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女帝

 ギン・ゲバラ オネイラス王国陸軍中将。

 陸軍大将である父を持ち、度重なる隣国からの侵略行為に対し圧倒的な実力を示し若くして中将にのし上がった女性。

 並み居る狸を抑えタカ派筆頭と呼ばれるまでに地位を築いた憧れの人間が僕の目の前にいる。


 "女帝"ギン・ゲバラは鞘から剣を取り出し僕にその切っ先を向け

「なるのか、ならんのか」


「貴方にその器があるとでも?ギン・ゲバラ"殿"」

 それはやばい、という目つきで僕を睨むソーニャ。

 対する女帝は至って冷静である。怒りの色を全く見せず

「何様のつもりだ、アキレウス・ヴート"殿"」

「貴方の部隊には私達のような"有能な"部下が必要なのでしょう?下手に出るべきは貴方でしょう」

「自惚れぬなよ、小僧」

 こんなことをしたらただではすまない、通常ならば、の話だが

「大方、先の戦で魔法使いと斥候、それに貴方の片腕とも言えるジョージ・ユリウス准将が死亡したことを受けて若くて扱いやすそうな私達をスカウトしに来たというところでしょう?しかし、私達は癖が強い。腕っ節と士気を保つカリスマ性はあっても戦略面はジョージ准将にまかせていたでしょう?にもかかわらず私達を簡単に扱える器を持つといえる根拠がおありで?」


 何人かは僕が死んだと思っただろう、しかし参ったとばかりに女帝は苦笑いを浮かべ

「ジョージに聞いていたより怖いやつだな、お前は。そのとおりだ、私は頭が弱い。力を貸してくれアキレウス君」

「必ずや貴方をこの国に君臨させて見せましょう、ギン中将」

 ギン中将は笑みを浮かべ

「世界の間違いではないか?」

 僕は笑いながら

「自分はコツコツタイプなので」

 騒然とする周りをよそに僕とギン中将はさながら悪役のように高笑いを食堂に響かせ、仲間を連れ食堂をあとにするのであった。





「一体全体どうなってやがるんだ。お前のついでで殺されるかと思ったぞ説明しろアキレウス!」

 ゴットハルトが過去見たことがない剣幕で僕を攻め立てる。まぁ怒ることは仕方ない、だれでも怒るわ。

「まぁいいではないか、就職先が決まったんだ。それも陸軍中将直轄だぞ。文句を言ってやるなよゴットハルト君」

 ギン中将はゴットハルトを宥める。しかし女性陣は便乗してゴットハルトを煽る。

「おにぃのお陰でエリート間違いなしだぞゴットハルト君」

「ケツの穴のちっさい男ネ~。」

「アキレウスかっこいいよーゴットハルトみみっちくてかこわるいよー」

 いたたまれなくなったのかアルが

「まぁ、怒るのも仕方ないのである。現に吾輩、ここで人生が終わるのかと思ってちょっとちびったのである」

 女性陣はちょっと引いてるがまぁ、死ぬか生きるかだしね。仕方ないよ。

「とりあえず、説明するとね、僕とジョージ准将はこっちに来る前からちょくちょく気にかけてくれた人だったんだ。妹の飛び級編入もジョージ准将の口添え。まぁ当時は中佐だったけどここの上の人と知り合いだそうでね。まぁそんなこんなで偉大なる僕の才能を見ぬいた彼から結構誘われてたわけです。んでじゃあみんなも一緒に卒業したら~ってことにしてたんだけど。なんでこうなったんだろうね」

 ほんとになんでこうなった。

「ジョージ以外馬鹿ばっかだからな、うち。早急に必要だったからジョージが自慢気に話してた君を取ることにした。まさか先輩の子だとは思わなかったがな」

「む、親父殿を知っておられれるのか?」

「交際を迫ったことがある」

 なるほど、どうやら父が「俺はモテたんだ」としきりに自慢してたがどうやら本当のようだ。信じてなかったわ。いったいお前の親父は何者なんだという目線でエッツィオがこちらを睨んでいるがまぁ、あとで話に出てくるだろう。

「でも、いきなり来いと言われても、退学手続きって結構しんどいですよね?何通か親に手紙送らないといけないし」

 ソーニャが質問する。そう、そうなのだ。退学するのは難しい。守秘義務とかいろいろ誓約書書かないといけないし。

「一家庭を除いてご両親たちは快く快諾してくれたぞ、私が出向いたからな。あとは中将権限使った」

 一同は「は?」という表情を浮かべる。ナニヲイッテルンダコノヒトハ。

「今日で晴れて退学、明日から私のとこに配属だ。よかったな」

 恐る恐る震えた声で僕は聞く、多分一家庭は僕のところだ、母は許すかもしれない、問題は父だ。

「父には?」

「ああ、怖かったから手紙送った。そうそう、手紙が帰って来たぞ。戦場より怖いものってあるもんだな、意外と」

 後半ギン中将は思い出したくないのか、声が虚勢に満ちていたが、震えた手で僕に手紙を見せてきた。

 手紙には大きく、微かに感じる魔力から判断して恐らくグリフォンの血を使って



 殺す



 とだけ書いてあった。怖すぎだろ。なんだこれ、誰を殺すんだ。ギン中将か?それとも僕か?ていうかあの人僕に「グリフォンは山の守り神だから殺してはいけないし傷つけてもいけない」って言ってたよな、おかしいな。おかしいよ。



「とりあえず、一度謝るべきだと思うんです」

「い、いやだ。会いたくない、なによりお前の母に会いたくない」

「これはやばいぞおにぃ、たぶんこれおかあさんも怒ってるぞ」

 それはやばい。

「謝るの、やめるか」

「なぁ、そんなに怖いのか?お前の両親」

 ゴットハルトが心配そうに聞く、怖いなんてものじゃない。

「機甲狩りって知ってる?」

「ああ、向かうところ敵なしだったけど片腕なくして引退したっていう。もしかしてそれが親父さん?」

 正解だ、しかしそれだけじゃない。

「鬼姫って知ってる……さすがに知ってるよな?」

 場が凍りつく。中将に至ってはどんな思い出があるか知らないがガチガチ歯を鳴らして冷や汗をかいて全身震えている。ラダも「結婚……できるかな……」と弱気になっている。実際怪しい、手紙送った時は「実力を見ないと」とかわけわからん事書いてたし。


 なぜ母がここまで有名なのか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 最初の話は十八年前、第一次防衛戦争の頃

 僕の母――当時の名前をリサ・ゼピュロスという――はイライラしていた。

 母は当時十歳だったが魔法の才を買われて軍に招集されたらしい。しかし配属先の上官は母が若く、女性であることから明らかに侮った態度(僕からすれば心配してくれているとしか思えないのだが母は気に入らなかったらしい)でイライラしていた。

 ある日、上官が「家に帰りなさい」と言ったらしい。これが母の琴線に触れたそうだ。

「じゃあてめぇは土に還れよ、せいぜい敵をみちづれにしてなぁ!」

 母はそう言って風魔法を使って上官を敵地の真ん中にぶち込んだ。

 突然の奇襲に敵陣は混乱、さらに遠距離から母の高火力攻撃の連続、上官はかろうじて帰還。

 帰還した上官に向かいあろうことか母は

「よかったな、私のおかげで昇進確実だ、靴でもなめて嘗めた口聞いたこと謝ってもらおうか」

 と言い放ったらしい。ちなみにこの時の上官は現空軍少将であるとのこと。

 このとき、国王が母を養子にと話を持ちかけ、母は「まだ暴れたいので」と断ったらしい。しかし国王は半ば無理やり母を自分の養子にした。当時の皇太子の嫁にしようと考えていたらしい。


 次の話は十五年前。父と初めて一緒に行動していた時のことだという。

 父――キング・ヴート――はこの時15才にして『オライネスに陸上戦の王者あり』と呼ばれる程に名をあげていた。

 この国の北にある山脈、バッカス山脈で半竜の一族が貴族の圧政に耐えかね一揆を起こしその鎮圧に向かっていた時のことだという。

 突入するか否やという時、さすがに多くの半竜とあらば父ともいえど厳しく、作戦前には緊張しており、それが波及したのかみんな緊張していたらしい――ただ一人、母を除いては――。

 母は煮え切らない父にブチ切れていた。しかも隊に悪影響を及ぼしている。

 父が意を決して隊のメンバーに向かい「遺書を書こう」と言ったところで母はキレた。

「うじうじしてんじゃねーよボケなにが王者じゃチ○コついてんのかテメー遺書とかふざけてんじゃねーよ死ぬ気か?今ここで殺してやろうか?美少女に殺されるんだイカレタトカゲ共に殺されるより百億倍増しだろーよ!おら首こっち出せや殺したるわ、それかさっさといってクソトカゲどもの首刈り取って恩賞もらってキレーな指輪でも買うてワシに向かって結婚の一つや二つ申し込んでみろや!」

 この時、父は既に母に惚れていた。怒っていない時は容姿端麗で礼儀作法は完璧、それでいて高火力の魔法攻撃もできて頼りになる。結婚したいとだれでも思うほどの女だったそうだ。

 結果、父は奮起し鎮圧に成功、国王直々に恩賞の受け渡しをするほどの活躍だったらしい。

 父は国王に向かい「恩賞は二つの指輪と、この国の法の例外として、リナ・オライネスと結婚させてください」と申し出たらしい。父は「決まった」と思ったらしい。


 ところが違った。母はキレた。

「恩賞の指輪渡されたとこで結婚申し込めやボケ」

 国王の前で母は父の顔を五発なぐったらしい。

「この人に嫁ぎます。いいですよね?」

 国王はビビって「分かった」としか言えなかったんだとか。ソースは国王。


 この日から母は『鬼姫』と恐れられるようになった。


 他にも逸話はあり、妊娠中にイライラするとか言い始めて乱入で敵小隊ふっ飛ばしたとか聞く……。


 ともあれ母は悪名高い女魔法使いなのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 両親のところへ向かうか、向かわないか。

 向かわなかった場合向こうからくる可能性を考えると向かうしか無いか……。




「あの二人の子供なのに特別扱いされず、貴族連中にもヘコヘコされないのはおかしくない?」

 ミーシャのいうことは正論だ。確かにおかしい。

「おかしくないよ、答えは簡単、なぜならば」

「おにぃは孤児だからです。一部の親しい人と偉い人を除いておにぃがいることを知りません」

 台詞を取られたがそうだ。僕は本当の息子ではない。

「そういうこと。ちなみに魔法は母から教わった」

「なるほど。だからあれほどの威力と技術が」

 アルのいうことは半分正解だ。

「威力は違う。無言であれほどの威力はそもそもの魔力が必要」

「ラダの言うとおり。まぁ、小さい時から無言魔法を叩きこまれてきたってのも一因といえるけどね」

 無言魔法は沈黙魔法をかけられていても発動できる。代わりに威力が大幅に減る。また、気取られにくい。無言魔法は戦場に出る魔法使いにとっては一番重要なのでここ二百年ほど自主練でやること第一候補に君臨している技術だ。

「吾輩達も訓練をつけていただこうか、なぁ?」

 アルは一同に同意を求める。たしかに、それはいいかもしれない。

「やめておいた方がいい。あれは訓練じゃない、ただの虐待だ」

 中将が震える声でみんなに訴えかける。完全に怯える小動物的な目をしている。

「国を変えるなら必要」

 ラダの正論。中将の精神にダメージ。ここで僕は追い打ちをかける発言をする。というか言わねばならない。

「いこうか、うちへ」

 両親と戦闘になったときの対応を考えつつ、重い、重い、それはもう一軒家を背負っているのかと思うほどに重い腰を上げ、僕は馬車の手配を頼むのだった。



 そしてあまりの恐怖に……




 ギン ちゅうじょうは めのまえが まっくらに なった!




 恐怖で倒れるとかいったい過去に何があったんだ。

ちょっと書き溜め入りますかなぁ

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