finding of a nation 100話
「れ〜いさ〜ん、れ〜いさ〜んっ♪、人を困らしてばかりの悪い霊さ〜んっ♪。あまり悪さばかりしていると魂の次元が下がって天国へ行けなくなっちゃうわよ〜。え〜い、スピリット・ディセンショ〜ンっ♪」
“ヴィーーン……”
「……っ!、な、何……っ!。急に体が重く……霊体である私達が重力なんてものを感じるはずないのに……」
「うふふっ♪。このスピリット・ディセンションの魔法は範囲内にいる相手の魂のレベルを下げてしまうのよ〜。肉体を持たず魂のみの存在のあなた達はその影響を直に受けて全てのステータスが半減してしまいますわ〜」
「す、全てのステータスの半分になるですってぇぇーーっ!」
リリスが発動させた魔法はスピリット・ディセンション、相手の魂のレベルを下げて能力を低下させる効果を持つ魔法であるが、この館の悪霊達のように肉体を持たないゴースト系の相手に対しては特にその効果が大きい。パラやブラマ、そしてリスポーン・ホストの能力によって出現したグラッジ・シャドウ達に関してはその効果により全てのステータスが半減してしまったが、通常の肉体を持つ者の場合一部のステータスが10%低下する程度である。例え魂のレベルが低下しても肉体の能力には変化がない為それを補えるということだろう。因みにマッド・ゾンビ等アンデット系モンスターに関しては、魂を持たないわけではないがその行動のほとんどを肉体の力に頼っているということで減少効果は2〜3%程度しかないようだ。スピリット・ディセンションを受けステータスの低下したパラとブラマ達はまるで霊体で自分達が重力を感じようになったと思える程体の動きが鈍くなっていた。
「大地に棲みし穏やかなる土の精霊よ……。天をも受け入れるその広い心でどうか我が願いを聞き入れたまえ……。大地より分け与えられしその器に魂を宿わせここに降臨せよ。土の精霊・アーソイルっ!」
“パアァァ〜〜ン”
「こんにちわ、皆さん。私が土の精霊のアーソイルです。皆さんのお役に立てるようできる限り努めてまいりますのでどうぞよろしくお願いします」
「いつも丁寧な挨拶をありがとう、アーソ。だけどすでに皆このエリアのボスと思われる敵達と交戦中よ。出て来てすぐで悪いけどあなたは向こうのナイトの援護に向かってあげてちょうだい。私は己武士田の援護に向かうから」
「了解よ、レナ」
レナが精霊術によって召喚した精霊は土の精霊・アーソイルといい、砂漠の砂のようにさらさらとした長い肌色の髪とその砂漠の砂そのもののみを衣服として纏った体、大地のように全ての生き物を愛し育む抱擁さを感じさせる穏やかな表情をした美しい女性だった。彼女の纏う砂はそれと同じぐらいの微小に砕かれた宝石が散りばめられまるで太陽の光を反射する水面のようにキラキラと輝いており神秘的な印象も感じさせた。術者であるレナにはアーソと呼ばれていたが、アーソはその指示に従ってグラナとマジルと対峙するナイトの援護へと向かい、レナ自身はその反対側にいる己武士田の援護に向かった。精霊であるアーソも霊体であるブラマ達と同じく宙に浮いた状態で移動していたのだが、アーソの纏う砂と共に零れ落ちたと思われる微小の宝石が通った後の空間に星屑のように光漂っていた。
“ヴィーーン……”
「あっ……!、とうとう私の作った結界が解けてもたけぇ。けど今のリリスの魔法で敵も大分弱体化したみたいじゃしこれなら私等だけでもなんとかなるかも……」
「くっ……おのれぇぇ……っ!。だけど能力が半減したぐらいで数の上での優位は変わらないわ。いくわよ、パラっ!、皆っ!」
「ええっ!、ブラマっ!」
“バッ!”
リリスのスピリット・ディセンションを受けてステータスの半減したパラとブラマ達だったが、数の上ではまだ優勢であったことから当初の予定通り結界が解けパラ達の進行を防ぐ手段がなくなった馬子とリリスに向けて一斉に襲い掛かって行った。まずは前衛の役割を引き受けているパラとブラマが馬子を相手に近接戦闘を仕掛けていったのだが……。
「しねぇぇぇーーーっ!」
「よ、よし……っ!。リリスも頑張って魔法を発動させてくれたことじゃし私も腹をくくってぇ〜……。はあぁぁぁぁっ!、祈祷撃っ!」
「……っ!、きゃあぁぁぁぁっ!」
まずは自慢の短剣で馬子に斬り掛かったブラマだったが、腹を据えて正面から迎え撃った馬子の錫杖を縦に真っ直ぐ振って放たれた祈祷撃に正面からぶつかり合った短剣の剣身ごと後ろに吹き飛ばされてしまった。通常の状態ならば馬子の祈祷撃を受け止め切れただろうが、能力が半減したことで完全に力負けするようになってしまったようだ。
「ブ、ブラマ……っ!。く、くっそぉぉーーっ!、何をやってるのっ!、お前達。ブラマがやれたのにボサッと突っ立ってないでさっさとあいつ等に襲い掛かりなさいっ!」
“グオォォーーッ!”
「……っ!、舐めん取ってっ!。いくら数が多くても能力が低下した雑魚モンスターなんて……てりゃぁぁぁっ!」
“グオォォォォッ……”
「……っ!。グ、グラッジ・シャドウ達が一瞬で……」
ブラマがやられたのを見たパラはこのまま仕掛けては自分も同じ目に合うと思いまずは馬子の隙を作ろうと周りにいたグラッジ・シャドウ達をけし掛けた。グラッジ・シャドウ達は左右から勢いよく襲い掛かったのだが、ブラマを押し退けたことで自信がついたのか馬子はグラッジ・シャドウ達の攻撃がこちらに届く前に自ら敵に向かい今度は祈祷撃の錫杖を横に振り一撃で右側から来た敵を、その後すぐさま反対側を振り返り今度は左側か来た敵を薙ぎ払い倒してしまった。能力が低下したとはいえ馬子一人に対してここまで圧倒されるとは思ってもなかったのかパラはグラッジ・シャドウ達に続いて攻撃を仕掛けることはできず、後衛にいた者達も魔法を撃つのを躊躇してしまいその場に立ち尽くしてしまっていた。
「レナの指示で援護に参りましたわ、ナイト様。私土の精霊のアーソイルといいます。レナと同じようにアーソとお呼び下さい」
「よしっ!、アーソっ!。俺達の敵はあの魔剣士と魔術師の悪霊二人だ。俺が魔剣士の相手をするからお前は後ろの魔術師を牽制しつつ援護してくれっ!」
「分かりましたわ」
「……いくぞっ!」
「………」
“バッ!”
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
アーソと合流したナイトは再びグラナと剣戟を開始した。二人の剣の技量はほぼ互角といったところでこのままでは決着がつきそうになく、後ろで互いに牽制し合っているアーソとマジルの援護が勝敗を分けることになりそうであった。前衛で戦っている者を援護するかそれとも先に相手の後衛を片付けるか、激しい剣戟を繰り広げているナイトとグラナを挟んで睨み合いながら二人はそれぞれの策を考え仕掛けるタイミングを窺っていた。
「………」
「………」
「くっ……もうぉぉーーーっ!、じれったいっ!。いつまでもこうして腹の探り合いをしてるなんて私の性に合わないわ。こうなったら前衛は前衛同士、後衛は後衛同士で決着をつけてやるっ!。……はあっ!」
睨み合いに耐え切れなくなったのかマジルは自らの手でアーソを倒すべくバルコニーにいるマイを攻撃した時のように高く宙に浮いた。どうやらナイトと戦っているグラナに当たらないよう上空から魔法でアーソを攻撃するつもりのようだ。
「ふふっ、精霊であるあなたも当然魔法が得意なんでしょうけど、プレイヤーでもないあなたより私の魔法の方が威力で劣ってることなんてあり得ないわ。正面からぶつかり合えば必ず私の魔法があなたを粉砕する……スノウ・メイキング・ガンっ!」
“ビュオォォォォーーッ!”
「……っ!、くっ……!」
上空へと浮かび上がったマジルは再びスノウ・メイキング・ガンの魔法を繰り出し地上のテーブルの上にいるアーソに向けて撃ち放った。マジルの予想通りアーソの魔力では正面から撃ち払うことは不可能だったのか、アーソは不仲やマイと同じようにどこまで追い襲い掛かってくる氷の結晶の吹雪からテーブルの上を逃げ惑っていた。このままでは相手の魔法に追い付かれてしまうのも時間の問題であったのだが……。
「くっ……このまま地上を逃げ惑っていたのでは埒がいきませんわ。こうなったら……」
“バッ!”
「……!、あいつも上空に移動したっ!。くっ……!、けどその程度で私の魔法から逃げ切れると思っているのっ!。……はあぁぁぁっ!」
地上で攻撃を受けたままでは不利と判断したのかアーソもマジルと同じように上空へと浮かび上がり相手の魔法を躱した。それを見たマジルも慌てて魔法の方向を上空へと向けたのだが、地上ではまだしも自分と同じ高さの上空で精霊であるアーソの小さい体を捉えられずにいた。そしてアーソは左右上下に攻撃を躱しながら段々とマジルに近づいていき相手の反応が間に合わないと思われるところまで来たところで一気に距離を詰め……。
「今ですわっ!、……はあっ!」
「……っ!。私の魔法から逃げ惑ってばかりだったくせに急にこっちに向かって……」
魔法による攻撃で相手を追うに夢中になっていたマジルはアーソがこちらに徐々に距離を詰めているのに気付かず、一気に自分に向けて突進して来たアーソに反応出来ず顔の目の前まで接近を許してしまった。マジルの目の前まで来たアーソはそのままマジルの顔の周りをクルッと一周し、土の精霊である自身特有の技を披露するのだった。
“クルッ……!”
「……っ!。な、なんだ……急に目の周りを砂が覆って……」
“バッ……バッ……!”
「くっ……くそ……っ!、振り払えないっ!」
マジルの顔の周りには先程までと同じようにアーソから零れ落ちた砂と微小の宝石が漂っていたのだが、アーソが一周するともにそれらがマジルの目の周りに集まっていきまるで目隠しをするように包み相手の視界を奪った。慌てたマジルはなんとか砂を振り払おうと目の周りを払い体を震わせたが決して砂の目隠しは外れることはなかった。これはサンド・ブラインドフォールドという相手の視界を数秒間奪う魔法のようなのだが、土の精霊であるアーソは相手の顔の周りを一周することで自動的にこの魔法を発動させることができるらしい。当然MPも溜めた魔力も消費せず、マジルが視界を失っている間にアーソはその温存した魔力を使い今度は正式な魔法としてサンド・ブラインドフォールドをグラナに向けて放った。
「よしっ……この隙にナイトと戦っているあいつにもこの魔法を……はあっ!」
「……っ!、な、なんだ……急に目の周りに砂が……っ!。ぐっ……これでは相手の姿を視認できないっ!」
「ナイスだっ!、アーソっ!。はあぁぁぁぁぁっ……これで終わりだっ!、シバルリーッ・キャリバァァァーーーっ!」
“ズバァーーーーンッ!”
「ぐっ……ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」
マジルと同じようにサンド・ブラインドフォールドに視界を奪われたグラナはあっという間にナイトのシバルリー・キャリバーに両断され消滅してしまった。視界を失ってすぐグラナは剣身を横にして頭上に突き出し相手の攻撃を防ごうとしたのだが、不意に視界を奪われたことで上手く全身に力を込めることができなかったのが剣身ごと体を叩き斬られてしまったようだ。グラナがやられた以上残されたマジルが倒されるのも時間の問題だろう。
「……っ!。くっ……ミーナやエビーに続きグラナまでやられてしまったようですわね……」
グラナ達がやられてしまい最初は20体いた悪霊達も残り12体にまでなってしまった。配下の者達が次々とやられていく様子を見てゲイルドリヴル達と対峙するチャッティルは不安げな表情を浮かべていたが、ゲイルドリヴルに鷹狩、更にはバルコニーにから下りて来た不仲の相手までしなければならなくなってはとても援護になど向かう余裕はなかった。残された手段は配下の悪霊達が全滅する前にワンダラと共にゲイルドリヴル達を討ち果たすことだけだが……。
「ふっ、どうやら私の仲間達が次々とお前達の部下を討ち果たしているようだな。そしてこのエリアのボスである貴様達がそうなるのも時間の問題だ。……はあっ!」
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
「くっ……チャッティルっ!。俺はこいつを食い止めるだけで精一杯だっ!。早く何か手を考えろっ!」
「ワンダラ……。やはりあなたの力量を持ってしてもそいつの相手は厳しいようですわね……。こうなれば手っ取り早く敵の数を減らす為に拷問様より頂いたあの魔法を使いますわよっ!」
“カァン…、キィン…、カァーーーーーーンっ!”
「ぐっ……!。あの魔法か……よしっ!、そういうことならなるべく早く発動させろっ!。こいつらだけならなんとかなるが悪霊共が相手をしている奴らまで援護にこられては一たまりもないっ!」
「ふふっ、任せてください。この魔法は魔力も詠唱の時間もそう要りませんからすぐに発動できますわ。あと少しの間辛抱して下さいね、ワンダラ。……はあぁぁ」
最初は威勢が良かったがやはりワンダラの力量を持ってしても近接戦闘でゲイルドリヴルを打ち破るのは難しく、これはゲイルドリヴル側からしても同じだろうが互角の剣戟を繰り広げるのがやっとのようで段々と表情にも余裕がなくなっていきとうとうチャッティルに状況の打開をせびるようになっていた。剣戟を繰り広げながら後ろから配下の悪霊達の断末魔を次々と聞いて流石にまずい状況だと感じ始めたのだろう。そんなワンダラの様子を見てチャッティルもこのままでは自分達の敗北は必至だと判断し状況を打開する為にある魔法の発動を決断したようだ。手っ取り早く敵の数を減らせると言っていたが果たしてどのような魔法なのだろうか。
チャッティルはその魔法を発動させるすぐさま魔力を溜め始めた。
「……っ!、奴が何かの魔法を発動させるつもりのようだ。ゲイルに負担を掛けない為にもなんとしても我々で食い止めると不仲っ!」
「了解ですわっ!。……はっ!」
“シュイィィィィィィンっ!”
“バァンッ!、……バンバァンッ!”
「ふっ……そうはさせませんわよ。……はあっ!」
“ヴィーン……ババババババッ!”
「なっ……!。急に奴の周りに大量のモンスターが出現したっ!」
“グオォォォォッ……”
「くっ……!、これではあのモンスター達が邪魔になって奴に攻撃が届かない……」
チャッティルが魔法を発動しようとするのを見てすぐさまファイヤーボールの魔術札と弓による射撃で攻撃を仕掛ける鷹狩と不仲だったが、突如チャッティルの周りに出現した大量のグラッジ・シャドウ達によって防がれてしまった。恐らくサモン・オブ・モーメントによって出現したモンスター達だろうが、これだけの数に周りを囲われては鷹狩達に攻撃を通す手段はなかった。それでも魔法の発動を防ぐ為必死に攻撃を続ける鷹狩達だったが、グラッジ・シャドウ達雑魚モンスターの断末魔が虚しく響き渡るだけだった……。
「ふふっ……ではいきますわよ。……アクティヴェイト・トラップっ!」
“ヴィーン……ガガッ……”
「……っ!。こ、これは……不仲っ!、すぐこの場所から離れろっ!」
「えっ……」
“ダァンッ!”
「……っ!。あ〜れぇぇーーーっ!」
「ふ、不仲ぁぁーーーっ!」
チャッティルが魔法を発動させると同時にゲイルドリヴルの後ろにいる鷹狩の不仲の足元の床から何かの機械が動作する音が聞こえ始めた。異変に気付いた鷹狩はすぐさま横に飛びその場所から離れたのだが、その次の瞬間突如巨大な音と共に足元の床が開き、取り残された不仲はその開いた穴の中へと落下してしまった。つまりは落とし穴に掛かったということだが、どうやらチャッティルの発動したアクティヴェイト・トラップとは自分達の管轄するエリアに設置された罠を発動させる為の魔法だったようだ。
「た、鷹狩……っ!。くっ……一体不仲に何があった……はあっ!」
“カアァーーンッ!”
「ふふっ……」
鷹狩の声を聞いて異変に気付いたゲイルドリヴルはすぐさま強い槍撃を放ちワンダラを押し退け、鷹狩達の様子を確かめる為に後ろに飛んだ。だが鷹狩こそ健在だったものの既にそこに不仲の姿はなく広間に侵入した当初はなかったはずの巨大な穴が空いているだけだった。突然の罠に驚きを隠せない様子のゲイルドリヴルと鷹狩だったが、不意の出来事に後退を余儀なくされたゲイルドリヴルにまるで追撃する様子もなく、不敵な笑みを浮かべこちらを見ているワンダラの不気味さがこの真っ暗な闇へと続く巨大な穴にはそれ以上に深い罠が隠されていることを物語っていた。
「こ、これは……不仲はこの中に落ちてしまったのかっ!、鷹狩っ!」
「ああ……まさか落とし穴とは油断した。どうやら奴の魔法はお前を攻撃する為のものばかりと思っていたが後ろにいる我々を一瞬の内に排除する為のものだったようだな」
「くっ……だがお前が落ちなかっただけでも幸いだ。よくあの一瞬の内に反応し罠を回避してくれた。不仲には悪いが今はこいつらを片付けるのが先決だ。問題はこの穴が一体どのような場所……っ!」
「ぐっ……ぐわぁぁぁぁぁっ!」
「……っ!、い、今の声はまさか……っ!」
「どうしたっ!、鷹狩っ!。明らかに不仲のものではなかったがお前は心当たりがあるのかっ!」
今はチャッティル達の戦闘の方が優先と分かってはいつつもゲイルドリヴルと鷹狩は穴に落ちた不仲が気掛かりだったようだ。だがそんな二人を余所に落とし穴の暗闇の中から聞こえて来た叫び声はたった今この穴に落ちたはずの不仲のものではなかった。鷹狩はその声の主に心当たりがあるようだが果たして……。
「間違いないっ!、今の叫び声はナギのものだっ!。これは一体どういうことだっ!」
「ふっ……ふははははっ!。もう気付いているだろうがその穴は只の落とし穴ではない。それは我々を統べるお方……この館の真の主がおられる場所へと続いているものなのだっ!」
「な、なんだと……っ!」
「おーほっほっほっほっ!。恐らく先程の叫び声の主は我々の主である拷問様に最高の苦痛と恐怖を与えられているところでしょう。そしてその次は今その穴に落ちた方や他に捕えられたお仲間も……」
「……っ!、他に捕えられた仲間もだと……っ!」
「ええ。こうして拷問様の手に落ちた以上死は確実……いえ、それ以上の地獄をゆっくりと味わってからこの屋敷の地下で安らかな眠りに就くことでしょう。ああ見えて拷問様慈悲深いお方ですから……。ですが今すぐに救助に向かえばもしかしたら拷問様の手に掛かる前に救い出すことができるかもしれませんわ」
「くっ……ナギや不仲達を助けたければ自らこの穴に飛び込めということか……」
「どうする……ゲイル。ナギ達のことも勿論心配だが今この状況で我々がいなくなればこちらの状況が……。ナイト達だけでこの魔族二人と残った悪霊達を相手にするのは流石に厳しいぞ」
「分かっている……。だがここで我々が向かわねばナギ達がやられてしまうのは確実だ。ダンジョンの攻略を最優先に考えるならこの場に留まるのが最善だろうが司令官として仲間を見捨てるわけには……。くっ……一体どうすれば……」
「何を迷ってるっ!。いけっ!、ゲイルドリヴルっ!、鷹狩っ!」
「……っ!、ナ、ナイト……っ!」
「ナイトの言う通りじゃけぇっ!、ゲイルドリヴルさんっ!。私達ことは心配せんでええから早くナギ君達のとこに向かってあげてっ!」
「そうですっ!。先程塵童さん達がこの広間にやって来た時もご自身で仰っていたじゃありませんかっ!。この作戦のメンバーに仲間を見捨てるような者は誰一人として選任していないってっ!」
「馬子……イヤシンス……」
「その助けられた私からも進言するわ。それにこれは一気にボスの間に辿り着くことのできるチャンスでもあるのよ。あなた達ならきっと捕えられた仲間を助けだし敵を返り討ちにできる……。だから早く行ってっ!」
「レナ……」
「ふっ……初めからこうなるのは分かっていた気はするが行くしかないようだな、ゲイル」
「ああっ!、皆の信頼に答える為にもなんとしてもナギ達を救出し敵のボスを討ち果たすっ!。いくぞっ!、鷹狩っ!」
「ああっ!、ゲイルっ!」
“バッ……”
なんと穴の中から聞こえて来た叫び声の主はなんとナギのものであった。チャッティル達の口振りからするに恐らくこの叫び声はあの拷問紳士から悍ましい拷問を受けている最中のものだろう。ナギ達の救出に向かうべきか、それともこの場に留まりチャッティル達の討伐を優先すべきか、常に最善の判断を最速で下して来たゲイルドリヴルであったが今回ばかりはとても一人で答えを出せそうにはなかった。だがナイト、馬子、イヤシンス、レナ、それに他の仲間達の信頼の言葉を受け、ゲイルドリヴルは鷹狩と共に穴に飛び込みナギ達の救出に向かうことを決断した。皆の期待と信頼を二人で一身に背負い冷たい暗闇の中へとその身を投じるゲイルドリヴルと鷹狩……。そんな二人の覚悟をあざ笑いながらチャッティルとワンダラは残されたナイト達にその身を振り向けるのだった。
「ふふっ……これでこの場に残された敵は9人と2匹。一番厄介な奴等がいなくなってもう楽勝といったところですわ。おーほっほっほっほっ!」




