第十六話 ルミエルの覚醒
「この宇宙…、とても心地いい…。」
私は、姿を変え、ホープの手をそっとほどき、中央へ向かって歩き出していた。
この世界で最も美しいものは、決まっていた。
見たことのない母親の姿。
精霊は、時が来ると大きな樹に宿り、それから子供が生まれる。
だから私は、母親の姿を見たことがない。
でも、声は聞こえるし、たくさんおしゃべりもした。
いつも私は、母親の姿を想像するだけだった。
星が戦争していた時も、私をずっと守ってくれた母親の姿。
見るものすべてに安らぎを与え、そして魅了する、そんな母の姿。
神秘的で優雅で美しい母――ミリスの姿。
私は、そんな母を想像し、創造した。
歩き始めると、周囲の個体たちは道を譲ってくれた。
どの個体も、私を見て「かなわない」と思ったのか、静かに道を開けてくれる。
宇宙の中央へ、私はすんなりとたどり着いた。
無限に神の力を受け続ける…。
そっと目を閉じ、神の力の安らぎを受け続ける。
神の力を受けて、私の体はどんどん大きくなっていく。
けれど、どんなに大きくなっても、この姿は美しさを失わない。
むしろ、神々しさが増していくようだった。
私の母は、大きさに制限されるような相対的な美ではなく、絶対的な美であった。
神の力が十分に満ちると、私は手をゆっくりと振り上げる。
どの所作をとっても、優美で、優雅で、美しく。
手がゆっくり光り始める。
その手をそっと振り下ろすと、星が生まれる。
星は神の力を受けて、大きくなっていく。
星が十分大きくなったことを確認すると、次は緑を生み出した。
草が生え、木が育ち、草原が広がり、森が生まれる。
ここでも、過剰な大きさが芸術性を損なうことは無かった。
大きくなるほど、幻想的な魅力があふれていく。
やがて、神の力をうらやましそうに見ていた周囲の個体たちも、姿かたちを変え、動物となって星に住み始めた。
今まで争っていた個体たちが、私の創った星と共存し、芸術の一部となり、さらに生命の神秘と奥深さを生み出していた。
ゆったりとした穏やかな世界。
誰も争うことなく、神の力を皆が享受できる、そんな世界がここにはあった。
私は、この安らかな世界に心が満たされ、そっと目を閉じる。
ずっとこのままでいたい…。
無限の安らぎを感じていたい…。
長い間、目を閉じていた気がするけれど、どれくらいかはわからない…。
「あら、ちょっと寝すぎちゃった。」
ふと目を開くと、気まぐれな精霊である私は、元の姿に戻り、星を消した。
動物たちは、最初は戸惑っていたが、やがて姿を変え、元通りに競争を始める。
ただ、どの生命体にも、母の面影が残っていた。
緑あふれる星、神秘的な精霊の美しさを、この宇宙の個体たちはこっそり宿している。
「幻想的で…、神秘的…。いや、どんな言葉でも言い表すことはできない…。」
ホープの小さなつぶやきが、私には嬉しかった。
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