3話
諸君は蛍光というのをしているだろうか。通常の電球は使っていると熱を持つが、蛍光灯は使っても熱を持たない。つまり蛍光とは熱を持たない光のことである。
「要するに、スズランを改良して、ライトを作りたいがために草原を駆け回っていたと」
今私は、籠いっぱいのスズランを取り上げられ、奇行を助手に咎められている。
「ああ。そうだ」
「なんでまたそんな乙女チックなことを考えたんですか?」
「うちで使っていたスタンドライトで夜中に本を読んでいたら暑くてたまらないんだ」
「めちゃくちゃ私情じゃないですか。ていうか何年前のスタンド使ってるんですか!」
「私が小学生のころから使っているので20年以上たっている」
「買えばいいのに」
「電気代がかかるだろ?どうせならタダで蛍光灯が欲しい」
「せこい!大体宝石畑で儲かったじゃないですか!」
「あまい!今市場がルビーとサファイアの大盤振る舞いでめちゃくちゃ安くなってしまってほとんど儲けが出ないのだ!」
「だから売るときはちょっとずつって言ったのに!」
今宝石畑を改良してダイヤモンドの畑、金剛畑を作ろうとしているのは秘密だ。
この助手は性格こそ破綻していないが行動は異常だ。
例えば、私の助手になる時、いきなり我が家に押し入って「博士はマッドサイエンティストですか?」だった。
あれは今でも忘れない、熱い夏、いや、春?えっと冬だったっけ?
「そんなあいまいな感じで回想に入らないでください。そして誤魔化そうとしないでください」
「じゃあ君がやり給え。私はそういうのは苦手で」
「いいえ、私は博士の説教があるので遠慮します」
小さく舌打ちしたのが聞こえたらしく説教が続く。
10年前、私の家の門扉を叩いたのは高校生の少女だった。
「博士!博士!いるのだろ!出て来い!」
私は借金取りにしては随分と若い人だな、ぐらいにしか思わなかった。
「なんですか?お金ならないですよ」
「は?」
なんというか、今どきの少女という生物は危険な眼つきで人を見る生き物なのか。知らなかった。
「私は木南です。科学の苦手な普通の女子高生です。来たのは博士なら苦手を克服してもらえると思って。博士はマッドサイエンティストなんでしょ?」
当時はまだ、マッドサイエンティストとしては活動していなかったのだが不気味な笑い声から近所の子供たちがそう呼んでいる。
「なぜ苦手なのかね?」
私からすればこれほど面白い世界はない。
「先生の言っている意味が解らないんです」
「先生の話を聞いて興味は持てたか?それを理解しようとしたことはあるかね?」
「昔は。小学校の頃とても好きだったんです。でもテストで」
「テストで?」
「トンボの絵が写真で出て来て、それをアキアカネと答えたら、間違いにされました。それから先生に正確に答えたのになぜ間違いなのかと尋ねたら余計な付け足しは不要と言われた」
これだから教師という生物は。
「己の無知さを認めぬ愚か者か。ふひひひ」
「なぁ!?」
「いやいや、その教師のことだよ。知らないことを知らない愚か者さ。君は知っているだろ?自分が何も知らないことを、ひひ」
「なんで嬉しそう?」
「ひひ、君という人間に興味がわいた。入るかい?」
「は、はい!」
それが今の助手、木南利里である。
彼女は私の指導の下、科学の授業で非常に優秀な成績を収め、海外に留学、帰国の後に当時天才と騒がれていた黒井敬介博士の助手として就任。その直後黒井敬介博士はマッドサイエンティストとして、認識され、科学界から締め出しを食らう形となり、当時住んでいたマンションを引き払い別荘として使っていた郊外の邸宅に隠遁したとされている。公式では。
しかし、彼はマッドサイエンティスト。現在も別荘で実験を繰り返しているという。
「何それっぽく締めてるんですか?説教の最中ですよ!」
また舌打ちを聞かれたようで説教が続く。
「で、蛍光と私の生い立ちは何の関係が?」
「君の研究は消えない蛍光灯だっただろ?」
ああ、と彼女は頷いた。
「だからって私たちの出会いは関係ないでしょうが」
電子を動かすことで光らせることが出来る蛍光。それをスズランの花びらに応用し、永遠に光らせようとしているのだ。ちなみに身近な蛍光は蛍光灯意外だと氷砂糖だ。あれを暗闇で砕くと光る。ごく弱い光だが確かに光るのだ。あれは砂糖の結晶である氷砂糖に力が加えられることで蛍光現象が起きている。つまり、スズランが動いている時光り続ければよいのだ。
「助手よ、大変なことに気付いてしまった」
「なんですか?」
「夏はクーラーでスズランが動けば灯りが消えないではないか!」
「もう、LEDライト買ってください!」
しばらく説教が続きそうだ。
「この話ももう少し続くらしい、ひっひっひ」
メメタぁな回ですね。二人の出会い回は後日やるかもしれません。




