リマス 2
リマスは、ナイフをくるくると回して、余裕を見せた。そして、悪戯を思いついたようで、彼らに笑いながら告げた。
「ああ、そうだな。そうだ、この女の持ち物を調べようか? もちろん、お前達にも分け前があるぞ」
そういって、私のコートを脱がせた。コートのポケットに入れていた金貨の入った袋が、船の甲板にぶち撒かれた。ころころと黄金の大きなコインがあちこちに転がっていく。
いや、私が袋を開けて、コートを脱ぐタイミングに、散らばらせたのだ。
大人しく、遠巻きに見ていた海賊達が、それを目にして、我先にと拾い始める。
「こらこら、何をしている!」リマスは静止しようとするが、彼らは止まらない。
「これは、ドラゴニア金貨だぞ!」
「やっとまともな飯が食える。酒も女もだ」
「さすが親分、気前が良いな」
私を取り押さえているリマスは、殆ど金額が手に入らず仏頂面になっている。
戦闘中だと言うのに、この船にいる海賊共は、警戒を怠り、仲間内で喧嘩すら始めている。もはや、規範が無くなりつつある。
「お前達、配置に戻れ」
「うるさい、それより俺の取り分は何処だ!」
烏合の衆、金の切れ目が、争いを生んだ。海賊たちは金貨に目がくらみ、互いに取り合いが始まっていた。もはや、仲間意識も、秩序もすっかり崩れていた。
その時――
どかん!
大きな衝撃が船を揺さぶり、甲板がひび割れんばかりに揺れた。海賊たちが、まるで波に飲み込まれるように転がる。
黒い船影が迫るのを見て、私は、両手で帆柱を掴んでいた。それはクレオン提督の船、漆黒の軍艦だ。
船が大きく揺れたその瞬間、クレオンの声が響き渡る。
「全員、乗り込め!」
白き軍服を纏ったクレオンが甲板に立ち、鋭い声を上げる。その姿はまさに戦場の覇者そのもの。威圧感に飲み込まれた海賊たちは、何も言えずに硬直して動けなくなった。
私は、クレオンの元に駆け寄ろうとしたが、揺れる船に脚がもつれて、あっけなくリマスに手首を掴まれてしまった。
「逃がさないぞ! お前ら、今すぐこの船から退去しろ! この女がどうなってもいいのか?」
リマスの目は冷徹で、狂気じみた笑みが浮かんでいる。荒い息がその焦燥感を如実に表していた。
「糞がぁ!」クレオンが悔しげに叫び、怒りをその身から放っていた。
「クレオン、急いで戦場から離脱しなさい。ドラム達にも伝えて!」
冷静に指示を出すが、私が目撃しているのは、ただの海の異変ではない。まる海そのものが怒り、動き出したかのようだった。
リマスは再び髪を掴み、唾を吐きかけてきた。
「立場がわかってないらしいな、気持ち悪い糞女め!」
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