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お探しの妻はもういません。  作者: ごろごろみかん。
2.ただのミレイユになります

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14/18

普通一生許せませんわ

王都に戻り、ミューテンバルト伯爵邸へと向かう。

陛下から既に連絡を受けていたのだろう。お父様は、私とクラレンスの離縁をご存知だった。


執務室に向かうと、そこには顔を険しくしたお父様がいた。

彼は、私の顔を見るなり怒鳴りつけた。


「なぜ勝手なことをした!?」


私は旅装のままだ。

頭に被っていた帽子を胸の前で持つと、お父様に頭を下げる。


「申し訳ございません。ですがこのままでは、私は──」


死ぬかもしれなかったのです、と続けようとした言葉は、お父様に遮られた。


「何でお前はそうなんだ!?どうして勝手なことをする。クルルフォーツ公爵からなんと言われるか……!」


「──」


(お父様ならそういうだろうと思っていたわ。分かっていた)


それでも、実際言われると、思ってしまう。


なぜ?と。


「……お父様は、私の身の安全よりも、クルルフォーツ公爵の顔色が大事ですのね」


お父様は、私の言葉など聞いていないようだ。頭を抱えている。

もはや、それどころではないらしい。

そして、吐き捨てるようにいった。


「お前にはガッカリだ!ミレイユ。まさかここまで、ミューテンバルトの人間だという自覚がなかっただなんて」


「…………」


ガッカリ?


それは、こちらのセリフである。


(ほんの少し、ほんの僅かにだけ、期待してたわ)


もしかしたらお父様は、私のために怒ってくれるのではないか、って。

でもその期待は、ささやかな希望は、砕かれた。


お父様は根っからの貴族思考で、私のことなど駒のひとつとしか思っていない。


……私はそれを知っていたはずなのに。


もう、認めるしかない。諦めるしかない。

私は顔を上げてお父様を見た。


「では……お父様は私が殺されかかったにもかかわらず、婚姻を続行せよと仰せになるのですか?娘の私が、死んでいたかもしれないと言うのに?」


「何を言ってる?お前は死んでいないだろ。大袈裟にものを言うのはやめなさい」


「そうですわね。おっしゃる通りです。結果的に、私は死にませんでした。死にそうにはなりましたけれど」


何回原因不明の吐き気と戦ったと思っているのだろうか。感染症の類かと不安の日々を送ったのは一回や二回の話ではない。


私が折れないからだろう。お父様はいらだたしげに言った。


「だから……!何回同じことを言わせる!?だいたい、クラレンスだって反省しているだろう。たった一回の失敗でお前は何もかも見限るというのか?まったく、情のない女だな!」


その言葉に──私は、目を瞬いた。


……たった一回。

確かに、たった一回のこと。


だけどそれが全てでしょう?


それを許せない私は、情がない?

冷たい女だと仰る?


まるで私がおかしいとでも言いたげだ。


お父様と話していると、私に非があるのではないかと思わされるところが、思い込まされるところが、ずっと嫌だった。


お父様は常に自分は正しいと思っている。


年の功?人生経験の差?


自分が正しいのだから、たかが二十年も生きていない小娘が偉そうにものを言うなと、そう言いたいのでしょう。


そんなの、笑わせる。

何が正解かなんて、ひとによってそれは異なるというのに。


信じていた気持ちは、確かに裏切られた。


だけどこれでようやく、私も踏ん切りがついた。


ミューテンバルトの名を捨てる、区切りが。


「では──お父様は。もし、お母様に騙されて殺されかけたとしても、たった一回の誤ちだからとお許しになられるのですね!流石ですわ。お心が広くていらっしゃる」


思わず、ニコニコと笑って褒め称える私に、お父様は動揺したようだ。

もしかしたら、私の目はまったく、笑っていないのかもしれない。


心情としては、まったく面白くない。

面白くないけれど、感情が一回転して、もはや笑ってしまうのだ。


「お母様には真実愛する方がいらっしゃって。お母様がその方と一緒になりたいから、と殺されかけたとしても。お父様は許される。なんて寛大なのでしょう」


「そ、それは……」


なぜか、お父様は言葉を濁した。


「あら?違うのですか?たった一度の失敗、なのではなくって?……私はまあ、お父様ほど寛大なこころを持てませんから。一生、許せませんけれどね」


ふつう、だいたいのひとはそう思うのではないかしら。

騙されて殺されかけて──それでも笑って許せるのは、よほどの阿呆か、聖人のどちらかに違いない。


そして私は、そのどちらでもないので、やっぱり、普通に許せない。


お父様は、私から視線を逸らして沈黙したけれど、ふたたび私を見て言った。まるで、上から押さえつけるような物言いで。


「だが!それが貴族だろう?それに、もしもの話をしても仕方ない。話をそらすのはやめなさい」


「話をそらす?私は、感動しているのですわ。お父様の優しさにね」


意図せず、声が低くなった。


「あいにく、私はそこまで優しくありませんの。やられて嫌なことは嫌だと思うし、そう表明いたします」


私はお父様を見つめた。恐らく、酷く冷たい目で。


「ここまでされても公爵の顔色を伺うなんて……お父様がそこまで情けない方だとは思っておりませんでした。ガッカリなのは私よ」


「言葉を改めなさい。だから嫌だったんだよ!魔法学院なんかに入学させるのは!お前がもっと普通の娘だったら……!」


「どうとでも言いくるめていた、と仰せですか?そうですわね。魔法学院に入学できたのは、幸運でした。あれがあったからこそ、私は私の未来をつかみ取れる」


エストリア魔法学院は、世界でも屈指の難関校だ。必要に駆られて必死になって勉強し、一年で卒業したことは、思いがけず私の評価を上げた。


「もう、結構ですわ。そこまで仰るなら、お父様が以前仰っていたように──」


私はそこで言葉を区切った。

今から言う言葉は、私の人生を大きく変えることだろう。それがわかっていたからこそ、私はハッキリと、お父様を見つめて言う。



「縁を切ってくださいませ。私はミューテンバルトの名を捨てます」



私の言葉に、お父様が唖然としたように目を見開いた。



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― 新着の感想 ―
父親、絶対自分が同じ目に遭ったら大騒ぎするタイプ。 共感能力も想像力も無いから分からないだけ。 こんな父親、要らんよね。
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