クレオンからの報告
クレオンが島までやってきて、私に捕虜の尋問の結果を報告した。
「海賊どもは、連合王国の海軍に命じられて、この海域に来たとのことです。リマスを海賊の取りまとめ役に指名したのも連合王国だと」
海賊は船団ごとに独立しているはずだ。それなのに、取りまとめ役などという職に従うとは——私掠船だから、国に言うことを聞くのか?それとも、よほど弱っているということか。
「それで、連合王国の海軍の生き残りからの情報は?」
「はい。しかし海軍の作戦ではなく、首相の指示だとのことです。しかし、この海戦で海軍はほぼ全滅したと」
「これでしばらくは安泰ね。島の魔女様のおかげね。リドリーの助けがなかったら、こうはいかなかったわ」
尋問で得た情報によれば、首相はここ一年ほどで急激に変わったという。
かつての温厚で慎重な政治家ではなくなり、「情けなき断罪者」と呼ばれるようになり、官邸の奥では奇妙な儀式が行われているという噂が囁かれていた。
「その儀式、ダークウェルがしている可能性があるわね」
儀式の祭司の名前まではわからないようだが、どうやらその儀式は異常なものらしい。人々の泣き叫ぶ声が、官邸の奥深くから響き渡る。
それにしても、首相の変化……やはり、ただの噂とは思えない。
悪魔に体を乗っ取られたのか?それとも、悪魔と取引をしたのか?
——だが、どちらにせよ、相手は絞られた。
しばらくの間、連合王国の大掛かりな侵攻は無いだろう。だが、あの首相がどう動くか、まだ読めない。
「それと、マルコから私に苦情が入りました。」
「どんな苦情ですか?」
「マリスフィア陵内の海域で、領主に予告も無く戦闘行為を行った。しかも、勝手に連合王国との戦争を行ったと。これは極めて重罪であると。それと、速やかに捕虜を渡すようにと」
「それでどうしたの?」
「はい。レイラ様の書状をお見せしました。それと、捕虜は邪魔なので引き渡しました。よろしかったですよね?もちろん、優秀な諜報員を何人も紛れ込ませましたよ」
「さすが、クレオンね。この後、彼らはどう動くつもりかしら?」
大きく流れが変わりつつあるので、私も読みきれない。
「わかりません。ですが、かなり不満げでした。海軍基地に押し入ってくる可能性もあるかと、防衛体制をとらせています」
マリスフィア侯爵も、四大公爵家。傘下の貴族がマルコに従うとも思えないが、内戦は避けたい。
「この島に海軍を全て退避させなさい!」
「準備しております。少しは戦働きしたかったのですが……」
「まったく、貴女ったら。少し先に機会があるわ。」
私が答えると、「その時を楽しみに」とクレオンは微笑んだ。
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