小さな魔女の保護者
俺はエーリヒを呼びつけ、ナイアの世話を頼んだ。
「わ、私がですか?」
エーリヒは驚いたように目をぱちくりさせる。
「ああ。ナイアは、この島の湖にいた水の精霊と、毒蛇、そして誤って湖で亡くなった小さな女の子の魂が融合したものだ」
アクアリスが湖から救い上げ、魔女特有の思いつきで、彼女に炭鉱に隠した宝箱の警備を命じ、その後、海賊王の魂を求めて世界の海へ出て行き、戻らなかった。
「身の回りの世話や教育も頼む」
「しかし、女の子となると……」
「普通の侍女では務まらないこともあるから、レイラが人選している。しばらくはお前一人だが、任せられる。それに、レイラはお前をこの島の警備部隊長にするつもりらしいぞ」
「無茶苦茶だぁ。これが大王国のやり方なのか? 昨日まで海賊だったんだぞ!」
「ああ、昨日まではな。だが、これが王国の――レイラのやり方だ。それに、彼女のことだ。お前の過去も調べているよ」
エーリヒは一瞬、表情を固くしたが、すぐにそれを引っ込めた。
海賊らしくない振る舞い――レイラは冷静に彼の人柄と能力、過去を見極めている。
「ナイア、エーリヒの言うことをよく聞くんだぞ?」
ナイアは震えながら涙を流し、目をうるませた。
捨てられるのではないか。
また忘れられるのではないか。
その不安がナイアの中で膨らむのが見えた。
エーリヒはすぐに膝をつき、ナイアの手を取った。彼の手から温もりが伝わり、ナイアはその手を少しだけ握り返した。
「……大丈夫。俺が忘れたりしない」
「本当に?」
ナイアの問いかけに、エーリヒは力強く頷いた。
「ああ、ひとりにもしないよ」
ナイアはその言葉を受け入れ、涙を拭って、少しずつ落ち着いていった。
「さあ、ご飯を食べに行こう。やることがいっぱいあるからね!」
エーリヒはナイアの手を引いて立ち上がり、一緒に歩き始めた。ナイアは何度もちらちらとエーリヒの顔を見ている。そのたびにエーリヒは優しく微笑んだり、視線を向けていた。
「彼には、小さな娘を亡くした過去があるの。だから――きっと、ナイアを放っておけるはずがないわ」
レイラが王都の諜報組織と伝聞鳥を使ったやり取りで得た情報は、的確で、そして恐ろしい。
※
俺は再建中の港へ向かった。長く放置されていたせいで、至るところに手直しが必要らしい。
俺の部下になった海賊たちも、商人が連れてきた港湾作業員と共に、埠頭の補修に励んでいた。
「俺も手伝おうか!」
ばしゃり、ばしゃり。浅瀬の土を大きなシャベルで掬い、島の土置き場へと狙いを定めて放る。
ポスン。
……得意なんだよな。普通なら数人がかりで運ぶ量。俺が投げた土砂は軽々と飛び、見事に目的地へ収まった。一瞬だ。
海賊も作業員も、手を止めて俺を凝視する。
沈黙が落ちた。
「化け物だ!」
全く、酷い言いようだ。
お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。




