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お探しの妻はもういません。  作者: ごろごろみかん。
3.ミレイユにしかできないこと

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使途不明金

『ミレイユ


あなたがそんなに不義理な子だとは思いませんでした。

そういうことだと受け取ります。


お父様のことを少しでも思うのであれば、あんな真似はできません。今までどれくらいミューテンバルトの世話になってきたと思っているの?

ミューテンバルトの家門に泥を塗って、それが娘のすることですか?


先日、正式にあなたはミューテンバルト伯爵家から除籍されました。

二度とミューテンバルトの門を潜らないように。


この意味がわかるわね?

手紙も要りません。

融資の件は、あなたが責任を持って対処なさい。自分の発言に責任を持つように。


あなたを産んだことは、私の一生の後悔です』



…………呪いの文章、かしら?


思わず私は、その手紙をクシャクシャに丸めて、くずかごに捨てた。







後日、改めて私は登城した。

例の件──三大神器紛失の調査を進めるためだ。

王太子殿下の執務室に向かうと、そこにはレナルディア卿と、そして学院長が揃っていた。


「やあ、ミレイユ。待っていたよ」


執務椅子に座って片手をあげる王太子殿下に私は笑みを返す。


「ごきげんよう、王太子殿下。学院長、レナルディア卿。皆様お揃いですのね」


「先日ぶりですね。ミレイユ、新居はどうですか?」


学院長の言葉に、私は食い気味に答えた。


「とても最高ですわ!好きなことを好きな時にできるのです。こころが踊ってしまいますわ。朝起きる時は太陽の光と小鳥の囀りで起きるのです。こんな素敵な生活があっていいのかと疑うほどですわ……」


今も、夢を見ているようだ。

朝起きて、自分で食事の用意をして、掃除をして、洗濯をする。やることは多いけれど、自分の手でできることに何よりの安心感があった。


クラレンスが植え付けた他人への不信感、猜疑心は簡単には消えない。


何より、安心して食事を取れるのだ。

これは大きい。


私が力説すると、学院長が品よく笑った。


「ふふふ。満足してもらえたようで何よりだわ。……では、本題にはいりましょうか」


学院長はソファに座り、その対面にレナルディア卿が腰を下ろしている。

私は、学院長の隣に失礼することにした。


「その前にひとつ、確認させていただきたいことがあるのです」


私の言葉に、王太子殿下が首を傾げる。


「なんだい?」


レナルディア卿がベルのような形をした魔道具を操作する。彼が魔力を込めた瞬間、部屋に防音魔法がかけられるのが分かった。

それを確認してから、私は口を開く。


「……エムケル伯爵に、関与の疑いがかかった経緯を教えていただきたいのです」


「おや。言ってなかったか」


「伝えていませんね。何せ、それどころではありませんでしたし」


レナルディア卿とバッタリ鉢合わせてからというものの、怒涛のように日々が過ぎた。まずはクラレンスとの離縁が私にとって最優先だったし、エムケル伯爵の話を落ち着いてする余裕がなかったのだ。

王太子殿下は「そっか」と頷くと、私の質問に答えてくださった。


「きっかけは、数字の流れがおかしかったことなんだ」


「数字……でございますか?」


今度は私が首を傾げる。

王太子殿下は、机の引き出しを開けると、なにかゴソゴソと探しながら話を続けた。


「色々と不可解な出来事がいくつかあってね。我々はそれを関連づけて見てるんだ。えーとまずは……」


そして、王太子殿下は一枚の書類を取り出した。

レナルディア卿がそれを受けとり、私に手渡してくれる。


「ありがとうございます」


光沢のある紙は、魔法が掛けられていることを意味する。追跡魔法や、破れないように魔法加工が施されているのだ。離縁届と同じである。


私は、その青白く仄かに発光している紙面に視線を落として──目を瞬いた。


「これは……国庫の歳入歳出表、ですか?」


こんな重要なものを拝見させていただいていいのだろうか。ふと気になったけれど、王太子殿下が良しと判断したのなら、良いのだろう。


それよりも気になったのが──


「数字が……合わない?」


表をそれぞれ見比べて、違和感を覚える。

それに、王太子殿下が苦笑した。


「うん。数字の流れがおかしいんだよね。ざっと、600万リュンくらい」


「ひゃっ……!!」


600万リュンは、前世の円換算で言うと12億に相当する。その金額がどこに消えているかわからない──使途不明金となっているのだ。


正直言って、目眩がした。

これ、国家の危機なのではないでしょうか。


「誰かが横領している……か、国庫から金を抜いている?」


「それしか考えられないよね。それで、先程の話に戻るのだけど」


王太子殿下が言葉を区切る。


「エムケル領の金の流れがおかしいんだ。妙に羽振りがいい……どころではない。あきらかに、収入以上の支出がある。総資産から捻出している可能性もあるけれど……。それにしたって、いずれ底をつくだろう。相当の金遣いの荒さだよ。普通の貴族なら、破産まっしぐらってくらいにね」


王太子殿下はふたたび机の引き出しを開けた。

その書類を取り出そうと言うのだろう。

彼は補足するように言った。


「そして、エムケル伯爵の金遣いが荒くなった時期と、この使途不明金が出たあたり。……もろ被りなんだ。疑うのもとうぜんだよね」





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