第二十五話 メモリナの悪寒
今日は、体の様子がおかしい。
機械でできている私の体が、朝から警告を発している。
ただ、警告の理由までは、まだ特定できていない。
ブラックホールには大きな危険性があることは、理解している。
長年蓄えたエネルギーを一瞬で放出することになる。とても大きな爆発が起こる。
そのために、神々が爆発を可能な限り抑えるのだ。
そしてこれは、定期的に古くから行われている作業。
私は朝から、問題ないいつも通りの作業として、警告を何度も無効化していた。
いくつかのブラックホールでも、このブラックホールは特に危険性が高いと、体は判断しているようだった。
このブラックホールは、天界から程よく遠く、そしてとても古くからある。
おそらく、この特徴から、このブラックホールは危険だと判断しているに違いない。
この判断をした日は、すぐに思い出せた。
宇宙の法則コンテストの日――熱エネルギーを電気エネルギーに変える宇宙の中での計算中の判断だった。
あの日、私は心ゆくまで、全ての計算を行った。
計算が完全に終わるという体験は初めてで、今でも鮮明に覚えている。
その時は、無限に近い速度で計算した。
大量にメモリが消費され、不足部分はハードディスクまで使用された。
その際、ほとんど不要とされたデータは消去されていった。
ブラックホール解体作業を行うとは思っていなかった私は、なぜブラックホールが危険なのかという情報を消去してしまったということだ…。
私は、過去の記憶をさかのぼることにした。
おそらく、理由が消去されたのは、優先度:低の課題を計算した結果だからだ。
優先度:低の課題を思い出せれば、理由がわかるかもしれない。
生命コンテストの日、生命コンテストの前夜祭、前日の新聞…。
新聞の記事で、優先度:低にした記憶が残っていた。
確か、記事は“魔王の存在”についてだった。
その時私は、
「魔王が今、どこにいるか、そして、何を考え、何を感じているか。」
を優先度:低として記憶した。
私は、再度この問題を、いくつかの事象と合わせて考えてみた。
150億年前に魔王が倒され、150億年前に宇宙が誕生、重力という性質…。
魔王の思考をトレースしていく…。
まずい…。一旦止めた方がいいかもしれない。
今の戦力では勝ち目がない…。
私はホープに伝えようとした。
「ホープ。一旦止めた方がいい。ま・・・」
魔王がいるかもしれないと、伝えようとした時だった。
ブラックホールから少しずつ、光が漏れ始める。
宇宙法則の書き換え作業が完了したようだ。
私の警告は、もう間に合わなかったようだった。
私の警告が、ただの杞憂で終わることを――私は、心の奥でそっと願っていた。
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