責任をもって、ブライダルアテンドをしてさしあげます
「魔女め!!お前は災厄を連れてくる魔女だ!!」
ずいぶんクラレンスから離れたところで、彼の声が後ろからちいさく聞こえてきた。まだ煙ははれない。
この魔道具の唯一の欠点は、目くらましにはなるものの、住宅街で使うと火災を疑われるところだ。
クラレンスから死角になる曲がり角を曲がったところで、私は足を止めた。万が一火災と勘違いされてひとを呼ばれたら困るので、煙がはれるまでは見張っている必要があった。
足を止めると、思わずため息がこぼれた。
それからハッとする。この場には私ひとりだけではないのだ。私は難しげな顔をしているレナルディア卿を見た。
「申し訳ありません。卿も、個人的なトラブルに二回も巻き込んでしまいました」
「いいえ。私の方こそ、何もできず申し訳ない」
「下手に関わると、より厄介なことになりますもの。英断ですわ。それより……エウラインですが。彼女は今もエムケル領にいるのでしょうか?」
クラレンスを追ってエウラインも王都に戻ってきているのかと思ったけど、先程の話を聞く限り、その可能性はなさそうだ。そうなると、エウラインは変わらずエムケル領にいるたのだろうか。
考え込んでいると、ぽつりとレナルディア卿の声が聞こえてきた。
「エウライン・エムケルについてですが」
「どうかなさいました?」
私はそっと背後の路地を覗き込んだ。
既に白煙は晴れ、クラレンスの姿はない。手の怪我の手当をするために早々に立ち去ったのだろう。
(とっても痛そうな音だったものね……)
今後は、もう少しちゃんと周りを見て生活した方がいいと思うのよ。
視界が塞がれても、地形まで変わるわけではないのだから。
このさほど広さのない路地でなりふり構わず暴れたら、そりゃあ塀にぶつかるに決まっている。
周囲には人気がないので、通報もされなかったようだ。
この魔道具は、目くらましにはちょうどいいのだけどとにかく目立つ。改善の必要がありそうだ。
そう思った、その時。
レナルディア卿から、信じられない言葉が聞こえてきた。
「エムケル伯爵家にひとをやって探らせた結果、レディ・エウラインの妊娠は偽りだったことが分かりました」
「──」
私は何度か瞬きを繰り返した。
偽り?
何が?
妊娠が?
誰の?
……エウラインの!?
「…………えっ!?!?」
ポク、ポク、チーン!というリズムとともに、私は彼の言葉を理解した。
☆
エウラインの妊娠は嘘だった。
それはほぼ確実のようで、レナルディア卿が手配したエウラインつきの侍女から報告があったそうだ。
偽りの妊娠であることを外部に漏らさないよう、エウラインは侍女たちに強く口止めしているとのことだった。
信じられない事実に、思わずよろけてしまった。レナルディア卿も頭が痛いようで、額を抑えていた。
そんな嘘をついてどうするの!?いずれバレるのに、と思ったけど、エウラインの目的はクラレンスとの結婚だ。目的のためについたその場しのぎの嘘だったのだろう。そう思うと、ドッと疲労感が襲ってきた。
家に帰り、私は作業机の前にドサッと座った。
伯爵令嬢の時ならまず許されないはしたない振る舞いだけど、ここには私を咎めるひとはいない。背もたれに深く背中を預けて、足を持ち上げる。
そのまま体育座りするような形で、私は両腕を前に伸ばした。
エウラインの妊娠が嘘だったことは驚きだけど、この際それは置いておく。問題は神器の行方だ。
それを明るみにするには、どうしてもエウラインは外せない。
どうにかして、彼女を引っ張り出せないかしら……。
そう思った時、私はある案を思いついた。
というのも、だ。
(そもそも、クルルフォーツ公爵家はほんとうにクラレンスを見限ったのかしら?)
私は、膝の上に顔を顎を置くと窓の外を見つめた。キラキラとした日差しが窓ガラスに反射し煌めく。
クラレンスとエウラインはもう連絡をとっていないとのことだけど、エムケル領での騒ぎは既に新聞になっている。社交界で噂になるのも時間の問題だろう。
エムケル伯爵は、娘の名誉を傷つけられた責任をクルルフォーツ公爵家に問うことができる。
(なら)
エムケル伯爵も、この問題に巻き込んでしまえばいい。
そうすれば自然と、エウラインを引っ張り出せる。
数秒考えた末、私は計画を手直しすることにした。
引き出しから便箋を一枚取り出し、羽根ペンを手に取る。
宛先は、クルルフォーツ公爵家。




