finding of a nation 111話
「………」
「……っ!、退けっ!、鷹狩っ!」
「……ゲイルっ!」
“バッ!”
“カァンッ!、……キイィーーーンッ!”
ゲイルドリヴルの攻撃を受け地面に倒れ込む格好で動きの止まっていたサニールだったが、鷹狩の差し出した“オルタウラースのローストビーフ”を払いのけるや否や再び行動を開始し目の前にいる鷹狩へと斬り掛かって来た。すぐさまゲイルドリヴルも反応し鷹狩を庇って正面へと割り込んでサニールの攻撃を弾くことができたのだが、その後もサニールは標的をゲイルドリヴルへと移し次々と斬撃を繰り出し、結局またゲイルドリヴルはサニールと互角の剣戟を繰り広げる形となってしまった。
「くっ……これでは結局元の木阿弥ではないか。だが鷹狩の仲間モンスターとすることはできなかったとはいえ先程の攻撃でかなりのダメージを負っているはず……。周りにリスポーン・ホストのモンスター達のいない今ならばもう一度止めを刺す為の隙を作り出すことができるはず……鷹狩っ!」
「ゲイル……。確かにこのままでは仲間にできないどころかゲイルや私達の方がサニールよって倒され残されたナギやリア達に更に厳しい戦いを強いてしまうことになる……。如何にナギ達といえどこの状況で更に敵との戦力に差がついてしまっては流石に勝ち目はない。ここはゲイルの言う通りサニールをこの場でサニールを倒す他ないか……ヴェニルっ!」
“ヴェニッ!”
自分を庇って懸命にサニールと剣戟を繰り広げるゲイルドリヴルの姿を見て鷹狩もこの場でサニールを倒す覚悟を決め、ヴェニルと共に攻撃体勢に入った。ゲイルドリヴルを襲うサニールの斬撃の鋭さは雷鳴咆哮槍を受ける前に比べてまるで衰えていなかったが、それでもHPにはかなりのダメージを負っており、もう一度ゲイルドリヴルの槍の直撃を受ければ今度こそ力尽きてしまうはずだ。デビにゃんとシャインでリスポーン・ホストのモンスター達がいない今サニールに止めを刺すには絶好のチャンスであったのだが……。
「てりゃぁぁぁぁっ!」
「ほほほっ、まだまだその程度では私の相手にはなりませんよ。……はあっ!」
「きゃあぁぁぁーーーっ!」
ゲイルドリヴル達がサニールを相手に押しつ押されつの攻防を繰り広げている頃、ナギ達もこのダンジョンのボスである拷問紳士との戦闘を再開していた。バジニールが現れる前と同じくナミが前衛となって拷問紳士と拳を交えて戦っていたのだが、依然として実力差を埋めることはできずナミの攻撃は軽くあしらわれその挙句に相手にカウンターを合わせられてしまっていた。そして状況が変わった為か先程までのように相手の攻撃に受けに回っているだけではなく、他の者達が援護に来る前にナギ達に止めを刺してしまおうと拷問紳士は今の攻撃で吹き飛ばされ地面に倒れたナミに向かって素早く追撃を仕掛けてくるのであった。
「ナ、ナミっ!。……くっそぉぉーーっ!」
“バッ!”
ナミに止めを刺そうと迫り来る拷問紳士に対し、ナギは魔法ではその動きを止め切れないと判断し咄嗟に武器をアース・カルティベイションへと持ち替えナミを庇って拷問紳士の前に立ちはだかった。確かに今のナギの魔法の威力では放ったところで強引に突破されてしまうだろうが、かといってナミですら拳で競り負ける相手を正面からのぶつかり合いで撥ね退けることなどできるはずもない。しかしナミがやられるのをみすみす見ていることなどできるわけもなく、ナギは相手との実力差を承知の上で全力の力を込めてアース・カルティベイションを振りかざすのだったが……。
「だ、駄目よ、ナギっ!。あいつを相手に正面から立ち向かうなんて……。私のことはいいから早く逃げてっ!」
「うおぉぉぉーーーっ!」
「おおぉーーっ!、流石ナギ君、ナミさんを助ける為にこの私に正面から挑もうとは素晴らしいファイティング・スピリットでーす。ですが残念ながらいくら闘志を燃やそうと私との実力差をひっくり返すことはできませーん。このままあなた達二人纏めてこの場から退場していただきまーすっ!」
“バッ!”
「えっ……」
「……っ!、な、なんですか……あなたはっ!」
「………」
「リ、リリスさんっ!」
ナギもろとも纏めてこの場で倒してしまうと更に勢いを増して迫り来る拷問紳士だったが、なんとその時突如としてナミを庇って立ちはだかるナギの更に前にあのリリスが姿を現した。リリスといえば先程チャッティル達を倒したフロアを漂っている最中突然馬子達の前から姿を消していたが、まさかあそこから一瞬にしてこの場に移動して来たというのだろうか。バジニールに続き更に予想外の人物の登場に、拷問紳士は慌てて自身にポーズ・リセットを掛けて立ち止まりすぐさま後ろに飛んで距離を取った。とにかくいきなり目の前に現れたリリスが何者か逸早く把握しようとしたようだが、驚くことに更なる来訪者が続々とリリスの周りに姿を現すのだった。
「くっ……ゲイルドリヴルさん達に続きまたこの場所に新たなお客様が……。しかし今一体どこから姿を現したというのでしょう。ゲイルドリヴルさん達と違い私の部下が招き入れたというわけではなさそうですか……」
「………」
“ババババババッ!”
「なっ……!、あ、あなた方は……」
続いて拷問紳士の前に現れたのはパラやブラマ達この館の住民の悪霊として自身の配下となっているはずの者達であった。しかし今この場に現れた悪霊達から向けられる視線は決して自身を主として敬うようなものではなく、それどころか冷淡でこちらに対する敵意さえ感じさせるものであった。それもそのはずこの悪霊達は先程のチャッティル達との戦いで使用したリリスのスピリット・ルーラーにより今は完全にリリスの支配下に置かれており、リリスに仇為す者、そしてリリスが敵意を向ける者と敵対するようになってしまっている。リリスは未だに“霊神化”したまま自我を失っているようだが、悪霊達が拷問紳士に敵意を向けているということはやはりナギ達の援護に来てくれたということなのだろうか。
「こ、これはまさかあの悪霊達全てがあの方の配下となってしまる……。ノーっ!、いくらなんでもそのようなことがあろうはずありませーんっ!。いくら霊術士として熟練した者であろうとあれだけの数の敵の霊を従え……っ!」
「………」
「あ、あれはもしや“霊神化”の魔法の効果があの方に掛かっているというのですか……。確かにその状態ならばあれだけの霊を従えることも可能かもしれませんがどうやって“霊神化”の魔法の効果を得たというのでしょうか……。偶然高ランクの魔法の封じられた魔術札を手にしたかもしくはこのダンジョンにランダムに設置された特殊なギ……っ!。もしやそのようなものではなく先程私の拘束を自力で打ち破ったナミさんやバジニールさんのように……」
「………」
「間違いありません……彼女からもバジニールさん同様人間の方としては信じられない凄まじい生命エネルギーが溢れ出ているのを感じまーすっ!。ではやはり彼女もナミさん達と同じようにゲームの理を打ち破り自力で霊神化の魔法を……。霊神化状態となった者は高度のレベルのテレポーテーションのアビリティも得ることができますから恐らくそれを使いここへと現れたのでしょうが、よりにもよって霊神化状態にある者を相手にしなくてはならないとは……。(正直言ってナギ君達より余程骨の折れる相手となりそうでーす)」
リリスの様子を見た拷問紳士はすぐにリリスに霊神化の魔法が掛かっていることと、恐らくではあるが魔法の効果を得た方法とここまで移動して来た手段を見抜いた。それと同時にこれまで戦っていたナギ達とは比べ物にならない程危険な相手であることも察し、これまでの余裕のある態度を捨てていつでもリリスの動きに対応できるよう真剣な表情で身構えながら対応策を考えていた。
「えっ、えーっと……もしかしなくてもリリスさん……だよね。いきなり現れてビックリしちゃってたけど危ないところを助けてくれてありがとう。だけど一体どうやってこの場所へ来たの……。それになんだか雰囲気が変わってるしこの周りの霊達は一体……」
「………」
「ちょ、ちょっと……黙ってないで何とか言いなさいよ。よく分かんないけど私達のことを助けに来てくれたんでしょ。だったらちゃんと連携を取って戦った方が……」
「………」
「……っ!、う、うわぁっ!」
「あわわわわっ……!、ちょ、ちょっとあんた一体その顔どうしちゃったのよっ!。それによく見たら体もなんとなく透けちゃってて足もないしまるで幽霊になっちゃったみたいじゃないっ!」
突然現れたリリスに驚きを隠せないのは味方であるはずのナギ達も同様で、慌てて声を掛けてここに現れた手段や周りにいる霊達のことを問い質した。しかしリリスはナギの問いかけにまるで反応する様子もなく、見兼ねたナミが今度は少し怒った口調でリリスに問い質したのだったが、無言のままこちらを振り返ったリリスの姿は霊神化の影響によりナギ達の知るものからはかなりの変貌を遂げてしまっているものであった。
「ふっ……まさに今あなたの言った通り彼女は幽霊になってしまっているのですよ。それも霊神という最大級の霊体エネルギーを持つ存在の霊にね。恐らくその凄まじい霊体エネルギーを自身でも制御しきれず自我を失ってしまったのでしょう」
「……っ!、な、なんですって……っ!」
「で、でも僕達を助けてくれたってことは自我を失ってもどこかにリリスさんの意識が残ってるってことだよね……。僕達のことをちゃんと味方だって認識してくれてるなら別に問題はないんじゃ……」
「問題大ありよっ!。自我を失ってるだかなんだか知らないけどさっきからずっと無言のままでこれじゃあ会話もしようもないじゃないっ!。それじゃあまともに連携も取れないし第一これからリリスがどんな行動を取るか見当も付かな……」
“あああああぁぁぁぁぁぁっ!”
「……っ!、な、何っ!」
楽観的な考えのナギをナミが戒めようとしたのも束の間、リリスは馬子達の元にいた時と同じように人間のものとは思えない突然激しい金属音のような雄叫びを上げ始めた。それはナギ達から見れば完全に正気を失っているようで、ナミの言葉を聞くまでもなくナギに楽観的な考えを改めさせるには十分過ぎるものであった。そしてその雄叫びと同時にリリスは目の前にいる拷問紳士へと攻撃を開始するのだった。
“バッ!”
「……っ!、き、消えたっ!」
“バッ!”
「……っ!、うおぉっ!」
“あああああぁぁぁぁぁぁっ!”
叫び終わると同時にリリスはナギ達の前から姿を消したと思うと、一瞬にして拷問紳士の目の前と移動し、霊力の込められてた右手を拷問紳士に向けて突き出した。これはスピリット・クローという霊術士と武闘家の職と経て就くことのできる霊闘士の職の術技で、相手の防御力を無視した物理ダメージを与えることができる。霊闘士の技ということでこれまでのスピリット・ルーラーやスピリット・エクス・スパークに比べると大分見劣りするが、それでもリリスの霊力が莫大である為か思わず拷問紳士が驚きの声を上げてしまう程の威力が込められていた。
「くっ……ぬおっ!」
“バッ!”
拷問紳士は何とか後ろに飛んでリリスのスピリット・クローを躱すことができたのだが、リリスは攻撃の手を休めず続けて今度は配下にしたか悪霊達と共に拷問紳士へと襲い掛かった。悪霊達の多種多様な攻撃や魔法を躱しつつ最も要注意なリリスのスピリット・クローの一撃を万が一にも食らわないようにしなければいけない状況に流石の拷問紳士も防戦一方な状態となり、リリス達の攻撃をなんとかギリギリのところで躱しながら対策を考えていた。
「ちょ、ちょっと……一体どうなってるのよ……これ……。いくらなんでもリリスの奴凄すぎなんじゃないのっ!。私がまるで相手にならなかったあの拷問紳士を完全に押してる……それどころかこのまま一人で倒しちゃいそうな勢いよっ!」
「う、うん……一人っていうかあの霊達も一緒にだけどやっぱり皆リリスさんがコントロールしてるのかな……。いくらリリスさんが霊術士だっていっても今の僕達のレベルじゃ普通はそんなことできないよね……」
目の前で繰り広げられるリリスと拷問紳士の激闘の凄まじさについていけず、ナギ達はリリスの援護に回ることもできずただ呆然と立ち尽くして戦いの感想を浮かべるしかなった。そしてそんなリリス達の激しい戦いの光景はすぐにゲイルドリヴルやリア達、そして敵であるサニールやデーモンゴートの目にも入り、ナギ達と同じように驚きの言葉を口にしていた。
「ちょっとなんなのよあれ……。知らない内になんか向こうでもの凄い戦い始まっちゃってるけど……一体どういうことなのかしら、リアさん。さっきまで姿を見せてなかったけど私がいない間にリリスさんも私達の援護に来てくれたってわけ?」
「いえ……私もここでリリスの姿を見たのは初めてよ。ただリリスとパーティを組んでいたはずゲイルドリヴルさん達はここに来てくれているわけだし……不仲さんなら何か分かるんじゃないかしら」
「わ、私にもまるで見当が付きませんわ。確かにここに来るまでリリスさん達とは共に戦っていましたけど……、恥ずかしながら敵の落とし穴の罠に掛かってここに落とされてから他の方々がどうなったのかは知る由もありませんわ。ゲイルドリヴルさんと鷹狩さんは私を追って同じ落とし穴へと入って来てくれたようですけどリリスさんはそうではなさそうですし……。あんな凄い戦いを繰り広げるなんて別れる前のリリスさんから考えられない光景ですわ」
「そう……なら多分ゲイルドリヴルさん達に聞いても同じでしょうね……。(でも私には一つだけリリスの身に起こったことについて心当たりがある……。それは私が最初にナギ達と行動を共にしあのアイアンメイル・バッファローと戦った時……。あの時も突然ナギから凄まじい生命エネルギーを感じたと思ったらその直後に通常では考えられない程巨大な土砂の波をアースフロー・ビローイングによって引き起こした。恐らくリリスもあの時のナギと同じように……。だけど気掛かりなのはあの時のナギとは違ってリリスはその凄まじい力を自身で制御しきれず暴走してしまっているようにも見える……。もしそうならリリスは自身の限界を超えて生命体としての命そのものを失うまで力を使い果たしてしまうことになるかもしれないわ。そうなればこのゲームのキャラクターとしては勿論現実世界のリリスまで存在そのものが消えてしまうことになる。そうなる前にどうにかしてリリスを正常な状態に戻さないと……)」
「一体あれはどういうことだっ!。我々と別れてからリリスの身に何が起こったというんだっ!」
「分からん……。だがあの戦闘能力は明らかに異常だ。どのような手段を用いたとしてもとても全うな方法であれだけの力を発揮できるとは思えないが……」
「くっ……とにかく今はこちらの戦いに集中する他ないか……。リリスのあの異常な力のことは気になるがなんにせよ頼もしい増援であることは確かだ。今の内に我々もこのサニールを討ち果たしナギやリリス達の元に向かうぞ、鷹狩っ!」
「ああっ!」
「………」
「“ちょっと待ってくださいっ!、御二方っ!”」
「……っ!、い、今の声は……っ!」
「ベンだっ!、今の声はベンのものに間違いないっ!。早くお前の端末パネルを開いてみろ、ゲイルっ!」
「……っ!」
リリスのことが気になりつつもゲイルドリヴル達は現在の自分達の相手であるサニールとの戦いに集中しようとした。だがその時突如として二人の周りに何者かが呼び掛けてくる声が響き渡った。逸早くそれがリリスがスピリット・チャンネルにより通信を繋いだベンのものだと気付いた鷹狩はすぐに端末パネルを開くようゲイルドリヴルを促したのだが……。
“ヴィーン……パッ!”
「こちらゲイルドリヴルだっ!、本当にお前なのか、ベンっ!」
「“……っ!、良かったっ!。やっとこちらの声が二人に届きました。どうやらゲイルドリヴルさんがリリスさんと場所を離れたことで一時的にゲイルドリヴルさんの端末と繋がっていた私の通信が途切れてしまっていたようです”」
「それがリリスがこの場に現れたことによって戻ったということか……。だが先程の我々に待てとはどう意味だ、ベン」
「“それは勿論サニール様に止めを刺すのを待って欲しいということですっ!。状況が厳しいのは承知ですがどうかサニール様の魂をあの拷問紳士の手から取り戻すのを諦めないでくださいっ!”」
「だが先程我々が作り出せるベストと呼べる状態でもサニールを仲間とすることはできなかったんだぞ。もう一度奴にあの“オルタウラースのローストビーフ”を差し出すチャンスを作り出すことすら困難だというのにまだ我々にそのような期待の薄い望みを押し付けようというのかっ!」
「“押し付けがましいというのは重々承知しております。私も霊体も持たない意識のみの存在ではありますがサニール様が先程鷹狩さんが差し出した料理を振り払ってしまわれた様子は見ておりました。その時に私ももうゲイルドリヴルさんと同様諦めるしかないと考えておりましたが……、リリスさんがこの場に現れたことで状況で一変しました。リリスさんとそしてあのかつて私と同じくサニール様の従者として働いていた者達の霊の力を借りれば必ずサニール様の魂を救い出すことができるはずですっ!”」
やはり先程の声はゲイルドリヴルとの通信が復帰したベンからのものだった。ベンはサニールに止めを刺すことを二人に思い留まって貰い、再度サニールの魂の救出を依頼する為呼び掛けてきたようだ。それによるとどうやら先程この場に現れたリリスの力を借りればサニールを仲間とすることが可能だということだったが……。
「リリスの力だと……。確かに霊術士であるリリスなら霊体であるサニールに対して何か対応策を持ち合わせているかもしれないが……、あの戦いの光景を見る限りここに現れてからのリリスは明らかに異常な状態だ。とてもこちらに手を貸してもらえるようには思えないが……」
「“それについてもなのですがあの異常な力をこのまま使い続けるのはリリスさん自身にとって非常に危険な状態です。場合によっては現実世界のリリスさんの精神や肉体にまで何等かの悪影響を及ぼすことになるかもしれません”」
「なんだとっ!。ならばそのような悠長なことを言っていないで早くこのゲームの運営プログラムの“ARIA”とやらに連絡してリリスを強制的にゲームから退出させろっ!。そんなリスクを冒してこの場で戦わせる必要などないっ!。当然サニールを仲間にする為の協力もなっ!」
「“残念ですが恐らくそれは不可能なことです……。“ARIA”は我々の通報など受けるまでもなくこのゲーム上で起きている全てのことは常に把握できているはずですし……、今の状況でリリスさんがまだこの場にいるということは“ARIA”は強制退出させる必要はないと判断したということです。例え我々が通報したところでその判断が覆ることはないでしょう”」
「何っ!、だがお前は今あのままではリリスが危険だと言ったではないか。だというのに“ARIA”はこのままリリスのことを放置するというのかっ!」
「“………”」
「あり得ない話ではないぞ……ゲイル。このゲームは現在の我々人類の技術力では到底作り出せるようなものではないし、ゲームの運営自体が人間ではなく電子生命体によって行われるというのならば従来の我々の世界のゲームの運営とはまるで価値観の違う判断を下す可能性も十分に考えられる。“ARIA”がゲームによる我々プレイヤーへの影響をどこまで容認するつもりなのか分からないがこのままリリスのことを放っておくわけには……」
「くっ……だがどうすればリリスを正常な状態に戻せるというのだ……」
「“今リリスさんにはどういうわけか“霊神化”という現段階ではとても考えられないような強力な特殊効果が付与されています。あの異様な力もその“霊神化”の効果によるものが大きく、なんとかしてその効果を打ち消すことができさえすれば……”」
「効果を打ち消すか……。それならば私が今最も効果が高いもので“ディナイアル・ミスト”というアイテムを所持しているが……」
「“ディナイアル・ミストっ!、真実以外を全て拒絶するというディナイアルの聖域にかかる聖なる霧を採取したものですねっ!。その者の全ての偽りを清め真実の姿でのみ聖域へと足を踏み入れることのできるようディナイアルの神によってその地に施されたという……。それを身に振り掛ければきっとリリスさんの“霊神化”の効果も打ち消すことができるはずですっ!。しかしまさか偶然にもそのような貴重なアイテムを入手していようとは……”」
ディナイアル・ミストとは今ベンの説明した通りディナイアルの聖域にかかる聖なる霧を採取したもののことだ。このアイテムにはその霧状の液体を吹き掛けた者に付与されている効果を良い悪いに関係なく全て打ち消すという効果がある。最も効果があるというだけで対象者のMNDの値や対象の効果のランクによっては打ち消すことのできない場合もあるが、ディナイアル・ミストは打ち消しの効果を持つアイテムの中でもかなりの高ランクに位置するもので例え霊術士系統の中でも最高クラスの魔法である“霊神化”の効果でさせも対象者に振り掛けることができれば易々と効果を打ち消すことができるようだ。
「たまたまヴァルハラ国に入荷していた物を日頃から仲の良くさせてもらっているNPCの商人から譲り受けただけだ。しかしこのアイテムを使えば効果を解けるとは言っても今のリリスにこれを振り掛けるのは至難の業だぞ……」
「それはお前がなんとかしろ、鷹狩。一人では困難であってもナギ達に事情を話せば協力してくれるはずだ」
「……っ!、ではゲイル……っ!」
「ああ、この場は私に任せてお前は早くリリスの元へ向かえ。お前がリリスを連れて戻ってくるまでなんとかサニールとの戦いを耐えしのいで見せる」
「ゲイル……分かった。ではヴェニルを貴様に預けていくからこの場は頼んだぞっ!」
“ダダダダダダッ……”
こうして鷹狩はサニールの相手をゲイルドリヴルとヴェニルに任せ、リリスを正常に戻す為ナギ達と合流しに向かって行った。当然鷹狩から事情を聞けばナギ達もリリスの身を案じて全力で力を貸してくれるであろうが、果たして“霊神化”の効果により超絶的な力を誇るリリスに無事をディナイアル・ミスト振り掛けることができるのであろうか。そして鷹狩の援護がなくなった状態でサニールの相手をしなければならなくなったゲイルドリヴルはこれから始まるサニールとの激闘を耐え抜く為真剣な面持ちで再び刃を交える瞬間を待ち構えていた。
 




