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お探しの妻はもういません。  作者: ごろごろみかん。
2.ただのミレイユになります

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12/18

敵だらけだったみたい



王太子殿下は王都に戻られるらしい。

私も支度が済み次第、王都に帰ることを伝えると、王太子殿下はにっこりと笑って言った。


『では、また王都で』


レナルディア卿も、王太子殿下と共に王都に戻るとのことで、私は大聖堂で彼らと別れると、別邸に戻った。

私室と続き扉になっている衣装部屋に入り、ずらりと並ぶドレスを見つめる。


(この中で、実家から持ち込んだものは……)


全部持っていくのは量的に難しい。

ただでさえ、ドレスは嵩張る。


荷物は軽く、が旅の基本だ。

特に今回は、一人旅なのだから。


結局、私は数着のワンピースドレスと、コインの入ったポシェットだけ持っていくことにした。

このコインは、魔道具の器を納品したことで得たものだ。


王都までの道のりは……片道一週間くらい?


(……こうなったらもう、旅程を楽しんでしまいましょう!)


向かう先は王都のミューテンバルト伯爵邸だ。


少しくらい到着が遅れても構わないでしょう。

私は王都までの道のりを脳裏に描くと、存分にこの旅程を楽しむことにした。


(確か、薬草の群生地として有名な山が近くにあったはず。ついでに寄れないかしら……)


お金も入り用だ。

ポシェットを開いてコインを数えていると、扉が突然開いた。




「若奥様!?一体どうなさったんですか!?」


振り返ると、そこにはロゼッタと数人の侍女がいた。


「……ノックもなく入ってくるなんて、何を考えているの?」


尋ねると、ロゼッタがしどろもどろに答える。


「えっ……それは……だって、今までそうでしたし……」


…………はい?


信じられない回答に、宇宙を背景にした猫が、脳内に広がった。


何かしらその回答は。


「あなた、何を言っているのかわかっているの?私は今、何を聞いたと思っているの?言い訳をして、なんて言っていないけれど」


「そ、それは」


ロゼッタが戸惑いがちに視線を逸らす。

すると、隣の侍女がロゼッタを庇うように私に言い放った。


「突然どうなさったのです?今までそうだったではありませんか。……ご気分が優れないのですか?」


強い語気で言い返してきた彼女に、私はこらえる事が出来なかった。思わず吹き出してしまい、手で口元を覆ってクスクスと笑みを零した。


「『今までそうだったから』。……だから、構わないと?面白いことを言うのね!あなた。……ねえ、なにか勘違いしているのではない?」


私は首を傾げて、にっこりと微笑んだ。

私の桃色の髪が、肩から胸元に滑り落ちた。


「立場を弁えなさい」


信じられない。

ほんとうに、信じられないわ。


(言うに事欠いて、私に、気分が悪いか、ですって?)


まるで私が八つ当たりでもしているかのような言い方だ。


「あなたたち、侍女失格ね」


もっとも、彼らのほんとうの主人はクラレンスなのだろう。私ではない。


「最後にいいことを教えてあげる。本来の侍女はね、女主人を第一に考えるものなのよ?……お前たちの主は、私……だったわよね?」


もう離縁したので、彼らの主ではないけれど。


侍女は、基本的に女性の身の回りの世話をする使用人である。

それに、侍女のひとりが眉を寄せて答えた。


「それはもちろんですが……」


……だからなぜ、逆接語がついてくるのかしら!?


「『もちろんですが』……その続きは、何かしら」


尋ねると、彼女は「いえ……」と言葉を濁した。


ハッキリしないわね……。

私は早々に、話を切りあげることにした。


「そうそう。まだ聞いていないかもしれないけれど、私、クラレンスと離縁したの。だからもう、私に構わなくて結構よ」


「え……」


「離縁!?」


私は手提げカバンを持つと、最後に彼女たちに言った。


「クラレンスの指示に従って、私の食事に毒を入れていたこと。私、知っているのよ?」


「……!!」


毒、という言葉に、彼女たちは顔を青ざめさせた。

それぞれ目配せをしあっている。

戸惑っているようだ。

まったく、分かりやすいにも程があるわ。


(全員、知っていたのね)


誰がクラレンスの指示を受けているのか分からない、とは思ったけれど……。


まさか全員グルだったなんて。


なるほど。

この邸に、私の味方はいなかったみたい。


「……よっぽど訴えてやろうかと思ったけれど。この件は、クラレンスに責任追及しようと思っているの。あなたたち、前科がつかなくてよかったわね?」


もっとも、今後の展開次第では、彼女らはクビを切られるかもしれないけれど。


私はにっこりと笑いかけると、手提げカバンを持って部屋を後にした。


彼女たちは何も答えなかった。

……答えられなかったのだろう。








別邸を出ると、私は乗合馬車の停まるロータリーへ向かうことにした。


そして、別邸から少し歩いた先で、見知った顔を見つけた。

というのも、先程別れたばかりだ。


彼は、木の幹に背を預けるようにして誰かを待っているようだった。駆け寄って尋ねる。


「レナルディア卿。どうしてここに?」


「……あなたを待っていました」


端的な答えに、私は目を瞬いた。




レナルディア卿に案内された先には、林の中に隠れるようにして、粗末な馬車が一台停まっていた。

中には、やはり、先程別れたばかりの王太子殿下が。


「やあ!あなたも王都に行くと聞いたからね。良かったら一緒にどうだい?」


「待っていてくださったのですか?」


「今日の日没くらいまではね。あなたのことだ。すぐ家を出るんじゃないかなーと考えて待っていたんだ。今後の話も詰めたいことだしね」


馬車に乗り込むと、対面に王太子殿下とレナルディア卿が腰を下ろす。王太子殿下が御者席に繋がる小窓をノックして、馬車が走り始めた。


「さて。離縁は認められた。何と言ってもこの私が立会人だ。陛下もお認めになると証言された。これであなたは、晴れて自由の身だね?」


まるで、今まで囚われの身だったかのような言い方だけれど、あながち間違いでもない。私は苦笑して、窓の外に視線を向けた。


「殿下。ふたつ、お願いがございます」


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