finding of a nation 99話
「え〜いっ!、セイクリッド・フォースっ!」
“グオォォォォッ……”
「きゃあぁーーーっ!、やったぁーーっ!。今の見たぁっ!、ドラリスちゃんっ!。聖術士になった私の魔法が見事に敵のモンスターをやっつけたわよ。やっぱり私ったらゲームの実力も超一流ね。私の魅力はこの可憐な容姿だけじゃないってことよ。おーほっほっほっほっ♪」
“ドケェッ!”
“ラッコォッ!”
ゲイルドリヴルの槍とワンダラの短剣による斬撃戦が繰り広げられている頃、ここに集結した他のメンバー達も配下の悪霊とリスポーン・ホストの能力によって出現したモンスター達との戦闘を開始していた。今もゲイルドリヴル達が現れたことで態度を一変させていきなり好戦的となったアメリーがセイクリッド・フォースという聖術士の魔法でマッド・ゾンビを一体撃破したところだった。セイクリッド・フォースは対象となった敵の体の中心から聖なる力を起こす聖属性の魔法だ。恐らく低ランクのアンデット系の相手だった為聖属性による即死の判定が入ったのだろう。その周りのプレイヤーに依存したプレイスタイルから直接自身で敵を倒す経験の少なかったアメリーは余程嬉しかったのか自身の華々しい魔法を受けて消滅するモンスターの姿を見てまるで女王にでもなったように高笑いをあげていた。
「ちっ……何あの敵のババアみたいに高笑いしてやがる。お前が倒したのはリスポーン・ホストで出て来た只の雑魚モンスターじゃねぇか。そんな奴倒したぐらいで粋がってないでさっさと次の相手の警戒をしろっ!」
「何よっ!、人が折角良い気分になってたのにっ!。折角格好つけてここに乗り込んだのに後から来たゲイルドリヴルさん達の方が目立って僻んでるからって私にあたらないでくれるっ!。そんなに悔しいならあんたもあのゲイルドリヴルさんの雷の槍みたいに超凄い必殺技を……」
「……っ!、危ねぇっ!」
「えっ……!」
“シュッ!、……バッ!”
つまらぬことで言い争っている塵童とアメリーだったが、その隙を突いて悪霊の一人、先程不仲の素手で叩き落としたネクラマがアメリーに向けて手刀を放ち襲い掛かって来た。言い争いに夢中になっているアメリーはネクラマの存在に気付きもしていなかったのだが、元々アメリーの罵声をほとんど気にもしていなかった塵童はすぐさまそれに反応しアメリーの前に立つと同時に素手でネクラマの手刀を受け止めた。手刀を止められたネクラマは先程倒されたマフィーラのことを思い出しすぐさま自身の右手を掴む塵童の手を振り払いすぐさま後ろへ距離を取り、他の悪霊の仲間達の元に合流した。塵童達を迎え撃ちに来た悪霊は全部で4体、ネクラマ以外はもう一人近接戦闘が得意な者と後方からの援護や支援が得意な2体であった。
「ふふっ……、久しぶりねぇ、あなた達。まさかこんなに早くここまで辿り着いた上にあんなに上手く奇襲を決められるなんて思ってもみなかったわ」
「あ、あんたは……、確かの祈祷で爆殺したメイドの……」
「パラよ。それにこっちはあの紫の髪の槍術士にやられたブラマ」
「よろしくね。私をやった奴に復讐できなくて残念だけど……、あいつの実力を考えればチャッティル様とワンダラ様に任せるのが妥当だし代わりにあなた達を存分に甚振らせてもらうわ」
「くっ……私とリリスの二人に対して向こうには他に悪霊が3体も……。奇襲に成功したとはいえやっぱりまだまだ数の上ではこっちが不利みたいじゃね。おまけにこっちにはちゃんとした前衛の職の人もおらんし……、そう言えば祈祷師の次に私の転職した職業ってなんじゃったっけ?」
「ふふっ、私と同じ霊媒師ですわよ、馬子さん」
「えっ……そ、そうじゃったっけっ!。転職してからもずっと祈祷師のスタイルで戦っとったけぇすっかり忘れとったよ。てかそれじゃったらますますこいつらとの近接戦闘をこなすのが大変ってことじゃないけぇぇーーっ!、もうぉーーっ!」
「大丈夫ですわ、馬子さん。私達は今先程頂いたグラッジ・ファントムさんのローストビーフのおかげで常にスピリット・オーラが発動したものと同じ状態になっておりますし、霊術師の職を経た私には敵のゴーストさん達をパワーダウンさせる魔法をありますのよ」
「ほ、本当……っ!、それは是非今すぐにでもその魔法の発動を頼むけぇ、リリスっ!。私のステータスとゲームの腕じゃ相手の前衛、特にあのブラマって奴に太刀打ちできひんよっ!」
「かしこまりました〜。では私の詠唱が済むまでの少しの間時間を稼いで下さいね〜」
「うっ……結局それまでの間は私一人で何とかせんといかんのけぇ。まぁ、やるだけやってみるけどできるだけ急いでよっ!」
馬子とリリスの元には依然戦った相手であるパラとブラマ、先程ブラマに助けられたブレイネ、他に2体の悪霊達が向かって来ていた。5対2、そしてリリスの魔法の詠唱が済むまで馬子は5体1の状況で戦わなければならない状況となった。恐らくそう詠唱に時間は掛からないだろうが、果たして馬子はそれまで敵の攻撃を耐えしのぐことができるのだろうか。
「………」
「………」
「ちっ……二人を無事救出できたはいいが左右を囲まれてしまったか。自分から敵の真ん中に突っ込んだのだから当然のことだが……」
「本当私達の為にごめんなさい……。私達が敵に捕らえられるようなヘマさえしなければあなた達の奇襲はもっと上手くいったはずなのに……」
「礼も謝罪も後でいいと言ったはずだ。それにこのタイミングでお前達や塵童達がここへ現れたことで状況はむしろ良くなった。救出に成功した今こうして共に戦う仲間が4人も増えたのだからな」
「ナイト……」
「ナイトの言う通りだぜ、レナ。自分達のやらかしたヘマをいつまでも悔いるよりも今は少しでもこの魔族と悪霊達との戦いに貢献できるよう努めるべきだ。それが自分達の失敗の償い、そして助けて貰った恩に報いることになるはずだ」
「己武士田……分かったわ。あなたの言う通りはヴァルハラ国の一員として今はこのダンジョンの攻略に全力を注ぐ……。それでまずは私の職業についてだけど、今は治癒術士だけどその前は精霊術士の職に就いてたわ。あなたは……確か騎士だったわよね」
「ああ、己武士田は確か剣闘士だったな。さっきのローストビーフのおかげで俺もお前もあの悪霊共に攻撃が届くようになっているはずだ。レナが精霊術士だと言うならまずは俺達で奴等を食い止めて精霊の召喚までの時間を稼ぐぞ」
「了解だ。なら俺はこっち側の敵を相手をするからお前はそっちを頼む」
「分かった。(できれば己武士田側の敵は馬子達と挟み撃ちにしたいがこう敵の方が数が多いとそう簡単にはいかないか。今は俺達の方が敵にそうされている状況だしな)」
テーブルの中央に立つナイト達はナイトが突破して来た側とその反対の馬子達がいる側からそれぞれ3体ずつの悪霊に挟み撃ちにされるように左右を囲まれていた。こうなることは承知で敵陣で飛び込んだナイトだったが、己武士田とレナと合流で来たとはいえ極めて不利な状況に立たされてしまったいた。レナの職業を聞いてなんとかこちらの戦力を増やそうとナイトと己武士田は召喚完了までの時間を稼ぐべくそれぞれ左右の側の敵を迎え撃った。
「ふっ、後ろの霊術士の奴がどんな魔法を発動させるするつもりか知らないけどその前に方を付けさせて貰うわ。たった二人で私達5人を相手にするなんてとても無理でしょうからね」
「くっ……確かにあいつの言う通りまとも戦っても勝ち目はないよ。こうなったらここは祈祷師特有のあの技で……」
「パラ達の手を焼かすまでもない。あなた達二人程度私のこのスカルプト・ダガーで一瞬で喉を斬り裂いて絶命させてあげる。……いくわよっ!」
“バッ!”
「悪を払うは淨らかお転婆馬子娘……馬子の祈りで悪霊退散っ!、必殺祈祷・祓魔神域っ!」
“タンッ、タンッ……パアァァ〜〜ン”
「な、なに……っ!、こ、これは……」
“バアァァァンッ!”
「ぐあぁぁぁぁっ!」
リリスの魔法の詠唱をサポートする為に一人で5体の悪霊をしなければならなくなり馬子は非常に追い詰められた状況に陥っていた。そんな馬子を打倒すべく5体の悪霊の中で最もスピードのあるブラマが自慢のダガーを片手に迫って来たのだが、その直前馬子は一つの打開策を思い付き祓魔神域という祈祷師の術技を発動させた。祓魔神域とは自身の祈りを込めた錫杖で地面を叩くことによりそこから一定の範囲に魔の力を持つ者を払う結界を一定の間作り出す技である。この結界がある限り悪霊型のゴースト系モンスターやチャッティル等邪悪な力や思考を持つ魔族もその中に侵入することはできず、馬子へと近づこうとしたブラマはその結果に阻まれ弾き返されてしまった。どうやら特定の性質の相手の侵入を阻むだけでなく結界の境に触れた者にダメージを与える効果もあるようだ。
「ブラマぁっ!。くっそぉーーっ!、何をしたかは知らないけどよくもブラマをぉぉーーっ!」
「ま、待って、パラっ!。今そいつらに近づいちゃ……」
「……っ!、きゃあぁぁぁーーーっ!」
結界に弾かれダメージを負ったブラマを見て激情したパラも馬子に攻撃を仕掛けるべく勢いよく迫って行ったのだが、馬子の作り出した結界はまだ解けておらず当然ブラマと同じ結果になり仲間の元へと弾き返されてしまった。流石にもう馬子の結界の効果に気付いたのかその後は誰も馬子達に近づこうとしなかったようだ。
「ちっ……、どうやら厄介な技を使われてしまったようね」
「そうね……ブラマ。だけど術者であるあの女が既に自身の錫杖を地面から離しているところみると結界の持続時間はそう長くはないはずよ。その代わりに結界が発動している間も自身が自由に動けるということでしょうけど……」
「なら結界が解けた瞬間に私達全員で一斉に攻撃を仕掛けましょう。自由に動けるといっても結界の中から私5人を相手にどうしようもないでしょうし」
「了解致しました。念の為リスポーン・ホストのモンスター達にも周りを囲わせ結界の外にも逃げ出せなくしておきましょう」
「お願いします、オルトーさん。いつも私達の至らぬ点を埋め合わせて頂いてありがとうございます」
馬子達の元に向かって来た悪霊の内パラとブラマ以外の3体はミーナとレーナという双子のメイドとオルトーという老執事であった。5人は馬子の結界が解けた瞬間に一斉に馬子達に襲い掛かる算段を立ていつでも攻撃に移れる体勢を構えていたのだが、確実に馬子達を結界の中に閉じ込めておく為にオルトーの指示でリスポーン・ホストのモンスター達までもが大量に結界の周りを囲ってきた。老練の執事で常に全体を見渡し機転の利く判断ができ、生前から他のメイド達の世話や指導も行っていた為か悪霊となった今でも周囲から敬意ある接し方をされていたようだ。傭兵として雇われたブラマでさえオルトーの機転に対して謙虚かつ丁寧な言葉遣いで感謝を述べていた。
「うっ……なんとか結界であいつらの侵入を防いだはええけど完全に周りを囲まれてしもたけぇ。これじゃあ結界が解けた瞬間に袋叩きにされてしまう。……はあぁぁぁっ!、祈祷弾っ!」
“バァンッ!、……バンバァンッ!”
“グオォォォォッ……”
“グオォォーーッ!、グオォォーーッ!”
「……っ!、く、くそ……っ!。雑魚モンスターの数が多すぎて一体倒くらいじゃとても囲いを突破できひんけぇ。まぁ、元々結界の外に出るつもりはないんじゃけど……」
「心配なさらないで、馬子さん。この結界が解けるまでには私の魔法の詠唱も完了致します。そしたら私達であの悪霊さん達を返り討ちにしてさしあげましょ〜っ♪」
「ううぅーっ!、こんな状況でどうしてあんたはそんなお気楽気分でおれるんじゃけぇーっ!」
周りを囲うリスポーン・ホスト達の姿を見て馬子はすぐさま結界の中から祈祷弾を放ち迎撃したのだが、手前にいたグラッジ・シャドウを一体倒せただけでとても敵の囲いを破ることはできなかった。このままでは馬子達はただ結界の中で敵の総攻撃が来るのを待つだけの状態となってしまうが……。
「ふっ、結界の中からお得意の技を放ったみたいだけどどうにもならなかったみたいね。前の戦いで頂き損ねたあなたの生気を今度こそ根こそぎ吸い取ってあげるからもう諦めてその結界の中で大人しく待ってなさい」
「ふふっ、どうやらあの女にやられたことを随分と根に持ってるみたいね、パラ。確かブラマはあっちの紫の槍術士にやられたんだっけ。あいつらに復讐したいあんた達の気持ちは分かるけど生気はちゃんと山分けにして……」
“ヒュイィィィィィィン……バアァンッ!”
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「ミ、ミーナ……っ!」
結界の中から出れずにいる馬子達を追い詰めた気になっていたパラやブラマ達だったが、突如のその中の一人であるミーナの背中に閃光の矢が襲い掛かった。どうやら反対側のバルコニーにいたマイが放ったもののようだ。バルコニーにもリスポーン・ホストのモンスターが何体が出現しており不仲とマイに襲い掛かっていたのだが、広間に下りるまでもなく片付けてしまい援護を再開したようだ。背後からの直撃を受けたミーナは一撃で消滅してしまい、その後も馬子達の周りを囲っている悪霊達に向けて次々と矢を放っていった。
「はあぁぁぁっ……シバルリー・キャリバーぁぁぁぁっ!」
「……ファントム・キャリバー」
“ガッ……キィィーーンッ!”
テーブルの中央で己武士田と共に両側の敵を迎え撃っていたナイトはグラナという生前は魔剣士の職に就き傭兵として雇われていた女性の悪霊と対峙していた。魔剣士というだけ普通前衛となる者が身に着けるような重厚な鎧はしておらず、魔力を帯び悪霊となったことでよりその禍々しさの増した黒い生地に紫色の縦線の装飾の施されたローブのようなものを身に纏っていた。剣士としての動きやすさを重視してか肩と袖の部分はパラ達が着ているメイド服と同じ型となっていたようだ。髪型は少し長めのボスショート、髪の色は更に黒に近く暗さを感じさせる紺色、ネクラマと同じく据わった目付きであまり感情を感じさせない顔つきをしていた。ナイトのシバルリー・キャリバーに対し悪霊となったことで使用できるようなったファントム・キャリバーを放ち、正面からぶつかり合いで互いに後ろに弾かれながら斬撃を相殺していたのだが、その技を放つ際に発せられた言葉も口調の変化や抑揚はなく覇気や相手への殺意のようなもを感じさせることはなかった。
「くっ……悪霊風情に俺のシバルリー・キャリバーが相殺させられるとは……。生前はかなり手練れの剣士だったらしいな」
「………」
「はっ!、グラナの実力に関心してる場合じゃないわよ、猫ちゃんっ!。体勢を崩してる今の隙に私があんたの生気をたっぷりと頂いてあげるわっ!。周りの雑魚共も私に続きな」
“グオォォォォッ!”
グラナとの剣戟の反動で体勢を崩すナイトに向かって他の悪霊の一人、エビーというメイドがリスポーン・ホストのモンスター達を連れて襲い掛かって来た。どうやらパラが馬子にしたのと同じように手で直接ナイトを掴み生気を吸い取るつもりのようだ。
「ちっ……流石にこれだけの数を剣一本で防ぐことはできない。こうなったら……」
“グサッ!”
「はははははっ!、どうやらテーブルに剣を突き立てて体勢を維持するので精一杯のようねっ!。格好つけて一人で敵の真ん中に突っ込んで来たことを後悔させてあげるから覚悟しなさいっ!」
“グオォォォォッ!”
「はあぁぁぁぁっ!、シバルリーッ……スピリットッ!」
“バアァァーーーンッ!”
「……っ!。きゃあぁぁぁぁーーっ!」
“グオォォォォッ……”
自身の唯一の武器である剣を下に突き立てたことで勝利を確信し、更に勢いを増してナイトに迫るエビーとリスポーン・ホストのモンスター達だったが、襲い掛かる直前ナイトが突き立てた剣に向けて気合の篭った声と共に覇気を込めると突如その周囲に衝撃波が発生し悪霊達は弾き飛ばされてしまった。どうやらナイトの放った技はシバルリー・スピリットといい、自身の騎士道精神を剣身を通して周囲に衝撃波として飛ばす技のようだ。
「ぐうぅぅ……、く、くそっ!。まさかあんな技を隠し持っていたなんて……」
「大丈夫っ!、エビーっ!」
「大丈夫よ、マジル。確かに凄い衝撃だったけど左程ダメージは受けてないわ。あの技に注意してもう一度襲い掛かればあんな奴……」
「……っ!。危ない……エビー……っ!」
「えっ……」
“シュイィィィィィィン……グサッ!”
「痛っ……ぐふっ……!」
「エ、エビィィーーっ!」
ナイトのシバルリー・スピリットに弾き飛ばされはしたもののダメージは左程なかったエビーであったが、攻撃の衝撃から体勢を持ち直す間に突如正面上から放たれてきた矢に腹部を射抜かれてしまった。その矢は当然マイと反対側のバルコニーにいる不仲が放ったもので、どうやらマイと同じようにバルコニーに現れたリスポーン・ホストのモンスター達は既に片付けてしまったようだった。体勢が不安定な状態で腹部を貫かれたエビーのHPはあっという間に0になってしまい、そのままうつ伏せになるように前に倒れ込むとその場から消滅してしまった。
「ふっ、あなた方を頭上から狙い打つことのできる我々の存在を忘れて油断しているからそうなるのですわ。まさか私達がリスポーン・ホストによって現れたモンスター如きにやられてしまうと思いまして」
「全くその通りね。ゲイルドリヴルさんには危なくなれば下に下りろと言われてるけど、この分じゃあこのまま援護を続けても大丈夫そうね」
「これは確かに油断していましたね……。低級モンスターとはいえこの短い間に全滅させてしまうとは……」
「呑気に関心してる場合じゃないでしょっ!、オルトーさんっ!。このままじゃあ私はずっと頭上に注意を払いながら下にいるこいつらと戦わなくちゃいけないのよ。それって大分ヤバいわよね」
「ええ……まずは彼女達の射撃による援護を止めなければ話になりませんね。ここはこの私にお任せを……はあっ!」
「こっちの奴は私に任せてっ!。……はあっ!」
自分達の頭上からの攻撃を脅威に感じたオルトーとマジルは、それぞれ自分達の側いる不仲とマイの射撃による援護を止めるべくバルコニーの高さまで自らの体を浮き上がらせた。これも霊体を持つ者の特性の一つだが、どうやら10メートルの高さまでは宙に浮いた状態を保てるらしい。但し3メートル以上の高さにいる場合は滞在する時間に応じてMPを消費するようだ。不仲とマイは突如2階のバルコニーにいるはずの自分達の目の前に現れたオルトーとマジルに驚きを隠せず動揺してしまっていたが、当然オルトーとマジルはそのようなことを気にせず二人に対して攻撃を開始した。
「……っ!。こ、こいつら……、霊体とはいえこんな高さまで宙に浮くことができるのっ!」
「くっ……肉体を失い現世をおさらばした霊には重力など関係ないということですの……っ!」
「そういうことです。少し理不尽に思われるかもしれませんがこちらもこれだけの高さで浮いた状態を維持するとなるとそれなりのMPを消費してしまいますので容赦せず攻撃させて頂きますよ。……フレイム・ラジエーションっ!」
“ボッ……ボオォォォォーーッ!”
「……っ!、くっ……!」
“バッ……!”
不仲の前に現れたオルトーは両手を前に構えるとフレイム・ラジエーションという放った。フレイム・ラジエーションは火炎放射を意味し、その意味の通りオルトーの手から巨大な息を吐くをように凄まじい炎が不仲に向かって撃ち放たれて来た。なんとか反応した不仲は瞬時に横に飛んで炎を躱したのだが……。
「躱されてしまいましたか……。ですがまだ私の攻撃は終わりませんよ。……はあぁぁっ!」
“ボオォォォォーーッ!”
「……っ!。こ、これは……あの老人の霊が移動する共に炎が私を追って……っ!」
火炎放射と言うだけあって一度不仲に躱された後もオルトーの手からは炎が放たれ続け、術者であるオルトーと共に炎も不仲が避けた側へと移動し始めた。それを見た不仲は炎を避ける為にゲイルドリヴルと鷹狩がいる方に向かってバルコニーを走ったのだが、当然炎もバルコニーの床を焼き払いながら不仲を追い続けた。そしてそれはマジルが現れたマイの側も同じで……。
「ふふっ、あっちの暑苦しい炎とは正反対にあんたには凍えるような寒さを放つこの魔法をお見舞いしてあげる。はあぁぁっ……スノウ・メイキング・ガンッ!」
“ビュオォォォォーーッ!”
「……っ!。こっちには氷の魔法がっ!」
“バッ!”
火属性魔法であるフレイム・ラジエーション対しマイにはスノウ・メイキング・ガンという人工降雪機を意味する氷属性の魔法がマジルの手から放たれてきた。人工降雪機はスキー場等なで不足する雪を補う為に使われる低温の大気中に水を噴霧して人工雪を作り出し積雪を生じさせる為の機械のことであるが、この魔法に関しては砕氷による微小な氷結晶を雪として散布する人工造雪機のことを意味している。その意味の通りマジルの両手からは無数の微小の氷結晶が強烈な吹雪のように放たれ、不仲とは逆の塵童達のいる方に避けたマイの後を追いバルコニーを氷漬けにしていった。いつまでも不仲とマイを追い続けるオルトーとマジルの魔法だったが、流石に永遠に放ち続けるのは無理だったのかちょうど不仲とマイがそれぞれゲイルドリヴル達、そして塵童達の真上の位置まで逃げ延びたところで一度途切れてしまうのだった。
「……っ!、魔法が途切れたっ!。なら今度はこっちが反撃する番よっ!。はあぁぁっ……」
「ちっ……させるかっ!。……サモン・オブ・モーメントっ!」
“ウィーン……ババッ”
「……っ!、いきなり私の左右にモンスターがっ!」
マジルの魔法が途切れたことで反撃に移ろうと弓を構え魔力を込めるマイであったが、次の瞬間マイの左右両側を挟み込むように2体のグラッジ・シャドウが出現した。どうやらマジルが召喚したようだが、サモン・オブ・モーメントという待機状態となっている自身のリスポーン・ホストのモンスターを任意の場所に瞬時に出現させる魔法を発動させたようだ。通常のリスポーン・ホストのモンスターの召喚違いMPを消費してしまうようだが、突然2体のモンスターに挟まれたマイは矢を放つのを中断せざるを得なかった。マジルを射抜いてる隙に左右から同時に襲い掛かられては一たまりもないと判断したのだろう。魔法を放った直後とはいえ正面からの射撃ではマジルに矢を躱されてしまう可能性も高かった。そして向かい側の不仲も同じ状況に追い込まれており、逃げ場を失った状態でそれぞれオルトー、マジルと対峙するしかなかった。
「ふっ、リスクを承知で強引に私を突破しようとせず構えた矢を引っ込めましたか。賢明な判断です……っと言いたいところですがこれでもうあなた方の逃げ場はありませんよ」
「くっ……まさか狩人となった私がここまで追い詰められようとは……」
「これで終わりです……フレイム・ラジエーションっ!」
「こっちもよっ!、……スノウ・メイキング・ガンっ!」
“ボオォォォォーーッ!”
“ビュオォォォォーーッ!”
逃げ場を失った不仲とマイに向けてオルトーとマジルはこれで止めと言わんばかりにフレイム・ラジエーションとスノウ・メイキング・ガンの魔法を放った。それと同時にグラッジ・シャドウ達も左右から同時に襲い掛かり、不仲とマイは絶体絶命の状況まで追い詰められてしまったのだが……。
「くっ……流石にこれはもう限界みたいね」
「敵の頭上にいる優位を失ってしまいますが仕方ありませんわ」
“バッ!”
襲い来る炎と氷の魔法とグラッジ・シャドウ達に対して同時に対処するのは不可能と判断した不仲とマイはとうとう敵の頭上を取った優位を捨ててバルコニーから飛び降りた。不仲はそのまま真下にいたゲイルドリヴルと鷹狩、マイは塵童達と合流した。あそこまで追い詰めておきながら相手を仕留められずに終わったオルトーとマジルだったが、頭上からの攻撃を排除しただけでも上出来と判断したのが満足げな表情で広間にいる仲間の元へと戻って行った。
「申し訳ありません……鷹狩さん。敵の攻撃に追い詰められ思わずと飛び降りて来てしまいましたわ……」
「これでもう上から皆を援護できなくなってしまったわね……」
「気にするな。それよりあのワンダラとかいう奴を戦っているゲイルを援護するぞ。なんとしても後ろのチャッティルという奴にゲイルに向けて魔法を放たせるな」
広間に飛び降りた不仲は鷹狩と共にゲイルドリヴルの援護、マイは塵童達の援護をすることになったのだが、頭上の脅威に注意を払う必要のなくなった悪霊達は地上の敵に集中できるようになってしまった。更にオルトーとマジルが合流したことで今度は馬子とナイト達が追い詰められる形になったのだが……。
「お待たせしました。敵を仕留めることはできませんでしたがこれでもう頭上を気にする必要はなくなったでしょう」
「ありがとう、オルトーさん。それじゃあ後は下の奴等をじっくりと料理していきましょう。まずはあの結界に閉じ込めってばかりの女二人よ」
「あわわわわ……っ!、これでもうマイ達の援護がなくなってしもたけぇ……。せめてどっちか一人ぐらい私達のところに下りて来てくれば良かったのに……」
「敵に追い詰められていたのですから仕方ありませんわ、馬子さん。それよりたった今私の魔法の詠唱が完了致しましたわよ」
「ほ、本当っ!、リリスさんっ!」
「こっちもちょうど十分な魔力が溜まったわっ!。すぐに精霊を呼び出すからちょっと待っててっ!。……はあっ!」
上階からの援護がなくなったことで一気に戦況が不利になったゲイルドリヴル達だったが、ちょうど不仲とマイが下に下りて来たタイミングでリリスとレナの魔法の詠唱が完了したようだった。当然二人は考える間もなく魔法を発動させるのだったが、果たしてこの状況を覆すことができるのだろうか……。




