第十五話 芸術こそ強さ
「こちらの宇宙は、より独創的な空間です。一度すべてを忘れる必要があるかもしれません。ご準備はよろしいですか?」
次の宇宙の案内人が話している。
案内人の言葉に、私はミカエルの手をぎゅっとつなぎなおした。
メモリナも、ルミエルも少し気持ちを入れ替えたようだ。
案内人の言う通り、次の宇宙は独創的な空間だった。
何もない空間。新しい何かが生まれる。
初めは白い球から始まった。
最初に生まれたその個体は、宇宙の中央を目指して進んでいく。
この宇宙は、初めから物体が何も用意されていない代わりに、宇宙の中央にエネルギーが少しずつ投入される仕組みになっていた。
その白い個体は、エネルギーが与えられる中央にたどり着くと、徐々に大きくなっていった。
周りに、また新しい個体が生まれる。
今度は薄い緑色の三角錐の形をしていた。
新しい個体も中央を目指す。
たどり着くと静かな競争が始まったようだった。
どうやら三角錐が勝ったらしい。
白い球は中央を明け渡し、少し自分の姿を変形する。
今度は薄い青で、少しくぼみのある球の形になった。
再び三角錐に挑むも、三角錐は強く、勝てなかった。
三角錐は、与えられるエネルギーによってどんどん大きくなる。
ある程度の大きさになると、白い個体に敗れ、周囲に分裂して散っていった。
どうやら、物体が大きくなりすぎると強さを失うようだった。
強さを保つためには、適切な大きさが必要らしい。
次第に、多くの個体が生まれ、青、赤、黄、紫、オレンジに、緑など、色とりどりの幻想的な空間となっていく。
「きれい…。」私は思わずつぶやいた。
どうやら、美しさを競っているようだった。
大きすぎる個体は、美しさを失う。
美しさを保つには、適切な大きさが必要だった。
どんなに美しい個体も、エネルギーを受けて大きくなりすぎると分裂し、中央を離れていく。
まるで、無限に続くお絵描きの世界。
赤が勝っては青が勝ち、混ざって緑になっては白に戻る。
複雑怪奇な形が生まれては、シンプルな形が勝ち、より美しい形へと洗練されていく。
不思議な世界だった。
私は、近くにいた何もしていないだらけた個体に、ちょっと意地悪して指でつつこうとした。
ピピピという警告音と共に、機械音声が私の頭の中に響く。
「この宇宙では、物理攻撃は無効です。」
この宇宙の真理はただ一つ。
「芸術がこの宇宙を支配する。」
そんな単純な法則だけで、この宇宙は構成されているようだった。
こんな宇宙も創造できるのか…。
私はただ黙って、見守ることにした。
手をつないでいたルミエルが、うずいている。
「この宇宙…、とても心地いい…。」
精霊のルミエルはそうつぶやくと、私の手を離れ、姿を変えて中央へ向かって歩き出した。
子供の姿のルミエルにどことなく似ている…けれど、今まで見たことのないルミエルの姿。
薄い緑色に包まれたルミエルは、とても神秘的で、とても美しい…と私は思った。
世にも美しい姿のルミエルは、圧倒的な芸術性で他を圧倒し、神の力の祝福を得られる場所に到達した。
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