島の炭鉱
ティアに頼んで、空から捜索することにした。近くにいる強そうな魔物は、あらかた片付けたし、怪しそうな場所は、空からの方がわかる。
島の中心に広がる森には、いくつか気になる場所があった。
水面を光らせている泉、葉が手のように見える大きな大木。そして、炭鉱の跡らしい岩山。
「どこから行こうか?」俺はティアに問いかけるが、答えは決まっているとばかりに、炭鉱の跡へ向かって羽を羽ばたかせた。
風を切る音が耳をかすめる。ティアが軽く羽ばたき、俺たちは一直線に炭鉱へ向かった。
二、三度羽ばたくだけで、あっという間に目的地へ降り立つ。
炭鉱の跡は、作業途中で何か問題が起き、放棄されたようだった。それから多くの時が流れたのか、すでに荒れ果てている。
坑道の入り口からは、かつて流れ出したであろう液体の跡が、乾いた川のように地面に残っていた。黒ずんだ筋が地面を走り、異様な光を反射している。
風が吹き抜けるたびに、坑道の奥からヒュウウ……という低い音が響く。それは耳を澄ますと、人が泣き叫ぶ声にも聞こえる。
俺は無意識に息を殺していた。何かが、こっちを見ている気がする。背筋に冷たいものが走った。
ティアがわずかに翼を縮める。まともな場所ではなさそうだ。
「確かに、怪しいな」
炭鉱の周りには、魔物も動物も気配がない。木すら生えておらず、まるで生命が拒絶されたような土地だった。
俺は土を手に取ると、毒の気配を感じ、試しに砂を舐めてみた。
「……猛毒だな、これは。ヒリヒリする」
舌の上にチリチリとした刺激が広がる。すぐに吐き出したが、わずかな違和感が残るほどだった。
ティアは呆れた顔で俺を見ている。まあ、普通の人間なら即死だろう。
「わかってたよ、毒の程度を試しただけだ」
毒は時間とともに薄まることなく、今も強く残留しているようだ。
「困ったな、危険すぎるな」
毒に強い俺でも、崩落などで閉じ込められたらジリ貧だ。
すると、ティアは何か思いついたように坑道の入り口へと舞い降りた。そして、大きく羽ばたくと、冷気を含んだ風を坑道の奥へと吹き込んでいく。
瞬く間に、土色だった洞窟の壁が、青白い氷の輝きを帯びていった。氷の柱が次々と生まれ、天井や壁を補強しながら坑道の奥へと伸びていく。
「へー。凄いな、ティア、そんなことまで出来るのか?」
ティアは自慢げに胸を張り、誇らしげに俺を見上げた。もっと讃えろ、とでも言いたげだ。
「じゃあ、進もうか」
俺が洞窟へ足を踏み入れようとすると、ティアはひらりと小さな姿になり、俺の肩へ飛び乗った。
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