私掠船
私掠船――国家の許可を得た海賊船。
私はかつて、海賊行為を禁止し、大陸全土に通達した。当然、反発はあった。ネグロクサ商会やコロサールたちのように、経済的援助や優遇措置を受けて、合法的な商売へと転換した者もいる。
だが、不満を持つ者たちは、連合王国や他の島国の庇護を受け、海賊行為を続けていた。
彼らの狙いは明白だった。
「接近戦を仕掛けてくるつもりか……」
私たち四隻の船は、あっという間に囲まれた。
二重、三重に、私掠船が包囲網を敷く。
クレオンの指揮する鉄板装甲の大型軍艦は、彼女の指揮と熟練の船員を擁し、迎撃準備を整えていた。周囲の小型の私掠船を踏み潰しながら、火薬玉を投げ込んでいる。
ドラムの護衛艦も、同様に敵を寄せ付けずに撃退している。
だが、スネアの船はすでに侵入を許し、混戦状態に陥っていた。そして、私の乗る漁船も――すでに白兵戦が始まっていた。
「レイラ様、お下がりください!」
コロサールと数人の船員が私を守りながら、船の中を駆ける。
スネアの船にはドラムの船が、私の船にはクレオンの船が急接近し、援護に来てくれるはずだった。
だが――クレオンの船は、行く手を塞がれているようだ。私掠船の圧倒的な数に、彼女の指揮する軍艦はどうしても前進できず、進路が完全に遮られている。
「海賊の面汚しを殺せ!」
「連合王国の代わりに、俺たちがやっつけてやろう!」
「いいか、船は奪うぞ! 女は人質にして売る!」
荒れ狂う戦場に、海賊たちの怒声が響き渡る。船員たちは必死に抗うが、相手の数が多すぎる。私は、周囲を見渡した。
この漁船は、私が徴用したものとはいえ、元海賊の者たちもいれば、ただの一般人もいる。
彼らを戦わせるわけにはいかない。このままでは、船員たちが全滅する。決断するしかなかった。
「降参しましょう」
「しかし、それでは――!」コロサールは、顔を歪めながら声を上げたが、すぐに黙り込んだ。
「仕方ないわ」
私は静かに息を吐き、覚悟を決める。彼がすぐに駆けつけてくれることを信じて。時間を稼がなければならない。
『降参するわ、戦闘をやめなさい!』
私は、大声で叫んだ。コロサールの船にいる全ての人が、その声に反応して、動きを止めた。
「お前が、この船のボスか? 気味の悪い女だな。魔術師じゃないだろうな」
警戒しながら、ゆっくりと近づいて来た男こそが、私掠船のとりまとめ役らしかった。
海賊らしくない、軍服コートに、黄金の刺繍の肩章をつけて軍人を気取っている。
「ふうん、いいだろう。海賊の流儀だ。降参した者は、傷つけない」舐め回すように、私を見た。
私は無感情を装い、冷静に頷く。コロサール達はしぶしぶ武器を投げ捨てた。
「仲間になるやつは、申し出ろ!」
だが、この船の船員達は皆、その言葉を無視した。
「まあいい。全員、倉庫にぶち込んでおけ!」
私も向かおうとしたところ、その男は、私の髪を鷲掴みにして、顔を近づけてきた。
「お前には聞きたいことがある」
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