表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

1話

1話


「ふひひひ」

 今日も不気味な声が響く。ヌメッと、じっとりと、陰湿で、奇怪な声だ。

私はこの声の主を知っている。

自分の声だ。

「見たまえ、この見事なまでの紅と暗い緑!これぞルビーとグリーンサファイア!とても人工とは思えない輝きだ!こっちのは鮮やかな碧だ!これは高値で売れるぞぉふひっひっ」

 自分の細い指で希少性の高い鮮やかなグリーンサファイアを撫でる。それは私が作り出した人工物。資金繰りに困った私が作った作り物。

「ええ、でもサイズがこのサイズでは」

 助手の持っている、いや、抱えている紅玉の大きさはバレーボールサイズである。

「よく熟れているだろ?ふひ」

 助手の顔が離れた此処からでもはっきりと映り込むほどきれいに輝くそれを指さす。

「このサイズでは売れませんよ?市場でこんなものを売りに出せば一発で偽物だと思われます」

「ちっちっちっ!甘いね、助手~。これのルビーは分子配列も相違なくルビー、つまり、コランダム。つまり、ルビーそのものだ。なんの問題がある?」

熟れているのに売れないとはこれ如何に。

「博士、宝石はその美しさと希少性に高値が付きます。それはルビーやサファイアのほとんどの宝石のサイズが小さいことを示しています。つまり、このサイズでは」

「宝石として認識されないか。なら、砕けばよい」

「博士、そうは言いますが、ルビーとサファイアのモース硬度はとダイヤに次ぐ9ですよ?そんな簡単に砕けるわけが」

 本当に……

「君という人は物事を数字と文章でしか知らないようだねぇ。ひひ」

 ハンマーを取り出し、机の上に置かれたサファイアに叩き付けた。

 叩き付けられたサファイアは見事、砕け散った。

「な?!わ、わかった!そのハンマーに細工が「してない」なら人工サファイアの結合が弱「くない」ならなんで!」

「君はもっと知るべきだ。モース硬度は傷つきにくさを表しているのであって壊れにくさを表しているわけでは無いのだよ。だから、案外、砕くのは簡単だ。ほら、これぐらいの大きさでいいか?」

 人差し指の爪より少し大きい程度に砕かれたグリーンサファイアを助手に投げる。

「それをカッティングすればさぞ高値で売れるだろう。ふひっひ。オーバルブリリアントカットが妥当だろうねぇ、ひひっ」

 カッティングとはダイヤを綺麗に宝石にする作業だ。このままでは宝石とは呼べない。

 オーバルブリリアントカットは上から見たとき楕円形になるカットのことだ。ルビーやサファイアの代表的なカットだ。

 ちなみにルビーとサファイアはどちらもコランダムからできており、サファイアというと青色が有名であるが、赤いものをルビー、それ以外の色をサファイアとしている。

 本来コランダムは無色透明でコランダム以外の不純物が混ざっているため色が変化する。

 本来であれば透明なコランダムの宝石は非常に貴重で高値で取引されるが、土壌の関係上、この畑では作れなかった。

 グリーンサファイアは非常に重い色合いだが、極稀に鮮やかな碧が見られる。市場で見かけたら注意が必要な逸品だ。それがこんなに大量に有るのはいささか問題か。これの販売は少量ずつ行うか。

「で、カッティングは誰が?」

「それは、君がやり給え、私にはその手の才能は皆無だ」

 残念ながら私から見て美しいモノと他人から見て美しいモノというのは違うようだ。

つまり、どういうことかというと

「博士は、デザインセンスないですからね」

「大なきなお世話だよ、助手」

 そう指摘してデータをまとめる。

「しかし、今回は大成功ですね、博士」

 助手は嬉々としてルビーを砕く作業に移る。

「今まで散々実験してきましたが、初めてじゃないですか?成功したの」

 この助手は嫌味とわからず、口にしているのだから末恐ろしい。

「失敬だな、君は。成功だが君が認めなかっただけだ。私なりには成功している」

 ドーナッツのなる苗(賞味期限3分。胃の中で腐る可能性有)。柿の味のするピーマン(成長まで7年)。発電する木(高さ10メートル辺り3V。高さに比例して電圧が大きくなる)etc…

「これは宝石畑とでも名付けよう」

 地面にはスイカのように蔦が生えその先からルビー系の宝石が実っている。

「もっと昔は残酷なことをしていたって聞きましたけど?」

「ひっひっひ。飽きたのさ。人間を実験に使うのは」

そう笑うと砕いたサファイアを地面に巻いた。

「ちなみに肥料の代わりにコランダムを巻かなければ枯れてしまうから注意したまえ」

 助手の「それじゃあ、何の意味もないじゃないですか」という声が聞こえた気がしたが、私の耳はそれを受け付けなかったようだ。実に素晴らしい性能の耳だと私の耳をほめておこう。


今回は短編を少し改定したものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ