魔女の墓
レイラの許しが出たので、俺も腹いっぱい食事をすることができた。
最初、彼女はその量に驚き、目を丸くしていたが、食事を終えてエーリヒとスネアと打ち合わせに向かい、戻ってきたときには軽く肩をすくめていた。
「よく食べた。ご馳走様!」
俺が満足げにしていると、
「良かったわ、今夜は頑張ってもらわないと」
レイラがぼそっと呟いた。
「何が?」
「もう……」
彼女は、顔を赤らめた。
わかっている。けれど、それが彼女を失う危険があることも知っている。きっと彼女は、俺に生きる意味を残そうとしているのだろう。
彼女は決して不幸ではないが、愛されてはいなかった。小さな頃から、目を覚ましてから。
周りは彼女を敬い、恐れ、崇拝していた。まるで神のように。しかし、それは人に向ける愛ではない。
ほとんどの時間、彼女は一人で考えている。この世界をどうにかして救う方法を、一人でも多くの命を守るために。
俺は、俺だけは、彼女を人として愛していく。
もし、子供が生まれたなら、その子もレイラも守る。
たとえ、不幸な結末を迎えたとしても、心がすり減り、狂いそうになっても、我儘な俺はきっと言うだろう。
『あきらめるな、やり直そう』と。
※
その日の夜は、海賊島にある島で一番立派な家の一部屋に泊まった。
「すいません、この部屋だけしか修繕できてなくて」
わざわざ、セーヴァスのドラムの家から高級なベッドまで運び込まれていた。
エーリヒとスネアが頭を下げてきた。
「ううん。ありがとう」
甘い夜は、深く、そしてとても短かった。
次の日、朝早く、眠そうなレイラを叩き起こした。朝といっても、日の登る前の暗い時間だ。
「ちょっと、リドリー、もう少しゆっくりしようよ」
「そうしたいんだが、行くところがあるんだ」
俺の真剣な顔を見たレイラは、俺に抱きつき接吻をすると、諦めて着替えた。
俺は、足元の見えにくい中、彼女の手を取って港の見える小高い丘に登った。
「ここだ」そこには、古びた小さな石碑が倒れていた。俺はその石碑を元の場所に丁寧に建て直した。
それは、海賊王の墓だ。
そして、隣にアクアリスの墓を木で作った。
「きちんとしたのは、後で作ろう」
「魔女の墓……」
日の光がゆっくりと登り始めたその一瞬、白く大きな幻の船が、光の中へと静かに進んでいく。
レイラはその眩しさに目を細め、ティアは空に羽ばたいた。
その船には、海賊王とアクアリスが並んで立ち、やっと見つけた平穏を共に感じているかのように見えた。
まるで二人が、永遠の時の中で共に過ごす場所をやっと見つけたかのように。
そして、船は光の中へと進み、次第にその姿を消していった。
二人の姿も、その光に溶け込むようにひっそりと消えていった。
何もない空間から、ガチャンという音がし、地面に何かが滑り落ちた。
それは、海賊らしい髑髏の証がついた大きな鍵だった。
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