連合王国の船団の末路
リドリー視点
霧が晴れ、幽霊船が姿を消すと同時に、リドリーは目を見開いた。
ティアの背から戦場を見下ろすと、連合王国の軍艦団がその威容を見せつけていた。視界が開けると同時に、彼らは隊列を整え始め、静かに移動を開始している。
一方で、沈没船のあった場所から幾つもの小さな渦巻きが生まれ、静かに、だが確実に巨大化していった。
「お前に人間の相手をさせたくはなかったが……今は、その必要もなさそうだな」
ティアは人間を相手にすることを好まない。その力の差があまりにも大きすぎて、倒しても何の得にもならず、成長の糧にも、食糧にすらならない。ドラゴンとは、そういう存在だ。
俺は、そのことを無意識のうちに理解していた。神とも崇められる存在――。
渦が成長していくのを見つめながら、俺は干し肉を噛み、残り少ない魔力で自らの傷を癒していた。戦いの余韻が残る中で、俺は再び戦う準備を整えている。
――しかし、危うい戦いだった。
「もう一太刀でもまともに喰らっていれば、立ち上がれず、俺が負けていただろう」
思わず口にする。
それでも、俺は思った。
もし、大森林の魔女に魔力を吸い取られていなければ――
有り余る魔力を使い、余裕で倒せた。必死に戦うことはなかったはずだ。
「まだまだ、鍛錬が足りないな……」
リドリーは苦笑いを浮かべた。魔力に頼る時点で甘えが出ている……。
やがて、幾つもの渦巻きが、まるで生き物がうごめくように、静かに、だが確実に船団へと迫っていく。
レイラからもらった指輪が、微かな雷撃のような痛みを与えてきた。その痛みは、ティアの縮小の指輪からも感じられるようだ。ティアがしきりに先を急ぐよう促してくる。
「俺の防御の指輪が破られるとは思わんが……不快だ。ティア、向かってくれ!」
リドリーが言い終わる前に、渦巻きが船団を捉えた。
船団はその渦に引き寄せられ、舵が効かず、まるで風に舞う落ち葉のように揺れていた。悲鳴のような音が聞こえ、戦場はすでに混乱を極めている。
ティアの背に乗った俺は、一瞬でレイラの戦場に到達する。
四艘の船――海賊の小型船が幾重にも取り囲んでいる。その状況を一瞥し、俺は冷徹に言い放った。
「早く離脱させないと、間違いなく沈むな」
大きな幾つかの渦達は、船団を飲み込むと、未だ喰い足りないとばかりに、こちらに向かってきた。
海の異常に、やっと海賊達も気づき始めた。船を災難から遠ざけようと、動き出す。
「渦巻がこっちに向かって来るぞ!」
「どけ、邪魔だ! 早くしろ!」
「逃げろ! エンジンを回せ!」
海賊船はどれも、小型の魔石を使ったエンジンを積んだ高速船である。魔石には魔力が込められており、それを動力にしている。
蜘蛛の子を散らすように、海賊船は四方へと散っていく。
逃げ遅れた海賊船と、コロサールやスネアの船が、渦に巻き込まれていく。スネアの船の乗員は、全てドラムの船に退避している。
ティアが陰影から姿を現し、急降下すると、そのままコロサールの船を吊り上げた。
「ああ、本物のドラゴンだ……」
「恐ろしや、恐ろしや……」
海賊達は腰が抜けたように甲板に座り込み、拝む者、顔を両手で塞ぐ者、さすがの無頼漢も、恐怖に支配されているようだ。
「お前、なんでものを呼び出した? 魔女め!」
「え? 可愛いのに……」
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