砂漠のオアシス
水着恋愛パートにしようとしたんですが…
蒸気を噴き上げ、黒鉄の巨体が大地を震わせながら走る。
窓の外には広がる丘陵、黄金色の畑が風に揺れ、遠くには白い教会の尖塔が小さく見えた。
アクアは窓辺に頬を寄せながら、隣に座る紫苑の手をそっと握る。
恋人となってから、まだ数日しか経っていない。
それでも――ただ景色を見るだけで、心が温かく満たされるのを感じていた。
「綺麗だな……」
呟く声は、今までの旅よりもずっと柔らかかった。
紫苑は少し驚いたように目を瞬き、けれどすぐに微笑む。
「はい……殿と共に見るから、なおさら……」
アクアは思わず照れて視線を逸らす。
窓の外を流れる景色は変わらないのに、不思議と“初めての世界”を見ている気がした。
紫苑が頬をほんのり染め、アクアは窓の外に目を逸らして誤魔化す。
──そんな甘い空気の中。
「……いや〜エモいなぁ〜♡」
斜め向かいの席で、メグが酒瓶片手にニヤニヤしていた。
「今の光景“念写”で保存しといたわ〜。ハーデスさんに送ったろっと♪」
「はぁぁっ!? やめろ!!」
アクアが顔を真っ赤にして飛び上がる。
「め、メグ殿!? そ、それは主君と臣下の尊厳に関わります……!」
紫苑まで慌てて両手をバタつかせる。
だがメグは、指先で虚空に小さなスクリーンを作り、満足げに頷いた。
「ふふ〜ん、タイトルは『旅仲間エモすぎ』っと♪」
「消せぇェェェ!!」
「は、恥ずかしすぎますっ!!」
蒸気機関車の車内に、場違いなまでのドタバタが響き渡った。
灼けつくような陽光。
地平線まで続く砂の大地は、風が吹くたびにうねり、波のように形を変えていた。
リバル王国と、その隣国カバーナ。かつてワイアットたちが通り抜けた道を、今はアクアたちが踏みしめている。
アクアは眩しさに目を細めながら、息を吐いた。
「これが……“砂漠”か……初めて来たよ……」
足元はじりじりと焼けるように熱く、空気そのものが重い。
紫苑は眉一つ動かさず、背筋を伸ばして言った。
「灼熱……しかし殿が進む先こそ、私の道。――こんな程度で、へこたれるわけには参りません」
その凛とした横顔に、アクアの胸が少し熱くなる。
だが隣では――
「ん〜〜……でもやっぱりさぁ興味本位で来る所じゃないね〜アクアきゅん、砂漠とか無理〜」
メグはダルそうにあくびをしながら、しかし自分の周囲だけ心地よい風を吹かせていた。
「ほら、こうして空間反転で快適快適〜♪」
「ずるい!!」
「……やはり恐ろしい御方です、メグ殿……」
一行の前に広がるのは、まだ見ぬ冒険の大地。
灼熱と砂の王国――物語は、再び新たな局面へと歩みを進めていた。
砂漠を歩き始めて役1時間、立ち止まるアクア
「……流石に無謀だったかな。よし、休もう」
紫苑は額の汗を拭いながら首を振った。
「ですが、日陰も何もない場所で休憩など……命に関わります……!」
アクアは少し考え込んでから、にっと笑う。
「大丈夫。俺に考えがある。これを……こうして──」
トライデントを砂の大地へと突き立てる。
ズゥゥゥゥンッ!!!
地鳴りのような轟音が砂漠に響き渡った。
紫苑は思わず身構える。
「なっ……地震……!? 」
「あっはっは!流石は海神!!」
次の瞬間――
轟音と共に清らかな水が勢いよく噴き出した!
きらめく飛沫は陽光を反射し、砂漠の只中に小さな泉を生み出す。
たちまち周囲の砂が湿り、冷たい風が頬を撫でた。
「……殿……これは……!」
「ちょっとした、トライデントの力さ。――水は、俺の味方だからな」
紫苑は驚愕と感嘆を隠せず、目を潤ませる。
「……やはり、あなたは……私の“主”に相応しい御方です……!」
「やっぱりアクアきゅん、ただの子じゃないわ」
アクアは肩をすくめながらも、少しだけ誇らしげに胸を張った。
太陽は高く、空は果てしなく青い。
アクアが生み出した砂漠の真ん中に湧き出した泉は、瞬く間に小さな湖のように広がり、
きらきらと太陽を映した。
その水面に、最初に舞い降りたのは砂漠を渡る白いカモメの群れだった。
彼らは歓喜するように鳴き声を上げ、水しぶきを上げながら一斉に羽をばたつかせる。
遠巻きに見ていた旅の民が駆け寄り、信じられないものを見たように声を上げた。
「な、なんだあれは!? 砂漠に……水が!?」
「まさか蜃気楼じゃねぇよな!? 本物の泉だ……!」
布を頭に巻いた商人風の男は、ラクダの手綱を引きながら叫んだ。
「水だ、水だぞ! 神の恵みだぁーっ!」
汗だくで歩いていた親子も駆け寄り、母親は手を合わせて涙を滲ませる。
ほどなくして、通りすがりの商隊が到着する。
隊商の長が目を剥き、呟いた。
「ここに……オアシスが生まれるなど、聞いたこともない。これは奇跡だ」
気がつけば、周囲はあっという間に人と笑い声であふれ、まるで砂漠の真ん中に突然“リゾート”が出来たかのようだった。
水を浴びる者、果物を冷やす者、衣を濡らして暑さを凌ぐ者――皆が泉の奇跡を楽しみ、命の祝祭が広がっていく
泉の周りは、気がつけば小さな村の広場のような賑わいになっていた。
地元の若者たちは衣を脱ぎ捨て、水に飛び込みながら大はしゃぎ。
「うおお!冷てぇーっ!」「生き返るーっ!!」
水しぶきが空に舞い、笑い声が砂漠に響いた。
通りがかった旅人たちは、思わず荷を降ろして腰を下ろし、靴を脱いで足を泉に浸す。
「……あぁ、砂に焼かれていた足が……癒される……」
「信じられない……こんな清らかな水を、砂漠で飲めるなんて」
顔を上げた瞬間、空を渡る鳥たちが舞い降り、子どもたちが歓声を上げて追いかける。
女性たちは大きな壺を持ってきて水を汲み、頭上に乗せて笑顔で去っていく。
「これで畑を潤せる……!」
「神の恵みだ!この日を忘れないわ!」
そして――即興で音楽が鳴り始めた。
旅の楽師が弦を鳴らし、地元の子どもが太鼓を叩き、いつの間にか輪になって踊りが始まる。
大人たちも手を取り合い、歌いながら踊りに加わる。
紫苑も思わずその輪を見つめ、口元をほころばせた。
「……殿、まるで祭のようです」
アクアはちょっと照れながら頭を掻き、
「はは……トライデント刺しただけなんだけどな……」
メグはいつの間にか果物を冷やし、ちゃっかり食べ始めていた。
「ふふ〜ん♪砂漠なのにリゾート気分!」
子どもたちが目を輝かせて群がると、メグは笑って分け与えた。
「ほいほい、順番ね〜♪」
――気がつけば、そこは“砂漠に突如現れた奇跡のリゾート”。
人々の笑顔と音楽、そして水のきらめきが、アクアたちの旅路を華やかに照らしていた。
砂漠の日差しを浴びてきらめく泉のほとり。
紫苑は一歩ずつ水際に近づき、そっと肩をすくめるようにして言った。
「殿、着替えて参りました……///」
そこに立っていたのは、普段見せる凛々しい姿の彼女ではなく――
白と紅で彩られた、巫女装束を思わせる和風のビキニ。
腰布のように広がる赤の布地が風に揺れ、その下からは引き締まった太腿がのぞく。
濡れた布がぴたりと張り付き、豊満な胸の輪郭を隠しきれない。
Hカップの迫力と、戦場では決して意識しなかった柔らかさがそこにあった。
アクアは思わず目を見張る。
(やばい、紫苑って……こんなに色っぽかったっけ!?凛とした佇まいに、この体つき……俺、直視できない……!)
紫苑は頬を赤らめ、視線を泳がせながらも、かすかに微笑んで言った。
「……その、あまりジロジロ見ないで下さいませ……///」
けれどその声色には、どこか嬉しさが滲んでいた。
普段の忠臣としての仮面が少しだけ外れ、恋する少女の表情がのぞく。
泉の水面が夕日に反射し、紫苑の濡れた肌を金色に照らして――
アクアの心臓は、戦場以上に激しく跳ねていた。
泉の波間から、ぬらりと現れた影。
普段は気怠そうにローブを纏っている大賢者
――メグ。
だが、今はまるで別人のような姿をしていた。
「ふぁ〜……あっつ〜い……」
濡れた髪をかき上げながら、ゆっくりとこちらを振り返る。
黒のビキニに包まれたIカップは、圧倒的な存在感を放ち、
歩くたびにタプタプと揺れる。
濡れた金髪は陽光を受けて艶やかに輝き、腰まで流れるその姿は、女神にも魔性にも見えた。
「アクアく〜ん。アタシの水着、どう〜?」
挑発するようにウィンク。
「め、メグ、ちょっと近い……!」
思わず後ずさるアクアの顔は真っ赤だ。
メグはさらに距離を詰め、豊満な胸をちらつかせるように揺らしながらニヤリと笑った。
「い〜じゃん別に♡ ほら、水掛けちゃうぞ〜」
バシャッ!
「わっ!」水しぶきを浴びるアクア。
すぐさま紫苑が割って入り、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「メグ殿!殿に何をするっ!!」
バシャッ! 紫苑からの逆襲。
メグは手で顔を覆いながらも、楽しげに笑った。
「おっと、やる気か〜? じゃあ……遠慮なく♡」
両手で思い切り水をすくい上げ、紫苑にぶちまける!
たちまち泉のほとりは、笑い声と水飛沫で大騒ぎになっていく――。
湖では地元の子供たちや旅人が大はしゃぎ。
「わー!水だー!」
「やばい、ここ楽園じゃん!」
湖の中央では、子どもたちや旅人が歓声を上げながら水を掛け合い、笑い声が響き渡っていた。
陽射しに煌めく水しぶきは、まるで宝石のように眩しい。
紫苑はその光景を見つめ、ふっと柔らかく微笑む。
「殿のお陰で……皆、こんなに喜んでますね」
アクアも隣で頷き、少し照れたように笑った。
「うん、良かった」
……が、その胸中では別の嵐が吹き荒れていた。
アクア(紫苑……可愛い。いや、ダメだ……! 俺の彼女なんだ!)
アクア(このままずっと流れで付き合ってちゃダメだ!俺から誘うんだ……ちゃんと、“好き”って伝える!)
喉が渇くように、鼓動が早まる。
一歩、彼女に踏み出した。
「紫苑、ちょっと……あっち行こう?」
「はい?あ、いいですよ」
不思議そうに首を傾げながらも、アクアの手を取る紫苑。
2人は湖の喧騒から少し離れ、静かな木陰へと歩いていった。
「あ〜……チョコミント……マジうめぇ……」パクパク
周囲の喧騒の中、アクアと紫苑はそっと人目を避けて木陰へと身を潜めていた。
木陰に入ると、外のざわめきが遠くなる。
木漏れ日と水面の反射が揺らめく中、そこだけ時間が止まったように静かだった。
水に濡れた髪、頬に滴る雫、わずかに上気した顔。
アクアも紫苑も、明らかに意識していた。
「……紫苑」
「……殿」
互いの声が重なり、距離が一気に縮む。
指先が触れ合い、自然に重なり合い、次の瞬間――唇がそっと重なった。
「んっ……♡」
紫苑の吐息が甘く混ざり、アクアの胸が高鳴る。
彼女の柔らかな唇が熱を帯び、少し震えながらも受け入れてくる。
「……俺、あのときのこと、ずっと考えてた…好きだ紫苑…」
「私も……あれは……運命の口づけだったのだと……」
言葉とともに、ふたたび唇が重なる。
「んっ♡……はぁ……♡」
木陰の空気が熱を帯び、世界で一番甘い場所に変わっていく。
紫苑は頬を染めながら、そっと胸を押し当ててくる。
「だ、だめです……♡ こ、こんな所で……誰かに……見られたら……♡」
アクアは微笑んで、彼女の耳元に囁いた。
「それでもいい…、もう俺……後先考え無い……」
「……殿……♡」
──そして再び、誰にも見せられないほど濃密な口づけが重ねられた。
オアシスの湖畔、子どもたちと旅人たちの歓声の中。
メグはビーチベッドに寝転がり、片手でアイスをペロリ。
「……あれ?アクアと紫苑いなくね?」
くるりと千里眼を開きかけたが、すぐにニヤッと笑って閉じた。
「……ま、いっか♡」
パキッと音を立てて、新しいアイスの蓋を開ける。
「青春してる時に割り込むのは野暮ってもんだしね〜。……よし、2本目っと♪」
涼しい顔で、まるで全てお見通しのように。
けれどその瞳は、どこか優しく細められていた。
そして日は落ち
しっとりとした宿の一室。
ランプの明かりが柔らかく揺れる中、酒の匂いがやけに濃い。
「うわっ!ちょ、メグ、また酔ってるだろ!?」
アクアはベッドの端まで逃げるが、その腕にがっちり抱きつく大賢者。
「酔ってるから言えるの〜♡ アクアきゅんは〜♡ マジで……可愛いんよ〜♡純朴なとことか〜、顔イケメンなくせにぃ〜、女の子と手ぇ繋いだだけで耳まで真っ赤とかぁ♡ご飯分けてもらっただけで “あ、ありがとう” ってマジ照れしてるとかぁ♡」
頬をすりすり、胸をぐりぐり。
「やめっ……ちょっと、苦しいって!!」
その様子を真正面から見せつけられている紫苑は――
「……///」
刀の柄をぎゅうっと握り、肩がぷるぷる震える。
(また……また殿が……!!)
忠義と恋心の板挟み。
理性が必死に抑えているが、その頬はもう真っ赤だ。
一方その頃、王都・玉座の間。
夕刻の鐘が鳴り、公務を終えたディアドラが椅子から立ち上がった。
「本日の謁見は以上ですね」
「お疲れさまです、姉上」
隣に控えていたハーデスが淡々と一礼する。
ディアドラは肩を軽く回し、ふっと微笑んだ。
「……さて、少しくらい弟の様子を見ても良いでしょう?」
「アクアの?」
「ええ。旅に出てから忙しくて、気になっていたのです」
ハーデスは無言で懐から小さな水晶球を取り出す。指先で魔力を込めると、表面に波紋が広がり、遠い砂漠の宿屋が映し出された。
そこに映ったのは――
「うわっ!ちょ、メグ、また酔ってるだろ!?」
「アクアきゅんは〜♡可愛いんよ〜♡」
スリスリスリ♡
頬を真っ赤にしたアクアと、全力でスキンシップを取るメグの姿。
背後には硬直した紫苑が、ぷるぷると刀の柄を握りしめている。
「…………」
「……おや?」
水晶玉の中では、メグがさらに抱きついている。
「よーしよし♡ もうアタシの弟にしちゃお〜♡」
「だからやめろってぇぇぇ!!」
玉座の間がしん……と静まった。
(まずい、姉上の目が笑ってない)
ディアドラは優雅に髪をかき上げ、きっぱりと言った。
「……ハーデス」
「はい」
「今すぐ私をカバーナへ送れ」
「……承知した」
煌々と輝く転移魔法陣の中心に立つディアドラ。
その姿はまさしく「女王」ではなく「怒れる修羅」そのもの。
「弟に彼女ができるのは全然良い……」
冷たい声が玉座の間に響く。
「だがな――」
ギィンッ!
彼女の全身から立ち昇る闘気が暴風のように広がり、宮廷の窓ガラスが軋んだ。
「私から“姉の座”を奪うような真似だけは、断じて認めん!!」
その眼差しは炎のように鋭く、大剣と長銃を同時に握った戦場の女王のそれ。
すでに「敵将レグナス」を討ったときと同じ、いやそれ以上の気迫を纏っていた。
後ろに控えるハーデスが額を押さえる。
(……マズイ。カバーナの地形が変わってしまう……)
転移の光が爆発的に輝き、次の瞬間――。
姉弟を巡る大惨事が、砂漠の国で幕を開けようとしていた。
カバーナ砂漠の宿。
ベッドの上では、相変わらずメグがアクアにホールドをかけていた。
「アクアきゅ〜ん♡ いいこいいこ〜♡」
「は、離れろってばメグぇぇ!!」
その横で紫苑が眉をひそめ、窓の外に視線を向ける。
「……殿、なにか……風が。嵐でしょうか?」
ザァァァァ……!
外は砂漠なのに、突如として猛烈な風が吹き荒れ、建物全体がガタガタと揺れる。
宿の主人が悲鳴を上げる。
「な、なんだ!? 砂嵐か!? いや……違う!これは……ッ」
アクアの顔から血の気が引いた。
アクアはこの後の展開を知っていた、
心臓が勝手に早鐘を打ち始める。
「……や、やば……い。紫苑、逃げよう。ここはもう……」
その瞬間、天井からパキパキと嫌な音が響き、外の砂嵐が一点に収束してゆく。
圧倒的な殺気――いや、“姉気”が迫ってきていた。
バァンッ!!
轟音とともに部屋の空気が一変した。
「と、殿⋯この圧は……!?」
「あ、終わった」
ドアが吹き飛び、そこに現れたのは――
漆黒のオーラを纏った女王、修羅そのもののディアドラ。
「おい」
その一言に、壁の装飾が砕け、空気が震えた。
「あ!女王様、うぃ〜す」
次の瞬間――
ディアドラの人間離れした踏み込み!
一瞬先の未来を見たメグは、瞬時にアクアを安全な方に突き飛ばす
「グォッ!!」
メグの両目を狙うようにディアドラは2本の指を突き立てる
指先が稲妻のようにメグの目へ直撃――かと思いきや。
ピタッ。
その鋭い指先は、メグの眼球から数ミリの所で完全停止していた。
メグは目を細め、口元にアイスのスプーンをくわえたまま、のんびり言う。
「危ないなぁ〜……なんですかぁ?
女王って暴力OKなの?アクアきゅんの前で?」
「貴様が弟にした行為、国家反逆罪だ!!」
紫苑が驚愕
(い、今の……物理法則ごと“止めた”……!?)
(……この宿、絶対もう無事じゃ済まない……!)
ディアドラの指を止められても、その瞳の炎は消えない。
修羅の女王、次の一撃を放たんと肩を揺らす。
「……貴様。覚悟はできているな?」
空気がバキバキと音を立て、部屋の窓ガラスが細かくヒビ割れていく。
しかし、ソファにだらけたままの大賢者は、スプーンを咥え直し、くすりと笑った。
「ん〜?ごめん、ちょい酔っててぇ……何も聞こえな〜い♡」
煽りカス全開。
「ひぃっ……!」
(控えめにアクアの背後に回り込み、肩を小さく掴む)
「殿……巻き添えだけは避けましょう……!」
アクア(冷や汗ダラダラ)
「……いや、ほんと……修理代がなぁ……」
ディアドラの手刀が空を裂き、宿の壁が紙切れのように吹き飛ぶ。
その一撃は、まさに“女王の暴力”。
「避けたか……!」
だが次の瞬間――
メグはにへらっと笑いながら、ふわりと姿を消す。
未来視で“刃が来る未来”を見抜き、空間をすり抜けるように回避。
「は〜い残念♪」
気がつけば――ディアドラの背後。
メグの指先が、すでにディアドラのうなじに触れかけている。
「……おっと?アタシ勝っちゃったかな〜?」
ディアドラの口角が、ギリ、と上がる。
「ほう……ならば、これならどうだ!」
ゴォォォッッッ!!!
女王の全身から闘気が爆発する。
背後を取られてなお、振り向くより早く肘打ちが放たれ――
地響きとともに宿の床が丸ごと崩壊した!!
「わっ、やっばぁ〜♡ 殺す気ぃ〜!?
命が軽いよ女王様♡」
ギシッ! 建物全体が悲鳴をあげる。
次の瞬間にも、宿ごと吹き飛びそうな気配。
「逃げるぞ紫苑!!」
「はっ、はい!」
アクアと紫苑は転がるように部屋を飛び出した――
残されたのは修羅と大賢者、地獄の二人きり。
崩れゆく宿の床の上で、瓦礫が雨のように降り注ぐ。
だが、メグの表情はまったく崩れない。
「カタギに迷惑かけるなって、貴女のお父さん言ってたでしょ〜?」
その瞬間、メグが指を鳴らす。
光の閃光とともに――ディアドラとメグの姿は宿から掻き消えた。
次の瞬間、二人が現れたのは砂漠のど真ん中。
誰もいない荒野。風と砂だけが吹き抜ける。
「ほら、安全地帯〜。これなら遠慮なくできるでしょ?」
メグは片手にアイスを創造して口にくわえながら、あくび混じりに笑う。
対するディアドラの瞳は、燃えるような闘志に煌めいていた。
「……大賢者、貴様。そこまでして私を愚弄するか」
「愚弄? いやいや〜、むしろ歓迎してるのよ。“修羅の女王”と差しで遊べる機会なんて滅多にないんだからさ♪」
──砂塵が巻き上がる。
外でラウンド2、本気の激突が始まろうとしていた。
ディアドラの鉄拳が、唸りを上げて迫る。
「時間停止!」
メグの声とともに、世界が音を失った。
止まった砂、止まった風。空の鳥さえ、凍りついたように宙で止まる。
「女王様、キレ過ぎ〜。頭冷やしたろ!」
メグは余裕の笑みを浮かべ、水入りバケツを創造する。
だが――その瞬間。
「……え?」
ディアドラの拳は宙で止まっている。
だが、その瞳が――かすかに震えた。
瞳孔が収縮し、メグを“追った”。
「……動いてる……!? いや、違う……」
背筋に氷が走る。
時間は、確かに止まっている。
なのに――彼女だけが、理を超えて“こちらを見ている”。
「目で追ってる……!? アタシの停止世界を、認識してんの……!?」
頬に冷や汗がつっと流れ落ちる。
今までの戯けた笑みは消え、メグは初めて真剣に奥歯を噛みしめた。
静止した世界。
メグだけが動き、他のすべては凍りついていた――はずだった。
「……止まってるのに、こっちを睨んでる……?」
ディアドラの瞳が、わずかに細められた。
その瞬間――
バキィィィン!!!
「――ッ!?」
音のない世界に、音が響いた。
ありえない矛盾。
停止したはずの空間に、ヒビが走り、砕けていく。
次の瞬間、ディアドラの拳が――“時間停止の理”をぶち破って迫る!
「……は?」
メグは一瞬、完全に虚を突かれた。
全身の毛穴が逆立つ。
「マジかよ……停止世界を……物理で壊してきた……!?」
風が戻る。
音が戻る。
拳の衝撃が目前に迫る。
「――あ〜……アタシ、相当ヤバい事しちゃったわ……」
初めて、大賢者の顔から笑みが消えた。
ディアドラはまだ拳を握ったまま、怒気を放っていた。
轟音と共に迫るディアドラの拳。
避けられない――と思ったその瞬間、
「物質操作ッ!!」
メグの身体がふっと透け、白煙のように分解されていく。
拳は確かにメグを捉えたはずなのに、衝撃は何も残さない。
「……気化、しただと……?」
ディアドラの目が細められる。
煙の中からメグの声が響いた。
「こりゃ〜……勝てんわ!ってことで並行世界移動〜!」
ふっと残響だけを残してメグの気配が完全に消える。
そこに残されたのは、小さな紙切れ一枚。
『ゴメン♡ メグ』
ディアドラ「…………」
拳を握り締め、震える肩。
「……あの女……ッ!!!」
アクアと紫苑が恐る恐る戻ってくる。
「……なんか……終わった?」
「殿、見て下さい……書き置きが……」
「ゴ、ゴメンって……書いてある」
(……命拾いしたのはメグ殿だけでなく、私たちも、ですね……)
こうして「大賢者 vs 修羅の女王」の頂上決戦は、
誰も得をしないまま幕を下ろしたのだった。
だが、その前にアクアが立ちはだかる。
「姉さんっ!」
「……アクア」
「ごめん!俺の仲間が……ほんとに迷惑かけて……!」
アクアはその場にしゃがみ込み、ディアドラの手をぎゅっと握った。
「でもさ……俺、メグに何回も命を救われてるし!
俺、姉さんの弟として相応しい男になる為に旅してるんだから……」
ディアドラの瞳が揺れる。
修羅の如き気迫が、わずかにほぐれた。
「……アクア……お前は……」
アクアは子どもの頃と同じように、頭をディアドラの胸に押しつける。
「姉さん……落ち着いて。俺はここにいるから」
ディアドラは大きく息を吐き、ようやく拳を下ろした。
「……全く……貴方は昔から、甘え方がずるいよ!」
「へへ……俺、弟だから」
(……殿……!そういうところ……ずるいくらい可愛らしいです……)
遠く、別の世界線からメグの声が聞こえた。
「アクアきゅんナイス〜♡ 命拾いした〜!」
しかし並行世界まで届く、修羅の声
「貴様……次ふざけた真似をしたら容赦しない」
そして迎えに来たハーデス
「……姉上をここまで疲弊させた者もそうはいないぞ⋯」
荒れ狂った女王の闘気が、なおも砂漠の空に漂っていた。
しかしその背後に、静かに影が立つ。
「……もう十分だ、姉上」
振り返る間もなく、ハーデスが指先を鳴らす。
今有る全ての魔力を消費して
ディアドラの周囲に淡い光の環が浮かび――やがて彼女の身体をやさしく包み込む。
「……っ、ハーデス……」
ディアドラの瞳が一瞬抵抗を見せたが、重く閉じられていく。
「お疲れだろう、少し眠ってもらう」
その声は冷静だが、弟への深い思いやりに満ちていた。
ゆっくりとその場に崩れ落ちるディアドラを、ハーデスが抱きとめる。
そしてアクアにだけ視線を向け、静かに言った。
「……“アクアにしか心を許さない妹ができた”ように見えたからこそ、寂しかったんだよ」
「……姉さんが……」
ハーデスは微笑む。
「お前は、昔から人を惹きつける。お前には仲間が隣にいることを、誰よりも姉上は理解している。
……だから、許してやってくれ」
アクアはそっと拳を握りしめた。
「……うん。姉さんにも、ちゃんと感謝伝えないと」
ハーデスは眠るディアドラを抱え、転移の術を展開する。
「――また会おう、アクア」
光に包まれ、二人の姿は静かに消えていった。
夜の砂漠は、昼の灼熱が嘘のように涼やかで、満天の星が空を覆っていた。
遠くに焚き火の明かりが瞬き、オアシスの祭りの余韻のように人々の笑い声がかすかに届く。
メグは――どこか別の世界線でまだ避難しているのだろう。
戻る気配は、まるでなかった。
アクアは、そっと紫苑の手を取った。
「……じゃあ、帰ろっか。星でも観ながら、ゆっくり」
紫苑は恥ずかしそうに俯きながらも、強く頷いた。
「……はい……♡」
指と指が絡む。
互いの体温を確かめ合いながら、二人は静かに宿へと歩き出した。
その背中を、星々が淡く照らしていた。
現在の主要キャラの強さ順(多分)
ディアドラ>>>メグ>ハーデス≧アズール>アクア>紫苑
だと思います




