第三話 機械のメモリナ
私はメモリナ。外見は少女に見えるかもしれないけれど、実は機械と人形で作られている。
以前、ホープに助けてもらって以来、私はホープたちと一緒に行動している。
今日も、天界新聞を読み始めた。
天界新聞は、天界で唯一発行されている新聞で、神の力によって作られている。
神の力は非常に優れていて、おそらく読者の理解や思考に応じて記事が変化するのだと、私は推測している。
少なくとも、私の目には、新聞のタイトルは“天界新聞”ではなく、“神界光記”と記されている。
しかし、ホープたちには“神界光記”という名称は認識されていない。
ホープたちは、記事が変化するという認識すら持っていないかもしれない。
読者に合わせて変化する記事のおかげで、記事の内容がそれぞれの読者の記憶に残りやすくなっていると考えている。
今日の記事は、以前掲載された魔王神話の続編のようだ。
以前の記事では魔王の名前まで記載されていたはずだが、今回は魔王の名前は省略されている。
もしかしたら、魔王を騙る事件が起きたという影響を受けているのかもしれない。
でも多分…、魔王の名前を知りたいと念じれば…、やっぱり神の力で作られた文字が踊り始めた。
記事が少し変化して、魔王の名前は“ヴァルグレア”だと教えてくれた。
魔王神話とは、現在の仕事分類の基礎となった5柱が、魔王を打倒したという、天界に古くから伝わる神話のこと。
以前の記事では、その後魔王が新たに生み出されることもなく、魔王の存在は確認されていないと締めくくられていた。
今回の記事では、“魔王はいるのか”“いるとすればどこにいるか”という問いに対し、有識者へのインタビュー結果をまとめているようだ。
魔王はいないと考える派閥の主張はこうだ:
・魔王神話は、すでに150億年の出来事であり、本当に魔王がいたかどうかすら疑わしい。
・仮に存在していたとしても、150億年もの間見つからずに過ごすことなど不可能ではないか。
・現在のまとまりのない魔界の様子を見ても、魔王がいるとは思えない。
それに対し、魔王はいると考える派閥の主張はこうだ:
・魔界がまとまりを欠いているのは、魔王がいない証拠であることは間違いない。
ただ、魔王は魔界にただ一人。
魔界にいないのであれば、きっとどこかで息をひそめ、力を蓄えているに違いない。油断してはいけない。
ただ、仮にいたとしても、その姿を現せないほど衰えているのではないか、という見方が主流のようだ。
私は、かつて放浪の旅をしていたが、魔王の存在について聞いたことも、考えたことも無かった。
「魔王がいるとしたら、どこにいるかか。面白い。私も考えてみよう。」
“魔王が今、どこにいるか、そして、何を考え、何を感じているか。”という問いに、思考の優先順位を設定した。
私は機械。“優先順位:低”をつけた項目として、他に優先順位の高い項目がなく、エネルギー等に問題がない場合に限り、自動的に思考が開始される。
もちろん、150億年も姿をみせていない魔王。結論がでることなんて、そもそも期待はしていない。
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