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finding of a nation online  作者: はちわれ猫
第十三章 恐怖の館の支配者を倒せっ! VS拷問紳士っ!
107/144

finding of a nation 104話

 “ヴィィ〜〜ン……バッ!”


 「……っ!、デビにゃんっ!」

 「あっ!、ナギィィィーーッ!。会いたかったにゃぁぁーーっ!」

 「僕もだよっ!。もしかしたらこっちに来れるような状況じゃないかもしれないとも思ってたんだけどちゃんと呼出しに応じてくれたんだね」

 「それが……、こっちもかなり緊迫した状況だったんだけどレミィ達が自分達のことは心配せずナギ達のところへ行けって……」

 「えっ……」

 「あっ、でも何故か僕等はカイル達のパーティと合流できたからそんなに心配しなくてもいいのにゃ」

 「ええっ!、カイル達がデビにゃん達のところに来てくれたのっ!」

 「そうにゃ。人数の上ではナギ達と別れる前よりも増えたしきっと大丈夫なのにゃ。それよりパーティの半数しかいないナギ達の方がより厳しい状況に追い込まれてるはずだから僕がこっちに来るのは当然のことなのにゃ」

 「うん……。僕もカイル達が来てくれたと聞いて少しは安心したよ。それにもうデビにゃんを向こうに送り戻すことはできないし、僕等も早くこの状況を打開して早くレミィさん達のところに向かおう」

 「勿論僕もそのつもりにゃ。その為に僕にも今のナギ達の置かれてる状況をなるべく簡潔に分かりやすく……」


 “トントンッ……”


 「にゃぁ?」


 ナギがコールの魔法を使用できるようになったことで拷問紳士のいる地下の拷問室へと呼び出されたデビにゃん。ナギの姿を確認するやすぐさま駆け寄って行き共に再開を喜んでいたのだが、そんな時に不意に誰かに自分の肩を叩かれたのを感じ取った。人の手とは違い少し硬く針にチクリと刺されたような感覚に違和感を感じつつ後ろを振り向こうとするデビにゃんであったが……。


 “グオグオッ♪”


 「……っ!、にゃっ……にゃぁぁぁぁーーーっ!。にゃんにゃぁぁーーっ!、お前はぁーーーっ!。どうしてこんなところにドラゴンが……それもこんなすぐ近くにいるのにゃぁぁぁーーっ!」


 “グオ?”


 「あっ、その子はシャインって言って……」

 「呑気に説明なんて聞いてる場合じゃなかったにゃっ!。待ってるにゃ、ナギっ!。今すぐこいつをやっつけて僕がナギ達を窮地から救って……」

 「違う違うっ!。その子は僕達の敵なんかじゃないよっ!。ゲームの初日にデビにゃんが僕にくれた卵のことを忘れちゃったのっ!。ここに来る前に孵りそうだって話してたでしょっ!」

 「ええぇぇーーーっ!、それじゃあこいつがリアの言ってたあのリトル・ホワイト・ドラゴンなのにゃぁぁーーっ!。確かまだ子供でそんなに大きくないって聞いてたのに……。これじゃあ全然リトルじゃないじゃないかにゃっ!」

 「そりゃ子供だって言ってもドラゴンだからね。元々の種族としての大きさが僕やデビにゃんとは比較にならないよ」

 「にゃ、にゃぁ……まぁ、確かにその通りだにゃ。でもそういうことならこの子はナギの新しい仲間モンスターでことで、これから僕と一緒にナギを守る為に戦ってくれる相棒ってことだにゃ」

 「そうだよ。さっきだって生まれて間もないのに敵に捕らわれてやられそうになってた僕を助け出してくれたんだから。そのおかげでデビにゃんをここに呼び出せるようにもなったんだし……。だからそんな驚いてばかりいないでこれから一緒に戦う仲間としてちゃんと挨拶してあげて」

 「分かったにゃっ!。僕は君と同じナギの仲間モンスターでデビルキャットのデビにゃんって言うにゃ。さっきは僕のいない間にナギのことを助けてくれてありがとうだにゃ。これからナギと共に一緒に戦う仲間としてよろしくだにゃ、えーっと……」

 「あっ!、その子の名前はシャインだよ。光の中から現れたからその名前を付けたんだけど……、デビにゃんがいない間に勝手に決めちゃってごめんね」

 「別に構わないにゃ。僕もピッタリの名前だと思うしその子もきっと良い名前を付けて貰って喜んでるのにゃ。そういうわけでこれからよろしくだにゃ、シャイン」

 

 “グオグオッ♪”


 デビにゃんの肩を叩いて来たのはデビにゃんがここに来る前に生まれたばかりのシャインだった。生まれたばかりといえどその図体ずうたいの大きさに驚きが隠せず、おまけに最初は敵のモンスターだと思ったのか慌てて叫び散らしていたのだが無事同じナギの仲間モンスターとして理解し合えたようだ。そんなナギ達の様子を少し離れた位置からナミから見ていたのだが……。


 「あれは……どうやら拘束が解けたことでナギもデビにゃんを呼び寄せることができたみたいね。お〜い、ナギィ〜、デビにゃぁ〜んっ!。久しぶりに会えて嬉しいんだろうけど今は再開を喜んでる場合じゃないわよ〜」

 「にゃぁ……あっ!、あれはナミっ!、それにリアもいるにゃっ!。二人もみたいで良かったにゃ。……ってでもあれ。なんだか僕達のパーティ以外のメンバーもいるみたいだにゃ。あれは確か……っ!。この作戦の総司令官のゲイルドリヴルっ!、その上鷹狩に不仲までいるのにゃっ!。一体どういうことなのにゃっ!」

 「あっ、それがよく分かんないんだけどついさっき僕達のところにもゲイルドリヴルさん達が天井の方から助けに降りて来てくれたんだよ。デビにゃん達のところにもカイル達が来たみたいだしやっぱり最初にあった説明の通りダンジョン内で合流できるようになってたみたいだね。しかもここはダンジョンのボスのいるエリアだしきっと他のルート全部と繋がってるはずだよ」

 「にゃ……にゃぁっ!、今敵のボスって言ったにゃっ!」

 「そうよっ!、ナギも私達もそこの頭に分け分かんないもの被ってる変態拷問野郎に散々酷い目に合わされたんだんからっ!。これからその借りを返す為にそいつをぶっ飛ばすところなんだからデビにゃんも気合入れて掛かってよねっ!」

 「………」

 「あ、あいつがこのダンジョンのボス……。そういえばカイルがナギ達が敵の罠に掛けられて敵のボスのところに送られたって言ってたっけにゃ。なんか見た目の雰囲気からして滅茶苦茶危なそうな奴だにゃ」

 「見た目だけじゃないよ。ナミの言ってた通り相当危険な奴で僕はさっきまであいつに拷問されたんだから」

 「ご、拷問だってにゃぁっ!」

 「うん。その上あいつは拷問を与えた相手からその相手や所属する国の情報を引き出して他の国に売り払っちゃうんだ。僕もさっき少しだけどあいつに情報を奪われて……。だから他の国に有利になる情報を渡される前になんとしてもここで倒しておかなくちゃいけない相手なんだ」

 「にゃぁ……僕のご主人様でるナギを拷問に掛けた上に国の情報まで……。ナミに言われるまでもなくナギをそんな酷い目に合わせた奴はぜぇーったいに許せないのにゃぁぁーーっ!。今すぐ僕がその悪行の報いを受けさせてやるから覚悟するのにゃぁぁぁーーーーっ!」

 

 拷問紳士の歪とも言える風貌に戸惑うデビにゃんであったが、ナギが拷問を受けたと聞きその憤りは一気に頂点へと達した。そしてそのデビにゃんの怒りの叫びはまるで戦闘開始の合図のように広間中に響き渡り、互いに敵意を向け合ったままのナギ達の膠着を解き放つかのように皆一斉に行動を開始するのだった。


 「よし……っ!、これ以上睨み合っていても時間の無駄だ。あのナギのもう一体の仲間モンスターのデビにゃんと言ったか……。あいつも今すぐにでも敵に仕掛けそうな勢いだし我々も行動を開始するぞ。……まず、ナミ。お前は我々が正面にいる二体の相手をしている間にナギの援護に迎え。ナギ達の元に着き次第余裕があればさっきお前も食べたこのローストビーフを皆にも渡すんだ。恐らく更に大量のリスポーン・ホストのモンスターが出てくるだろうがそいつらの対処はなるべく私達に任せろ」

 「分かったわっ!」

 「リアと不仲はあの山羊の相手だ。恐らくこの館の主人であったサニールと思われる男の霊は私と鷹狩でする」

 「了解よ」

 「……ではいくぞ」


 いよいよ拷問紳士との本格的な戦闘を開始しようとするナミ達。ゲイルドリヴルと鷹狩がサニール、リアと不仲がデーモンゴートの相手を、ナミは単身ナギ達の援護に向かうことになった。拷問紳士の魔の手からサニールを解き放つという役目のある鷹狩はともかく、本来なら治癒術士としての職の経験を積んでいるリアの方をナギ達の援護に向かわせるべきだったが、そこはゲイルドリヴルもナギへと寄せるナミの思いの方を優先したようだ。再びナギが危機に陥るような状況になった場合勝手な行動を取られては困るということだろう。ゲイルドリヴルの指示に従ってすぐさま行動を開始するナミ達であったが、当然拷問紳士達もそれを手を拱いて見ているわけもなく、更なるリスポーン・ホストのモンスター達を出現させると共にそれぞれに向かって来る相手の迎撃を開始するのであった。


 「おおぉぉーーっ!、いよいよバトルの始まりですかぁっ!。最初は乗り気ではなかったもののこうしてあなた方の敵意や殺気をマジマジと感じさせられると久方ぶりに私も気が昂って参りました。拷問している時以外でこれ程エキサイティングするのは初めての経験でーす。ですがこのままでは如何せん数の上でこちらが不利……。まずは私の更なるリスポーン・ホストのモンスターを召喚させて頂きまーす。……っと言ってもサニールやデーモンゴートには遠く及ばない者達ばかりですが」


 “ヴィィーン……バババッ!”

 “グオォォォォッ!”


 拷問紳士の言葉の共に新たなリスポーン・ホストのモンスター達が大量に出現した。そのラインナップはこのダンジョンではもうお馴染みとなったマッド・ゾンビにグラッジ・シャドウ、先程までデビにゃん達が相手をしていたスケルトン、それだけはなくウィッピング・トーチャーとトーチャラーという鞭や魔法による拷問を得意とする拷問紳士のリスポーン・ホストの固有のモンスターと思われる魔族系のモンスター達も何体か出現していた。恐らくは他のモンスター達よりステータスや知性は高く設定されているのだろうが、拷問紳士と同じく目に瞳はなく、太く飛び出たような唇に青白い肌、おまけにどことなく表情がにやついていて不気味さだけなく厭らしさを感じさせるような相手だった。性格も狡猾でゲームのプレイヤー達としては最も相手にしたくないと思われるタイプのモンスター達だろう。


 “バチッ!、バチッ!”


 「ウキィーーッ!、ようやくオイラ達にもプレイヤー達を甚振るチャンスがやってきたウキィーーッ!。おまけに可愛くて美人な女の子達も一杯いるしこれはラッキーだウキィーーッ!。今すぐオイラの鞭で可愛らしい悲鳴を上げさせてやるから待ってろよウキーーッ!」

 「何よ、こいつ等……。女の子を痛めつけて喜ぶなんて最低のクズ野郎共じゃない。やっぱりあいつから出て来たリスポーン・ホストのモンスターだけあって碌でもない奴ばかりね。けど生憎とあんた等なんかに悲鳴を上げさせられるような軟弱者なんて私達の国はおろか他のどの国のプレイヤーの中にだっていないわよっ!。見てなさいっ!、今私がそのことを証明してあげ……っ!」

  

 “ザザッ……グサァッ!”

 “ウッ……ウキィ〜〜っ!”


 「……っ!、ゲイルドリヴルさんっ!」


 ウィッピング・トーチャーのベチベチと鞭を地面に叩き付ける挑発的な態度とその言動に憤りを感じたナミはゲイルドリヴルからの指示をそっちのけで殴り掛かろうとした。先程サニール達と対峙した時はナギの元に向かうことばかり考えていたというのに……。元々感情的になりやすいナミであるが、ナギが拘束から解放されたことで今度は目先の敵に注意がいくようになってしまったのだろうか。だがナミがウィッピング・トーチャーに殴り掛かる直前、ナミの横を颯爽とゲイルドリヴルが駆け抜けていき瞬く間にウィッピング・トーチャーを貫き倒してしまうのであった。そしてゲイルドリヴルの凄まじい突きの突風とそれに貫かれたウィッピング・トーチャーの断末魔、その後ナミの方を振り向いたゲイルドリヴルの険しい表情と叱喝しっかつの言葉は感情的になっていたナミを戒めるのに十分なものであったようだ。


 「何をしているっ!、雑魚に構わずお前はナギの元へ向かえと言っただろう、ナミっ!」

 「ご、ごめんなさい……。あいつがあんまりムカついた態度取るからつい……」

 「いいから早くナギのところへ行けっ!。あんまりグズグズしていると代わりにリアを向かわせるぞ」

 「……っ!、駄目っ!。別にリアのことを信用してないわけじゃないけどナギのところへは私を向かわせてっ!。もうこんな奴等には目もくれないからっ!」

 「ならさっさと行けっ!。それとナギのところに向かうということはあの拷問紳士の相手をしなければならないということだ。あのような風貌をしているとはいえこのダンジョンのボスであることに違いない。今のように感情的になっていては敵に足元をすくわれることになるぞ。決して無理をして自分一人で奴を倒そうなどと考えるな。手が空き次第我々もそちらの援護に向かうからそれまでなんとかナギ達と協力して持ち堪えろ」

 「分かったわっ!」


 “バッ!”


 ゲイルドリヴルの代わりにリアを行かせるという言葉が余程効いたのか、ナミの集中力とその真剣な表情は先程自力で拘束を破った時に近いと思える程のものまで代わりすぐさま再びナギの元へと向かい始めた。だがその行く手に立ち塞がるのは当然今のような雑魚モンスターだけではなく……。


 「………」

 「……っ!、またあいつっ!。さっきからことごとく私の邪魔ばかりしていい加減にしてほしいわ。そんなに私をナギのところへ行かせたくないってわけぇっ!」


 ナギの元へと向かおうとするナミの前に立ち塞がったのはやはりまたしてもこの館の主人でありながら拷問紳士のリスポーン・ホストにさせられてしまったサニールの霊、ファントム・バロン。先程からナミの行く手の邪魔ばかりしているように思えるが、ナミに執着しているというより主人である拷問紳士より与えられた使命を忠実に全うしようという意思が余程強いということなのだろう。現にナミの動きに反応する速さはデーモンゴートを他のリスポーン・ホストのモンスター達から群を抜いてる。この忠誠心から察せられる通り生前は誠実且つ勇敢な領主として名を馳せていたに違いない。それだけに自分を殺めた者の操り人形となってしまっている今が不憫でならないが……。だがナギ達も今はそのようなことを気にしている余裕もなく、ナミもナギの元に向かう為にはこのサニールの壁を突破しなければならない。先程のウィッピング・トーチャーや他のリスポーン・ホストのモンスターとは比べ物にならない実力を持つこのサニールを相手にどう立ち向かうなのだろうか。


 「………」

 「くっ……ゲイルドリヴルさんはああ言ってたけどこいつは無視して巣通りできる相手じゃないわよね。もうさっきの魔術札みたいな目くらましのアイテムもないし……。こうなったら思い切ってヘブンズ・サン・ピアーの魔術札を……」

 「飛べっ!、ナミっ!」

 「……っ!」


 “バッ!”


 再び立ちはだかるサニールを前に討伐大会の時に手に入れたS級魔法であるヘブンズ・サン・ピアーの魔術札の使用まで考えたナミであったが、そんな時突如として後ろから再びゲイルドリヴルの“飛べ”っという覇気の篭った声が聞こえて来た。その覇気はまだそれ程ゲイルドリヴルと時間を共にしているわけではないナミを従わせる程力強いもので、サニールに接触する直前のところでナミは咄嗟にスピードを落とすと同時に少し身を屈め、体全体をバネにするようにうねらせ前方へと大きく飛び上がった。その跳躍の距離は悠々とサニールの頭上を飛び越える程のもので、ナミの突然の行動に反応出来ずサニールも只頭上を見上げることしかできなかった。それでも何とかナミの行く手を阻む為身を屈めて脚部に力を込めナミの元へと飛び上がろうとしたのだが……。


 「………」

 「させるかっ!。……はあぁっ!」

 「……っ!」


 “カアァンッ!”


 ナミの元へと飛び上がろうとしたサニールであったが、その直後ナミの飛び上がった後ろからゲイルドリヴルが凄まじい突きを放ちながら突進してきた。頭上のナミに気を取られていたサニールはそのまま貫かれてしまうと思ったのだが、寸前のところで反応して何とか剣でゲイルドリヴルの突きを防ぐことができた。だが例え剣で受け止めてもその衝撃までは防ぐことはできず、大きく後ろへと追いやられ体勢を崩されてしまった。まだ皆の戦闘態勢が整っていない為ゲイルドリヴルもそれ以上は追撃してこなかったのだが、他のリスポーン・ホストのモンスター達の反応も追いつかずナミには完全にこの場を突破されてしまう形になってしまった。流石にこうなってはサニールもナミの後を追うわけにもいかず、今は眼前がんぜんの敵であるゲイルドリヴル達との戦闘に集中する他なかった。


 「ちっ……!、とうとうあの嬢ちゃんに拷問様のところに行かれちまったか……。しょうがねぇ。まぁ、拷問様なら相手が一人増えたところでどうとでもないだろうし俺等はこいつらの相手に専念するか。さて……、あの槍使いの女の相手はあいつがするとして俺は……っ!」


 “シュイィィーーン……”


 「ちっ!」


 “パアァンッ!”


 「……っ!」

 「あんたの相手はこの私達よっ!。……はあぁぁぁぁっ!」


 サニールの頭上を飛び越えていくナミの様子を見ていたデーモンゴートももうナミの行く手を食い止めるのを諦めてゲイルドリヴル達の相手に専念つもりのようだ。まずは自分の相手を確認しようと改めてゲイルドリヴルや他の者達を見渡そうとしたようだが、自ら相手を選ぶ間もなくゲイルドリヴルから指示を受けていたリアと不仲が攻撃を仕掛けてきた。不意に放たれて来た不仲は矢はなんとかひづめで撃ち払うことができたが、休む間もなく今度はリアが上空から剣を構えて斬り掛かって来た。その剣身はリアの魔力によって帯びた高熱によって燃え上がるように真っ赤に染まっていた。どうやらリアは魔法剣士として得意の技であるパイロ・ブレイド・スラッシュを放ってきたようだ。


 「くっ……!。この野郎がぁぁーーっ!。……はあぁぁぁっ!」


 “ヴィィーンッ!”


 「……っ!」


 不仲の矢を弾く隙を突いて放たれてきたリアのパイロ・ブレイド・スラッシュに対し、避けることは不可能と判断したデーモンゴートは攻撃が当たる直前自らの両手の蹄を上空から斬り掛かってくるリアに向けある魔法を発動させた。その魔法はゴートスキン・シールド、山羊革の盾という意味の魔法だが、デーモンゴートがその魔法を発動させると同時に突き出した蹄の前に何も加工されていない状態の山羊の皮の形をしたピンク色の魔力が具現化したような物体が出現した。シールドの名の示す通り相手の攻撃を防ぐ為の魔法のようで、リアのパイロ・ブレイド・スラッシュは完全ではないにせよそのゴートスキン・シールドによって防がれてしまった。


 「ぐおっ!。くっ……この俺のゴートスキンの魔法を打ち破るとは中々良い斬撃を放ってくるじゃねぇか。……お前等ぁっ!」

 「ウキィーッ!、オイラの拷問魔法をくらえぇっ!。……アイロン・フロアーっ!」


 “ジュゥゥ……っ!”


 「……熱っ!。なに……っ!、急に足の裏が鉄板の上に立ってるように熱く……。くっ……、これじゃあまともに立っていられないっ!」


 なんとかダメージは軽減したもののリアのパイロ・ブレイド・スラッシュを受けてデーモンゴートは体勢を崩してしまった。だが自身の危機と察するや否やすぐさま周りのモンスター達に援護の指示を出し、リアを攻撃させて自身への追撃を防ごうとした。同じリスポーン・ホストのモンスターとは各上の存在からの命令に他のモンスター達はすぐさま反応し、まずはトーチャラーがアイロン・フロアーという魔法をリアに向けて発動させた。このアイロン・フロアーは対象者のいる場所を中心に一定範囲内の地面に高熱を発生させる魔法で、リアはその熱さに耐え兼ねてできる限り足が地面につかないようつま先立ちで必死に足をけんけんさせていた。その隙を突いて先程ゲイルドリヴルに倒されたのとは別のウィッピング・トーチャーがすかさずリアに攻撃を仕掛けてきたのだが……。


 「ウキィーーッ!、ナイスだ、トーチャラーっ!。これで奴はあの超熱い床に足をつけることができなくて思うように動けないはずウキッ!。この隙にオイラの100連叩きの刑で今度こそ可愛い女の子特有の可憐でいじらしい悲鳴を上げさせてやるから覚悟するウキィーッ!。……オラァァァァァっ!」


 “ヒュンヒュンヒュンヒュンっ!”

 

 同じウィッピング・トーチャーでもこちらは先程と違って両手に鞭を構えており、その両手の鞭を目にも止まらない速さでしらなせてバチバチと地面の床を叩きまくっていた。もはや腕と鞭の残像だらけでまるで本物がどこにあるか見分けられない程であったが、ウィッピング・トーチャーはそこから更にスピードを上げて地面を叩き続けていた。そして自身の鞭を打つ速度が頂点に達したと同時にその勢いのまま今度はリアへと向けてその鞭を打ち放った。どうやら100連叩きの刑という技らしいが、確かに一度攻撃に当たってしまえば100回以上の鞭打べんだを受けてしまうことは間違いない。それもまともに地面に足を着くこともできず体勢を崩した状態で直撃を受けてしまえば例えリアと言えども相手の言う通り断末魔の悲鳴を上げてしまうことになるだろうが果たして……。


 「ふんっ!、別に床が熱いだけなら地面に足をつかなければいいだけじゃない。あんた達が平気なところを見るとどうやら熱を発してるの私のいるところだけみたいだしそれなら……」


 “バッ!”


 「ウッ、ウキィィッ!」


 “バチバチバチバチィィッ!”


 ウィッピング・トーチャーの100連叩きが届く直前、リアは少しばかり熱さを我慢して床に足を力強く着き身を屈め地面を蹴って上空へと飛び上がった。いくら床が熱かろうとその場所から足を離してしまえば熱が伝わることはなく、周りのモンスター達の様子を見れば熱を帯びている範囲も大体把握できる。標的のリアが移動したことによってウィッピング・トーチャーの100連叩きは空振りに終わり、トーチャラーのアイロン・フロアーで熱くなった床を無数に叩き続けその鞭打の音が虚しく響き渡っていた。


 「はあっ!」


 “ズバァーンッ!”


 「ウッ、ウキィィーーーッ!」


 上空へと飛んだリアはそのまま100連叩きを放った反動で動けずにいるウィッピング・トーチャーの元へと舞い下り、その勢いのまま剣で斬り伏せてしまった。数が多いとはいえ流石にリスポーン・ホストのモンスターにやられてしまうリア達でないようだ。そしてゲイルドリヴルやリア達がサニールとデーモンゴートの相手している頃ナギ達も周りに出現したリスポーン・ホストのモンスター達を掃討していたのだが……。


 「てやぁぁーーっ!、アースフロー・ビローイングッ!」

 「にゃあぁぁぁぁぁっ!、アックスゥゥー……、ブーメランにゃぁっ!」


 “グオォォッ!”


 ナギ、デビにゃん、シャインの3人はそれぞれ3方向に分かれて迫りくる敵を迎撃していた。こう敵に囲まれた状態では後衛の役目に回りようがないとナギは武器をアース・カルティベイションに持ち替え近接戦闘を、デビにゃんはアクスマン直伝のアックス・ブーメランで、シャインは炎のブレス攻撃を軸に戦っていたようだ。だが敵のボスありリスポーン・ホストの能力の持ち主である拷問紳士の近くにいた為かナギ達の周りに発生したモンスターの数は多く、更に倒しても次々と新たなモンスター達が出現しなんとか敵を迎撃するので精一杯の状態だった。まずゲイルドリヴル達が援護に来るまで耐え凌ぐのが優先ではあるが、それでもなるべく自分達が有利な状態保っておきたいところなのだが……。


 「ふぅ〜、久々にアース・カルティベイションで戦ったけど……。やっぱり魔術師の職に就いてる状態で続けて近接戦闘をやると

ドッと疲れるね。ナミは魔術師のままでも平気で敵をぶん殴りまくってるけど平気なのかなぁ」


 “グオォォ……ッ!”


 「……っ!。ってそんなこと言ってる間に敵が……。これじゃああいつと戦う前にこっちの体力が尽きちゃうよ」

 「それにあいつさっきからリスポーン・ホストのモンスターに任せきりで全然こっちに攻撃を仕掛けてくる気配がないにゃ。やっぱりあいつもさっきまで僕がレミィ達と戦っていたルートヴィアナ達と同じで雑魚モンスターの影に隠れて僕達が疲れて弱るのを待つ作戦なのにゃ。自分の勝利が確実な段階になるまで危険は冒さない……。当たり前のことかもしれないけどそれを非情なまでに徹底してくる魔族ってのは本当厄介な連中にゃ」

 「そうだね……。でもデビにゃん、一応言っておくけどあの人は拷問紳士って言ってあんな見た目をしてるけど人間みたいだよ。もしかしたらデビにゃん達が戦ってた魔族達と違って意外な行動を取ってるかもしれないから気を付けてね」

 「にゃあぁっ!」

 「(それにさっき僕を拷問に掛けた時にも僕以外は拷問しないって約束したり、拷問で得た情報以外は取引しないって言ったり非常って言う割には変な言動が多かったからね……。まぁ、全部本当かどうか分かんないけどどっちかって言うと僕には見た目通り性格の狂った印象の方が強いから急におかしな行動を取られて取り乱されないよう注意しておかないと……)」

 「うぉぉりゃぁぁぁーーっ!」

 「……っ!、この声はっ!」


 “ズドォーーンッ!”

 “グオォォォ……ッ!”


 「ナ、ナミっ!」


 懸命にリスポーン・ホストのモンスター達の迎撃し続けるも中々その囲いを突破できないナギ達、だがそんな時ナギ達にはもう聞きなれたナミの甲高い気合の入った叫び声が聞こえて来た。そしてこれもいつも通り得意の飛び蹴りを放ちながら全力で突っ込んで来たようで、モンスターの1体を背中から思いっ切り蹴り飛ばすと同時に颯爽とナギ達の前に姿を現すのだった。

 

 「待たせてごめんっ!、大丈夫、ナギっ!、デビにゃんっ!、……えーっとそれから」

 「この子名前はシャインだよ、ナミ」

 「そう、私はナミ。よろしくね、シャイン」

 「それでナミもこっちに来てくれたんだね」

 「うん、ゲイルドリヴルさんにもそう指示されたから。それとこれをナギ達にも食べさせるようにって……」

 「……っ!、こ、これは……ローストビーフっ!」


 ナギの元へと辿り着いたナミはゲイルドリヴルの指示通り食べた者にスピリット・オーラの魔法の効果を付与するオルタウラースのローストビーフをナギ達にも手渡した。その効果の程を聞いたナギ達は喜んでそのローストビーフを食すのだが……。


 「“モグモグッ……”。……っ!、なにこれぇっ!。滅茶苦茶美味しいじゃない、このローストビーフっ!。それでそんな凄い効果まで付与されてるなんて信じられないよ。どこでこんな良いアイテムを手に入れたの?」

 「さぁ、私もゲイルドリヴル達から渡されたからどうやって手に入れたかまでは知らないわ。でもこういう貴重なアイテムを入手できてるあたり流石司令官に選べれるだけあるわよね。ボスのいるこの間まで辿り着きながらもしっかりダンジョンの探索も行いながら進んで来たってことでしょ」

 「そうだね……。僕達になんて敵の罠に掛かってここに連れて来られただけだっていうのに……」

 「にゃぁぁぁぁっ!、今はそんなこと話してる場合じゃないにゃぁぁぁっ!、ナギィィーーっ!、ナミィィーーっ!。僕達はそのボスを相手にしてる上雑魚モンスター達に囲まれて追い詰めらてる状態なのにゃよっ!。早くこいつらを片付けないと敵のボスを倒そうにもあいつに攻撃することすらできないのにゃっ!」

 「あっ、それなんだけどゲイルドリヴルさんは自分達が援護に駆け付けるまで積極的に攻撃は仕掛けず守りに徹しろって。間違っても自分達だけでボスを倒すなんて考えないようにしろって言われちゃったわ」

 「でもこのままじゃあボスと戦う前に僕達力尽きちゃうのにゃっ!。援軍を待つにしてもまずは自分達に有利な状況を作り出さないと話にならないのにゃっ!」

 「確かに……。その方がゲイルドリヴルさん達が援護に来てからも一気に決着がつけやすいわね。逆に私達が不利な状況だと折角ゲイルドリヴルさん達が来てくれても私達を助けるのに精一杯であいつを倒すどころの話じゃなくなるかもしれないし」

 「よしっ!。じゃあ僕達だけでなんとか周りのモンスター達を片付けてあいつに攻撃を仕掛けられるくらいには持っていこうよ。倒すまではいかないにしても少しはあいつと直接戦ってどんな攻撃や動きをしてくるのか確かめておかないと……」

 「そうね……。でもその前にナギ、あんたはまず武器をそのアース・カルティベイションから魔術師用のものに切り替えて」

 「えっ……でもどうして……」

 「どうしてあんたまだちょっと周りの雑魚モンスターと戦っただけなのにヘトヘトじゃない。額には汗をベットリ掻いてるしまだ魔術師の状態で近接戦闘をするのに慣れてないんでしょ。私が前衛に回るからナギは後ろから魔法で援護をお願い」

 「分かった。ありがとうね、ナミ」

 

 現在のステータスでは苦手な近接戦闘でナギの疲れた様子を見たナミは自身が前衛の役に回ることを勝手出た。確かにナミ、デビにゃん、シャインの3人がいれば敵に囲まれた状態でも後衛となったナギを守ることができる。そうして迎撃に専念している内に敵の囲いを突破できればナギの護衛に必要な前衛の数も減り、皆今より行動の幅をグッと行動の幅が広がり今度は守る側から攻める側に回ることがだろう。っといってもあくまで拷問紳士との決着はゲイルドリヴル達と合流してから着けるつもりのようだが……。


 「どうやらナミは無事ナギ達と合流できたようだな、ゲイル」

 「ああ、デビにゃんとあの新たな仲間モンスターもいるしこれで持ち堪えるだけならば十分可能だろう。後は我々が早急にこいつ等を仕留めてナギ達と合流するだけだ」

 「そうだな。だがベンとの約束のことは忘れないでくれよ。恐らくあの男の霊のモンスターがこの館の当主であったサニールに間違いないはずだ」

 「分かっている。なるべく私が相手のHPを最小の状態まで削るからお前はどうにかして奴にグラッジ・ファントムから貰ったローストビーフを食べさせろ」

 「ああ……」


 ナミがナギ達と合流し、戦闘の構図は大きくナギ、ナミ、デビにゃん、シャインVS拷問紳士、次はゲイルドリヴル、鷹狩、ヴェニルVSサニール、そしてリア、不仲VSデーモンゴートの3つに分かれることになった。ゲイルドリヴルとリア達は近い距離にいる為互いにフォローも可能だろうが、それは敵であるサニールとデーモンゴートも同じだ。ゲイルドリヴルの指示にもあった通り恐らく敵のボスである拷問紳士を倒すのはナギ達だけは不可能だろうから、ナギ達が勝利を得る為にはまずはゲイルドリヴル達がサニールとデーモンゴートを討ち果たすことが必要不可欠だ。どれだけ早い段階で援護に向かえるかもその後の拷問紳士との戦いの勝敗に大きく影響してくるだろう。だが強力なステータスと実力をもつこの館の主人であったサニールを相手にそう易々とゲイルドリヴル達はナギ達の援護に向かわせてもらえるのだろうか……。





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