表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お探しの妻はもういません。  作者: ごろごろみかん。
2.ただのミレイユになります

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/18

今はまだ

「うん?お願い?」


首を傾げる彼に、私はにっこりと笑みを浮かべて言った。


「エムケル領を出たすぐ先の山の麓に、有名な薬草の群生地があるのです」


そこまで言うと、王太子殿下は私の願いが読めたのだろう。

ああ、なるほどね、という顔になる。


「……そこでしか採取できない厳重に管理された薬草がありまして。どうか、そこを、通っていただけませんか?」


元々、その群生地に寄り道して帰る予定だったのだ。


「……もしかして、ドゥルア山の麓ですか?」


そこで、レナルディア卿が思い出したように発言した。


「ええ、その通りです。手持ちの薬草がずいぶん減ってしまいまして」


「……ドゥルア山の麓には、一般人の立ち入りが制限された毒草もありますね」


レナルディア卿の言葉に、私は目を瞬いた。

というのも──


「あら、ご存知でしたか?」


「おっと?レディ・ミレイユ?毒草なの?」


王太子殿下の言葉に、私は頷いた。

やましいことは無いので、率直に答える。


「はい。とは言いましても、薬も過ぎれば毒となる、という言葉がございますように、適切に使えば、薬ですわ」


「うーん。ちなみに、あなたが採取しようとしているのは?」


王太子殿下に問われた私は、思い出すように指で数えながら目当ての薬草を思い返した。


「解熱、鎮痛、胃弱、冷え、吐き気、食欲不振……」


あとは、自律神経に作用する薬草も群生しているなら、それも採取したい。そこまで言って私は、神経に作用する薬草も自生していることを思い出した。


「ああ、そうですわ。あと、今後の取り組みとして、精神に作用する薬草についても、採取したいと思います。魔道具に付与した時、どんな効果が現れるのか、検証したいのですわ」


「精神作用ねぇ……」


幼児の体では、足がつかないのだろう。王太子殿下は足をぶらぶらさせながら、思案するように瞬きを繰り返した。


そして、それから「おや?」というように顔をしかめる。


「うーん?レディ・ミレイユ?もしかしてそれが狙いだったりする?」


「あら、何のことでしょうか──と、とぼけたいところですけれど。仰る通りですわ。滅多にないチャンスですもの。こういった機会はいかなさなければ」


今まで私が魔道具に付与したことのある薬草は、基本的に解熱だったり、鎮痛だったり、そういった体に作用するものがほとんどだ。

精神作用する薬草は採取そのものが難しいので、それを魔道具に付与したことはなかった。


だから、試してみたいのだ。


ドゥラン山の麓は、一部立ち入りが制限されているエリアがある。だけど、王太子殿下の許可があれば、立ち入りも可能だろう。


「エリセリュン王国の発展を願って、私に出来ることは何でもしたいのです」


私の提案に、王太子殿下は短く唸った。


王太子殿下は、恐らく懸念している。


それは、私が力を持ちすぎることを、だ。


先程、王太子殿下は私を四聖者アグネスの再来と認めてしまった。恐らくこの事実は、近いうちに社交界に知れ渡るだろう。

そうなった時、私の発言力は、恐らく王族に匹敵するものとなる。

四聖者アグネスの名前は、そそれほどまでに強い。


あまり自由にさせすぎて、手綱が取れなくなるのでは、本末転倒。


だからこそ、王太子殿下は私を王家に囲おうとしているのだろうし。


僅かの逡巡の後、王太子殿下は答えた。


「あなたの助力を得たいのは事実だ。いいよ。許可しよう。ただし、ちゃんと説明・報告をすること」


「もちろんですわ。ご判断に感謝いたします」


それから、と私はふたたび口を開く。


「王都に着いてからのことなのですけれど──」





続く私の話に、王太子殿下だけではなく、レナルディア卿まで驚いたように目を見開いた。

話を聞いた王太子殿下は目を瞬かせてから、顔を険しくする。


「それは……本気なのかな?」


「もちろんです。最初から、考えておりました」


「うーん……。ミューテンバルト伯爵の手前、いいよとは言い難い」


「では、レディ・ミレイユ。あなたは」


レナルディア卿の冷たげな瞳が私を見る。

私は首肯した。


「恐らくは、卿の考えるとおりかと思います。私は、私の人生を追い求めたいのですわ。……身勝手でしょうか。だとしても、もう決めたことなのです」


私の決意は固かった。

コンニャクのような柔らかさはない。


決めた以上、私はそれを貫くために、全力を尽くす。

そう決めた。


(そういえば、頑固だと、昔からよく言われたわ)


だからこそ、私はエストリア魔法学院への入学を諦められなかった。ダメだ、と一蹴するお父様に何度となく食い下がって、お母様に何度となくお願いをして。


『お父様、お願いします!』

『ダメだ!何度言ったら分かる!?お前はこのミューテンバルト伯爵家の娘なんだ!いい加減立場を考えなさい!!』


その時、お父様に言われた言葉があった。



『そんなに、魔法学院に入学したいというのなら──』





「…………」


「レディ・ミレイユ?」


レナルディア卿の呼び掛けに、私はハッと我に返った。


「どうかなさいましたか?」


「いえ。少し、昔のことを思い出していました」


そういえば、レナルディア卿も、王太子殿下も、深くは聞いてこなかった。

私は、気分を変えるために窓の外に視線を向けた。


窓の外では、穏やかな春の日差しが指している。

一面に黄色の花が咲いていた。あれは、ミモザだろうか。

この暖かな陽の下、日向ぼっこをしたらとても気持ちいいのてしょうね。


そう思ったら、途端、眠気が襲いかかってきた。


(そういえば、ここ最近は気を張りつめていてあまり眠れなかったわ)


なにせ、別邸の使用人は誰も信用出来なかったのだから。

ないとは思うけれど、寝ている間に殺されたり、あるいはどこかに連れていかれたり。その可能性を考えると、熟睡は難しかった。


私は欠伸を噛み殺した。

それに気がついたのだろう。

レナルディア卿が首を傾げた。

彼の長い銀髪は、今はひとつに纏められていた。


「レディ・ミレイユ?眠ければ眠ってくださって結構ですよ」


レナルディア卿の言葉に、私は曖昧に微笑んだ。


彼の勧めは、とても……とっても有難いものではあるのだけれど!

貴族の娘としてそれはできない振る舞いだ。

少なくとも今はまだ。


私は、眠気を誤魔化すために、レナルディア卿と王太子殿下にひとつ提案をした。


「お気遣いいただきありがとうございます。では……一緒にアナグラムゲームでもいかがですか?」


アナグラムゲームとは、社交界でよく用いられる言葉遊びだ。

文字を組み合わせて新たな単語を作るという遊び。


才能(talent)】→【隠れている(latent)】というように、文字を入れ替えて新たな単語を作るのである。


私の誘いに、王太子殿下は目を丸くて「懐かしいね!そういえば最近、やってなかったな」と了承し、レナルディア卿も、恐らくは眠気が限界の私のためだろう。同意してくださった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ