もっと、喜べばいいのに
まず、王太子殿下がアチャーという顔をした。
疲労を感じさせる声で呟いた。
「……やってくれたね」
私たち──私と、レナルディア卿、そして王太子殿下の空気から、クラレンスも失言を悟ったのだろう。
ハッとして彼が何か言うよりも先に、拡声器のような大きな声でエウラインが言った。
「……エフェリア!?それって、四聖者アグネスと同じユニークスキルよね!?エリセリュンにある魔道具は全て、彼女が作ったって言われてる──」
と、彼女は補足さながらに言った。
その発言のために、周囲のざわめきが先程以上だ。
私はさらに頭を抱えたくなった。
(エウライン……!!
余計なことを~~~~……!!)
彼女が懇切丁寧に説明してくれたおかげで、もう誤魔化しも効かない。
周囲には大勢の人間がドーナツ状に私たちを取り囲んでいて、なかったことにするのはもはや不可能だ。
ひとがひとを呼び、芸能人の撮影現場のようになっていた。
「ユニークスキル……?」
「アグネス様と同じですって!」
「四聖者の再来?」
「ミレイユ様ってすごい方だったのね……」
「四聖者がまた現れるなんて……!!」
だんだん、彼らはユニークスキル【エフェリア】がどのようなものかを理解したのだろう。その声は徐々に熱を帯びていった。
王太子殿下に視線を向ければ、彼は渋い顔をしていた。そして、隣にいるレナルディア卿に何事か尋ねている。
「いけるか?」
「…………無理ですね。数が多すぎる」
意図の読めないやり取りを二、三言交わすと、王太子殿下が短く舌打ちをする。
「なら、逆にこの機会を利用してやろうじゃないか」
(……利用?)
疑問に思った直後、王太子殿下が声をはりあげた。
「みなのもの、静粛に!!」
そうするだけで、それまで騒がしかった人々の声がピタリと収まる。
王太子殿下は、ぐるりと周囲を取り囲む彼らに視線を向けると、落ち着いた声で言った。
「今のは事実だ。レディ・ミレイユはこのエリセリュン王国の建国を支えたと言われる、四聖者アグネスと同じユニークスキルの保有者だ」
「……!!」
さらに、周囲がざわめいた。
だけど、王太子殿下が片手を上げると、それも静まる。
王太子殿下が、コホンとひとつ咳払いをして、言葉を続ける。
「先程の私の言葉を覚えているか?レディ・ミレイユは、わが国の宝だ、という言葉を!彼女は四聖者アグネスの再来!奇跡の遣い手である!」
瞬間、ワッと、今までとは比にならないほどの歓声がそこら中から上がった。
あちこちで、熱狂的な声が上がる。
四聖者アグネスといえば、このエリセリュン王国ではまず知らないひとはいない。
彼女がいたからこそ、魔道具は生まれた。
彼女が物に【エフェリア】をかけて、初めて魔道具の器が完成する。
彼女は生涯で膨大な数の魔道具──効果が付与されていない【魔道具の器】を作成してきた。
魔道具の器というのは、書き込み可能なCD-Rのようなもの。それに任意の魔法をかけることで、その魔法を何度も行使可能な魔道具となる。
だけど、対象は通常魔法のみで、【補助魔法】は付与不可能。
ユニークスキルを魔道具に付与する場合は、アグネス──エフェリアの遣い手が必要となる。
魔道具の器は、魔法部にて厳重に管理されているが、とうぜんその数は有限。
今、新しい魔道具を作るには、まず前提として、アグネスが作成した魔道具の器が必要になる。
そのため、魔道具の器はとても貴重だった。
しかし、私は魔道具の器を作成することができる。
なぜなら同じ【奇跡の遣い手】だから。
クラレンスとエウラインに批判された魔道具作りはこのことだ。私は定期的に魔道具の器を制作して、魔法部に納品していた。
クラレンスは、まさかこんな展開になるとは思っていなかったのだろう。憮然としているようだった。
「さて──ミレイユ・クルルフォーツと、クラレンス・クルルフォーツ」
王太子殿下は周囲を圧倒させる空気感を持って、手早く話をまとめた。
「この両名が離縁届に署名したのを、この私、ロナウド・エリセリュンが見届けた!今を持ってこのふたりの夫婦関係は解消──それで、よろしいですね?エムケル大神官、および、ミューテンバルト大神官?」
離縁届を受理するのは、大聖堂だ。
王太子殿下言葉を受けて、エムケル大神官は苦虫を噛み潰したように、ミューテンバルト大神官は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
今この時を持って、私とクラレンスは夫婦ではなくなった。
私とクラレンスの離縁は、正式に認められたのだ。
(あとは……)
ちら、と顔色の悪いエウラインをみる。
私とクラレンスの離縁が成立したというのに、彼女は浮かない顔をしている。
むしろ──何かに怯えている、ような?
彼女が何かを隠しているのは、まず間違いないでしょう。
王太子殿下とレナルディア卿を見ると、彼らもエウラインの行動を注視しているようだった。




