第八話 生命の誕生
次の宇宙は、本当に偶然生まれたらしい。
神のきまぐれともいえるほどの微細な変化が、この宇宙に劇的な転換をもたらした。
次の宇宙では、とある物質に“向き”を与えた。
その“向き”により、固体が液体より軽くなった。
その“向き”により、その物質が液体でいられる温度の幅が広くなった。
その“向き”により、液体に物質が溶けやすくなった。
与えられた“向き”はごく些細な調整に過ぎないはずだった。
“向き”が固体になる際、整列を阻害し体積が増え、液体より軽くなるという性質をもたらした。
“向き”が液体に張力を与え、気体化を抑制し、液体の存在を安定させた。
“向き”が液体に物質を引き寄せる力を与え、物質と一緒に流れることを可能にした。
ここまででも十分大きな変化だと思われたが、さらなる展開が神々を唸らせた。
それが、生命の誕生だった。
研究の神は、水という物質に、偏向性、極性を与えただけに過ぎない。
ただそれだけの変化によって、氷は水より軽くなり、水として存在しやすくなり、水に物が溶けやすくなった。
水によるエネルギーの循環が容易になったのだ。
それまでの宇宙では、例えエネルギーを生み出しても、蓄積や消費が困難だった。
水が液体として安定し、さらにエネルギーを液体として溶かすことが可能になったことで、
エネルギーを運び、蓄え、必要に応じて別の場所へ移動させ、消費することができるようになった。
水を基準とした生命が、爆発的に増え、進化することになった。
当時、これを見た神々は、新しい生命の誕生に驚愕したという。
生命の誕生なんて、この宇宙を創った神でさえ、想像していなかった。
「こんな修正…、思いつく?
本当に地道に修正と観察をたくさん繰り返して、たまたま発見したとしか思えない…。
研究の神々って、すごいのね…。」
私の言葉に、ミカエルは、もう、ただ黙って宇宙を眺めるだけだった。
たった一つの微細な修正が、宇宙の可能性を無限に広げた。
今、私が星の観察を楽しめていられるのも、間違いなくこの発見のおかげだった。
地道な研究の尊さを、これでもかというほど、見せつけられた気がした。
ルミエルもこの宇宙の偉大さにポカーンとしている。
すぐに動きたい衝動を抑えるかのように、私の手をしっかりつかんでいる。
私は手に少し痛みを感じたが、この痛みが私には少しうれしく感じられた。
「まだ前夜祭なのに、すごく興味深いわね…。」
私のつぶやきに、ミカエルもメモリナもルミエルも皆、黙って頷いた。
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