プロローグ
西暦2050年12月11日 PM10:00
スウェーデン ストックホルム
窓の外に、雪が降っていた。
白く静かな、ストックホルムの夜景。
アルベルト=ボルトは、飛行機の窓にもたれながら
その景色を、ぼんやりと眺めていた。
ボルトが神童と呼ばれ始めたのは、3歳の頃だった。
数学に興味を持ち。
10歳でIQ180を超え。
11歳で自国の大学を首席卒業。
そこから3年おきに、ハーバード、オックスフォードと渡り歩き
どこも3年で卒業した。
異例どころの話じゃない。
そして昨日——
25歳。最年少でのノーベル物理学賞。
論文の内容は、
「結晶内における光子もつれを用いた、光子エネルギーの完全制御」
簡単に言えば、光子エネルギーを自由自在に操り、
実用的に使える事で、エネルギー問題を解消しようという事だ。
授賞式を終えたボルトの胸にあったのは
達成感だった。
でも同時に——
虚無感も、あった。
(また明日から、研究が始まる……)
その事実が、妙に重かった。
向かう先は日本。
ボルトが所属するLHC——大型ハドロン衝突型加速器の施設だ。
かつては世界に1つしかなかったその施設も
今では世界3ヶ所に設けられている。
以前から取り組んでいたテーマがある。
気力があるとは言えなかった。
それでもボルトは、無気力なまま
その施設のドアを開けた。
「ボルト、これを見てくれ!!」
盟友ジェームズが、興奮した声を上げた。
指さした先には——実験室の内部カメラと
超拡大の電子顕微鏡の映像。
そこに映っていたのは。
2人がこれまで一度も見たことのない
光子の動きだった。
不規則に動いていた光子たちが
やがて互いに惹かれ合うように
距離を縮めていく。
そして——
・・・
そこからの記憶が、ない。
まばゆい光に包まれた記憶だけがある。
これまでの人生で、一度も経験したことのない光。
気がつくと。
そこは、どこかのどかな田園風景だった。
夜のようだった。
(研究室の近くに、こんな場所があったか?)
辺りを見渡す。
どこを見ても、施設が見当たらない。
ボルトは空を見上げた。
そして——理解した。
ここは日本じゃない。
いや。
地球ですら、ない。
空には——月が、2つあった。




