藍染の帽子
色褪せた藍染の帽子
私が十年前に手渡しした
生前最後のプレゼント
日頃から使ってくれていたのだと
直感した
あなたのお陰で
文章を推敲し
丁寧な字で書くのが
生きがいになった
あなたは根っからの理系人間だから
国語教師とは違って
一貫して素人的な教え方だったけど
それでも充分満ち足りていた
手紙の内容が分かりづらいと
不機嫌な顔で
ぶっきらぼうな口調で
「はい、返却、やり直し」
逆に誰にでも分かるような文章にしたら
穏やかに
「うん、よく分かった」
そんな風変わりな教え方も
大好きだった
普段、仏頂面のあなたが
時折見せる優しい笑顔が
大好きだった
病気を罹患したと
風の便りで知った
見舞いに行くのを
ためらっていた
一度でも行けば良かったと
今更悔やんでいる
これは
大好きなあなたへの
ラブレターです