテムが握られていることに気が付き、瞬時にそのアイテムの詳細を見抜いたことでナギ達の行動の意図を理解することができたようだ。


 “………”

 

 「どうやら周りの悪霊達もこっちに仕掛けてくる様子はなさそうね。これなら案外何事もなくリリスを元に戻せそうかも……。えーっと……それで肝心のリリスはっと……」


 “バッ!”


 「って……あっ!、ちょうど良く目の前に現れて来てくれたわっ!」


 リリス達の戦闘が行わている範囲の中へと入ったナミだが、リリスや周りの悪霊達が自身に攻撃を仕掛けてくる様子がないことを確認すると一度その場に立ち止まりリリスの姿を探した。霊神化状態となったリリスはテレポートを多用しており中々視界に捉えておくこともままならなかったのだが、偶然にもナミの目の前に姿を現した。しかも一度攻撃の態勢を整える為か拷問紳士への攻撃は従えた悪霊達に任せ、自身はその場で次の攻撃の為の霊力を蓄えようとしていた。これはナミ達にとってはリリスにディナイアル・ミストを使用する絶好の機会だったが……。


 「お〜い、リリスぅ〜っ!。なんか良く分かんないけどその霊神化っていうのあんたにとって凄く危ない状態みたいよ。幸い鷹狩さんがそれを解くことのできるアイテムを持ってたみたいだからすぐに使って貰……」 

 

 “スッ……”


 「えっ……」


 すぐにリリスへと駆け寄り声を掛けながら肩を掴もうとしたナミであったが、その手は己武士田の時のようにリリスの体に触れることができずにすり抜けてしまった。一体これはどういうことなのかと慌てて後ろから来た鷹狩に問いただすナミであったが……。


 「ちょ、ちょっとこれは一体どういうことなの、鷹狩さんっ!。私の手がリリスの体をすり抜けちゃったわよっ!」

 「分からん……。だが霊神化というからにはリリスの体そのものが霊体となってしまっているのかもしれない」

 「それでも私達は今ゲイルドリヴルさん達から貰ったあのローストビーフのおかげで霊体の相手にも直接触れられるようになってるはずでしょうっ!。なのにどうして体に触れることもできないのよっ!」

 「それは……とにかく抵抗する様子がないのなら今の内にリリスを元の姿へと戻してしまおう。このディナイアル・ミストなら直接体内に取り込まずとも体に振り掛けさせすれば……」


 “……キィッ!”


 「……っ!、ぐおぉぉっ!」

 「た、鷹狩さんっ!」


 霊力を集中しているのかその場から動く様子のないリリスを見た鷹狩はその隙にディナイアル・ミストをリリスへと使用してしまおうとしたのだが、体に触れることができなかった為かナミには何の反応も見せなかったというのに突然こちらを振り向き赤い目の鋭い眼光で睨み付けて来たリリスのテレキネシスのような力によって体の自由を奪われそのまま後方へと飛ばされてしまった。恐らく鷹狩の霊神化の効果を解こうとしていることを察知した為だろうが、どうやら今ので鷹狩だけでなくナギやナミ達までリリスにとっての自身の障害であると判断されてしまったようだ。


 「リ、リリス……っ!、これは一体どういうつも……」


 “バッ!”


 「……っ!、な、何よ……あんたら……」


 鷹狩が吹っ飛ばれたのを見て慌ててリリスのことを問い質そうとするナミであったが、その前にリリスが従えていた悪霊の内二人が当然立ちはだかって来た。そしてリリスは今度はナミ達の相手をその悪霊達に任せるようにその場から姿を消し、再び拷問紳士の元へとテレポートによって向かって行くのであった。


 「まさかあんた達私等の邪魔をするつもりじゃ……くっ!、それじゃあやっぱり今ので私達も完全にリリスの敵だって思われちゃったってわけぇっ!」

 「痛っ……どうやらそのようだぞ、ナミ。それに味方であるはずの私にも先程のリリスの攻撃によるダメージはしっかり通っていたようだ。おかげでももうHPを半分近くまで減らされてしまった。油断していると本当にリリスを助けるどころが拷問紳士より先に我々の方が先にリリスやその悪霊達の攻撃によって倒されてしまうぞっ!」

 「くっ……覚悟はしていたけどまさか敵のボスを前に味方と同士討ちしないといけないことになるなんて……。でもリリスをあのまま放っておくわけにはいかないしやるしかないわっ!」


 「やはりナミさん達だけではリリスさんの相手をするのは厳しいようですね……。仕方ありません……こうなればあの方達にも援護に来ていただく他ないでしょう……はあっ!」

 

 ディナイアル・ミストを使おうとしたナミ達がリリスによって阻止されたのを見て、拷問紳士はプラズマショック・ウェーブという電撃を纏った衝撃波を周囲に放ってリリスと悪霊達の動きを止める当時に再びサモン・オブ・モーメントによって新たなリスポーン・ホストのモンスターをその場に呼び出した。ただモンスターと言っても呼び出されたのは拷問紳士と同じく人間の種族としてこのゲームに登場している者のようで、紫色の髪を持つ二人の女性だった。一方は電撃を纏った鞭を片手に持ち、まるでサディスト言わんばかりの威圧的で常に愉悦を感じているような卑猥な目付きをしていた。もう一方は同じく鋭い目付きではあったものの灰色で暗い雰囲気であるが修道女のローブのようなものを身に纏っており、どちらかと言えば真面目で堅物であるかのような雰囲気を感じさせていた。前者の鞭を持った方がプラズマショックのインクィジター、後者の修道女のような格好をした方がプラズマショックのハイ・インクィジターという種類の敵キャラクターではるが、リアやマイと同じく個別の名前を持ち合わせており、全く同じ能力と種類の者であってもそれぞれ容姿も異なっているようだ。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 「ふっ……まさか私達まで呼び出されるとは柄にもなく相当追い詰められているようですわね、拷問様」

 「口を慎みなさい、サディ。私達は教皇様の命によりプラズマショックを代表して拷問様に力になるよう仰せつかっている身なのですよ」

 「はいはい……。全くスクウェラお姉様はいつもいつも堅物過ぎなのよ。別にこれくらいの戯れを吐いた程度でご立腹になられたりはしませんわよね〜、拷問様は〜」

 「ほほっ。まぁ、見て分かる通り追い詰められているというのは本当のことですからね。……それで早速で悪いのですがあなた達にはこの周りにいる館の住民の悪霊達の相手をして頂きたいのです。あの中央にいる霊神化した女性……リリスさんの相手は私が務めますのでなるべく我々の戦いに邪魔が入らないようにして下さい」

 「霊神化ですって……。ではやはりあの周りの悪霊達は元々は拷問様の配下であった者達というわけですね。それは確かにいくら拷問様でも油断のできない相手ですわ。私達を呼び出すことになったのも無理のないことです。……分かりました。ではあの雑魚の悪霊共は一匹たりとも拷問様に近づかせぬようにして、ついでに私のこの鞭の痛みで誰が本当の主人であったかを思い出せて差し上げますわ。……行きますわよ、スクウェラお姉様」

 「あなたに言われずとも分かっているわ、サディ」

 「ほほっ、では頼みましたよ、二人共」

 「はっ!」


 “バッ!”


 拷問紳士によって呼び出されたスクウェラとサディは命令を受けるや否やすぐさまリリス以外の悪霊達の相手をすべく向かって行った。プラズマショックとはこの“finding of a nation”の世界に存在する宗教の団体の一つであるのだが、二人はそれに所属するインクィジター、つまりは異端審問官の役目を与えられている者達のようだ。宗教の団体にはその組織を維持する為の様々な役職が存在しているが、プラズマショックはその中でも教義に反する異端や他教を排除することを意図した異端審問に関わる司法職や捜査員である異端審問官の育成に力を受けており、こと戦闘においても二人は相当な修練を積んでおりサニールやデーモンゴートに匹敵する程の実力を兼ね揃えているようだ。彼女達ならばリリスのスピリット・ルーラーによって強化された悪霊達が相手でもそうそう

おくれを取るようなこともないだろう。そしてその二人のおかげでリリスの相手に集中出来るようになった拷問紳士だったが、何故かリリスに攻撃を仕掛けるのではなく先程リリスの霊神化の効果を解こうとして失敗したナミ達の元へと向かっていた。ここに現れてから執拗に拷問紳士のことをつけ狙っているリリスは当然その後を追って行ったのだが……。


 「ストーン・ブラストォォッ!」


 “バァンッ……バンバァンッ!”

 “……っ!”


 「ナイスよっ!、ナギっ!。てりゃぁぁぁぁぁっ!」


 “………”


 一方リリスが消えた後目の前に現れた二人の悪霊の相手をすることになったナミはナギのストーン・ブラストの援護を得て片方だけではあるが見事な正拳を炸裂させ打倒うちたおしていた。しかしもう一方の悪霊は霊体の特性を活かしてその場から姿を消しているようで、ナミは辺りを見渡してもう一人の行方を探していたのだが……。


 「よぉ〜しっ!、悪霊達にはちゃんとローストビーフの効果も効いてるみたいで攻撃も当たるみたいだしリリス以外ならなんとか私でも相手になりそうね。……ってあれっ!。そう言えばもう一人いたはずの悪霊はどこに……」

 「どうやら霊体モンスターの特性で一時的に姿を消しているようだ。いつどこから姿を現すか分からんから注意しろ、ナミ」

 「ええ……。だけどこいつ等を倒したところで肝心のリリスの動き止める手段が……。どうして悪霊達にはちゃんと攻撃が通ったのにリリスには触れることもできなかったんだろう……」

 「それは彼女の霊神化によって得られた霊体の力が他の霊達は比べ物にならない程協力だからですよ、ナミさん」

 「……っ!、あ、あんたはっ!」


 消えた悪霊を探しながらリリスへの対応策を考えてるナミであったが、その前に突然あの拷問紳士が上空から降り立ってくるように姿を現し、ナミの目の前へと着地した。どうやらスクウェラ達に悪霊達の相手を任せた後一直線にこちらへと飛び立って来たようだが自身を執拗に狙うリリスのことを無視して一体どういうつもりなのだろうか。ナミはリリスよりも自分の方を優先して攻撃してくるつもりなのではないかと思い慌てて警戒した態度を取っていたが……。


 「な、何よっ!。リリスのことは放っておいて先に私達の方を潰してしまおうってわけぇっ!。いいわっ!、そう言うことならこっちも先にあんたを片付けた後でゆっくりとリリスを救い出すことにするからっ!」

 「やめろっ!、ナミっ!。いくらそいつでもリリスとの戦いをこなしながら我々の相手をする余裕はないはずだっ!。一度こっちに下がって来いっ!」

 「くっ……」

 「ほほっ、流石鷹狩さん。冷静な判断で好戦的なナミさんをいさめて頂きこちらとしても非常に助かりまーすっ!。あなたの言う通り今の私にはとてもあなた方の相手までする余裕はなく、ここへ来たのはむしろあなた方に協力したいが為なのでーすっ!」

 「協力ですって……」

 「そうでーすっ!。先程の話の続きですが今のリリスさんはこのゲームにおいて最高ランクの霊体の体の保持しており、物理的にはおろか例え魔法を用いたとしてもほぼ無効化されてしまうでしょう。それに触れる為にはこちらもそれと同等のランクの霊体を手に入れるか、リアルキネステジーによるプレイ技術で無理矢理にでも自身の霊体の力を高めるしかありませーん。我々には前者の霊体等手にする手段はありませんし後者の方法に頼る他ないのですが……」

 「要はまた気合で何とかしろってことでしょ。まぁ、その方が私の性に合ってるからいいけど霊体の力を高めるって一体どうやって……」


 “バッ!”


 「……っ!、う、後ろぉっ!」

 「……っ!、ぬおぉっ!」


 “バアァァァンッ!”


 いきなり協力を持ち掛けてきた拷問紳士に戸惑うナミだったが、そんな時拷問紳士の背後の頭上からリリスが姿を現しそのまま降下しながら拷問紳士に向けてスピリット・クローを放って来た。先程協力を申し出てきたこともあって少し気を許していたのかその姿を見たナミは思わず敵である拷問紳士を助ける形で声を上げてしまっていた。その言葉に咄嗟に反応してその場を離れ、なんとか拷問紳士はリリスの攻撃を躱すことができたのだが、攻撃が空振りに終わり地面に衝突する形となったリリスのスピリット・クローは床石を粉々に破壊すると共に周囲に凄まじい衝撃波を巻き起こしていた。そしてその光景とゆっくりと体を起こすと同時に威圧的なあの赤い目でこちらを睨み付けてくるリリスの姿に目の前にいたナミ、そしてナギも鷹狩もこれまで直接向けられてはいなかったリリスの敵意を明確に感じ取り、その恐怖と絶望感に圧倒され思わず身をすくめてしまっていた。拷問紳士とナギ達を威圧しながらその場に留まるリリスはまた少しの間動きを止め次の攻撃の為の霊力を蓄えようとしていたのだが……。


 「ふぅ〜……、危ない危ない……。いくら私といえど今のリリスさんの攻撃はまともに受けられるものではありませんからね。あなたの声のおかげで危機一髪のところを助けられましたよ、ナミさん」

 「う、うるさいわね……っ!。別にあんたを助けるつもりなんてなかったけど一応話の途中だったし……、何より目の前でいきなりあのリリスの姿が現れたら誰だって思わずビックリして声が出ちゃうわよっ!」

 「そんなことより今は先程の話の続きだ、ナミ。お前が我々に協力するということはこちらの目的はもう分かっているということだろうが、一体どうすれば自身の霊体の力を高めることができる」

 「別に難しく考える必要はありませーん。普段肉体に力を込める時と同じことを今度はあなた方が先程食べていたローストビーフによって発生している霊体に対して行えばいいだけのことでーす。最も今のリリスさんに触れられる程に霊体の力を高めるのは至難の業でしょうが……今はそのような甘えたことは言っていられませーん。私が囮となってどうにか隙を作り出しますのでナミさん……どうにしかしてその間にあなたがリリスさんの動きを止めてくださーい」

 「な、なんですって……っ!、あんたそれ本気で言ってんのっ!」

 「勿論でーすっ!。私にとってもリリスには逸早く元に戻って頂いた方が厄介な相手がいなくなって良いに決まっているではありませんかーっ!」

 「くっ……だけど……」

 「今我々に悩んでいる時間はないっ!。不本意ではあるがここは奴の提案に従おうっ!」

 「鷹狩さん……ええぇいっ!、もうっ!、分かったわよっ!。あんたの話に乗ってここは一時休戦してやるからその代わりなんとしてもリリスの動きを止める為の隙を作りなさいよねっ!。……鷹狩さんもその後は頼んだわよっ!」

 「ああっ!」

 「ほほっ、では早速行動に移るとしましょうか。ちょうど力を溜め終ったリリスさんもまた動き出しそうなところですしね」


 “あああああぁぁぁぁぁぁっ!”


 拷問紳士との共闘が決まったところでまたリリスが激しい咆哮と共に動き出し、今度はナギ達は敵であるはずの拷問紳士に前衛を任せるという奇妙な形でリリスと戦うことになった。拷問紳士ならばリリスが相手で十分に前衛の役目をこなし、リリスに隙を見せるまで戦いに耐えることもできるだろうが、果たしてナミはリリスの動きを止められる程自身の霊体の力を高めることができるのであろうか。一方そんなナギ達を再び援護すべくその上空へと戻って来たデビにゃんとシャインは著しく変化したナギ達の状況を飲み込むことができず、戸惑った様子で地上を見下ろしていた。


 「にゃ……これは一体どうなっているんだにゃ……。いきなりリリスの奴が現れたと思えば何故かナギ達と敵対しておまけに拷問紳士の奴がこっちの味方みたいになっちゃってるにゃ。まさかナギ達に攻撃を仕掛けるわけにはいかないし……、これは僕達もリリスの方を攻撃をした方がいいのかにゃ」


 “グオォ……”


 「でも恐らくナギ達にも深い考えがあってのあの状況だろうし僕達が余計なことすると皆の邪魔をすることになるかもしれないにゃ。まだまだリスポーン・ホストの雑魚モンスター達は出現して来てるし取り敢えず僕達はそっちの方の掃討を続けることにするにゃ」


 “グオグオッ♪”


 「よしっ!、それじゃあまた周囲を旋回しながら地上のモンスター共をやっつけていくにゃよ、シャインっ!」


 “グオォッ!”


 状況の分からないデビにゃんとシャインは取り敢えずナギ達の戦いには手を出さず周囲に出現するリスポーン・ホストのモンスターの掃討に集中することにしたようだ。リスポーン・ホストの能力の主である拷問紳士も本来なら敵であるはずのナギ達のみを攻撃するなといった詳細な指示を出すこともできないようで、いくらステータスの高くないモンスター達といえどデビにゃん達が掃討してくれることによってナギ達に余計な邪魔が入らなくなるに越したことはない。そういう意味では下手にリリスとの戦闘に加われるよりナギ達にとっては有難い判断となったことは確かだろう。


 “あああああぁぁぁぁぁぁっ!”


 「くっ……相変わらずの猛攻ですね。ですが先程から攻撃の手段は1パターン……自我を失っている影響で知性の方は大分衰えてしまっているようでーす」


 今度はナギ達も加えた拷問紳士達との戦闘を再開したリリスだが、先程から敵意を向けてはいたもののやはりナギ達には目もくれず拷問紳士に対してのみ集中して攻撃を仕掛けていた。攻撃方法は相変わらずスピリット・クローによるワンパターンで、すでに攻撃の目に慣れてきた拷問紳士には完全に読み切られてしまっておりリリスの攻撃が当たる気配は全くと言っていい程なかった。それでも霊神化したリリスの霊体とポテンシャルを考えると迂闊に反撃に転じることもできず拷問紳士は受けに回る他手段がなかったようだが……。


 “あああああぁぁぁぁぁぁっ!”


 「このまま攻撃を避け続けていればいずれ彼女にも隙が生まれるでしょう。問題はナミさんの霊体の力がリリスさんを無事掴まえることができるかどうかですが……」


 “ううぅ……ああ……うがあああああぁぁぁぁぁぁっ!”


 「……っ!、どうやらいつまでも変わらない戦局に彼女の方が痺れを切らしてしまったようでーす。何やらこれまでとは比べ物にならない大技を放って一気に勝負を決めるつもりですね」


 自身のスピリット・クローの攻撃がいつまで経っても拷問紳士に当たらないことに痺れを切らしてか、リリスは急に動きを止めて悲痛な叫び声を上げたと思うと、更に威力高い技を放つ為の力を自身の霊体に蓄え始めた。その叫び声はまるで蓄えられていく力のエネルギーが自身が霊神化によって得た最高クラスの霊体にも収まり切らず思わず悶え苦しんでしまう程凄まじいものであると言わんばかりのもので、リリスの霊体から溢れ出たエネルギーがまるで淡い青色の湯気のようなオーラとなって周囲に立ち込めていた。そしてその立ち込めていくオーラの中にリリスの体は隠れるようにして段々と消えていき……。


 「これはこれは……先程までとは比べ物にならない程のエネルギーを溜め込んでおいでのようですね。これ程強大なエネルギー使って一体どのような技で攻撃してくるつもりなのでしょうか。……ですがこれはこちらにとっても絶好のチャンスでありまーす。それだけ強力な技を使用すればその後必ずその反動によって彼女に大きな隙が生じるはず……。なんとかこの攻撃さえなしてしまうことができれば……」


 “……があぁっ!”


 「……っ!、なっ……!」


 “バアァァァァァァァンッ!”


 「ごっ……、拷問紳士ぃぃーーーっ!」


 凄まじいまでの力を溜めているリリスを目の前に拷問紳士は恐らく最大級の威力を持って放たれて来るであろうリリスの攻撃をなんとか防ぎ切ろうと、柄にもなく真剣な表情を浮かべて身構えていた。しかしその直後に放たれて来たリリスの攻撃はそんな拷問紳士の予想を遥かに上回るもので、立ち込めるオーラに覆われたリリスの体が完全にその中へと消え去ってしまったと思われた瞬間突如として目の前にあのリリスの赤い目の顔が浮かび上がったと思うと自身の体に凄まじい衝撃が襲い掛かり拷問紳士は遥か上空へとその体を弾き飛ばされてしまっていた。突然の出来事に思わずナミも拷問紳士の名を叫んでしまっていたのだが、今のはまさしく霊力を最大まで溜めて放たれたリリスの攻撃によるもので、アストラル・ダイブという霊力を高めた自身の霊体を凄まじい速さで突進することで相手に直接ぶつけるこれも霊神化の状態でのみ使用できる技のようだ。先程このゲームの霊体にはランクが設定されていると説明したが、そのランクは下位から順次にシャドウ、スピリット、ゴースト、ファントム……っと続いていき、アストラルとはその最高位に位置する霊体のランクの名称である。つまりはこの技と同じ系統のものとしてシャドウ・ダイブ、スピリット・ダイブ……と存在するわけだが、最高位のランクの霊体を相手にぶつけるこのアストラル・ダイブは他のランクのものとは比べ物にならない程強大な威力を誇っている。それはまさに今の拷問紳士の光景を見れば一目瞭然と言えるものだったのだが……。上空へと弾き飛ばれた拷問紳士は当然攻撃の衝撃で体勢を整えることなどできずにそのまま地上へと落下していき、この拷問部屋の冷たく硬い床石その身を叩き付けられてしまうのであった。


 「ぐはぁっ!」

 「ちょ、ちょっと大丈夫ぅっ!、あんたぁっ!」

 「ぐっ……うぅ……だ、大丈夫です……ナミさん。私のことよりあなたはリリスさんのことを……。これだけ強力な技を放った直後なら流石の彼女もすぐには身動きが取れないはずです……」

 「えっ……で、でもそんなこと言われたって私には今何が起きたのかさえ分からなかったしリリスがどこに消えたか分からな……ってああっ!」


 あまりの一瞬の出来事であった為ナミには何故拷問紳士が弾き飛ばされてしまったのかも理解できない状況であったが、拷問紳士の言葉に促されとにかく周りを見渡すと消える直前にいた場所から30メートル近く離れた場所で先程の攻撃の反動で体を埋めているリリスの姿を発見した。それは拷問紳士が飛ばされた延長線上であった為恐らくアストラル・ダイブによって拷問紳士を攻撃しながらそこまで一気に移動したということなのだろう。


 「リリスったらあんなところにいたわっ!。今の私達にこのチャンスを逃してるような時間はないっ!。いくわよ、鷹狩さんっ!」

 

 “ダダダダダダッ!”


 「なんだとっ!。……ナミっ!、くっ……!」


 “ダダダダダダッ!”


 リリスの姿を発見したナミは今の内に体ごと掴んで動きを止めるべく一目散にリリスの元へ向かっていた。鷹狩も先程の拷問紳士の身に起きたことをまるで把握できていなかったのだが、ナミに促されてとにかくその後を追って行った。しかし先にリリスに気付いただけでなく武闘家としてナミの反射神経と瞬発力は凄まじくすでにナミとの間の距離は10メートル近く離されてしまっていた。果たしてナミと鷹狩は次にリリスが動き出すまでに間に合うのだろうか。


 「確か自分の体に対して同じように霊体に対しても力を込めればいいんだったわよね。良く分かんないけどこうなりゃとにかくぶっつけ本番でやるしかないわっ!。……てりゃぁぁぁぁぁっ!」


 リリスへと向かう最中ナミは拷問紳士に言われたことを思い出しとにかく無我夢中で自身の霊体に力を込め始めた。この場で初めて“オルタウラースのローストビーフ”を食べ霊体の力を得たナミに取ってはまだ自身の霊体を感じ取ることさえ難しいだろうが、ナミはただ自分の力を信じてリリスへと背後から飛び掛り一気に両手を前を回しリリスの体を抱き抱えたのだったが……。


 “バッ!”

 “……っ!”


 「……っ!。や、やった……ちゃんとリリスの体を掴めてるわっ!。後は……てやぁぁぁぁっ!」


 “バッ!”


 「さぁっ!、鷹狩さんっ!。今の内にさっき言ってたアイテムをっ!」


 できるかどうか何の確証もないまま勢いに任せてリリスの体を掴んだナミであったが、その手にはしっかりリリスの体を抱き抱えている感触があった。そしてその感触を実感するや否やナミはすぐさま抱き抱えたリリスの体を持ち上げながら反転し、遅れてこちらに向かって来ている鷹狩の方へと向けた。しかしナミに出遅れた鷹狩はまだここまで10メートル以上離れた場所におり、ナミはもう少しの間リリスに振り解かれぬよう懸命にリリスの体を取り押さえていなければならなかったのだが……。


 「待っていろっ!、ナミっ!。今すぐ私がこのディナイア……っ!、ナミっ!」

 「えっ……!」


 “バアァァァンッ!”


 「きゃあぁぁぁぁぁっ!」


 鷹狩が辿り着くまであと少しというところだったが、その直前突如としてナミの背後まで先程まで姿を消していた悪霊が現れナミの背中目掛けて強烈な炎の魔法を撃ち放って来た。リリスの体を取り押さえたまま無防備な状態であったナミは当然そんな攻撃を躱すことなどできず背中に直撃を受け悲鳴を上げてしまっていたのだが、それでもなんとかその痛みと衝撃に耐え決して取り押さえたリリスの体を放すことはなかった。そしてそんなナミの思いに応えるように鷹狩が到着し……。


 “ぐっ……ぐがああああぁぁぁぁぁっ!”


 「ぐうぅっ……鷹狩さんっ!」

 「任せろっ!、ナミっ!。……はあっ!」


 リリス……そしてその体を取り押さえるナミの元に辿り着いた鷹狩は勢いのままリリスに向けてディナイアル・ミストを振り撒いた。リリスは最後の最後までナミを振り解こうと必死に抵抗してたが鷹狩によって振り撒かれたディナイアル・ミストは狂気に満ちたリリスの全てを浄化していくようにその体へと浸透していき……。


 

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