マリスフィア侯爵の娘
島の要塞化が決まり、海軍や商船、漁船までもが、この島にひっきりなしに出入りしている。
もともと海賊島なので、船を停泊できる場所は多い。島が賑やかになってきた。
「それじゃあ、セーヴァスに戻ろう」
レイラと俺は、ティアに乗って領都へ戻った。
ドラムの家で作戦会議をする。食事をしながらの会議なので、レイラが会議を、俺が食事を担当する。
「リドも、何か意見はないの? 食べてばかりで」
「そうだな、もう少し味が濃い方が……」
レイラが呆れた顔をし、レジーナが俺の目の前の皿を片付けようとする。
「こらこら、まだ食事中だよ。可愛いメイドさん。そう思うよな、モルガン?」
「はい、そう思います」
モルガンは真顔で答える。会議中なので、態度を崩さない。
「はぁ! これは変装ですから。それとレイラ様のご指示で……」
レジーナは恥ずかしそうに顔を押さえ、スカートの裾をそっと引っ張る。
だが、その仕草が逆に可愛らしく、モルガンが一瞬目を伏せたのを俺は見逃さなかった。
「それでは報告します」
そんなやりとりを気にも留めず、ナッシュが話し始める。
ナッシュとナナは、東方聖教会へ食料を提供している食堂の店主と仲良くなり、給仕係と共に何度か教会の中に入ったようだ。
「地下に部屋があり、そこにマリスファイアの領主が幽閉されているのは間違いありません。あの護衛たちなら、簡単に倒せますよ! なあ、妹君」
「ええ、やっと私たちの出番ですね、兄者」ナナはデザートのプリンを美味しそうに頬張りながら答えた。
「領主はやり手で強いんだろう? なんで簡単に捕まってるんだ? 助けは来ないのか?」
ナッシュ兄妹が黙ったところで、モルガンが口を開いた。
「それなんですが、領主から救出はするなと言われているようです。マルコも、彼を殺せば反乱が起きるとわかっていますから」
「なぜ救出を望まない?」
ナッシュがぽんと手を打って答えた。
「そういえば、『娘は無事なんだな?』という会話が聞こえてきました。領主の声っぽかったです」
「大人しくしていれば会わせてやる。なんか悪役みたいな台詞でしたぁ……ぁぁ」
ナナはプリンのおかわりをしようとしたが、レジーナに取り上げられた。
「ひ、ひどい! 私の愛しきプリンが!」
ナナは遠くへ連れ去られるデザートを、まるで最愛の者を失ったかのような悲痛な表情で見つめる。
「じゃあ、その領主の娘がどこにいるのかが問題ね」レイラは難しい顔をした。
「ああ、それならわかるぞ!」
俺が何気なく答えると、全員の顔が一斉に俺に向いた。
「この伊勢海老はやらないぞ!」
お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。




