第十三話 エネルギー
私たち神は、多くのものを見ることができる。
ただし、一つだけ、地球の人々には理解されていて、神々には見えていないものがある。
それが、エネルギーだ。
初めて見た時、力学の式を積分した結果として現れる、ただの数値だと思っていた。
しかし、地球の人々は、エネルギーという言葉を自然に、そして自由に使い始めた。
神である私には、不思議な感覚だった。
私に見えて、人々に見えないものはたくさん存在したが、人々に見えて、私に見えないものなど存在しないと思っていたからだ。
ただ、このエネルギーという概念は、時にとても便利なことがある。
隕石の運動エネルギー、位置エネルギー、燃焼エネルギーを事前に検討しておけば、隕石が星に与える影響を簡単に計算できる。
エネルギーは一部、光となって宇宙へ逃げてしまうが、大半は熱エネルギー、運動エネルギーとなる。
そして運動エネルギーも、いずれほぼ熱エネルギーに変換される。
このエネルギーの考え方は、地球での生活でも役に立つ。
冷蔵庫を、開けっ放しにしたら、室温はどうなるか?
答えは「室温は上がる」だ。
電気エネルギーは、光・運動・化学反応などに変換されるが、最終的には多くが熱に変わり、温度の上昇をもたらす。
冷蔵庫は常に電気エネルギーを消費していて、その電気エネルギーは熱となり、室温を上昇させる。
エネルギーの概念を知っていれば、これはすぐに理解できる。
クーラーが室温を冷やせるのは、それ以上に室外機が熱を放出しているからだ。
もし室外機を室内に置いたら、当然ながら室温は上がっていく。
冷蔵庫に室外機があったなら、夏場などは、放出された熱をクーラーで冷やす必要がなくなり、より効率的になるに違いない。
この“エネルギー”を神にも見えるようにしたのが、次の宇宙の仕組みだった。
物質が持つエネルギーが、数値としてその物質の上に表示される。
体を動かすと、運動エネルギーや熱エネルギーが上昇するが、体内のエネルギーが減るため、表示数値はあまり変わらない。
ただし、運動をやめて体が冷えてくると、エネルギーはみるみるうちに減っていく。
普段陸上で暮らす動物が水中に入ったときのエネルギーの減り方は、特に激しい。
神々の子供たちは、物質に表示された数値を見て楽しんでいた。
多分、エネルギーの意味はまだ知らないだろう。
温めて数字を大きくしたり、水に入れて冷やして小さくしたり、あるいは上に投げてみたりと、遊びに夢中になっている。
親たちは、そんな子供たちを微笑ましく見守っていた。
「水泳選手が大食いな理由の一つはこれね…。水にエネルギーを多く奪われる…。」
「なんかずいぶん理屈っぽい感想ですね…。少しびっくりしました…。」
この宇宙は、メモリナには一般的な物理学の範囲で、少し退屈だったかもしれない。
ただ、ずっと精霊として過ごしてきたルミエルには――全く興味のない世界だったようだ。
ごめんね、すぐ次に行こう…。私は心の中でそう詫びながら、この宇宙を後にした。
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