洞窟探索
氷の洞窟へと姿を変えた炭鉱を、俺は進んでいく。崩れかけた橋も、大穴の空いた道も、氷で補強されており問題なく進める。
壁や天井の氷に光が反射し、淡い輝きが足元を照らしていた。冷気が肌を刺し、吐く息が白く染まる。
「かなり深いな……ただの吹き出した毒水とは思えない」
意思を持った毒の液体が、洞窟を抜け出し、出口で弾けた。そうとしか考えられない。
長い道のりを歩き、ついに最下層へと辿り着く。途中には、白骨の死体くらいだ。
「ここか……」
壁面には無数の割れ目があり、そこから黒い液体が吹き出した跡がこびりついている。
「この中だな。ティア、頼む」
ドラゴンが鋭い爪で岩を削り、俺も落ちていた大型の掘削機を拾い上げると、岩の割れ目に突き立てて叩く。鈍い音が洞窟内に響き、振動とともにひび割れが広がっていく。
やがて、岩が弾け、崩れ落ちた。だが、それは自然の岩盤ではなく、何者かによって築かれた岩壁だった。
その奥に、古き神殿が眠っていた。
整然と並ぶ人工の柱。壁に刻まれた、風化しながらも何らかの意味を持つ紋様。冷たい空気の中に、確かに神聖な気が満ちている。
「ここだな……嘆きの声の棲家は」
俺は剣に手をかけ、一気に引き抜いた。
剣を抜く音が静寂を裂き、刃が氷の光を受けて鈍く輝く。その瞬間、風がざわめき、何かが気配を表した。
「この場で剣を抜くとは不届き者がぁ」
低い女の声が、まるで洞窟そのものが語りかけるように響いた。
「それはすまなかったな。俺はリドリー、騎士だ。何故に泣く?」
「はぁ、泣いてなどおらんわ、お前こそ何の用だ?」
強がる声。しかし、微かに震えが混じる。
「ああ、これだ」
俺は懐から海賊の鍵を取り出し、紐を持った。
大きな鍵は、くるくると回り始める。
「ほぉ、どこで手に入れた?」
驚きの気配が混じる。
「貰ったんだよ。アクアリスにな」
「ど、どこにおる、アクアリスは?」
「姿を現したら教えてやろう」
その言葉に応じるように、目の前に光の粒が舞い、年老いた老婆の姿が浮かび上がった。
ティアが、ふっと冷風を吐く。
すると、老婆の姿は掻き消えた。
「いや、本物の姿を現せよ!」
俺は声を張り上げ、剣を構えながら言葉を紡いだ。
「嘘も、悪戯も、騙したりもしない」
一瞬の沈黙。
そして、観念したように、光の粒が再び集まる。
淡い輝きの中から、ゆっくりと、小さな少女の姿が浮かび上がった。
いや、少女の姿をした、実体を伴う精霊が――。
彼女は俯き、肩を震わせていた。
光の残滓が舞う中、彼女の両目からは涙が流れ、服の前には二筋の涙の跡がくっきりと残っている。
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