第三十六話 ホープの機転
神々が傷ついていく。何もできない自分が悔しい…。
「卑怯だ!」私は、夢中で大きな声を上げていた。
「我が卑怯?我単独に神々は複数がかり、神々の方が卑怯ではないのかね?」
私の叫びが魔王に聞こえていたようだ。反応が返ってきた。
夢中で叫んでいたから、予想していなかった。
魔王の言葉は間違っていない。
魔王の長い長い鍛錬の末にたどり着いた境地に対して、神々はやみくもに数で挑んでいる。
正直、私にも神々の方が少し卑怯に見えてしまっていた。
ただ、会話の手がかりにはなったようだ。
もし、神々が勝てるとしたら、戦いではなく、別の何かだ。
どうすればいい?ずっと考えながら、会話を続ける必要がある――そう私は思った。
「ルールを作ったり変えたり、卑怯だ!
この空間だってずっと前に作られた空間だ。
そこでずっと鍛錬していた者には有利に決まっている!」
もはや言いがかりに近かった。
それでもこの状況を何とかしたかった。
魔王はくっくっくと笑いながら言葉を返す。
「何が言いたいのかね。」
「魔王のくせに、卑怯よ。一つぐらいルールを作らせなさい!」
このままではじり貧だ。
何か一つぐらい、こちらに有利なルールを作る必要があると感じていた。賭けだった。
強くて、頭のよさそうな神々が言っても、無視されるだけだ。
ここは、弱くて、頭も悪そうな、そんな神が言う必要がある。
そう私は感じていた。ここから先は演技も必要ということ…?
私はダメな神…。
頭をからっぽにして、ただただ相手をあおる。そんな弱くて頭の悪い神。
地球で見たような煽り文句を、思いつくまま叫び続けろ…。
「やれるものならやってみろ!こんな卑怯なルールで戦って勝ちたいなら早くやればいい!
最期まで戦い続けた、私たちの勝ちだ!どうした、早くやれ!
150億年も生きてきて、そんな卑怯な事しかできないのか?それでもお前は魔王なのか?
お前は150億年、何をしてきた?150億年かけて、何をしたかったのか?
こんな卑怯なルールで神々を傷つけるために生きてきたのか?ならやればいい!」
「ほう。いかにも弱そうな神が叫んでおる。弱い犬程よく吠える。」
いけない…。魔王に思考させてはいけない。魔王にしゃべらせてはいけない。
ずっとこちらが主導権を持ち続ける必要がある。
もっと煽れ。ただひたすら、頭の悪いふりして煽り続けろ…。
「どうした!150億年も生きてきて、こんな若輩者になめられっぱなしで気が済むのか?魔王のくせに情けない!」
地球の煽り文句、思いつくだけ、言いまくった。
「お前は弱い!」
「お前はすでに負けている!」
「同情するならルールをくれ!」
「40秒で思考しな!」
自分でも何を言っているか、だんだん、わからなくなってきている。
ただ…、ただ…、やみくもに叫んでいた。
魔王の思考を少しでも阻害したい。
魔王を少しでも怒らせたい。それだけだった。
「事件は天界で起きているんじゃない!この空間で起きているんだ!」
「シュワッッッチ!!!」
最後はもう、意味不明だった…。
煽り文句が尽きかけた頃、魔王が口を開いた。
「冷静に」という言葉は、1対1では通用しない。
この言葉は、複数人いて、多くを説得させたい時に有効になる。
1対1で、すでに感情を爆発させた相手に対しては、もう行動をするしかない。
どんな言葉も届かないし、落ち着かせるきっかけを作る助け船を出す者もいない。
どうやら、そんな状況であると認識させる事に成功したようだ。
「騒がしい小娘だ…。こんなやつに負けるわけはない。
たった一つのルールで何を変えられる。よかろう。ルールを一つ作るがいい。」
唐突に起きた会話とその後の静寂に、神々は皆、黙ってやり取りを見つめていた。
「何が起こってるの…。
それに…、『シュワッチ』って、煽り文句だったっけ?
私の記憶では、ただの掛け声だったような……?」
地球の文化を一緒に見てきたミカエルだけは――必死に笑いをこらえていた。
突っ込み不在のカオスな空間に少しだけ冷静さを取り戻しつつも、漂う緊迫感の中の小さいボケについ笑みがこぼれているようだ…。
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