マルスフィア侯爵の姿
「少し長い話になりますが」ハーゲン子爵は前置きをして話し始めた。
「歴史を遡れば、ヴァルタークもマリスフィアも同じ大陸中央に位置する五つの小国でした。ヴァルタークの先先代王 武帝が五国を統一し、ヴァルターク王国としました。そして、残りの四国の国王は地方領主、侯爵となりました」
「そんなことは知っています」
「マリスフィアは、中でもヴァルタークの国家統一に協力してきました。マリスフィア侯爵は、武帝には可愛がられて、貴方の父上とも兄弟のようでした」
「ええ、そのような関係でしたね」彼女は、とても冷たい反応だった。
俺は、マリスフィア侯爵が、王宮で彼女を完全に無視していたことを知っている。まさか、レイラが権力者になるとは思わなかったからだが、それが侯爵の本音だ。
「ですが、ここ数年で、そんな関係も変わりました。先代の王が亡くなり、王国直轄軍が強くなり、経済的にも王都の繁栄は目覚ましく力の差が出来ました」
「各侯爵の特権は残してますよ。戦争にも駆り出して無い!」
「我が主君、マリスフィア侯爵は、共和国を攻めて領土を獲得したしたかったみたいですが、同盟関係となり、その希望は通りませんでした」
「それは、侯爵には何度も説明しました。人種族同士の戦争をしている場合では無いと」
「ですが、彼は納得できなかった。彼は秘密裏に連合王国と接触しました。反対した私は、マルコ様付きとなり、領運営から外されました」
「それが不満だったから侯爵も許せと? それとも、貴方達だけは、我が王国に忠誠を誓っているとでも言いたいの?」
彼女が、苛立っているのがわかる。彼女には、権力者が自己利益や自己保身に走る事が許せないのだ。
「いえ、ここまでの話は私達の置かれた状況の説明です。問題は、マリスフィア侯爵が奇行に走りはじめた事です」
ハーゲン子爵は、その次の言葉を言い出せないでいた。既にここまででも、マリスフィア侯爵領のお取り潰しされる内容なのだが。
「私が話そう」マルコが話を引き継いだ。
俺は、レイラの様子を見て、彼女が奇行の内容については、情報収集を終えている事を悟った。
「父上は、連合王国との秘密会議の後に体調を崩して、それ以降、人が変わってしまいました。私にはわかります。私を見る目はまるで、塵を見るようです。父上は、一人で夜な夜な町に出歩くようになりました。そして、朝には血の抜けた不審死体が、幾つか町に捨てられていました」
「それは、ただの吸血鬼伝説ですね」レイラはわざと否定する。
「はい、証拠はありません。そして父上は、幾つかの指示を出しました。一つは、犯罪者を極刑に処して、東方教会に埋めること。もう一つは、マリスフィア侯爵軍に全員休暇をとること。そして、娘を探し出すことです」
それらの話だけを聞くと別におかしな話では無いごく普通の話だ。王都での魔物の大襲来を退けた後に軍に休みを取らせるのも、その為に、領内を引き締めることも。娘を探すことも。
「だが、本当の娘では無い?」
「最初は、隠し子がいるのか、まあそんなこともあるんだろと考えていたんです。ですが、父上の本当の探していた者は違っていました。娘と言えば、邪魔されずに父上、いやあの男は手に入れることが出来ると考えていたのです」
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