救助と海賊島へ
渦巻は、海賊船を飲み込むと満足したかのように消えた。そう、あっという間に穏やかな海へと戻った。
船の破片にしがみついている者はいるものの、渦に呑まれた者や船が浮かび上がることはなかった。
レイラは、悲しそうな横顔をしていた。
ティアは、コロサールの船を静かに海へと降ろす。俺はコロサールたちを解放し、降参した海賊たちに、海に漂う仲間の救助を指示した。
「逃げても構わんが、どうなるか……わかってるだろうな!」
「も、もちろんです……」
「なら、さっさと助けに行け!」
俺はコロサールの船についている小舟を貸し出した。
「ありがとうございます……」
海賊たちは礼を言うと、手際よく小舟を降ろし、救助に向かった。風が静かに吹き抜ける。
「リドリー様はお優しいですね」解放されたコロサールたちがつぶやく。
「だが、この船だけじゃ収容しきれないな」
「いえ、魚槽にでも放り込みましょう」
コロサールたちは静かに笑った。
その時、クレオンの軍船とドラムの護衛艦が、コロサールの船へと戻ってきた。クレオンは急いで船に乗り込み、セレナの前で頭を下げる。
「セレナ様、ご無事で何よりです……」
安堵の息をつき、悔しそうに拳を握る。
「何もできずにすいません……」
「ええ、リドリーが到着したから助かったわ」
そう言いながら、セレナはふと俺を見た。
「そういえばリドリー、私のもらった指輪なんだけど、反応しなかったわよ?」
何気なく髪をかき上げると、指に黒ずんだ跡がついていた。その痕跡が、少し気になったのか、セレナは顔をしかめる。
「ああ、どうしてかな?」
俺は軽くレイラを叩くふりをした。
どんっ。
「あわわわっ!」
レイラの指輪から発せられた障壁に吹き飛ばされ、俺は船から落ちそうになるほど弾き飛ばされた。思わず奇声を上げる。
「何やってんの、リドリーったら!」
セレナは声を出して笑い、周囲の者たちもつられて微笑んだ。
海賊達を拾いあげると、孤島を目指した。
俺は、沈んだスネア以外の三艘に乗っていた海賊達を降ろし、告げる。
「もし、降伏するつもりがあるならば、クレオン提督の船に乗れ! 嫌なら、この島に残れ! 海賊島だ。お前達に似合っているだろう。味方が助けに来るのを待つんだな」
海賊達は顔を見合わせ、互いの動向を窺っている。
「降伏しても、晒し首だろう……」
「それなら、この島に残るか……魔物がいるぞ。生き延びれるのか。どっちも詰んでるな」
小声で話し合う彼らの中から、コロサールの船に乗り込んでいた男が、意を決したように前に出た。先ほどまでリマスを宥めていた海賊だ。
「リドリー様、俺はあんたについて行く。そういう選択肢をくれないか?」
「はぁ、何でだ?」俺は驚き、思わず奇声を上げた。
「リドリー様、あんたは強い、ドラゴン使いだ。それに何より、俺達の命の恩人だ」
そう言うと、男は片膝を地面につけ、頭を垂れる。明らかに礼儀作法が整っている。こんな動作を海賊がするはずがない。
俺はその姿に違和感を覚えた。海賊というより、まるで……。
「おい、あいつ……昔どこかの国で仕えてたとかじゃねえのか?」誰かが小声で囁く。
男は俺の視線に気づいたのか、小さく息を吐いて呟いた。
「昔の主君は、俺を見捨てた……だが、あんたは違う」
俺は、困ってレイラの顔を見た。彼女は、必死に笑いを堪えていた。
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