第二十六話 魔王降臨
「順調に進んでるみたいね」
ホープ様はつぶやいた。
言葉の通り、研究の神々による作業は順調にすすんでいた。
光を閉じ込めていたブラックホールから、光が漏れ始めている。
それは、ブラックホールを覆う宇宙空間の重力設定が弱まっている証拠だった。
神々は、これから来る衝撃に向けて、気合を入れ直した。
光だけでなく、多くの物質があふれ出てくる。
「大爆発」などという言葉では到底足りない…。
数十億年にわたって蓄えられていたエネルギーを、数日で吐き出そうとしているのだ。
災害、大災害…いや、星の消滅を経験していない人類の言葉では、表現しきれない。
もし近くに星があったら、間違いなく――まあ、そういうことだ。
とてつもない明るさと爆音が予想されるため、参加者にはサングラスと耳栓が支給されている。
もちろん、通常のサングラスではない。光を極限まで遮断する特製のものだ。
宇宙だから耳栓は不要と思いがちだが、この作業時は別だ。
爆風と共に、爆音が耳を襲うことになる。
研究の神々と共に、他の神々も支給されたサングラスと耳栓を身に着け、防衛行動を取り始めた。
光はともかく、大きな隕石はすべて、神の力で撃ち落とす覚悟だ。
ホープ様は、経験豊富な神々の後方に配置されている。
他の神々の打ち漏らしや、小さめの隕石にも対応しようと意気込んでいる。
私も、ホープ様をまねた。
ルミエルには、私たちのサポートをお願いしている。
神をも含む生命体の強化は、精霊の得意とするところだ。
メモリナには、万が一の時のバックアップとして、控えてもらっている。
メモリナが何か言っていたように感じたが、耳栓を付けていたため、何を言っているのかはわからなかった。
それに、すでに解体作業は始まっており、皆が隕石の撃ち落としに集中している。
私も同じように、飛んできた隕石を神の力で撃ち落とす。
最初に異変を感じたのは、前線で対応していた研究の神々だった。
隕石を撃ち落としながら、強烈な違和感を上層部に連携しているようだった。
私たちも、強烈な“何か”を感じ始めた。
とてもおぞましく、今まで感じたことのない力。
あまりにも強烈で、この力が何かを理解するのに時間がかかった。
これは――魔力だった。
悪魔の放つ魔力が、とてつもなく強力に、周囲にまき散らされている。
思ったよりも早く、ブラックホール解体の爆発は収まっていた。
むしろ、この早すぎる爆発の収束に、研究の神々は不審を抱きながらも、結界を解いた。
重力は、すでにこの区画ではほぼ無効化されていたはずだった。
それなのに、大きな塊が中央に見える。
重力がなければ、ばらばらになるはずのそれが、崩れずに存在している。
星の大きさをもはるかに超える“何か”。
それが、大きな引力を引き起こすと同時に、巨大な魔力を静かに放っていた。
多くの神々がそれを見て、感じていた。
「これは…、これが、魔王だ…。魔王に違いない…。」
不気味な低い声が、神々の脳内に響き渡る。
「その神の力、懐かしい。エクスペリオよ。ずいぶん老いぼれたではないか…。」
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