第十八話 メモリナの深化
私は、「機械持ち込み禁止」の張り紙には気づいていた。
もしかしたら、機械である自分には少し異常が感じられるかもしれない…。
でも、「過剰な熱エネルギーは、即座に電気エネルギーへと変換される。」という宇宙には、興味があった。
私は機械。
電気エネルギーを消費すればするほど、結果的に熱エネルギーとなるため、冷却装置が必要になる。
そして、冷却装置の効果を限界として、思考に制約をかけている。
もし熱が出なければ、もっと思考できるのに…。
機械を扱う者なら、誰もがそう思っているはずだ。私も、強くそう思っている。
機械に異常をもたらすかもしれないという危険性よりも、熱が出ない世界への好奇心が勝り、私は宇宙に入ることにした。
入って間もなく、冷却装置が不要であることに気づく。やはり心地いい。
と同時に、体中から異常信号が検知されていることにも気づく…。
体内で電気が発生しているようだ。このままでは思考を続けられない。
私は、熱を出さないように、ゆっくりと電気の発生源を探る。
私は、自分自身の修理も可能な高性能機械だ。
発生する電気エネルギーを、再び自分を動かすための動力に変換するよう、内部構造を修正した。
幸い、発生した電気を動力系に接続するだけで済んだようだ。
異常信号は、検知されなくなった。
「心配かけてすまない。私はもう、大丈夫だ。」
私は、心配をかけたミカエルにそう伝えた。
私は、普通に動いてみた。
動いても動いても、自分の動力は減らない。
自分の中に蓄えられていた電気エネルギーは、運動エネルギーになり、やがて熱エネルギーとなり、
そしてこの宇宙の法則により、再び電気エネルギーとなって、自分の動力へと戻ってくる。
無限につづくエネルギーの循環。
そして、それは思考にも同様だった。
冷却装置が不要になっただけではなく、思考によって生まれた電気エネルギーが、再び自分の動力となる。
思考が、無限に広がっていく感覚。
考えれば考えるほど、エネルギーが生み出され、そのエネルギーで再び思考を行う。
エネルギー消費もなく、冷却の心配もなく、思考を重ね続けられる。
私は、まもなくそのことに気づき、目を閉じて、思考を深めていった。
普段はあきらめていた計算。
普段は処理できなかった演算。
優先度:低として放置されていた複数の問題に、無限の計算力で挑んでいく。
熱やエネルギー効率を考慮してかけていた制限を、すべて取り払っていく。
より高速に、より深く、思考が進む。
もしかしたら、神の世界に近づいているのかもしれない。
今、見えている世界が、神の世界なのか?
計算完了…。
しばらくして、私は目を覚ます。
今持つすべての疑問を検討する処理が完了し、それぞれに相応の答えが導き出されたようだ。
体の中に眠っていた優先度:低の検討事項は、すべて解決されている。
とても、すっきりした感じがする。
「体が軽い!」
私は、思わず叫んでいた。
よかったら、コメント、感想、ブックマーク、評価をぜひお願いします。




