海戦
レイラ視点
私の策は成功した。だが、重大な見込み違いがあった。
それは、私のタイムループによって、必ずしも同じ状況にはならないということだ。
時の波が繰り返すたびに荒れ狂い、事象は激化し、展開は速く、規模はさらに大きくなっていく。
連合王国艦隊は幽霊船団と手を組み、セーヴァス侵攻を目論んでいた。
島の魔女との密約を通じて、私はこの状況をあえて作り出した。
彼らの戦術は、まず幽霊船団と交戦し、ヴァルターク王国艦隊を消耗させ、その隙を突いて殲滅するというもの。
霧に包まれた幽霊船団を前に、連合王国の艦隊は横列陣を敷き、砲撃の準備を整えている。
「後ろの三艦船、ついてきているか?」
「はい、応答あり!」
最初は、おどおどしていたコロサールも、今は声に張りがある。
「各艦、砲撃準備! 弾種は榴弾、照準は敵艦の喫水線!」
榴弾が装填されていく。新たに開発された船舶用の大砲――命中率の向上と貫通力の強化を施した、決戦兵器だ。
我が艦隊は単縦陣を維持したまま、幽霊船の霧を迂回し、敵艦隊の艦首方向に躍り出る。
T字戦法――決まった。
敵艦隊の横列陣に対し、こちらは艦首を向ける形で位置を取る。これにより、敵の舷側砲は射線を確保できず、我々は一方的に攻撃できる。
前回よりも敵艦の数が多い。だが、先手を取った以上、一気に蹴りをつける。
「前装砲、装填急げ! 照準固定!」
「左舷砲列、斉射用意!」
「撃て!」
轟音が空を裂き、硝煙が甲板を覆う。
榴弾が敵艦の喫水線を直撃し、爆発する。破片が飛散し、甲板の兵士が次々と吹き飛ばされた。
「命中確認! 敵艦一隻、上甲板炎上! 帆柱損壊!」
「各艦、次弾装填! 狙いは敵旗艦の舷側!」
第二弾――砲弾が舷側に叩き込まれ、装甲が砕け散る。
第三弾――敵艦の一隻が大きく傾き、そのまま沈み始めた。
敵艦隊は混乱し、進退窮まる。
指揮系統が崩れかけ、右舷と左舷に向かう船が入り乱れた。
だが、この大砲にも弱点がある。再装填に時間がかかるのと、射程が短いことだ。
被弾し、動けなくなった敵艦を残し、生き残った艦船は次々に霧の中へと撤退していった。
「逃げられたか……」
今回の敵司令官は、なかなか優秀だ。
だが、問題はそれだけではなかった。海上に、新たな影が浮かび上がる。
それも――数十隻。
目の前には、海賊の旗が翻っていた。
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