リマスの中身
俺は、レイラの顔が歪んでいるのがわかった。彼女の腕を海賊が汚い手で掴んでいる。
「ティア、降りる」
俺は、ティアの両足に捕まり、コロサールの船の甲板に着地した。
正確には、その男の上に。
ドスン!
男は、ぐしゃりと甲板に押し付けられた。蛙が大石で潰されたように。
「痛い……もう、リドリーったら」
引きずられて、手首を捻ったらしい。
「すまん」
俺は右手を差し出し、セルフヒールを施す。漏れ出す治癒力で、彼女の手首を癒した。
「お前達、降参しろ!」
俺の一言で、その船の海賊達は武器を捨てた。ドラゴンから降りてきた男、それだけで理由は十分だった。
「それよりも……」
レイラの目線の先には、俺が押し潰した男。その男から漏れ出した血液、いや体液は、真っ黒な滑りのようだった。
黒い油が、再びその男の体内に戻ろうとした。だが、ぺしゃんこになった体には入りきらない。
溢れた油、いやスライムは、男の全身を包み込むように広がっていく。じわじわと、黒い膜が体に沿って全身を覆っていく。
男の口がパクパクと開閉するが、声は出ない。代わりに、黒い泡が弾ける音がした。
「下がっていろ!」
俺は、怪しい異質さに肌がびりつき、危険を感じ取った。すぐに彼女を後方に退避させ、即座に剣を抜いた。
男はすでに命を失っている。寄生していた黒いスライムが、干からびた宿主の肉体を操っている。いや、それはもはやただの動く死体だ。
「おい、リマスのやつ、ゾンビになったのか……」
「体の中を、スライムに喰われていたのか……」
海賊達は、逃げながら、俺の戦闘を眺めている。
俺は迷わず剣を振り下ろす。鋭い刃が、男の体とスライムを一緒に真っ二つに裂いた。
だが、予想に反して、すぐに何事もなかったかのように、元の形に戻る。
切られた肉体――いや、肉を粘液の集合体である黒いスライムが接着している。
物理的なコアが存在せず、死体そのものを支配する寄生虫の存在のようだ。
ミイラのように干からびた腕がひらりと振られると、黒スライムは絡みつくように伸び、俺の顔を狙って猛スピードで飛んできた。
「ひゅん」
俺は一瞬も躊躇せず、剣を力強く振り上げる。その刃が空気を切ると、猛烈な風が巻き起こる。
スライムは風圧にあおられ、急激に軌道を変えて回避していく。だが、その動きはまるで風を読むかのようで、再び俺に迫る。
賢く、まるで意識を持っているかのような動きをする、異形の存在だ。
そして、新たなる宿主に取りつこうと、俺にとりついた。
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