大賢者
チートキャラが参戦!
ディアドラの手紙を胸に、二人は新たな国を目指して歩みを進めた。
シーラント王国
神秘と学術の国
遥か昔より“知の海”と呼ばれる図書館や学舎を抱き、数多の学者や魔術師が集う地。
石畳の街路には、異国の装束をまとった研究者たちが談笑し、広場の噴水では魔術の実演が行われている。
ただ歩くだけでも、アクアの胸は高鳴った。
「……ここが、シーラントか」
アクアは思わず感嘆の息を漏らす。
「はい。さすがは学術の都……。殿、まるで空気そのものが知恵を含んでいるようです」
紫苑もまた、真剣な眼差しで周囲を見渡していた。
二人の頭には、ただひとつの名が浮かんでいる。
――“大賢者”。
「どんな人なんだろうな……」
「きっと、叡智に満ちた御方に違いありません」
胸に期待を抱きながら、二人は王都の中心部へと足を踏み入れていった。
城下町を進む二人。
石畳の通りを歩くだけで、あちこちから囁き声が聞こえてきた。
「……あれが、噂の第三王弟……」
「津波を退けた勇者様か……!」
注がれる視線に、アクアは肩をすくめる。
「……やっぱり、まだ恥ずかしいな」
紫苑はそんな主の横顔を誇らしげに見つめつつ、近くの商人に声をかけた。
「失礼。大賢者と呼ばれる御方のお住まいを探しているのですが」
商人は目を丸くし、やがて手を打った。
「おぉ、殿下までもが大賢者様にお会いになるとは! あの御方なら――」
彼は路地の方を指差しながら、すらすらと住所を告げた。
「〈シルフィード荘〉にお住まいです」
「……ソウ?」
アクアは思わず聞き返した。
紫苑は深く頭を下げる。
「かたじけない」
商人はにこやかに笑って去っていき、残された二人は顔を見合わせた。
「シルフィードソウ⋯か」
「変わった名前ですね、古代の言語などでしょうか?」
二人は立派な学者の館や壮麗な塔を想像しながら歩みを進めていた。
「きっと学術書で埋め尽くされた大広間があるんだろうな」
「はい。あるいは魔導の結界で守られた聖域かもしれません」
そんな期待を胸に路地を抜けた二人の目に飛び込んできたのは――
ギシギシと風に軋む看板。
外壁は少し色褪せ、窓枠には洗濯物がはためいている。
どう見ても、年季の入ったただのアパートだった。
アクアは顔をひきつらせて足を止める。
「……ここじゃないよな?」
紫苑は住所を見直し、神妙に頷いた。
「いえ……間違いなく、ここで合っております」
「アパートじゃないか!!」
思わず叫んだアクアの横で、紫苑は困惑しつつも冷静に言葉を探す。
「……大賢者殿も、“長屋”にお住まいなのでしょうか?」
二人の脳裏から、“壮麗な大賢者の館”という幻想が音を立てて崩れていった。
コンコン――。
二人は信じられない思いで、くたびれた木の扉を叩いた。
「……あ゛〜い……」
返ってきたのは、酒に焼けたような掠れ声。
「入っていいけど……静かにして……今、現実から逃げようとしてるとこ……」
ぎぃ、と扉が開く。
現れたのは――
白よりも柔らかく、金よりも淡い“白金色”の髪をした美女だった。
大きな眼鏡の奥にのぞく瞳は澄んでいるのに、どこか眠たげで、覇気がない。
そして纏うローブはだらしなく着崩れ、片方の肩が完全に露わになっている。
冷ややかな叡智の守護者でも、威厳に満ちた導師でもない。
氷菓子を片手にふらりと現れたその姿は――
どう見ても、“酒カス引きこもりのお姉さん”でしかなかった。
「……え、この人が……大賢者?」
「……酒くさい…」
アクアと紫苑は固まる
部屋に足を踏み入れた瞬間、アクアと紫苑は言葉を失った。
四畳半ほどの狭い空間。
床には飲み干された酒瓶とアイスのカップが転がり、
本棚に収まりきらない書物が山のように積まれている。
しかも、その隙間に――
「……っ!!」
床に無造作に落ちている下着
「……う、うそだろ……」
そこに、肩からずり落ちたローブの美女が氷菓子を齧りながらふらふら歩いてくる。
「あ〜……来客とかマジ聞いてないし……」
“国を導く大賢者”。
その称号と、目の前の光景のギャップは、天地をひっくり返しても埋まらなかった。
だらしなく胸元の開いたローブ姿で、ソファに寝転がる美女。
片手には溶けかけのアイス、もう片方で顔を覆いながら、だるそうにため息をついた。
「……はぁ〜……やっぱ来ちゃったか〜……
さよなら、アタシのスローライフ……
こんにちは、やたら面倒くさい運命の始まり……」
アクアはきょとんとした顔で、場違いな空気にただ呑まれていた。
「殿、こちらの方が“大賢者”……?」
紫苑が不思議そうに問いかける。
ソファに寝転がり、だらしなく開いたローブから肩をのぞかせた女は、アイスを口にくわえたまま、気怠げに笑った。
「まーそうだけどさ、大賢者とか名乗ると面倒なんだよねぇ……
呼ぶならメグでいいよ、アクアくん、紫苑ちゃん」
アクアの瞳が大きく開かれる。
「な、なんで……俺達の名前を……」
「ふふん、知ってるに決まってんじゃん」
メグはアイスをひとかじりし、青い舌をちらつかせながら、
「こっちは“全部見えてる”んだからさ」
と、悪戯っぽく片目を細めた。
メグはソファに寝転んだまま、片手でスプーンをくるくる回す。
「神託? 未来視? ――“流れ”ってやつは、だいたい見えるの」
軽い調子で言いながらも、その声音には確かな説得力があった。
アクアは思わず息を呑む。
紫苑も何が起こっているか分からない
だが次に返ってきた言葉は――
「……で? 本題に入る前に、ひとつお願い」
「な、なにを……?」
メグは真剣な顔で上体を起こし、指をぴしっと立てる。
「アイス買ってきて。チョコミントね。思考の回転が2割早くなるの」
「…………」
アクアはぽかんと固まり、紫苑は眉をひそめつつ小声でつぶやく。
(この人……凄そうなのに、だらしない……)
この女は――
“すべてを知っている”側の人間なのだと。
メグはチョコミントのカップを片手に、スプーンで最後の一口をすくった。
「――ふぅ。チョコミント、うま……。でさぁ」
アクアは背筋を伸ばす。
「あ、はい……」
ソファにふんぞり返ったまま、メグは虚空を見つめる。
「まあね、君たちが来るのは数年前から知ってたよ。……で、アタシもついて行くんだよねぇ」
その眼差しは、何を見ているのか分からない。
だがそこに漂う“確信”が、言葉に妙な重みを与えていた。
「これから大変だよ?でもまあ、協力してあげるよ」
紫苑が険しい目を向ける。
「なぜ、そこまで?」
メグはわずかに口角を上げ、スプーンを放り投げるようにテーブルに置いた。
「だってアクアくん、これから世界を動かすの、キミなんだから、これから大活躍だよ? ……それに」
「それに?」
「ダルいけど――それ以上に、面白いことが起こるからね!」
メグは全てを分かっている、しかしアクアは飽くまで傷心旅行
「……いいのか? 俺は飽くまで行く宛の無い旅で、そんな旅に大賢者が付き合ってくれて」
「うん。いいの。だって、アタシがついてってあげないと――」
と、そこでニッと笑って続ける。
「そのうち、世界がめんどくさいことになるからさ」
「……そういうとこやっぱり賢者なんだな」
「でしょ? アタシって案外働き者なんだよ、だるいけど」
本題は終わったしかし⋯
「でもさ〜……アクアくんさぁ……」
メグがアイスのカップを机に置き、じぃっとアクアの顔を見つめる。
「なんかこう……思ったより、かわいいねぇ……」
「は?」
次の瞬間、むにゅんと両腕が伸びる。
「……お姉さん⋯君みたいな男の子好きかも⋯よし、癒し! 癒されよう!!」
がばぁっ!!
「わっ!? ちょっ!?!?」
白金の髪がふわりと揺れ、Iカップの柔らかさが全力でアクアを包み込む。
少年の体は硬直し、顔は瞬時に真っ赤。耳の先まで熱くなる。
「い〜い匂いしてさ〜……若いっていいよねぇ〜……」
「メグ殿ああああああああ!!!」
バンッ!!
机が大きく鳴り、紫苑が飛び込んできた。
「そのような不埒な行為!! 我が主に対して軽々しく触れるなど――断じて許しませんっっ!!!」
武士の炎が瞳に宿る。
怒りと忠誠を込めた声に、部屋の空気が一瞬で張りつめた。
「ちょ、ちょ、紫苑っ……痛い痛い!!」
「ご安心を、殿! 私が必ずお護りします!!」
がっしりと抱きしめ返す紫苑。
片腕に収まりきらぬHカップが、真剣そのものの忠義と共に押しつけられる。
対するメグは、涼しい顔でにやにやと迫り――
「はぁい、じゃあもう一回癒されちゃおっかな〜?」
Iカップが無防備に弾む。
──IカップとHカップ。
衝突する二つの大山脈。
そして、その真ん中で挟まれ潰れる、アクア・クレインの尊厳。
……この先、彼が“世界の命運”を担うなど、誰が想像できようか。
ひとまず言えるのはただ一つ。
彼の旅はまだ始まったばかり――だが、もうすでに心臓がもたない。
遠く、トライデントが共鳴音を発していた。
(主……無事であれ……)
その後
全員が疲労困憊で座りこんだ。
三人の胸と声がぶつかり合う騒乱は、しばし続いた。
だが、やがて全員が疲労困憊し、ソファや床にぐったりと座り込む。
メグは最後にアイスをひと口すすり、けろっとした顔で言った。
「ふぅ〜……いい運動になったわぁ」
アクアと紫苑は同時に「運動じゃねえ!!」と叫んだが、もうツッコむ元気もない。
メグは肩をすくめ、だらしなく崩れたローブを直すと、軽く手を振った。
「ま、改めてよろしく。アタシ、メグ・バスカローネ。
あんまり口出しはしないから、気楽に行こう?
これは“アクアの自分探しの旅”なんだからさ」
その声音は、不思議と重みがあった。
だらけた調子なのに――核心だけは、揺るぎなく的を射ている。
アクアは小さく息をつき、頷いた。
紫苑は一瞬不服そうに眉をひそめたが、やがてその忠義を胸に納めるように深く礼をした。
こうして、旅は新たな仲間を加えて続いていく。
次回投稿時にメグの容姿公開予定です。
お楽しみに!




