セーヴァス城へ
「ハーゲン子爵の屋敷に、ナッシュたちは忍び込んで、娘の居所を確認して」
「はい!」ナッシュ兄妹は、嬉しそうに答えた。
「じゃあ、俺も……」立ち上がろうとした俺の袖を、レイラが引っ張った。
「リドは私の警備よ。モルガンとレジーナは、確認が取れ次第、娘を確保して!」
「それでも、この格好では?」レジーナは、自分のメイド服の裾をつまんで、くるりと回ってみせる。
「あら、着ていたいの? モルガンとのデートは別の機会にね。残念だけど、戦闘服に着替えて」
「着ていたくないです! もう、レイラ様ったら意地悪です……!」レジーナはわざとらしく頬を膨らませるが、その仕草も楽しげだ。モルガンとの仕事が楽しみなのだろう。マルコからの執拗に言い寄られて辟易としていたみたいだし。
「羨ましいわ。私は似合わないもの」レイラはさらりと返し、すぐに次の指示を出した。「モルガンは、マリスフィア侯爵派と接触して、侯爵の救出を依頼して。時刻はあなたたちが娘を救出した後に設定して」
「かしこまりました。それでは、準備をして向かいます!」
モルガンとレジーナ、ナッシュたちはそれぞれ動き出し、部屋を出ていった。残されたのは、俺とレイラ、そしてドラムだけだ。
「レイラ、俺たちは?」
「もちろん、セーヴァス城よ! 馬車を手配して、ドラム」
「了解!」ドラムは素早く部屋を出ていった。
「セーヴァス城に行って、何をするんだ?」俺はレイラに尋ねる。
「もちろん、情報収集よ。マルコの目的が何か、ハーゲン子爵がどんな人物なのかも気になるわね」
「だが、お前が目の前に来て、相手は大人しくしてるだろうかな?」
「わかってるわ。でも、リドリーついているから大丈夫だもん」レイラは悪戯っぽく微笑んだ。
俺は肩をすくめ、軽くため息をつく。慎重策かと思えば、一転大胆な策に出る。
レイラの予測不可能な行動は、もう慣れたものだ。だが、今度はどんな展開が待っているのか、少しだけワクワクする自分がいる。
しばらくすると、ドラムが戻ってきた。「馬車の手配、完了致しました。御者は私が務めます」
「よし、じゃあ行きましょう」レイラは優雅に立ち上がり、俺を見てにっこり微笑んだ。「リド、エスコートして?」
「ああ、愛しのレイラ」俺は手を差し出し、レイラは満足げにそれを取った。
馬車が動き出す。窓の外には、夜の帳が静かに降り始めていた。
※
ドラムが御者を務めていることに、門番たちは驚きの声を上げた。
「大商会の重役、ドラム様が御者とは、どういう風の吹き回しですか?」
その問いを無視して、ドラムは大声をあげた。
「レイラ宰相が、マリスフィア侯爵の体調を案じて、お見舞いに参りました」
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