finding of a nation 102話
「うおぉぉぉぉーーーっ!」
「くっ……ば、馬鹿な……っ!。私の魔力によって特別に作り出されたあの拘束具から自力で抜け出せるはずが……」
手錠に施された魔力で大幅にステータスが低下していたはずにも関わず自力で拘束から抜け出したナミに拷問紳士は初めて動揺した態度を見せ動きを止めてしまっていた。この館のボスである拷問紳士がこれまでの余裕のある態度を一変させたその驚きようから察するに恐らく自力での脱出はほぼ不可能に設定されていたと見ていいはずだ。現にまだまだナミ達より高いステータスを誇るはずのリアも全身に持てる限りの力を込め脱出を試みていたがその手錠はビクともしていなかった。仮にリアルキネステジー・システムの補正を考慮したしてもナミは囚われた状態のステータスの何百倍、場合によっては何千倍もの通常ではあり得ない程の力を引き出したことになる。一体ナミの身に何が起きたというのだろうが。だがその張本人であるナミは自身の身に起きたことなど構いもせず一心不乱に拷問紳士に向かって突っ走って行ったのだが、そのナミの拳にはこれまでナギの苦しむ様子を見せられたことによる凄まじい怒りが力となって込められていた。
「ま、まさかナミの奴本当に自力でこの固い手錠を……」
「うおぉぉぉぉーーーっ!」
「……っ!、待ちなさいっ!、ナミっ!。そいつを相手に一人で突っ込んでは危険よっ!。拘束が解けたのならまずは私の手錠を……」
「こぉんのぉぉーーっ!。あんたにはこの私のバーン・レイ・ナックルを直接叩き込んでやるから覚悟しなさいっ!。はあぁぁぁぁぁ……っ!」
怒りに我を忘れて無謀にも一人で拷問紳士に立ち向かおうとするナミ、その姿を見たリアは拷問紳士と同じく自力で拘束から抜け出たことに驚かせながらもすぐさま平静を取り戻しナミを呼び止めようとしたが、拷問紳士をぶっ飛ばすこと以外頭にない今のナミにその言葉は届くことはなかった。その願望を叶える為ナミは今自身の持つ技の中で最大の威力を誇る、今後ろで必死に自分を呼び止めようと叫んでいるリアから教わったバーン・レイ・ナックルを放つ為自身の右手に更に火属性の魔力を込め始め、その拳からは
ナミの凄まじい怒りを現すような赤いオーラが忘れだし、ナミが取った後の空間をまるで灼熱を帯びた風のように漂っていた。
「うおぉぉりゃぁぁぁーーーっ!」
「くっ……折角この拷問の一番のいいところでしたが仕方ありませーん。ここは見事己の力のみで私の拘束を破ったことに敬意を表して彼女の相手をしなければ……サモン・オブ・モーメントっ!」
“ヴィーン……”
「……っ!」
迫りくるナミを前に驚いてばかりもいられず、拷問紳士は一時ナギの拷問を取り止めサモン・オブ・モーメントにより2体のリスポーン・ホストのモンスターを出現させた。一体は山羊の姿をし二足歩行で立つ悪魔型のモンスターのデーモン・ゴート、そしてもう1体は無精髭を伸ばした高貴な雰囲気を纏った男性の霊と思われる、全身が半透明の青白いオーラの姿のゴースト系モンスターであった。拷問紳士のリスポーン・ホストとして出る高貴な男性の霊のモンスターといえばちょうど思い当たる者が一人いるはずだが……。そのゴースト系のモンスターは自身の体と同じく半透明の青白いレイピアと思われる剣を取り出しナミの前に立ちはだかるのだった。
「そ、そんな……いきなり2体もモンスターが出てくるなんて……。これじゃあとてもナギを助けに……くっ!、なんて弱音を吐いてる場合じゃないわっ!。こうなったらあいつらも纏めてぶっ飛ばしてやるまでよっ!。……てやぁぁぁーーーっ!」
「………」
そんな男の霊に構うことなくナミはバーン・レイ・ナックルの拳を撃ち放った。攻撃の対象は拷問紳士から男の霊に移ってしまっていたのだが、直接男の霊に拳を叩き込み、そこからバーン・レイ・ナックルによる灼熱のレーザーで貫き後ろにいる拷問紳士ごと焼き尽くしてしまうつもりのようだ。ナミはまだ魔闘家の職に就くことはできていないが、バーン・レイ・ナックル自体は魔闘家の職の技であった為その技を放つ時に限り魔法属性の攻撃に変換できる。ナミは男の霊の姿を見て瞬時にこれまでに戦ったゴースト系の相手だと判断し直前で魔法属性の攻撃に切り替えたようだ。そんなナミのバーン・レイ・ナックルの拳を男の霊は取り出したレイピアの剣身で受け止めようとし、ナミの拳と正面からぶつかる結果になったのだが……。
「……っ!、こ、こいつ……私のバーン・レイ・ナックルを正面から……。えぇいっ!、なんだか知らないけど死んで幽霊になっちゃった奴なんかに力負けしてたまるかぁっ!。うおぉぉぉぉーーーっ!」
「………」
“バアァァァンッ!”
「……っ!、きゃあぁぁーーーっ!」
「……っ!」
現在の自身の最大の必殺技あるバーン・レイ・ナックルの拳を男の霊に向かって撃ち放ったナミ、だがなんとその拳はその男の霊の持つレイピアの剣身によって完全に受け止められただけでなく、更にはバーン・レイ・ナックルの魔力まで押え込まれナミは肝心の灼熱を帯びたレーザーを繰り出すことができずにいた。なんとかレーザーを繰り出そうと更に拳に力を込めるナミだったが、相手の剣との凄まじい押し合いの末最後には互いの力が相殺された反動と衝撃で両者とも後ろに弾き飛ばされてしまった。バーン・レイ・ナックルが完全に繰り出される前の拳であったこその結果だろうが、自身の最大の技を相殺されたナミ、そしてその光景を見ていたナギとリアもリスポーン・ホストのモンスターにも関わらずの実力を持つ男の霊に驚きを隠せずにいた。一体どのようなモンスターなのかと思考を巡らせる一同だったが、次の瞬間拷問紳士によって男の霊の驚愕の正体が明かされるのであった。
「………」
「おおっ……まさか私のリスポーン・ホストのモンスターの中で最高の力を誇るサニールをここまで弾き飛ばすとは……。(ですがサニールを打ち破ることができなかったところをみると私の拘束を解いた時程の力は出せていないようですね。もしそうならいくらサニールといえど一撃で彼女の拳に粉砕されてしまっているでしょうから……)」
「ぐぅっ……、サ、サニールですって……。なんかどこかで聞いた名前のような……」
「……っ!。それはさっきこいつの話にあったこの館の本当の主人だった者の名前よ、ナミっ!。霊体の姿になってはいるけど風貌も一致しているし間違いないわ」
「えっ……そ、それじゃあもしかして……」
「ほほっ、その通り。今あなたが拳を放った相手はまさしく生前この館の主人であったサニール・ホーリースピリット本人の霊体なのですよ。折角ですので死後私のリスポーン・ホストのモンスター、ファントム・バロンとして働いて頂くことにしたのです」
「ファ、ファントム・バロンですって……」
「そうでーす。生前に一定の功績を果たした人間の霊がなることの許させるゴースト系モンスターの中でも屈指の存在なのですよ」
「くっ……!、自分だけじゃなくその家族や知り合いまで惨殺したの奴の下で直接働かされるなんて……。ナギに行ってる拷問といい本当に心の隅の隅まで腐り切った奴ね」
「ふふっ、そしてこちらの山羊の姿をしたモンスターがデーモン・ゴート。強力な魔力と知性を兼ね揃えた悪魔系モンスターでーす」
「よろしくな、嬢ちゃん」
「くっ……何がよろしくよ……」
「あなたのお相手はこの二人にして頂くことにしまーす。折角拘束から抜け出たというのに残念ですがあなたには再びナギ君が拷問される光景を眺めて頂きまーす」
「……っ!、な、なんですって……っ!」
やはり拷問紳士のリスポーン・ホストのモンスターとして現れた男の霊は生前この館の主人であったサニール・ホーリースピリットであった。今はファントム・バロンというゴースト系モンスターとなっているようだが、パラやブラマ達他の悪霊と化している者達と違い完全に自身の意志を失っているようで、ナミの拳との激しい衝突にも一切表情を変えることなく一言も言葉を発する様子がなかった。やっとの思いで拘束から抜け出しナギを助け出そうとするナミだったが、その願いを阻むべくサニールとデーモンゴートという2体の強力なモンスターが立ちはだかるのだった。
「そういうことだ。悪いがちょっと付き合ってもらうぜ、嬢ちゃん」
「………」
「うっ……今すぐナギを助け出さなきゃいけないっていうのにこんな奴等の相手をしないといけないなんて……。こんなことなら先にリアを助けておけば……」
「おっとっ!、今度は後ろで囚われてるお仲間さんのことを気にしてるようだが今更そっちを助けようなんて俺達は許さねぇぜ。可哀想だが嬢ちゃんには一人で俺達の相手をしてもらわないとな」
「くっ……」
「もう私に構う必要はないわっ!、ナミっ!。それよりそいつら相手に背後をさらけ出す方が危険よっ!。無茶かもしれないけどどうにかあなた一人でそいつらを対処してっ!」
「そ、それは分かってるけどそんなことしてる間にナギの手が斬り落とされちゃう……。けど私一人でこいつらを突破なんてできっこないし……。せめてもう一人誰か援護に来てくれれ……」
「あ〜れぇぇーーーっ!」
「えっ……!」
ナギの救出を阻み立ちはだかる2体の相手を前にどうすることも出来ず立ち尽くすナミ。まだ壁に磔にされた状態のリアの方を後目にそっと覗いていたが、目の前の敵に背中を見せることはできず今更助けに戻ることはできそうになかった。ナミとしてはどちらかがサニールとデーモン・ゴートの相手をしている間にもう一人がナギの救出に向かいたかったようだが……。だがそんな時もう一人仲間の援護を望むナミの頭上から何者かの叫び声が聞こえてきた。突然の出来事に地下室にいる一同が慌てて上空を見上げると……。
「あ、あれは……」
「……っ!、ふ、不仲さんっ!」
“ダアァンッ!”
「な、なんだぁっ!、上からもう一人人間みたいな奴が落ちて来やがったぞ」
「………」
なんと上空を見上げたナミ達の目に入って来たのは哀れな叫び声を上げながら落下してくる不仲の姿だった。不仲といえば先程までゲイルドリヴル達と共にチャッティル達と戦っていた最中に落とし穴の罠に嵌ってしまっていたのだが……。この落下は不仲にとっても不意の出来事だったのか完全に体勢を崩しており、ちょうどナミとリアの間の辺りに背中から叩き付けられるように落下してしまった。
「痛つつつっ……。い、一体何がどうしたというのですの……」
「ちょ、ちょっとどうしたのよ……あんた……。いきなりこんなところに現れて……」
「へっ……!、あ、あなたはナミさん……。あなたの方こそ何故いきなり私の目の前に……。一体私の身に何が起きたというのですの……」
「それを私が聞いてるんだけど……まぁいいわ。そんなことより今私達大変な状況に陥ってるの。痛がってるところ悪いけどナギを助ける為に手を貸してちょうだいっ!」
「ナ、ナギさんを助ける……?。……っ!、あ、あれはもしやナギさんも敵囚われてしまったというのですのっ!」
「そうよ。それに後ろにはリアも柱の壁に磔にされちゃってるわ」
「リ、リアさんまで……っ!」
「………」
突如現れた不仲に対しナミは事情を問い質す間も惜しんでナギの救出に協力するよう要請した。ナミの要請を聞いた不仲が前方を確認するとそこにはサニールとデーモン・ゴートという如何にも強力なステータスを誇る雰囲気を漂わせた2体のモンスター、その奥の電気椅子に囚われたナギとその前に手斧を持って立つ拷問紳士の姿があった。更にはナミに促され後ろを振り向くと柱に磔にされたリアの姿まで……。ナギ達の身に起きたこれまでの経緯についてはまるで知る由もなかった不仲だったが、ナミの切羽詰まった表情と態度、尻もちをついて落下するという無様な姿をさらした自分に対していつものような皮肉を言うことなく真剣な表情でこちらを見つめるリアの視線、そして何より目の前に広がる光景から如何にナギ達が追い詰められた状況にあるかを瞬時に判断した。これまでならそのような状況にあるナギ達のことなど構いもせず自身が罠に掛かったことに悪態をついていただろうが、ゲイルドリヴル達と行動を共にしたここに来るまでの経験で他のプレイヤーや存在に対する意識に大きく変化があったのか不仲はナミの要請に素直に従いすぐさま協力的な姿勢を取るのだった。
「こ、これは確かに大変まずい状況のようですわね……。ですが敵の向こう側にいるナギさんより先に後ろにいるリアさんを先に救出した方がよろしいのでは……」
「駄目っ!、今は敵の手に掛かろうとしているナギの救出が先決よ。ナギの手首が斬り落とされる前になんとしてもあいつから助け出さないと……」
「て、手首が斬り落とされるですって……っ!。わ、分かりました……。まだ事態をあまり把握できておりませんがそういうことならばナギさんの救出を優先いたしましょう。私が弓で援護いたしますのでナミさんはなんとかあの2体のモンスターを突破してナギさんを救い出してくださいませ」
「助かるわ。あなたも何か事情があってこの場所に来たはずなのに急にこんな無理なお願いをしてごめんなさいね」
「お気になさらずに。それよりナギさんを救出に向かう前に是非これを召し上がってくださいませ。ここに来る前にゲイルドリヴルさん達共に入手したゴースト系モンスター相手にも物理攻撃が有効になる特殊な効果を持ったローストビーフですわ」
「ほ、本当……っ!。それはありがたく頂かせてもらうわ。ちょうどあのサニールっていうこの館の主人だった人の霊に手を焼いていたところだったから。……滅茶苦茶美味しそうな香りがするけど今は味わって食べてる場合はなさそうね」
「どうやら今落ちてきた奴もあいつらの仲間のプレイヤーだったらしいな。見た目の格好からして弓術士系の職に就いているものだろうが……あいつも俺達で始末して構わないんですよね、拷問様」
「勿論でーす。恐らく部下達が私への土産のつもりでここで送り込んでくれたのでしょうが私はもう自分以外の者は拷問に掛けないとナギ君と約束してしまいましたからね。後からここに現れた彼女もその約束の例外ではありませーん」
「へへっ、了解ですっと。俺としても獲物を甚振る楽しみが増えてラッキーだぜ。なぁ、お前もそう思うだろ?」
「………」
「ちっ……相変わらず無口な奴。まぁ、拷問様のリスポーン・ホストのモンスターになる際に完全に自我を奪われてるんだから仕方ないか」
「“モグモグッ……ゴックンッ!”。OKっ!、それじゃあいくわよ、不仲さんっ!」
「ええ、ナミさんっ!」
「うぉ〜りゃぁぁーーーっ!」
“ダダダダダダッ!”
ローストビーフを食べ終わったナミは不仲に一声掛けると同時に再びナギを救い出すべく拷問紳士に向かって突進していった。しかし今度は不仲の援護があるとはいえファントム・バロンと化したサニールとデーモン・ゴートという更に2体もの強力なモンスターだが立ちはだかっている。正直言ってナギの救出はかなり厳しいものだと言わざるを得ない状況だが果たして……。
「はっ!、この状況でそれだけの威勢を放って突っ込んで来るとはなんとも甚振り甲斐のありそうな嬢ちゃんだぜ。よしっ、今度は俺が嬢ちゃんの相手をしてやる。たっぷりと可愛がってやるから覚悟……」
“バッ……”
「………」
「……っ!、な、なんだよ……。またお前があの嬢ちゃんを迎え撃つつもりか。自我のないくせに随分と積極的な野郎だな、おい……」
「………」
再びナギを救い出そうと敵陣に向かって突っ走るナミ、それを迎え撃とうするデーモン・ゴートを遮るように前に立ちまたしてもファントム・バロンと化したサニールがナミの前に立ちはだかった。本当は自らの手で威勢のいいナミを返り討ちにしたかったデーモン・ゴートだったが、サニールの無言の圧力に後ろに引かざるを得なかったようだ。
「………」
「くっ……またあいつか。さっき吹っ飛ばされた借りを返したいところだけど今はあんな奴等の相手をまともしている場合じゃないわっ!。なんでもいいからとにかくナギを救い出す隙を作り出さないと……てやぁっ!」
“シュッ!”
「……っ!」
「な、なんだ……。なんか投げて来やがったみたいだが後ろに通り過ぎちまったぞ……っ!。まさか拷問様を直接狙ってっ!」
敵に向かう途中でナミはなにやらカードのようなものを取り出して正面に投げ放った。恐らく何か特殊な効果を秘めたアイテムなのだろうが、それは敵へと向かわずサニールとデーモン・ゴートの間を通り過ぎていってしまった。もしや自分達の主人である拷問紳士を狙ったのではないかと慌てて後ろを振り返る2体だったが……。
“バッ!、……パアァーーンッ!”
「な、なんだぁっ!。あいつの投げたやつから急に光が……。くっ……ま、眩しい……」
「……っ!」
直接拷問紳士を狙ったと思われたナミの投げ放ったカードだったが、サニールとデーモン・ゴートが後ろを振り向いた瞬間急にそのカードから眩いばかりの光が溢れ2体を、そしてその後ろにいた拷問紳士と椅子に囚われたナギを包み込んだ。ナミの投げ放ったカードはどうやら魔術札のようでこの光はそれに封じられていた魔法の効果が発動したことによるもののようだ。その封じられた魔法の名はホーリー・フラッシュ・ボム、フラッシュ・ボムは閃光弾を意味しその名の通り瞬間的に強い光を発しその光で範囲内の敵の目を眩ませることのできる魔法だ。更には光に込められた聖なる力によって低級のゴースト系モンスターを消滅させる効果もある。本来は手に作り出した光球を投げ放ち任意の場所で光を発生させられるようだが、魔術札の場合は札を光球の代わりにそのまま投げ放つことでも発動が可能だ。敵に悟られにくいことを考えるとこちらの方がその有効度はかなり高く感じられるが、その分このフラッシュ・ボム系統の魔法が封じられた魔術札の作成は同ランクの魔法に比べて遥かに難しいものになっている。そしてこの魔術札はナミが最初の討伐大会の賞品として手に入れた物の一枚だったようだ。ナミはサニールとデーモン・ゴートが目を眩ましているこの隙に突破を試みようとしたようだが……。
「よしっ!、今の内にナギのところへ……」
「ぐっ……馬鹿がっ!。こんな目眩ましなんかで俺達が止められると思ってるのか。この程度の魔法の効果お前が俺達の横を通り過ぎる前に解け……」
“グサッ!”
「……っ!、ぐっ……ぐはぁっ!」
「……っ!」
ホーリー・フラッシュ・ボムを受けて目の眩んでいたサニールとデーモン・ゴートだったが、流石に拷問紳士のリスポーン・ホストのモンスターとなる程の実力者だけあってすぐに視覚を取り戻し、今まさに自分達の横を通り過ぎようとしていたナミに攻撃を仕掛けようとした。だがサニールとデーモン・ゴートの注意がナミへといったその時、突如2体の腹部に激痛が走った。2体が慌てて自身の体に目を向けるとその腹部には不仲が放ったと思われる矢が突き刺さっていた。どうやら不仲はナミの放ったホーリー・フラッシュ・ボムの効果が発動すると同時に素早く2体に向けて矢を放っていたらしく、視覚を奪われていた2体は矢が放たれていたことにも気付けていなかった。そして狩人である不仲が放った矢の鏃には麻痺毒の効果が付与されており、視覚が戻ったのも束の間サニールとデーモン・ゴートの2体は体の動きを封じられてしまった。
「くっ……か、体が動かねぇ……っ!」
「………」
「さあっ!、今の内にナギさんの救出を、ナミさんっ!。こいつら相手には私の麻痺毒の効果もそう長くは持たないはずですわ」
「分かってるっ!。ありがとう、不仲さん。……てりゃぁぁぁーーーっ!」
“バッ!”
不仲の麻痺毒を受けて動きの止まっているサニールとデーモン・ゴートの横を通り過ぎると共にナミは前方上空に向けて高く飛び上がり、地上にいる敵にミサイルを撃つように凄まじい蹴りを放つ飛翔空蹴撃を拷問紳士に向けて撃ち放った。室内であることと相手の距離がそこまでなかった為ライノレックスと戦った時より大分飛び上がった高度が低く蹴りの角度もより地面に水平に近いものであったが、それでもまるで威力は衰えていない様子でまさに弾丸の如く凄まじい勢いで拷問紳士に襲い掛かった。
「お、おお……い、今のは眩しかったでーす……。まだ目に痛みが走ってまともに開くことができませーん」
「はあぁぁぁぁっ!、……飛翔空蹴撃っ!」
不仲の麻痺毒こそ受けてはいないものの、拷問紳士は自身のあまりにも優位な状況に余裕を感じてか未だに目が眩んだ状態から回復しておらずこのままではナミの飛翔空蹴撃の直撃を受けてしまうものと思われたのだが……。
「てりゃぁぁぁぁーーっ!」
“ヴィーン……バッ!”
「な、何……っ!」
「………」
未だに目を眩ませている拷問紳士を見て確実に自身の攻撃の標的に捉えたと思ったナミであったが、次の瞬間突如として拷問紳士の前に不仲の麻痺毒を受けて動けずにいたはずのサニールが一瞬にして姿を現した。恐らく何かゴースト系モンスター特有の技を使用し移動して来たのだろうが、不仲の麻痺毒すらこの短時間で解除してしまう程サニールのモンスターとしてのランクは高いということなのだろうか。そして姿を現したサニールはレイピアを構えると蹴りを放ちながら突進するナミに対し霊体である自身と同じ性質をもった斬撃を飛ばすファントム・スラッシュを撃ち放つのだった。
“バッ……ズバァーーーーンッ!”
「……っ!。きゃあぁぁぁぁーーーっ!」
あと少しで拷問紳士に飛翔空蹴撃の直撃を食らわせその隙に一気にナギを救出できると攻撃の途中ながらも希望を抱いていたナミであったが、無念にもその希望を撃ち落とされるようにサニールのファントム・スラッシュを受けると空中で体勢を崩し再び後ろにいる不仲のところまで吹き飛ばされてしまった。サニールがここまで移動するのに使用した技はシャドウ・テレポート、ゴースト系モンスター特有の能力で範囲内の好きな場所に転移することができる。EP、MP共に大量に消費してしまい、連続で使用することも不可能だがゴースト系モンスターの中でも上級に位置するものしか保持していない強力な能力だ。ファントム・スラッシュはセイナのブレイズ・スラッシュと同系統の術技であるが、これもゴースト系モンスター特有の技として相手のMNDの値とその時の精神状態によって大きくダメージ量が変化する特性を持つ。またグラナの使用していたファントム・キャリバーも動揺の特性を持っている。あくまで飛ばされた斬撃を受けただけで直接斬りつけられたわけではなかった為ナミの受けたダメージ自体はそれ程大きくなかったようだが、ナギを助け出す絶好のチャンスを見す見す逃してしまったことに強い失意の念を感じてしまっていた。この精神状態のままで再びファントム・キャリバーやファントム・スラッシュの攻撃を受ければ更に大きいダメージを受けてしまうことになるだろう。
「うっ……く、くっそぉぉ……っ!」
「だ、大丈夫ですか、ナミさんっ!」
「え、ええ……私は大丈夫よ、不仲さん。だけどあと少しナギを助け出せるところだったのにまたあいつに邪魔されちゃったわ」
「あの貴族の格好をした男の霊にですか……。しかし私の麻痺毒からああも容易く回復することができるとはその風貌通りモンスターとしての位もかなり高いようですわね。あちらの山羊さんは今ようやく動けるようになったというところですのに……」
「ぐっ……う、うおぉぉ……っ!。ふぅ……、ようやく体が動くようになって来たぜ。あいつの方は麻痺の耐性が高かったみたいで嬢ちゃんの攻撃から拷問様を守ってくれたみたいだな。おかげで助かったぜ」
「おおっ!、流石はサニールでーすっ!。よくぞこの私のピンチに駆け付けて下さいました。なんと主人思いの元主人なのでしょう」
「ぐっ……、何が主人思いの元主人よ……っ!。自分と自分の家族や仲間達を惨殺した奴にここまでコケにされて悔しくないの、あんたぁっ!。リスポーン・ホストのモンスターにされたかなんだか知らないけど折角蘇えったなら私の邪魔なんてしてないでそいつに復讐でもしたらどうなのよっ!」
「………」
「ふふっ、無駄でーす。私のリスポーン・ホストのモンスターとなった今サニールには自我もなく生前の記憶も持ち合わせておりませーん。そのような煽りの言葉だけで私へ敵意を向けさせようとしても無駄ですよ」
「くっ……」
「さてと……、ナミさん達のお相手はサニール達に任せて大丈夫そうですし私はそろそろナギ君の拷問の方を再開しましょうか。折角の良い場面で邪魔が入った為少しムードが損なわれてしまいましたが……、まだ覚悟はできていますね、ナギ君」
「うっ……」
サニール達がナミ達を食い止めている様子を確認して拷問紳士は再びナギの拷問へと意識を集中させた。そして一度下ろした手斧を持った右手をまた振り上げ、ナギに拷問の再開を匂わせる言葉を投げ掛けるのだったが、その言葉を受けたナギの態度からは少しの動揺が感じられた。自身の手首が斬り落とされようとしているのだから当然のことなのかもしれないが……。しかしこれまで電気椅子による凄まじい拷問にもまるで弱音を吐かなかったというのにどうしたというのだろうか。
「おや……、何か先程までと雰囲気が変わりましたね。今更になって私の拷問に恐怖を感じ始めたのですか」
「べ、別に何も変わってなんかないよ……。腕を斬り落とされるっていってもこれはゲームの中の出来事だしようはさっきまでの電撃と同じで痛みに耐え切ればいいだけでしょ。そうと分かってれば恐怖を感じたりなんか……」
「ふふっ、私の目は誤魔化せませーん。先程までと違ってあなたと表情と態度からはハッキリと私の拷問への恐怖が感じられまーす。……どうやら今のナミさん達の攻撃を見てもしや自分が助けられ拷問を受けずに済むのではと僅かな希望を抱いたことで折角強固に固めていたあなたの覚悟にほころびが入ってしまったようですね」
「そ、そんなこと……」
「そんなことはないと仰るのですか。まぁ、自身の本当の心境というのはなかなか自分では分からないものですからね。大抵の人間は今の自分にとって都合の悪い感情を否定したがるものでーす」
「ぐっ……」
「ですが実際に恐怖の対象と直面すれば自身でも自分の心境がハッキリと分かることでしょう。さぁ……、目をしっかりと開けて再びご覧になって下さい。暗闇の中であなたの手首に振り下ろさるのを“まだかまだか”と待つこの私の右手に振り上げられた白銀の刃の輝きを……っ!」
「うっ……」
“ギラッ!”
「うっ……うわぁぁぁぁぁーーーーっ!」
「ナ、ナギ……っ!」
更にどういうことか拷問紳士が再び手斧を振り上げその刃を見せるとナギは拘束された体を必死に捩らせ完全に取り乱した様子で悲観な叫び声を上げ喚き騒ぎ始めた。どうやら今になって拷問の恐怖が頂点に達してしまったようだ。拷問紳士が言うには“ナミが自分を助け出してくれるかもしれない”というかすかな希望を抱いてしまったことでナギの覚悟にほころびができてしまったということのようだが人の心境というのはそうも簡単に変化してしまうものなのだろうか。そんなナギの様子を見たナミもこれは只事ではないと察しすぐさまもう一度救出に向かおうとするのだが当然それを阻止するべく再びサニールとデーモン・ゴートがナミの前に立ちはだかるのだった。。
「きゅ……、急にナギさんの様子が一変してしまいましたわ……。いきなりあのように喚き散らして一体どうしたというのですの……」
「そんなのあいつに手首を斬り落とされるのが怖いからに決まってるでしょっ!。今までだって耐えられてたのが不思議なくらい酷い拷問の連続だったのに……。くっ……!」
“バッ!”
「あっ!、ナ、ナミさん……っ!。お気持ちは分かりますがお一人で突っ込んでは危険ですっ!。下手をすればあなたまでやられてしまいますわっ!」
「このままナギを見捨てるぐらいならそうなる方がマシよっ!。……待っててね、ナギっ!、今助けにいくからっ!」
“ダダダダダダッ”
「はっ!、俺達のことを忘れてもらっちゃ困るぜ、嬢ちゃん。あの拷問中のガキを助けたいならまずは俺達を倒してからにしてもらおうか」
「………」
「上等よっ!、あんた等なんて秒で瞬殺してやるから覚悟しなさいっ!」
「ふふっ、これであの嬢ちゃんも終わりだな。何の考えもなしに突っ込んで倒せる程俺達は甘くはねぇぜ。今度こそ俺があの嬢ちゃんをなぶり殺しにしてやるからお前は手を出すなよ」
「………」
サニールとデーモン・ゴートを前に玉砕覚悟で突っ込んで行くナミ。その怒りに我を忘れた態度と行動のあり方から先程の魔術札のような策を弄していないのは明らかで、自ら飛んでくる獲物をあざ笑うような態度でデーモン・ゴートはナミのことを待ち受けていた。一方ナミも怒りの感情に囚われながらも自身に勝ち目のないことは自覚できていたようだ。それでもナギのあの悲観に満ちた悲鳴を聞いて居ても立っても居られず思わず行動を起こしてしまったのだろう。だがそんなナミの決死の思いも虚しく、仮に宣言通りサニール達を瞬殺できたとしても拷問紳士の手斧の刃がナギの手首へと振り下ろされるのに間に合う余地はなかったのであった。
「ふっ、残念ですがもう間に合いませーん。さっきの飛び蹴りがナギ君を救い出す唯一のチャンスでしたね。ではこれまで鋼の意志を貫いてきたナギ君が私の拷問の恐怖に支配される最高の瞬間をご覧になってくださーい。……はあっ!」
「うわぁぁぁぁぁーーーーっ!」
「ナ、ナギィィィィーーーっ!」
“パアァァ〜〜ンッ!”
「……っ!、な、何ですか、この光は……っ!」
必死にナギの救出に向かうナミだったが、それを待つどころか行く手を遮るサニール達と戦う前に拷問紳士の手斧はナギの手首に向けて振り下ろされてしまった。だがもう駄目かと諦めけたナミ達がまるで最後の望みを神様にでも祈るように必死にナギの名を叫んだその時、突如としてナギの腰に付けているアイテム袋が眩いばかりの光を放ち始めたのだった。その光はナギを守るようにその身を包み込んでいき、まるで光が質量を持っているかのように不思議な力でナギの手首へと手斧の刃を振り下ろそうとする拷問紳士の体を押し退けていくのだった。実際にその光が何かゲーム上で特殊な効果を秘めていたのかどうかは分からない。だが予想外の事態の上とても只の光とは思えない威圧感のようなものを感じた拷問紳士は一度ナギから距離を取らざるを得なかったようだ。
「くっ……!、この私が思わず身を退けてしまうとは……。この光は一体……」
「ちょ、ちょっとリアぁっ!。ナギを包み込んでるあの光は一体何なのっ!。おかげであいつの斧を止められたみたいだけど光の中にいるナギは無事なのよねっ!」
「私にもナギの身に何が起きてるのかは分からないわ、ナミっ!。だけどとにかく今は慎重になって一度不仲のところに戻って態勢を整え直してっ!。ナギのことが気になるあなたの気持ちは分かるけど光が収まって様子が確認できるようになるまで待つのよっ!」
「わ、分かったわ……」
これまでナギを助け出すことに夢中で我を忘れていたナミだったが、リアの言葉に冷静さを取り戻し一先ず不仲の元まで戻り態勢を整え直した。サニールとデーモン・ゴートもナギの身から発生した光に注意がいき引き返すナミを追撃することはなかった。とはいえ恐らくこの隙を突いて無理にでもナギの救出に向かおうとすれば2体も黙ってはなかっただろうが。そしてナミ達と敵である拷問紳士達が見守る中ナギの身から発生した光は段々と収まっていき……。
「しかしこの現象は一体何だったのでしょうか。……っ!、もしやナギ君の身に何か変化をもたらしたのでは……っ!。(いえ……だとしてもそう簡単にあの拘束から抜け出すことはできないはずでーす。なんにせよこれ以上私の予想外の出来事が起きていなければ良いのですが……)」
「………。光が消えていくわ……」
“………”
「な、何……っ!。光の中からナギじゃない誰かの影が……」
「……っ!、あ、あれはもしや……っ!」
“グッ……グオォォ〜〜ンッ!”
「……っ!、ドラゴンよっ!、光の中から小っちゃいドラゴンが出て来たわっ!。あれってもしかして……」
「ええっ!、ここに来る前にナギが孵化しそうだと言ってた魔物の卵のものに違いないわっ!。あいつの斧が振り下ろされる直前で完全に卵が孵ったようね」
「では先程の光は卵が孵ったことによる演出のエフェクトだったのですね。それによってナギさんの危機を救うとは生まれる瞬間からなんと主人思いの魔物なのでしょう」
突如ナギを包み込んだ原因不明の光が収まったと思うと、なんとそこには全身を白く輝かせる小型のドラゴンの姿があった。小型とは言ってもナギ達人間のサイズを一回りも二回りも上回っており、全長2メートルは軽く超えていると思われる大きさだった。鱗というよりは宝石のようにツヤのある光沢を放つ鎧のように固い皮膚に全身を覆われ、手足には象牙のように鋭く大きく尖った爪が生えており、光の中から現れると共に翼を大きく広げ宙に浮き咆哮するその姿は小さくともドラゴンの名の貫禄を十分に感じさせるものであった。ただその咆哮する雄叫びの声は猛々しくもどこか子供の燥ぎ声のように無邪気なものので、丸々と大きな目の輪郭と瞳はそれ以上に幼い雰囲気をを醸し出していた。リア達の話ではナギの所持していた魔物の卵が孵ったことにより出現したらしいが、まさに生まれたての赤ん坊ということなのだろうか。また肩の間接部からは常に先程ナギを包み込んだものと同じように眩い光が溢れ出しており、全身を白く染めた風貌と相まって神秘的な姿をしていた。
「き、君は……。本当に僕がデビにゃんに貰った卵から生まれてきたモンスターなの……」
“グオグオッ♪”
ナギの問いかけ白い小型のドラゴンは嬉しそうな表情を浮かべて首を縦に振って返事をした。自分の仕えるべき主人との初めてのコミュニケーションだ。恐らくその胸の内にこれから始まるこの世界でのナギ達との冒険と生活に夢と希望を膨らませていたのだろう。だが今主人であるナギ達はそれとは正反対の現実と絶望に直面してしまっている。この白いドラゴンが事前にナギ達がレイコの館でリアに聞かされていた情報通りならその名は“リトル・ホワイト・ドラゴン”。戦闘能力は非常に高く、鋭い爪による攻撃や、強力な火属性のブレス攻撃を得意とする。レベルが上がるとホーリー・ブレスと言う強力な聖属性のブレス攻撃も使えるようになるということだが、果たしてナギ達にとってもこの追い詰めらた状況に夢と希望を与える存在になり得るのだろうか。
「あ、あれは確かリトル・ホワイト・ドラゴン……。光属性の所持属性を持ち聖属性の息吹による攻撃まで行える超強力なモンスターでーすっ!。まさかそのような貴重なモンスターの卵を所持しておりしかもそれがこのタイミングで孵化しようとは……」
“グオッ……!”
「……っ!、ナギ君を拘束している手錠を破壊するつもりですかっ!。私の手錠は拘束者を束縛する力強い分外部からの攻撃を受けるとあっさり壊されてしまう……。くっ……そうはさせませーんっ!」
“……っ!、グオォ〜〜んっ!”
「……っ!、ぐおっ!」
リトル・ホワイト・ドラゴンはナギを拘束している手錠を壊そうとその鋭利な爪を振り上げた。それを見た拷問紳士は慌てて止めようとしたのだが、リトル・ホワイト・ドラゴンもすかさず拷問紳士に反応し、一旦ナギの救出を取り止め灼熱を帯びた火球を口から迫りくる拷問紳士に向けて撃ち出してきた。撃ち出された火球のスピードはかなりのもので、拷問紳士もなんとか反応はできたものの正面で交差させた腕で受け止めるのがやっとで、更にその衝撃で後ろへと追いやられナギとの距離を逆に引き離されてしまった。その後もリトル・ホワイト・ドラゴンは警戒を解かず、ナギの手錠を破壊するのを後回しにしてずっと唸り声を上げて拷問紳士への威嚇を続けていた。
“グルルゥゥッ……”
「くっ……!、今生まれたばかりでこの威力……。レベルもまだそう高くないはずなのにこれ程の戦闘力を秘めているとは流石はあらゆるゲーム上で最強のの種族と扱われているドラゴン系モンスターだけありまーす」
“グルルゥゥッ……”
「どうやら意地でもこちらに隙を見せるつもりはないようですね。仕方がない……、サニール、デーモン・ゴート。すみませんが貴方方のどちらか一人こちらの援護に来て下さーい」
「了解ですっと……。さて、それじゃあどうする。俺はさっきの宣言通りあの嬢ちゃんの相手をしたいしお前が向こうに行ってくれるか」
「………」
「おいっ!、こういう時ぐらいちゃんと意思表示しろよっ!。さっきから上ばっか見上げてこっちのこと無視しやがってよっ!。もういいからお前はさっさと向こうに行けっ!」
「……何か来る」
「えっ……」
「……っ!、あ、あれは……」
「……っ!、ゲイルドリヴルさん……、それに鷹狩さんですわっ!」
主人である拷問紳士からの指令を受けてサニールにどちらがリトル・ホワイト・ドラゴンと対峙する拷問紳士の援護に向かうか問いかけるデーモン・ゴートだったが、そのサニールはというと拷問紳士からの指令にもデーモン・ゴートから問いかけにも上の空といった感じでジッと頭上を見上げていた。その姿を見たデーモン・ゴート、そしてナギ、ナミ、リア、不仲も同じく頭上を見上げると、そこには先程の不仲とは違いしっかりと着地に向けた体勢を取り慌てた様子もなく毅然とした表情で舞い下りてくるゲイルドリヴルと鷹狩、ヴェニルの姿があったのだった。




