死装束を纏う朝
我が国は、いつまでこの惨めさに耐えねばならないのだろうか。ここ一年ほど、帝國の連中との戦闘は、連日のように敗北を重ねている。
幸いなことに、このトロストまで敵は侵攻できていない。鉛玉が頑丈な防壁に接触したことは、我が国の建国から今日に至るまで一度もない。
だが、魔の手が届くのも時間の問題だろう。冬将軍が味方であるとはいえ、我が国は地理も、経済も、政治体制も貧弱。
他国から見れば、取るに足らない小動物に過ぎない。
その証拠に、夜が明ければ帝國の連中がけたたましいほどのディーゼルの音を響かせ、歩兵とともに数センチずつトロストに近づいてきている。
言わば、我が国は防衛戦を敷いられている。
冬将軍の下、常にゲリラ戦を仕掛け、少しでも侵攻を遅らせようとしている。
しかし、はっきりと言ってしまえばそれも無駄だ。毎日五人ほど死んで、十人ほどが行方不明になる。
冬将軍も、いつまでも我が国の味方ではないということだ。
当初こそ、帝國の連中を押し返すことはできていた。
それは、巧みに作られた数百キロにも及ぶ帝國との国境防衛線、通称ロカルノ。その防衛機能が働いていたからこそ、帝國の連中は手も足も出なかった。
無論、それは冬将軍あっての影響力なのだが。
しかし、今となってはそれも三年前の話になってしまった。
ロカルノ線から冬将軍が撤退し、帝國の連中は鉄の怪物を率い、そこに務める人々を蹂躙した。
軍人だけではない。その近隣に住む一般市民すらも、銃悪魔の電動ノコギリと、鉄の怪物によって、白く美しい新雪が紅く染められた。
だが、実際に私は占領された村を見たわけではない。その時の人々がどのような心境を抱き、死んでいったのか。それは、机上の空論でしか考えることのできない。
そう、今日も郵便受けに入っていた新聞を見ながら考える。
※
その時、地面が唸りを上げた。
卓上の物がカタカタと音を立てて揺れ、机に転がっていた鉛筆は床へ逃げ出してしまった。
「またか」と、私はため息をつく。この音を聞くのも、鉛筆や花瓶が床へ逃げ出してしまうのも、二年前からずっとこの調子だ。
私は言った。三年前、ロカルノが鉄の怪物に蹂躙されたと。その鉄の怪物は、戦車と呼ばれているそうだ。
我が国も少なからず、その鉄の怪物を保有している。まあ、それらは全て帝國から奪い取ったものなのだが。
我が国は冬将軍の恩恵を受けた豪雪地帯にある。そのため、鉄の怪物はたびたび雪に埋もれ、動かなくなってしまう。
帝國の連中は、それらをしばしば放棄していく。それを我が国が拾い集め、国を守る盾として再利用している。
これが、弱小国家と呼ばれる我が国が戦車を保有する理由だ。
とても惨めだな。帝國の連中がいなければ、我が国は戦えないということではないか。
※
気づいた時には地鳴りは止んでいた。どうやら、怪物は飼い主と共にトロストの外へ出ていったようだ。
ふと、外の様子が気になり、窓を空けてみた。
今日は珍しく、雪の降り方が穏やかだった。
いつもなら、雪片は怒り狂ったように降り注ぎ、道行く人々を横殴りにしているのに。
地上を見てみると、子どもたちがはしゃいでいる。雪を固め、それを投げ合って遊んでいる。
見ていて心が和んだ。
こんな泥中にも、小さな光は届くものなのだと知った。
昔は、私もあのような感じだった。
外に出て友人と遊び、ただ無邪気に笑っていた。
あの頃が、とても懐かしい。
窓を閉め、深く息を吸う。
私は床に落ちた鉛筆を拾い、机に置く。
そこに置いてあった本を手に取り、本棚に戻す。
おそらく、この本は誰にも見つけられない。読む前に、誰かが処分してしまうだろう。
これは、私の自己満足。
そう、自己満足によって書いた一年の日記。
さあ、もう行こう。後ろ髪を引かれる前に。
私は外の世界へ続く扉を開けた。
一丁前に格好つけた死装束を身にまとい、歩き出した。
いざゆかん。吹雪の止むことのない世界へ。
本作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。
この物語のテーマについてですが、正直なところ、自分でもわかりません。確かなのは、この物語の語り手が出兵するほんの少し前の出来事を書いたことだけです。
これはフィクションですが、戦争が生み出すものを考えるきっかけになればと私は願います。
改めまして、本作品をお読みいただき、誠にありがとうございました。また、別の世界線で読者の皆様と触れ合えることができることを楽しみにしています。




